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暴走するベン
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アンナが出かけてしまうと、僕は自室に向かって書類を開く。これまでアンナに色んなことを任せてしまっていたが、これからはもっと自分で頑張らなければ。
幸いアンナは出ていったから僕の政務に邪魔が入ることもないだろう。
そう思いつつ僕は三十分ほど作業するが、やがて書類を見ていてよく分からないところが出てくる。そう言えばその件については以前アンナが何か言っていた気がする。
「おい、アンナ……はっ」
僕は彼女を呼びつけようとして、彼女がすでに出かけていたことに気づく。
危ない危ない、僕がしっかりしないとまたアンナに「良かれと思って手伝っただけで余計なことをしたつもりはないです」などと言われてしまう。
とはいえそれならこのことは誰に訊こうか、と思っていると。
「すいませんベン様」
不意にメイド長のメリッサがドアを叩く。
アンナがいないからちゃんと僕にお伺いを立てようと決めたのだろう。いい心掛けだ。
「何だ? まあ入りたまえ」
僕の言葉に従って、彼女は室内に入ってくる。
「実は以前揉めていたメイドの件なのですが、アイリーンをなだめて、代わりにスザンナを叱ったところ今度はスザンナがエリーたちに悪口を言いふらし……」
「ちょっと待ってくれ、アイリーンって誰だ?」
突然名前がぽんぽん出て来て僕は困惑する。皆何か訊いたことはあるが……。
するとメリッサは少しだけ呆れた顔をする。
「アイリーンはこの前言っていた退職しそうだったメイドで、スザンナが揉めていた相手です。エリーというのはメイドの中でグループを作っている存在で、それで今度はエリーのグループがスザンナに味方したところ、今度はロロが……」
「ちょっと待ってくれ、そのロロというのは?」
「すいません、ついいつもアンナ様に話す時の癖で普通に話してしまいました」
僕が尋ねると、メリッサは慌てて口元を抑える。
それを見て僕は少し苛立った。まるでその言い方だとアンナと違って僕は無知だと言っているようなものではないか。
「おい、ちょっとその言い方はないんじゃないか?」
「え、今何か言いましたか?」
「何か言いましたかじゃない。今アンナと違って僕が無知だと言ったじゃないか」
「いえ、そんなつもりは。ですがうちにいる、しかもこの前も相談したメイドの名前ぐらいは把握しているものと思ってましたので……」
彼女の言い方に僕はさらにカチンとくる。
「何だと!? 僕がいちいち皆の名前を憶えてなければならないというのか!? アンナと違って僕は覚えなければならないことがあるんだ、もういい!」
僕が怒鳴ると、メリッサは逃げるように部屋を出ていってしまった。
ふう、アンナは彼女が多少無礼な態度をとっても許していたのかもしれないが、僕が改めて教育し直さなければ。
そう思って僕は政務を再開する。
が、数分も経たぬうちに、
「すみません、ベン様!」
今度は執事の声が聞こえてくる。
「一体何だ。僕は忙しいんだが、しょうもないことじゃないだろうな?」
「いえ、でしたら構いません……」
「一体何なんだ?」
大した用じゃないなら最初から来ないで欲しい。
それから他にも何人か人がやってきたが、皆大した用件じゃなかったらしく、大した用じゃないか尋ねると戻っていってしまった。
何人かはそれでも用件を言ってきたが、皆わざとなのかどうかメリッサのように僕をアンナと比較してきたので腹立たしくなり、叱ったところ最後まで話を言わずに帰ってしまった。ということはきっと大したことではなかったのだろう。
きっとアンナが使用人たちを甘やかすから彼らは皆付け上がっていたのだろう。そして皆自分たちを甘やかすアンナのことをいい主人だと思ったに違いない。そういう事実を知ることが出来て僕は満足したのだった。
幸いアンナは出ていったから僕の政務に邪魔が入ることもないだろう。
そう思いつつ僕は三十分ほど作業するが、やがて書類を見ていてよく分からないところが出てくる。そう言えばその件については以前アンナが何か言っていた気がする。
「おい、アンナ……はっ」
僕は彼女を呼びつけようとして、彼女がすでに出かけていたことに気づく。
危ない危ない、僕がしっかりしないとまたアンナに「良かれと思って手伝っただけで余計なことをしたつもりはないです」などと言われてしまう。
とはいえそれならこのことは誰に訊こうか、と思っていると。
「すいませんベン様」
不意にメイド長のメリッサがドアを叩く。
アンナがいないからちゃんと僕にお伺いを立てようと決めたのだろう。いい心掛けだ。
「何だ? まあ入りたまえ」
僕の言葉に従って、彼女は室内に入ってくる。
「実は以前揉めていたメイドの件なのですが、アイリーンをなだめて、代わりにスザンナを叱ったところ今度はスザンナがエリーたちに悪口を言いふらし……」
「ちょっと待ってくれ、アイリーンって誰だ?」
突然名前がぽんぽん出て来て僕は困惑する。皆何か訊いたことはあるが……。
するとメリッサは少しだけ呆れた顔をする。
「アイリーンはこの前言っていた退職しそうだったメイドで、スザンナが揉めていた相手です。エリーというのはメイドの中でグループを作っている存在で、それで今度はエリーのグループがスザンナに味方したところ、今度はロロが……」
「ちょっと待ってくれ、そのロロというのは?」
「すいません、ついいつもアンナ様に話す時の癖で普通に話してしまいました」
僕が尋ねると、メリッサは慌てて口元を抑える。
それを見て僕は少し苛立った。まるでその言い方だとアンナと違って僕は無知だと言っているようなものではないか。
「おい、ちょっとその言い方はないんじゃないか?」
「え、今何か言いましたか?」
「何か言いましたかじゃない。今アンナと違って僕が無知だと言ったじゃないか」
「いえ、そんなつもりは。ですがうちにいる、しかもこの前も相談したメイドの名前ぐらいは把握しているものと思ってましたので……」
彼女の言い方に僕はさらにカチンとくる。
「何だと!? 僕がいちいち皆の名前を憶えてなければならないというのか!? アンナと違って僕は覚えなければならないことがあるんだ、もういい!」
僕が怒鳴ると、メリッサは逃げるように部屋を出ていってしまった。
ふう、アンナは彼女が多少無礼な態度をとっても許していたのかもしれないが、僕が改めて教育し直さなければ。
そう思って僕は政務を再開する。
が、数分も経たぬうちに、
「すみません、ベン様!」
今度は執事の声が聞こえてくる。
「一体何だ。僕は忙しいんだが、しょうもないことじゃないだろうな?」
「いえ、でしたら構いません……」
「一体何なんだ?」
大した用じゃないなら最初から来ないで欲しい。
それから他にも何人か人がやってきたが、皆大した用件じゃなかったらしく、大した用じゃないか尋ねると戻っていってしまった。
何人かはそれでも用件を言ってきたが、皆わざとなのかどうかメリッサのように僕をアンナと比較してきたので腹立たしくなり、叱ったところ最後まで話を言わずに帰ってしまった。ということはきっと大したことではなかったのだろう。
きっとアンナが使用人たちを甘やかすから彼らは皆付け上がっていたのだろう。そして皆自分たちを甘やかすアンナのことをいい主人だと思ったに違いない。そういう事実を知ることが出来て僕は満足したのだった。
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