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バーンズ家の苦境
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ようやくお店の料金を払い終えて店を出た僕は、すでにベティの姿が周囲に見えないことを確認して溜め息をつく。
「全く、まさかあんな昔のことをずっと根に持っていたなんて。今はスコット家に拾われて幸せな暮らしをしているんだからちょっとぐらい助けてくれてもいいじゃないか」
そう口にしてみるものの、それで何かが変わる訳でもない。
僕はとぼとぼと帰路に着くのだった。
一体なぜこんなことになってしまったのか。
事の発端はつい先日のことだった。
元々うちもダンフォード家も関係ない下級貴族が領地争いをしていた。問題はこじれていたが、どちらも小さな家だったのでどこの家も当事者同士で解決すべき、と無関心を貫いていた。
しかしその一方であるルイーズ家がバーンズ家に泣きついてきたらしい。
解決した暁には領地をうちに寄贈する、ということまで言って来たので父上はルイーズ家に味方すべく事態に介入した。
しかしほぼ同じタイミングで、向こうの家がダンフォード家を頼ったらしい。
そして着せずして小貴族の領地争いは我が家とダンフォード家の戦いに発展してしまった。
しかもうちが味方することを表明した瞬間、ルイーズ家に不利な証拠がたくさん出てきた。
こうなった以上その家を見捨てるか、あくまで戦い抜くかの二択しかない。しかし一度味方すると言ってしまった以上見捨てることがあれば我が家の面子は丸つぶれだ。
そのため父上はダンフォード家に対抗する味方を集めようとした。
しかし元々関わらないことにしていた小貴族同士の領地争いに、土地欲しさに首を突っ込んだ我が家に味方する家はなかった。
そこでようやく僕らは嵌められたのだと気が付くが、時すでに遅かった。
そんな時、父上はダンフォード家が昔ターナー家を似たような手口で嵌め、罪を着せて潰したことを思い出す。そしてそのターナー家のベティがスコット家にいることを突き止めて説得するよう言ったのだった。
「アレク、今日こそは何か進展があったのだろうな!?」
家に帰って来るなり、焦った様子の父上に声を掛けられる。
必死の形相をしている父上を見ると、正直なことを報告することは出来ない。
「もう猶予はない、再び我らに不利な証拠が出てきたのだ。なんと我らが根拠として用いた文書が偽造であるという。このままでは我らは偽造文書を根拠にルイーズ家に味方したことになってしまう」
父上は蒼白な表情で言う。
当然ながら公文書を偽造することは重大な罪だ。そんなことをした家に味方してしまった我が家も取り潰しとまではいかないにしろ何もないという訳にはいかないだろう。
しかもダンフォード家であれば「偽造を知っていて黙っていたから同罪だ」と新たな罪をなすってくることすらありえる。
とはいえこちらに味方が多ければ、ルイーズ家の偽造に騙されただけだった、とか、偽造と主張してはいるが証拠不十分だ、とかそういう主張で押し切ることも出来る。
「と言う訳でもうお前だけが頼りなんだ。スコット家の助力が得られなければ我が家は大変なことになる! すでに我が家の行く末は暗いと見て逃げ出した使用人もいるぐらいだ」
そう言って父上は血走った目で僕の肩に手をかけて体を揺する。
言われてみれば最近屋敷内の雰囲気も暗い。まだうちで働いている家臣や使用人たちも皆不安げな表情をしていた。
この状況で、怒られて逃げられた、とは言えない。
「そ、それが……まだ確証は得てないけど、感触は良くて、あと少しで」
気が付くと僕は全くの嘘をついていた。
が、それを聞いて父上はほっと安心する。
父上も普段なら僕の咄嗟の嘘に騙されることはあまりないが、今はよほど切羽詰まっていたのだろう、僕の言葉を真に受けている。
「そうか。良かった、お前だけが頼りだ。もしうまくいけば好きなだけ褒美をやるからな」
「は、はい、もちろんです」
父上の笑顔に僕は猛烈な後ろめたさと焦燥感が込み上げてくる。
僕は頷くとともに逃げるように自室に駆け込み、ベティをどう説得するかを考えるのだった。
「全く、まさかあんな昔のことをずっと根に持っていたなんて。今はスコット家に拾われて幸せな暮らしをしているんだからちょっとぐらい助けてくれてもいいじゃないか」
そう口にしてみるものの、それで何かが変わる訳でもない。
僕はとぼとぼと帰路に着くのだった。
一体なぜこんなことになってしまったのか。
事の発端はつい先日のことだった。
元々うちもダンフォード家も関係ない下級貴族が領地争いをしていた。問題はこじれていたが、どちらも小さな家だったのでどこの家も当事者同士で解決すべき、と無関心を貫いていた。
しかしその一方であるルイーズ家がバーンズ家に泣きついてきたらしい。
解決した暁には領地をうちに寄贈する、ということまで言って来たので父上はルイーズ家に味方すべく事態に介入した。
しかしほぼ同じタイミングで、向こうの家がダンフォード家を頼ったらしい。
そして着せずして小貴族の領地争いは我が家とダンフォード家の戦いに発展してしまった。
しかもうちが味方することを表明した瞬間、ルイーズ家に不利な証拠がたくさん出てきた。
こうなった以上その家を見捨てるか、あくまで戦い抜くかの二択しかない。しかし一度味方すると言ってしまった以上見捨てることがあれば我が家の面子は丸つぶれだ。
そのため父上はダンフォード家に対抗する味方を集めようとした。
しかし元々関わらないことにしていた小貴族同士の領地争いに、土地欲しさに首を突っ込んだ我が家に味方する家はなかった。
そこでようやく僕らは嵌められたのだと気が付くが、時すでに遅かった。
そんな時、父上はダンフォード家が昔ターナー家を似たような手口で嵌め、罪を着せて潰したことを思い出す。そしてそのターナー家のベティがスコット家にいることを突き止めて説得するよう言ったのだった。
「アレク、今日こそは何か進展があったのだろうな!?」
家に帰って来るなり、焦った様子の父上に声を掛けられる。
必死の形相をしている父上を見ると、正直なことを報告することは出来ない。
「もう猶予はない、再び我らに不利な証拠が出てきたのだ。なんと我らが根拠として用いた文書が偽造であるという。このままでは我らは偽造文書を根拠にルイーズ家に味方したことになってしまう」
父上は蒼白な表情で言う。
当然ながら公文書を偽造することは重大な罪だ。そんなことをした家に味方してしまった我が家も取り潰しとまではいかないにしろ何もないという訳にはいかないだろう。
しかもダンフォード家であれば「偽造を知っていて黙っていたから同罪だ」と新たな罪をなすってくることすらありえる。
とはいえこちらに味方が多ければ、ルイーズ家の偽造に騙されただけだった、とか、偽造と主張してはいるが証拠不十分だ、とかそういう主張で押し切ることも出来る。
「と言う訳でもうお前だけが頼りなんだ。スコット家の助力が得られなければ我が家は大変なことになる! すでに我が家の行く末は暗いと見て逃げ出した使用人もいるぐらいだ」
そう言って父上は血走った目で僕の肩に手をかけて体を揺する。
言われてみれば最近屋敷内の雰囲気も暗い。まだうちで働いている家臣や使用人たちも皆不安げな表情をしていた。
この状況で、怒られて逃げられた、とは言えない。
「そ、それが……まだ確証は得てないけど、感触は良くて、あと少しで」
気が付くと僕は全くの嘘をついていた。
が、それを聞いて父上はほっと安心する。
父上も普段なら僕の咄嗟の嘘に騙されることはあまりないが、今はよほど切羽詰まっていたのだろう、僕の言葉を真に受けている。
「そうか。良かった、お前だけが頼りだ。もしうまくいけば好きなだけ褒美をやるからな」
「は、はい、もちろんです」
父上の笑顔に僕は猛烈な後ろめたさと焦燥感が込み上げてくる。
僕は頷くとともに逃げるように自室に駆け込み、ベティをどう説得するかを考えるのだった。
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