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駆け落ちⅣ
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「こんなことになってしまって申し訳ない」
会場が騒がしくなる中、そう言って私たちの元にやってきたのはラインハルトの父、メイウェザー男爵だった。
そもそも私とラインハルトの婚約を決めたのは父上とメイウェザー男爵だ。
息子を育てた責任に加えてその責任もあり、男爵はすっかり恐縮していた。
「メイウェザー男爵、このことについて何か知らなかったのか?」
父上の語気も思わず強くなる。
父上からすればラインハルトがジェニーをたぶらかしたようにしか見えないのだろう。
「いや、ラインハルトがまさかそんなことをするなんて思ってもみなかった」
「それはそうだが……一体どうしてくれるんだ!」
「とりあえずラインハルトはわしが探し出す。しかしお言葉ですが、手紙を書いたのは御家のジェニーではないか?」
「そ、それは……」
メイウェザー男爵はあろうことか父上にも罪があると主張し始め、罪の擦り付け合いになっていく。
確かにこういう時、普通は男側が主導して事を起こしていると見られがちだが、今回の件ではジェニーの方が手紙を残しているので、どちらが主犯なのか、どちらも乗り気だったのか、その辺はよく分からない。
そしてそのような言い争いをしているうちにも、他の来客たちの間にどんどん噂が広がっていく。
「ラインハルトがジェニーを誘拐したというのは本当か?」
「いや、これはジェニーが誘惑して浮気した事実を種にラインハルトを脅したに違いない」
すでに周囲からはそんなささやき声が聞こえてくる。
それを聞いて私は二人に言い争っている場合ではなくこの場を収めるべきではないか、と言おうとする。
が、その時だった。
不意に私の前に一人の人物が現れて言い争っている二人に対して口を開く。
「お、お二方、気持ちは分かりますが今は口論をしている場合ではありません」
なんとそう言ったのはレオルだった。
これまでの彼の振る舞いからこういうことを自分からは言い出さないタイプかと思っていたが、彼は緊張しつつも堂々と自分の意見を述べた。
そんな彼の言葉に二人ははっとしたように振り向く。
貴族の当主である二人に対して、レオルはさらに自分の意見を述べた。
「来客の方々の間で噂が一人歩きしています。とりあえずそちらの対処を先にした方がよろしいと思います」
「た、確かにそれはそうだ」
レオルの言葉に父上も頷く。そしてぱんぱん、と注目を集めるように手を叩いた。
「皆様! 聞いていただきたい! どうもラインハルトは急病でジェニーは看病のために彼を連れて離れに向かっていることが分かった。集まってもらって申し訳ないが、本日は閉会としたい」
父上はとっさに適当な嘘をでっちあげたが、確かに手紙の内容について私たちが話しているのを直接聞いた貴族はごくわずか。
そう言われれば納得する者もいるかもしれない。
「そ、その通りだ。心配かけてすまなかった」
これ以上ラインハルトの悪評が広まるのを防ぎたいメイウェザー男爵も父上の嘘に乗っかる。
当然集まった貴族たちは完全に信じた訳ではないでしょうが、それを聞いて仕方なく解散するのだった。皆が駆け落ちした二人のことしか考えていない中、私はあの混乱した場で二人に意見したレオルに密かに感心した。
会場が騒がしくなる中、そう言って私たちの元にやってきたのはラインハルトの父、メイウェザー男爵だった。
そもそも私とラインハルトの婚約を決めたのは父上とメイウェザー男爵だ。
息子を育てた責任に加えてその責任もあり、男爵はすっかり恐縮していた。
「メイウェザー男爵、このことについて何か知らなかったのか?」
父上の語気も思わず強くなる。
父上からすればラインハルトがジェニーをたぶらかしたようにしか見えないのだろう。
「いや、ラインハルトがまさかそんなことをするなんて思ってもみなかった」
「それはそうだが……一体どうしてくれるんだ!」
「とりあえずラインハルトはわしが探し出す。しかしお言葉ですが、手紙を書いたのは御家のジェニーではないか?」
「そ、それは……」
メイウェザー男爵はあろうことか父上にも罪があると主張し始め、罪の擦り付け合いになっていく。
確かにこういう時、普通は男側が主導して事を起こしていると見られがちだが、今回の件ではジェニーの方が手紙を残しているので、どちらが主犯なのか、どちらも乗り気だったのか、その辺はよく分からない。
そしてそのような言い争いをしているうちにも、他の来客たちの間にどんどん噂が広がっていく。
「ラインハルトがジェニーを誘拐したというのは本当か?」
「いや、これはジェニーが誘惑して浮気した事実を種にラインハルトを脅したに違いない」
すでに周囲からはそんなささやき声が聞こえてくる。
それを聞いて私は二人に言い争っている場合ではなくこの場を収めるべきではないか、と言おうとする。
が、その時だった。
不意に私の前に一人の人物が現れて言い争っている二人に対して口を開く。
「お、お二方、気持ちは分かりますが今は口論をしている場合ではありません」
なんとそう言ったのはレオルだった。
これまでの彼の振る舞いからこういうことを自分からは言い出さないタイプかと思っていたが、彼は緊張しつつも堂々と自分の意見を述べた。
そんな彼の言葉に二人ははっとしたように振り向く。
貴族の当主である二人に対して、レオルはさらに自分の意見を述べた。
「来客の方々の間で噂が一人歩きしています。とりあえずそちらの対処を先にした方がよろしいと思います」
「た、確かにそれはそうだ」
レオルの言葉に父上も頷く。そしてぱんぱん、と注目を集めるように手を叩いた。
「皆様! 聞いていただきたい! どうもラインハルトは急病でジェニーは看病のために彼を連れて離れに向かっていることが分かった。集まってもらって申し訳ないが、本日は閉会としたい」
父上はとっさに適当な嘘をでっちあげたが、確かに手紙の内容について私たちが話しているのを直接聞いた貴族はごくわずか。
そう言われれば納得する者もいるかもしれない。
「そ、その通りだ。心配かけてすまなかった」
これ以上ラインハルトの悪評が広まるのを防ぎたいメイウェザー男爵も父上の嘘に乗っかる。
当然集まった貴族たちは完全に信じた訳ではないでしょうが、それを聞いて仕方なく解散するのだった。皆が駆け落ちした二人のことしか考えていない中、私はあの混乱した場で二人に意見したレオルに密かに感心した。
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