婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
19 / 28

ルインⅠ

しおりを挟む
 僕はここカルリム王国の第二王子だ。第二王子と言えば聞こえはいいが、僕の母は平民出身で王妃というよりは手がついたから仕方なく王宮に迎え入れられたも同然であった。
 当然母への周囲からの嫉妬ややっかみはすごかった。大多数の貴族が娘を王家に入れようと思っていたし、貴族令嬢からすれば王家に嫁ぐことは一番の憧れだ。
 カルリム王国は王家や貴族がいることから分かるように、基本的には血統主義である。その中でも一番上に立つ国王の相手は当然名のある家から迎えられるべき、というのは当然の常識であった。
 そんな中、突然名もない平民の娘が選ばれたのだから嫉妬が凄まじくなるのも当然だ。

 それに、父上の正妻であった王妃様も母上のことはよく思っていなかったらしい。さすがに直接嫌がらせをするようなことはなかったが、常に冷たい目で見つめていたという。とはいえ、父上の浮気相手であることを考えるとそれも当然の反応だろう。

 母はそれらの心労に耐えきれず、僕が幼い時に体調を崩して倒れた。そして出身の村へと帰されたという。

 その後僕はあまり身分が高くない王家の家臣に預けられてひっそりと育てられた。母がそんな感じだったから当然僕に対する周囲の視線も酷かった。

 僕をいないもののように扱う兄上などはまだいい方で、正式な王妃から生まれた弟たちは僕を目の敵にしていた。平民の血が半分混ざっている奴が王族として存在していることが許せなかったのだろう。父上は一応配慮のつもりなのか、僕が出来るだけ他の兄弟と会わないよう王宮の隅の方で生活させた。
 そのため僕は王家の生まれで自分の家で暮らしているはずなのに、周囲に気を遣って出来るだけ目立たないように暮らさざるを得なかった。

 そんな僕の唯一の楽しみはこっそり街に出ておいしい物を食べたり遊んだりすることだった。街に出れば僕は誰にも気を遣わなくて済む。一度は明らかにカタギそうでない集団に混ざって怪しい煙草を吸ったこともある。
 もっとも、そういうことに楽しみを見出している自分はやはり平民の血が混ざっているのだな、と実感することもあったが。

 そんなことをしている時に出会ったのがエレナだった。最初は同族意識を抱いていたが、話を聞く限り彼女は明らかに僕よりもつらそうな家庭環境にいた。最初は自分と似た人と話すのが楽しいというだけだったはずなのに、気が付くと彼女と会うことが楽しみになっていた。

 そういう気持ちもあって、僕は一連の婚約破棄騒動を仕組んだ(もっとも、ほとんどは相手の自滅だが)という訳だ。おそらく僕の人生の中で主体的な意思で何かを決断したのはこれが最初だと思う。

 僕の隣で安らかな笑顔を浮かべているエレナを見て決意する。
 これまで王宮内では周囲に気を遣い、出来るだけ目立たないように生活してきたが、僕もエレナの隣にいて恥ずかしくない男にならなければ、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

処理中です...