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メイド長の相談
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「あの、アンナ様、少し相談があるのですが……」
ベンの部屋を出て、余計なことをするなと言われたので私がくつろいでいると。
不意にメイド長のメリッサに声を掛けられます。
彼女は五十を超えるメイドで、成人してからずっとこの屋敷で奉公しているという超ベテランのメイドです。しかし全く老いを感じさせず、いつも新入りのメイドたちも驚くぐらいの勢いで仕事をこなしています。私も屋敷に来たばかりの時は随分世話になりましたし、最近は逆に相談を受けることも多くなりました。
「どうしたの?」
「実はメイドの一人が退職したいと言っていて、理由を訊くと待遇が他のメイドといざこざがあるらしいのです。私としてはどちらにも非があると思うのですが、彼女は仕事は出来るのでどうしたものかと」
「そういうことならちょっと話を……あ」
そこまで言いかけて私は「余計なことをするな」と言われたことを思い出します。
ここでまた勝手にこの件を解決すればベンに怒られることでしょう。
「そういう話ならベンさんにした方がいいかもしれないわ」
「え、若旦那様に?」
これまで私がそんなことを言ったことはないので、メリッサは困惑します。
「でも若旦那様にこんなことを話してもうっとうしがられないでしょうか?」
「そうかもしれませんが、最近はそういうこともご自身で判断する経験を積みたいとのことです」
そんなことは一言も言っていませんでしたが、さすがにあの時言われたことをそのままメリッサに話す訳にもいかないので私は善意で補足して伝えます。
メリッサも少し首をかしげていましたが、それを聞いて頷きます。
これまでメリッサとやりとりするのはベンよりも私の方が多かったのですが、そんな彼女の目線で見てもベンはもう少し色んな経験を積んだ方がいいと思ったのかもしれません。
「言われてみればそうかもしれませんね。でしたら伝えてみます」
「ええ。でも、彼はこういうのは初めてだから出来るだけ丁寧に状況を説明した方がいいかも」
「なるほど、そうですね」
「あと、ベンさんはメイドが普段何をしているかもよく分かってないと思うので、まずはその辺の説明もした方が、それから……」
「はい、はい、なるほど……」
私はベンに話した方がいいと思うことを述べていると結局普通に相談を聞くのと同じぐらいの時間がかかってしまいます。
ですがこれだけ念を押しておけばベンもメリッサの話を聞いてうまく判断してくれるでしょう。
「……ありがとうございます」
こうして私はメリッサが部屋を出ていくのをうまくいけばいいのですが、と思いつつ見送るのでした。
ベンの部屋を出て、余計なことをするなと言われたので私がくつろいでいると。
不意にメイド長のメリッサに声を掛けられます。
彼女は五十を超えるメイドで、成人してからずっとこの屋敷で奉公しているという超ベテランのメイドです。しかし全く老いを感じさせず、いつも新入りのメイドたちも驚くぐらいの勢いで仕事をこなしています。私も屋敷に来たばかりの時は随分世話になりましたし、最近は逆に相談を受けることも多くなりました。
「どうしたの?」
「実はメイドの一人が退職したいと言っていて、理由を訊くと待遇が他のメイドといざこざがあるらしいのです。私としてはどちらにも非があると思うのですが、彼女は仕事は出来るのでどうしたものかと」
「そういうことならちょっと話を……あ」
そこまで言いかけて私は「余計なことをするな」と言われたことを思い出します。
ここでまた勝手にこの件を解決すればベンに怒られることでしょう。
「そういう話ならベンさんにした方がいいかもしれないわ」
「え、若旦那様に?」
これまで私がそんなことを言ったことはないので、メリッサは困惑します。
「でも若旦那様にこんなことを話してもうっとうしがられないでしょうか?」
「そうかもしれませんが、最近はそういうこともご自身で判断する経験を積みたいとのことです」
そんなことは一言も言っていませんでしたが、さすがにあの時言われたことをそのままメリッサに話す訳にもいかないので私は善意で補足して伝えます。
メリッサも少し首をかしげていましたが、それを聞いて頷きます。
これまでメリッサとやりとりするのはベンよりも私の方が多かったのですが、そんな彼女の目線で見てもベンはもう少し色んな経験を積んだ方がいいと思ったのかもしれません。
「言われてみればそうかもしれませんね。でしたら伝えてみます」
「ええ。でも、彼はこういうのは初めてだから出来るだけ丁寧に状況を説明した方がいいかも」
「なるほど、そうですね」
「あと、ベンさんはメイドが普段何をしているかもよく分かってないと思うので、まずはその辺の説明もした方が、それから……」
「はい、はい、なるほど……」
私はベンに話した方がいいと思うことを述べていると結局普通に相談を聞くのと同じぐらいの時間がかかってしまいます。
ですがこれだけ念を押しておけばベンもメリッサの話を聞いてうまく判断してくれるでしょう。
「……ありがとうございます」
こうして私はメリッサが部屋を出ていくのをうまくいけばいいのですが、と思いつつ見送るのでした。
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