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幼馴染
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「ベティ、こっちこっち、いい景色が見えるぞ」
「本当!?」
「ああ、ここは僕しか知らない秘密の場所なんだ」
そう言って幼馴染のアレクは走っていく。私はそれを懸命に追いかけていた。
私、ベティ・ターナーは名門貴族ターナー公爵家の末娘として生まれ、大貴族の娘らしく屋敷の中で手厚く育てられた。
しかし大貴族のお嬢様として育てられたため、あまり野山を駆けまわるような体験はせずに育ってきた。
そんな時、私を連れ出してきたのがアレクだった。
彼も有力貴族バーンズ公爵家の息子に生まれ、たまたまパーティーか社交界でうちに来ていたときに会話し、年が近いこともあってすぐに仲良くなった。
やんちゃな性格の彼は私を外に連れまわし、当時屋敷の外が新鮮だった私はしばしば家を抜け出して彼と一緒に遊びに出ていた。
今日はアレクが特別にいい景色を見せてくれるというので、王都の城門の側で待ち合わせ、そこから王都郊外の丘の上に登っているという訳である。
子供とはいえ男の子のアレクと、屋敷の中で大事に育てられた私では体力にはかなりの差がある。そのため、アレクがゆっくりめに走っていたとしても、私は彼についていくのが精いっぱいだった。
「はあ、はあ、はあ……」
「大丈夫か?」
それでも、私が本気で疲れていると彼は心配そうに足を止めてくれた。
それを見て私ももう少し頑張らなければ、という気持ちになる。
「うん、私はまだ大丈夫」
そして私たちは丘の頂上まで登った。
私たちが登っている丘は後に知ったことだがどこかの貴族の私有地だったらしく、周囲に人はいない。
頂上に登ると、王都周辺に広がる平野を一望することが出来た。
王都の中にある高い建物には登ったことがあるが、城壁のせいで王都の外を見ることは出来なかった。
そのため眼下に広がる景色は私にとって絵画でしか見たことのない新鮮なものだった。
「うわあ、すごーい!」
私は見渡す限りの平野を見て思わずそんな声をあげてしまう。
そんな私を見て傍らのアレクは満足そうに笑う。
「な、すごいって言っただろ?」
「うん、本当にすごい、連れてきてくれてありがとう」
「気にするなって、僕と君の仲だろう?」
アレクは少し照れながら言う。
「そうだね」
そう言いつつ、私の目はどこまでも広がる平野、遠くに広がる小麦色の畑、そしてその中に点在する村というこれまでみたことない広さの景色に夢中だった。
「はいこれ」
ひとしきり景色を見た後、私は屋敷で作って来たサンドウィッチの包みを広げる。
それを見てアレクは驚きの声をあげる。
「こ、これは?」
「今日はアレクのために作って来たの」
「ありがとう」
「ううん、いつも色んなところに連れてってくれるから」
私が言うと、アレクはサンドウィッチを口に入れる。
「うまい」
「良かった」
それからアレクはパクパクとサンドウィッチを食べ、食べ終えると不意に真剣な目で私を見つめる。
「ベティは料理がうまいな。なあ、僕たち家もおなじくらいの大きさだろう?」
「うん」
「将来結婚しよう」
「え、でも婚約なんて親が決めるものじゃ……」
私は突然のアレクの言葉に困惑する。
確かにその時の私も、いろんな場所に連れていってくれるアレクのことに対して明確に好意を抱いていた。
ただ結婚相手は親が決めるもの、という固定観念があったからそういう風には思わなかったけど。
「大丈夫だ、僕が何としても父上を説得してみる。だからベティも父上を説得してくれ」
アレクの真剣な表情に、これなら私たちが自分で婚約相手を決めることも可能かもしれない、と私は思った。
「分かった、私も父上に頼んでみるね」
「良かった、もしも断られたらどうしようかと思った」
そう言ってアレクはほっと息を吐く。
こうしてその時の私は絶対に彼との婚約を認めさせてみせる、と思ったのだった。
もっとも父親を説得するどころか、屋敷を脱走してしかも他家の私有地に入っていたのがバレ、帰ってそうそう私は父上に激怒された訳だが。
「本当!?」
「ああ、ここは僕しか知らない秘密の場所なんだ」
そう言って幼馴染のアレクは走っていく。私はそれを懸命に追いかけていた。
私、ベティ・ターナーは名門貴族ターナー公爵家の末娘として生まれ、大貴族の娘らしく屋敷の中で手厚く育てられた。
しかし大貴族のお嬢様として育てられたため、あまり野山を駆けまわるような体験はせずに育ってきた。
そんな時、私を連れ出してきたのがアレクだった。
彼も有力貴族バーンズ公爵家の息子に生まれ、たまたまパーティーか社交界でうちに来ていたときに会話し、年が近いこともあってすぐに仲良くなった。
やんちゃな性格の彼は私を外に連れまわし、当時屋敷の外が新鮮だった私はしばしば家を抜け出して彼と一緒に遊びに出ていた。
今日はアレクが特別にいい景色を見せてくれるというので、王都の城門の側で待ち合わせ、そこから王都郊外の丘の上に登っているという訳である。
子供とはいえ男の子のアレクと、屋敷の中で大事に育てられた私では体力にはかなりの差がある。そのため、アレクがゆっくりめに走っていたとしても、私は彼についていくのが精いっぱいだった。
「はあ、はあ、はあ……」
「大丈夫か?」
それでも、私が本気で疲れていると彼は心配そうに足を止めてくれた。
それを見て私ももう少し頑張らなければ、という気持ちになる。
「うん、私はまだ大丈夫」
そして私たちは丘の頂上まで登った。
私たちが登っている丘は後に知ったことだがどこかの貴族の私有地だったらしく、周囲に人はいない。
頂上に登ると、王都周辺に広がる平野を一望することが出来た。
王都の中にある高い建物には登ったことがあるが、城壁のせいで王都の外を見ることは出来なかった。
そのため眼下に広がる景色は私にとって絵画でしか見たことのない新鮮なものだった。
「うわあ、すごーい!」
私は見渡す限りの平野を見て思わずそんな声をあげてしまう。
そんな私を見て傍らのアレクは満足そうに笑う。
「な、すごいって言っただろ?」
「うん、本当にすごい、連れてきてくれてありがとう」
「気にするなって、僕と君の仲だろう?」
アレクは少し照れながら言う。
「そうだね」
そう言いつつ、私の目はどこまでも広がる平野、遠くに広がる小麦色の畑、そしてその中に点在する村というこれまでみたことない広さの景色に夢中だった。
「はいこれ」
ひとしきり景色を見た後、私は屋敷で作って来たサンドウィッチの包みを広げる。
それを見てアレクは驚きの声をあげる。
「こ、これは?」
「今日はアレクのために作って来たの」
「ありがとう」
「ううん、いつも色んなところに連れてってくれるから」
私が言うと、アレクはサンドウィッチを口に入れる。
「うまい」
「良かった」
それからアレクはパクパクとサンドウィッチを食べ、食べ終えると不意に真剣な目で私を見つめる。
「ベティは料理がうまいな。なあ、僕たち家もおなじくらいの大きさだろう?」
「うん」
「将来結婚しよう」
「え、でも婚約なんて親が決めるものじゃ……」
私は突然のアレクの言葉に困惑する。
確かにその時の私も、いろんな場所に連れていってくれるアレクのことに対して明確に好意を抱いていた。
ただ結婚相手は親が決めるもの、という固定観念があったからそういう風には思わなかったけど。
「大丈夫だ、僕が何としても父上を説得してみる。だからベティも父上を説得してくれ」
アレクの真剣な表情に、これなら私たちが自分で婚約相手を決めることも可能かもしれない、と私は思った。
「分かった、私も父上に頼んでみるね」
「良かった、もしも断られたらどうしようかと思った」
そう言ってアレクはほっと息を吐く。
こうしてその時の私は絶対に彼との婚約を認めさせてみせる、と思ったのだった。
もっとも父親を説得するどころか、屋敷を脱走してしかも他家の私有地に入っていたのがバレ、帰ってそうそう私は父上に激怒された訳だが。
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