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騒動

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「大変です!」

 あれから私が部屋で黙々と作業していると、不意にどんどんとドアを叩く音がします。室内にした監視役のメイドは首をかしげてドアを開けます。

 すると、そこには蒼い顔をした別のメイドが立っていました。

「一体何の用でしょうか?」
「アンナ様、ベン様が別のご令嬢を屋敷に連れ込んで仲睦まじく過ごしています!」
「え?」

 それを聞いて私は困惑しました。

「ちょっと、そういうのは困ります」
「いいんですか!? 私はこんなことは許せません!」

 監視役のメイドは職務に忠実なため彼女を追い返そうとしていますが、知らせにきたメイドはよほど憤っているのでしょう、構わずまくし立てています。

「この前もそうでした、カーソン家に謝罪の挨拶に行くといって、別の場所を歩いているのを偶然見てしまいました! きっとベン様は浮気しています!」
「ちょ、ちょっと、黙りなさい!」

 監視役のメイドが叫ぶと、騒ぎを聞きつけて数人の執事が駆け付けます。
 そして叫んでいるメイドを見て声を荒げました。

「こら、やめろ!」
「それ以上しゃべるな!」
「そんな、こんなこと黙って見過ごせません!」
「うるさい、黙れ!」

 そして彼女は叫んだまま執事たちに連れていかれるのでした。
 残された監視役のメイドは気まずそうに沈黙し、私も何も見なかった風を装って机に戻ります。

 が、書類を開いた私はさすがに動揺が収まりませんでした。
 確かにウィルが私のことを好きだとは思っていませんでしたし、私に仕事を押し付けているのも私がいないところで好き勝手するつもりだということは分かっていました。

 しかしまさか、父親がいなくなった瞬間によその令嬢を屋敷に招くとは。
 もちろん社交的な事情でどうしてもそういうことが必要になることはあるかもしれません。しかしそういう様子ならあのメイドがわざわざ血相を変えて報告してくることはないでしょう。あんなことをすれば今後給料が下がったり最悪解雇されたりするというのに。
 そこまでして報告してくるということは見過ごせないほど仲が良さそうだったに違いありません。

 屋敷の仕事が多少うまくいかなくても、何とかなるでしょう。政務についても今私に丸投げされているということは私が頑張ればどうにかなるのかもしれません。しかし浮気までしているとなると、さすがに取り返しのつかないことになるような気がします。

 私しかやれる人がいない以上押し付けられた仕事をこなすのも重要ですが、そうしている間に何かが起こってしまうことはないでしょうか。

 とはいえだからといって今の私に出来ることは何かあるでしょうか。
 色々考えてみるものの何も思いつきません。
 監視役のメイドはもしかしたら一対一で倒せるかもしれませんが、部屋の外に出てもすぐにベンの命令で取り押さえられるだけでしょう。しかも一度そのような強硬手段で部屋を出たとなれば今度は囚人のような扱いを受けるかもしれません。

 そんなことを色々考えるだけで考えは全くまとまらず、政務も手につかず、私は時間だけをいたずらに消費していくしかないのでした。
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