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裏切り
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そんな出来事の一か月ほど後のことだった。
突然のことではあるが、私の家、つまりターナー公爵家は取り潰しにあった。
公爵級の貴族が滅多なことで取り潰しに遭う訳はないので、当時の私は寝耳に水だった。
一応後で調べた限りだと私の家はその時の王国の政変に巻き込まれ、平たく言うとそこで政争に敗れてその件の決着のために貧乏くじを引かされたらしい。
私が突然に感じたのは知らなかっただけで、実は大人たちは少し前から雲行きの怪しさのようなものを感じていたらしい。
もっとも当時の私はそんな大人の理屈は分からなかったので、半狂乱になった。
いつもなら「勉強をしなさい」「お稽古事をしなさい」とうるさく言ってくる者たちもそれどころではなかった。
そんな時、私はアレクならこの状況もどうにかならないかと思い立って屋敷を抜け出し、バーンズ家に向かった。取り潰しが決まる前ならまだしも、決まった後に、しかも当時七歳とか八歳の子供に頼んでどうにかなることではなかったが、その時の私は藁にもすがる気持ちだった。
そんな訳で私はバーンズ家に駆けこんだ。
そして私の前にアレクが現れる。彼は一か月前に一緒に遊んだ時とは大違いに、私に対して険しい表情を見せた。
「一体何の用だ?」
「助けて! このままだと私の家が潰れそうなの!」
私が泣きながら言うと、アレクははあっと大きなため息をついた。
「助ける? 君のような罪人の家を?」
「え?」
これまでのアレクの親し気な声とは打って変わった冷たい声に私は一瞬で雰囲気の違いを感じ取る。
私が仲良くしていたアレクとはまるで別人のようだった。
「あの……アレク?」
「君の家は王家に反逆しようとしたんだ。そんな家の娘と仲良くしていれば、僕まで反逆者の仲間だと思われてしまう。だからもう来ないでくれないか?」
「そんな、アレク! 信じて、私の父上はそんなことしてない!」
私は涙を流しながら叫ぶ。
すでに涙はうちが潰れることよりもアレクに見捨てられたことに対するものに変わっていた。
「信じる? 僕だって君のことを信じていた。それが、反逆者の娘だったなんて、心底がっかりだ! 二度と顔を見せないでくれ!」
「そ……ん……な……」
呆然とその場に崩れ落ちる私を尻目に、彼はすたすたと私の前を立ち去っていくのだった。
それでもその時の私は屋敷の中でずっと泣き叫び、やがてバーンズ家の人々に丁重に追い出されたことをかすかに覚えている。
その後アレクとは一度も会っていない。
ただ、結局うちの家が潰れてしまったのとは対照的に彼の家はその後も有力貴族として続いていた。
あれが彼の本心なのか、もしくはそうするよう言われたのか、それとも親に私が悪人だと吹き込まれたのか、真相は分からない。
確かなのは幼かった私の心に深い傷が刻まれたことだ。
そんなに仲が良くても、どれだけ信頼していても少し状況が変われば簡単に裏切られる。
そんな考えが私の脳裏に深く刻まれたのだった。
突然のことではあるが、私の家、つまりターナー公爵家は取り潰しにあった。
公爵級の貴族が滅多なことで取り潰しに遭う訳はないので、当時の私は寝耳に水だった。
一応後で調べた限りだと私の家はその時の王国の政変に巻き込まれ、平たく言うとそこで政争に敗れてその件の決着のために貧乏くじを引かされたらしい。
私が突然に感じたのは知らなかっただけで、実は大人たちは少し前から雲行きの怪しさのようなものを感じていたらしい。
もっとも当時の私はそんな大人の理屈は分からなかったので、半狂乱になった。
いつもなら「勉強をしなさい」「お稽古事をしなさい」とうるさく言ってくる者たちもそれどころではなかった。
そんな時、私はアレクならこの状況もどうにかならないかと思い立って屋敷を抜け出し、バーンズ家に向かった。取り潰しが決まる前ならまだしも、決まった後に、しかも当時七歳とか八歳の子供に頼んでどうにかなることではなかったが、その時の私は藁にもすがる気持ちだった。
そんな訳で私はバーンズ家に駆けこんだ。
そして私の前にアレクが現れる。彼は一か月前に一緒に遊んだ時とは大違いに、私に対して険しい表情を見せた。
「一体何の用だ?」
「助けて! このままだと私の家が潰れそうなの!」
私が泣きながら言うと、アレクははあっと大きなため息をついた。
「助ける? 君のような罪人の家を?」
「え?」
これまでのアレクの親し気な声とは打って変わった冷たい声に私は一瞬で雰囲気の違いを感じ取る。
私が仲良くしていたアレクとはまるで別人のようだった。
「あの……アレク?」
「君の家は王家に反逆しようとしたんだ。そんな家の娘と仲良くしていれば、僕まで反逆者の仲間だと思われてしまう。だからもう来ないでくれないか?」
「そんな、アレク! 信じて、私の父上はそんなことしてない!」
私は涙を流しながら叫ぶ。
すでに涙はうちが潰れることよりもアレクに見捨てられたことに対するものに変わっていた。
「信じる? 僕だって君のことを信じていた。それが、反逆者の娘だったなんて、心底がっかりだ! 二度と顔を見せないでくれ!」
「そ……ん……な……」
呆然とその場に崩れ落ちる私を尻目に、彼はすたすたと私の前を立ち去っていくのだった。
それでもその時の私は屋敷の中でずっと泣き叫び、やがてバーンズ家の人々に丁重に追い出されたことをかすかに覚えている。
その後アレクとは一度も会っていない。
ただ、結局うちの家が潰れてしまったのとは対照的に彼の家はその後も有力貴族として続いていた。
あれが彼の本心なのか、もしくはそうするよう言われたのか、それとも親に私が悪人だと吹き込まれたのか、真相は分からない。
確かなのは幼かった私の心に深い傷が刻まれたことだ。
そんなに仲が良くても、どれだけ信頼していても少し状況が変われば簡単に裏切られる。
そんな考えが私の脳裏に深く刻まれたのだった。
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