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駆け落ちⅢ

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 そんな不穏なことはあったものの、パーティー自体は無事に始まった。
 料理が並べられた広間には各家からの客人が集合し、和やかな雰囲気で談笑していた。そしてかわるがわる貴族たちは父上の元に行ってお祝いを述べている。

 そんな時だった。

「お、おい、これは何だ!?」

 めでたい誕生日会のお祝いには不釣り合いな、心底狼狽している声が響き渡る。
 誰かと思えば私の兄にしてブレンダ男爵家の跡継ぎでもあるアーサーだった。彼は一枚の紙を持って血相を変えて走ってきた。
 そんな彼のただならぬ様子に周囲の注目が集まる。

「どうしたんだ、そんなに慌てて」

 そんなアーサーを見て父上はたしなめるように言う。
 私もこのめでたい席でそんなに慌てるなんて、と内心思った。

 が、アーサーはただならぬ声で言った。

「ち、父上! この手紙を見てください!」

 そう言って彼は手に持った紙を父に渡す。
 それを見た父上の表情もみるみるうちに変わっていく。

「ど、どうしたんですか?」

 見かねて私も二人に声をかける。
 父上は震える手で私に紙を差し出してくる。

「カトリナよ、こ、これを見てくれ」
「こ、これは……」

 私は受け取った紙を見て表情を変える。

『親愛なる家族の皆様、そしてパーティー参加者の皆様へ

 私、ジェニー・ブレンダはラインハルト・メイウェザー様と両想いです。それに誰がどう見てもラインハルト様にふさわしいのはお姉様よりも私でしょう。しかしお互い、家に決められた婚約という枷により真実の愛で結ばれた相手と一緒になることは出来ません。

 そのため私たちは全てのしがらみを引きちぎって一緒になることにしました。
 父上の誕生日にお騒がせするのはどうかとも思いましたが、出来るだけ多くの方に私たちの決断を知っていただきたいと思い、この日を選びました。
                               ジェニー・ブレンダ』

「な、な、何ということでしょう」

 読み終えた私もしばらくの間何が起こったのかよく分からなかった。

「と、とりあえずジェニーとラインハルトを探すんだ!」
「は、はい!」

 父上は身近にいた執事に命令し、彼は走っていく。
 そして蒼白な表情でつぶやく。

「何ということだ……このようなたくさんの者が集まった場でこんなことが起こってしまった……これでは我が家の恥さらしだ。カトリナ、何か心当たりはあったか?」
「いえ、ラインハルトはいつも通りでした……でも、ジェニーは何か変なことを口走っていたような」

 その時は意味が分かりませんでしたが、彼女はその時から駆け落ちの計画を練っていたと思うと辻褄が合います。
 今日ラインハルトに尋ねてみようと思っていましたが、まさかこんな急なことを考えていたなんて。

 そこへ先ほどの執事が蒼白な表情で戻ってきます。

「旦那様、申し訳ありませんが、すでにお二方とも出ていった後のようです!」
「何だと……」

 それを聞いて父上はその場で凍り付きます。

「ジェニー嬢とラインハルト殿が駆け落ち!?」
「それは本当か?」
「だがラインハルトは姉のカトリナの婚約者では?」
「だから駆け落ちしたんだろう」

 そして私たちの会話や騒ぎを聞きつけた周囲の貴族たちも騒然とし始めたのでした。
 こうして先ほどまでの和やかな雰囲気は一瞬で変わってしまったのです。
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