上 下
5 / 40

ベンの怒り

しおりを挟む
「ふう、ようやくアンナに言いたいことを全部言うことが出来た」

 屋敷を出た僕は晴れ晴れとした気分で言う。

「しかしよろしいのでしょうか? アンナ様はベン様のためを思って色々してくれていたようですが」

 そんな僕に供の家臣が心配そうに言う。
 それを聞いて僕は少し不愉快な気持ちになる。結局こいつもアンナか、と。

「うるさい、そうは言うが最近の彼女は少し図に乗りすぎている。きっと自分がいないと僕が何も出来ないとでも思っているんだ!」
「そ、そうでしょうか?」

 家臣が首をかしげる。それを見て僕はまた苛々した。こいつらは何かあるといつもアンナの肩を持つ。確かに彼女は頑張っているのかもしれないが、そのせいでいつも僕が迷惑をこうむっているのは知らなかったのだろう、昨日「余計なことをするな」と言った時も何が悪かったのか理解していない様子だった。

「例えば、アンナが言っていた書類の件だ。あれはすぐに確認しないといけない書類を受け取ったから、来客を見送った後にすぐに確認しようと思ってそのまま客間に置いておいたんだ。そうすればすぐに気づくだろう?」
「ですがその後確認されなかったんですよね?」

 揚げ足をとるような言い方に僕は苛立つ。

「それはその後別の来客があったからだ!」

 しかも僕はちゃんとその書類を置きっぱなしにした客間とは別の部屋で会談した。そしたらその間にアンナは勝手に書類を片付けた訳である。
 全く、本当にこいつらはああ言えばこう言う。
 少しは僕の言うことを受け止めて自分が悪いという自覚を持ってはどうか。

「その後で僕は書類をとりに戻ったらなくなっていてびっくりしたんだ。その部屋を通りかかったメイドや執事皆に尋ねたが、皆見てないという。それで散々大騒ぎした挙句僕の部屋に置いてあったが、僕はずっと一人騒いで恥を晒しただけに終わったんだ!」
「……」

 家臣もようやく僕の言うことに納得してくれたのか、沈黙する。

「他にも、この前も僕付きのメイド同士がトラブルを起こしたことがあった。その時にアンナがトラブルを解決したらしく、その話が父上の耳に入った。そのせいで僕は『自分に仕えるメイドのトラブルも自分で解決できないのか!』と父上に怒られたんだ。しかも、『あれはアンナがやった』と言ったのに、『トラブルをアンナの方が早く把握している時点でダメだ』と言われたんだ」
「……」

 家臣も僕の言うことに反論出来ないだろう、黙ったままだ。
 それに気を良くして僕は続ける。

「それもこれもアンナが勝手に何事もやってしまうからだ。だから皆僕に言いにくいことは全部アンナに言っているし、アンナも本来僕がやることを勝手にやっているから有能に見えているのだろう。皆それに騙されすぎだ。お前も今後は気を付けろ」
「……分かりました」

 家臣が頷いたのを見て僕は満足する。
 最終的に分かってくれたのであればそれで良い。
 少し苛々したが、それは些細なことだ。

 何と言ってもこれから向かうアンドリュー家にはクラリスという二つ下の令嬢がいる。彼女は人形のように可愛く、しかもアンナと違って勝手に何かをすることもない。そのため僕は苛々したときはアンドリュー家との用事にかこつけて彼女に会いにいくのが日課になっている。
 彼女の愛くるしい笑顔を思い出すと苛々した気持ちも自然と吹き飛んでいくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹しか興味がない両親と欲しがりな妹は、我が家が没落することを知らないようです

香木あかり
恋愛
伯爵令嬢のサラは、妹ティナにしか興味がない両親と欲しがりな妹に嫌気がさしていた。 ある日、ティナがサラの婚約者を奪おうとしていることを知り、我慢の限界に達する。 ようやくこの家を出られると思っていましたのに……。またティナに奪われるのかしら? ……なんてね、奪われるのも計画通りなんですけれど。 財産も婚約者も全てティナに差し上げます。 もうすぐこの家は没落するのだから。 ※複数サイトで掲載中です

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【ほか】続きです。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます

水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。 ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。 ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。 しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。 *HOTランキング1位到達(2021.8.17) ありがとうございます(*≧∀≦*)

妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?

百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」 妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。 私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。 「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」 ぶりっ子の妹は、実はこんな女。 私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。 「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」 「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」 「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」 淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。 そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。 彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。 「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」 「えっ?」 で、惚れられてしまったのですが。 その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。 あー、ほら。言わんこっちゃない。

処理中です...