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封印の儀
魔力測定Ⅰ
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翌朝、私は王宮の一角にある客間で目を覚ました。さすがに実家ほどではないが、ふかふかのベッドにメイド一人をあてがわれて私は満足していた。旅で疲れていたこともあって、よく眠れた。
「シルアさん、今日は王宮の中庭にて魔法の腕を披露して欲しいとのことですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、一晩寝て体力は回復したから」
「それは良かったです。応援しておりますよ」
そう言ってアンナが朝食を出してくれる。実家での食事は高級だったが、調理されてから毒見を必ず通していたため少し冷めていることが多かった。
それを思い出すとちょっとだけ不安になるが、傍らにいたウンディーネが食べても大丈夫、というように頷いてくれる。ウンディーネは水だけでなく癒しの力も司っているらしい。
あれ? ということは毒が入っていないという意味の大丈夫ではなく入っていても治すよという大丈夫なのだろうか、と一瞬疑問に思ってしまう。
とはいえあまり気にしていても仕方がないので、パンとコーンスープ、そしてベーコンエッグというあっさりした朝食を食べた。食材は普通でも、やはり出来立てというのはおいしいものだ。
「いかがですか?」
アンナが少し不安そうに尋ねる。
「大丈夫、とてもおいしいよ」
「それは良かったです」
アンナがほっとしたように肩の力を抜く。
食べ終えた私はアンナに案内されて城の中庭に向かった。
そこでは昨日の夜に出会ったアマーリエが使用人らしき男と何事かを話しているのが見える。彼女の表情は険悪で、使用人は困り果てているようだ。
「一体何でこの私がどこの馬の骨とも分からぬ小娘の測定を行わなければなりませんの!?」
「ですから私は殿下の言葉をお伝えしているだけで……」
「私も自分の研究に忙しいのですわ」
「ですが、魔力の測定は測定対象よりも高い者が行わないと正確さを欠くと殿下がおっしゃっておりました。そこでこの国内随一の腕を持つアマーリエさんに是非にと」
使用人の言葉に、急にアマーリエは相好を崩した。
「そ、そうですか。まあそういうことでしたら仕方ないですわ」
何というか、目の前でそんな会話をされると非常に出ていきづらい。仕方がないので今の会話は聞いていなかった素振りで歩いていく。
ちなみにアンナはアマーリエの姿を見るとこちらです、私は掃除や洗濯があるので、と言って戻っていった。こんなタイミングで置いていかれるなんて。
「あの、私の魔力の測定はこちらで良かったでしょうか」
「こほん、よく来ましたわねシルアさん。本日はこの私が厳格に魔力を測定いたしますが、心の準備はよろしいでしょうか?」
アマーリエは私を見ると、先ほどの少し緩んだ表情を厳しいものに戻す。
「は、はい」
「この国では魔力は威力・制御力・持続力の三要素にて測定し、それぞれにS、A、B、C……以下それに続くというふうにランク付けしておりますわ。全てA以上、もしくはS以上の項目があれば爵位を叙任される可能性もありますが、これまで現れた者たちはほとんどがB止まり。ですからBやCといった結果でも気落ちしないよう」
「分かりました」
初めて聞く用語だったが大体意味は分かった。一口に魔力が高いと言っても、威力が高くても制御に難がある者や、ずっと魔法を行使し続けられるけど瞬間的な威力は低い者、様々な者がいるということだろう。
私は別にこの国で魔力の腕でのし上がろうというほどの気持ちもないので、結果には何のこだわりもない。
「ちなみにこの私は威力と制御力がS、持続力がSSですわ」
聞いてもないのに彼女は教えてくれた。
何だSSって。
「Sが最高ではないのですか?」
「私が特別なのですわ」
「それはすごいですね」
私は素直に感心すと、アマーリエは満更でもなさそうな表情になる。
ランクがSまでしかないということは、彼女はおそらく国で最強クラスの魔法使いなのだろう。先ほど測定者の魔力が対象以上である必要があるとか言っていたから、おそらく殿下は私に期待して最強クラスの魔法使いを測定者にしてくれたのだろう。ランクはどうでもいいけど、殿下の心遣いには応えて精いっぱいの実力を披露したい。
「ちなみにシルアさんはどのような魔法を使いますの?」
「私は精霊魔法を使います」
「なるほど、この国にはあまり精霊がおらず、使い手がいないので楽しみですわ」
マナライト王国の土地が痩せているのは精霊の加護が少ないためという説があったが、それは本当なのかもしれない。
一方のアドラント王国は周辺諸国に比べて精霊の力が強く、極稀に魔法の力が発現する者は皆大体精霊魔法を使っていた。代わりにそれ以外の者はほとんど魔法の力も知識も持っていなかったが。
アマーリエは人間の頭ぐらいの大きさの透き通った水晶を取り出す。
「ではまず威力からいきますわ。やり方は単純です。これから私がこちらの水晶に魔力を込めますわ。ですので、一番威力が高い魔法でこの水晶を壊そうとしてください」
そう言ってアマーリエは水晶を一つの台座の上に置く。水晶はアマーリエが魔力を込めるとそれに反応してきらきらと輝いた。
一番威力が高い魔法というと、普通は火属性だろう。が、イフリートは近くに炎がないからか、小さくなっている。このままでいいのだろうかと考えていると、ふと私は中庭の一角に燭台があるのが目に入る。
「あれを借りてもよろしいですか?」
「どうぞ」
私が燭台を手に取ると、近くを漂っていたイフリートの姿が急に大きくなる。イフリートは四大精霊の中では一番中性的な外見をしており、ちょっと格好いい。
「力を貸して」
(分かった)
サラマンダーは手を伸ばして私の左手を握る。繋いだ手から私の体内に火の魔力が一気に流れ込んできて、身体が熱くなる。
「ファイアーボール!」
私が叫ぶと水晶よりも大きな火球が出現し、水晶にぶつかる。そして轟音とともに火球は爆発し、周辺は煙に包まれる。
が、爆発音の中でパリン、とかすかに何かが割れるような音が聞こえた。
そして傍らに立っていたアマーリエが呆然とした表情になる。まるで街中でドラゴンでも見たかのように。
「あの、これは……」
私は何が起こったのかよく分からずに問いかける。
しばらくして煙が晴れると、そこには粉々になった水晶の残骸が散らばっていた。
これはもしや私の魔法の威力がアマーリエのそれを上回ったということだろうか。
しばらくの間水晶だったものを見て絶句していたアマーリエは少ししてようやく口を開く。
「……この水晶は、測定者のランクを上回る威力の攻撃を受けた時しか破壊しませんわ」
「ということはつまり、私は」
「そう、SSランクということですわ」
「嘘!?」
アマーリエは力ない声で言ったが、私は思わず大声を上げてしまう。
ワイバーンを倒した時点でもしかしたらと思ったが、やはりあれはまぐれではなかったし、この国でも最強級の魔力だったらしい。
私は思わず傍らのイフリートを見る。
(これでも私の魔力のほんの一部を分け与えただけに過ぎないよ)
「そ、そうなんですか」
私以外誰にも見えない存在だったので、今まで姿が見えないので似たような存在はありふれているのだろうと思っていた私だったが、もしかするとこの四体はとてつもなく強力な存在だったのでは、という予感が芽生える。
「……ま、まあ威力で負けたのは仕方ありませんが、まだ項目は二つ残っておりますわ。次に行きましょう」
「シルアさん、今日は王宮の中庭にて魔法の腕を披露して欲しいとのことですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、一晩寝て体力は回復したから」
「それは良かったです。応援しておりますよ」
そう言ってアンナが朝食を出してくれる。実家での食事は高級だったが、調理されてから毒見を必ず通していたため少し冷めていることが多かった。
それを思い出すとちょっとだけ不安になるが、傍らにいたウンディーネが食べても大丈夫、というように頷いてくれる。ウンディーネは水だけでなく癒しの力も司っているらしい。
あれ? ということは毒が入っていないという意味の大丈夫ではなく入っていても治すよという大丈夫なのだろうか、と一瞬疑問に思ってしまう。
とはいえあまり気にしていても仕方がないので、パンとコーンスープ、そしてベーコンエッグというあっさりした朝食を食べた。食材は普通でも、やはり出来立てというのはおいしいものだ。
「いかがですか?」
アンナが少し不安そうに尋ねる。
「大丈夫、とてもおいしいよ」
「それは良かったです」
アンナがほっとしたように肩の力を抜く。
食べ終えた私はアンナに案内されて城の中庭に向かった。
そこでは昨日の夜に出会ったアマーリエが使用人らしき男と何事かを話しているのが見える。彼女の表情は険悪で、使用人は困り果てているようだ。
「一体何でこの私がどこの馬の骨とも分からぬ小娘の測定を行わなければなりませんの!?」
「ですから私は殿下の言葉をお伝えしているだけで……」
「私も自分の研究に忙しいのですわ」
「ですが、魔力の測定は測定対象よりも高い者が行わないと正確さを欠くと殿下がおっしゃっておりました。そこでこの国内随一の腕を持つアマーリエさんに是非にと」
使用人の言葉に、急にアマーリエは相好を崩した。
「そ、そうですか。まあそういうことでしたら仕方ないですわ」
何というか、目の前でそんな会話をされると非常に出ていきづらい。仕方がないので今の会話は聞いていなかった素振りで歩いていく。
ちなみにアンナはアマーリエの姿を見るとこちらです、私は掃除や洗濯があるので、と言って戻っていった。こんなタイミングで置いていかれるなんて。
「あの、私の魔力の測定はこちらで良かったでしょうか」
「こほん、よく来ましたわねシルアさん。本日はこの私が厳格に魔力を測定いたしますが、心の準備はよろしいでしょうか?」
アマーリエは私を見ると、先ほどの少し緩んだ表情を厳しいものに戻す。
「は、はい」
「この国では魔力は威力・制御力・持続力の三要素にて測定し、それぞれにS、A、B、C……以下それに続くというふうにランク付けしておりますわ。全てA以上、もしくはS以上の項目があれば爵位を叙任される可能性もありますが、これまで現れた者たちはほとんどがB止まり。ですからBやCといった結果でも気落ちしないよう」
「分かりました」
初めて聞く用語だったが大体意味は分かった。一口に魔力が高いと言っても、威力が高くても制御に難がある者や、ずっと魔法を行使し続けられるけど瞬間的な威力は低い者、様々な者がいるということだろう。
私は別にこの国で魔力の腕でのし上がろうというほどの気持ちもないので、結果には何のこだわりもない。
「ちなみにこの私は威力と制御力がS、持続力がSSですわ」
聞いてもないのに彼女は教えてくれた。
何だSSって。
「Sが最高ではないのですか?」
「私が特別なのですわ」
「それはすごいですね」
私は素直に感心すと、アマーリエは満更でもなさそうな表情になる。
ランクがSまでしかないということは、彼女はおそらく国で最強クラスの魔法使いなのだろう。先ほど測定者の魔力が対象以上である必要があるとか言っていたから、おそらく殿下は私に期待して最強クラスの魔法使いを測定者にしてくれたのだろう。ランクはどうでもいいけど、殿下の心遣いには応えて精いっぱいの実力を披露したい。
「ちなみにシルアさんはどのような魔法を使いますの?」
「私は精霊魔法を使います」
「なるほど、この国にはあまり精霊がおらず、使い手がいないので楽しみですわ」
マナライト王国の土地が痩せているのは精霊の加護が少ないためという説があったが、それは本当なのかもしれない。
一方のアドラント王国は周辺諸国に比べて精霊の力が強く、極稀に魔法の力が発現する者は皆大体精霊魔法を使っていた。代わりにそれ以外の者はほとんど魔法の力も知識も持っていなかったが。
アマーリエは人間の頭ぐらいの大きさの透き通った水晶を取り出す。
「ではまず威力からいきますわ。やり方は単純です。これから私がこちらの水晶に魔力を込めますわ。ですので、一番威力が高い魔法でこの水晶を壊そうとしてください」
そう言ってアマーリエは水晶を一つの台座の上に置く。水晶はアマーリエが魔力を込めるとそれに反応してきらきらと輝いた。
一番威力が高い魔法というと、普通は火属性だろう。が、イフリートは近くに炎がないからか、小さくなっている。このままでいいのだろうかと考えていると、ふと私は中庭の一角に燭台があるのが目に入る。
「あれを借りてもよろしいですか?」
「どうぞ」
私が燭台を手に取ると、近くを漂っていたイフリートの姿が急に大きくなる。イフリートは四大精霊の中では一番中性的な外見をしており、ちょっと格好いい。
「力を貸して」
(分かった)
サラマンダーは手を伸ばして私の左手を握る。繋いだ手から私の体内に火の魔力が一気に流れ込んできて、身体が熱くなる。
「ファイアーボール!」
私が叫ぶと水晶よりも大きな火球が出現し、水晶にぶつかる。そして轟音とともに火球は爆発し、周辺は煙に包まれる。
が、爆発音の中でパリン、とかすかに何かが割れるような音が聞こえた。
そして傍らに立っていたアマーリエが呆然とした表情になる。まるで街中でドラゴンでも見たかのように。
「あの、これは……」
私は何が起こったのかよく分からずに問いかける。
しばらくして煙が晴れると、そこには粉々になった水晶の残骸が散らばっていた。
これはもしや私の魔法の威力がアマーリエのそれを上回ったということだろうか。
しばらくの間水晶だったものを見て絶句していたアマーリエは少ししてようやく口を開く。
「……この水晶は、測定者のランクを上回る威力の攻撃を受けた時しか破壊しませんわ」
「ということはつまり、私は」
「そう、SSランクということですわ」
「嘘!?」
アマーリエは力ない声で言ったが、私は思わず大声を上げてしまう。
ワイバーンを倒した時点でもしかしたらと思ったが、やはりあれはまぐれではなかったし、この国でも最強級の魔力だったらしい。
私は思わず傍らのイフリートを見る。
(これでも私の魔力のほんの一部を分け与えただけに過ぎないよ)
「そ、そうなんですか」
私以外誰にも見えない存在だったので、今まで姿が見えないので似たような存在はありふれているのだろうと思っていた私だったが、もしかするとこの四体はとてつもなく強力な存在だったのでは、という予感が芽生える。
「……ま、まあ威力で負けたのは仕方ありませんが、まだ項目は二つ残っておりますわ。次に行きましょう」
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