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ベンとアンナ

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「余計なことをするな、お前のせいで全てがうまくいかない!」

 ある日、私は婚約者のベンに呼び出されたかと思うと突然そんなことを言われます。ベンは名門貴族アスカム公爵家の生まれなのですが、公爵の跡継ぎとしてふさわしい人物にならなければならないというプレッシャーと日々戦っているせいか、いつも苛々しているように見えます。

 今日も理由はよく分かりませんが、私に指を突き付けてそう宣言しました。
 怒っているのは分かりますが、そう言われても私はどうしていいか分かりません。

「えっと……あの、それはどういうことでしょうか?」
「どうもこうもない! お前が僕が何も言わずに色々するせいでめちゃくちゃになっている! この前は勝手に書類を片付けたせいで書類がどこにあるか分からなかった!」
「それは客間に大事そうな書類が置きっぱなしになっていたからで……」

 説明をしますが、彼は私の言葉を遮って再び怒鳴ります。

「言い訳するな! あれを探すのにどれだけ時間がかかったと思っているんだ!」
「そうは言ってもあそこに置きっぱなしにして家の外の方の目に触れては困ると思ったので……」

 確かに勝手に片付けたのは悪いかもしれませんが、一応ベンの部屋の机の上に置いておいたのですが。

「それならそうしたということをちゃんと報告しろ!」
「ですがその時あなたは誰も声をかけるなと言って部屋に引きこもっていたので……」

 確か重要な来客があったので邪魔をするなと言っていたはずです。
 もちろん緊急のことでしたらその間でも声をかけますが、書類を片付けただけでそこまで言われるのはおかしいです。
 なぜここまで一方的に怒られなければならないのでしょうか。

「くそ、ああ言えばこう言う! 全く、何て口うるさい婚約者なんだ」
「……それはすみません」

 謝りつつも、内心ベンの狭量さに嘆息します。そもそも私よりも今のベンの方がよほど口うるさいと思うのですが。

 私、アンナはスペンサー公爵家という最近勢力を伸ばしている家に生まれた娘です。
 元は中堅貴族に過ぎなかったのですが祖父、父上と優秀な当主が続き、十年ほど前に王国全体で飢饉が起こった時の対応で手柄を立て、その功で公爵位をもらいました。
 そんな家であるため私も幼いころから跡継ぎである兄上とほぼ同じような教育を受けて育ったのです。

 そして去年十五になった時、うちとは逆に伝統があって勢いがないアスカム公爵家のベンの元に嫁ぎました。
 嫁ぐ際にアスカム公爵からはベンの至らぬところがあって補って欲しい、と言われたこともあり私なりにベンのことを色々手助けしてきたつもりでしたが、完全に逆効果だったようです。

「……でも本当に大丈夫でしょうか? 他にも色々私がしていることがありましたが」
「ああ、そういうのは本当に迷惑しているんだ。僕だってもう成人してるんだ、もう少し信頼して欲しいね」
「そこまで言うなら分かりました」

 そう言われてしまっては言うことを聞かざるを得ません。
 私はこれまでベンのために良かれと思ってやっていたことをやめることにしました。
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