婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
4 / 28

廃嫡

しおりを挟む
 それから数日後のことである。

「エレナ様、旦那様がお呼びでございます」

 突然、私は父上に呼び出された。マリーの口車に乗っかってしょっちゅう私に辛く当たる義母上と違い、父上は私には無関心を貫いていた。義母からすれば先妻の子である私は邪魔なのかもしれないが、父上からするとそういう感情すら湧かないのだろう。
 そんな父上から私が呼び出されるなど珍しいことである。もしかしていよいよ結婚だろうか、と私はかすかな期待を抱きながら家の居間に向かう。

 するとそこには父のウルス、オードリー義母上、妹のマリー、そして兄(母上が連れてきた方)のケリンと一族が勢ぞろいしている。いや、一人だけ、私の実の兄であるレイトだけがいなかった。
 また、執事や主だった家臣たちも控えている。やけに物々しい。
 この雰囲気だと私の結婚が決まったということではなさそうだ、と私は落胆する。

「よし、これで全員揃ったようだな」

 それを見て父上が告げる。兄上は母に似たのか病弱で臥せりがちであり、今もそれで家族会議に顔を出せないのだろうか。

「皆も知っている通り、これまで我が家の跡継ぎであったレイトは病弱だった。公爵というのは広大な領地を治める他、王国の政治にも関わらなければならない激務だ。残念だが今のレイトには無理だろう」

 父上は言葉とは裏腹に特に悲しんだ様子も見せずに言い放つ。
 それを聞いて私は愕然とした。敵だらけの我が家の中で、兄上は唯一私に味方してくれる人物と言っても過言ではない。今が辛くても、いつか兄上が跡を継げば家で普通に過ごせるようになる。私はそう思っていたのに。 

「そ、そんな!」

 が、私以外の家族や家臣たちは全く意外そうな雰囲気は見せなかった。

「なぜみんなそんなに平然としているの!? 長男なのに家督を継がせてもらえないなんて、おかしい!」

 が、私の言葉に義母上やマリーは刺すような視線で睨みつけてくる。
 家臣たちは何も話す気はなさそうで、最初に口を開いたのは父上だった。

「何も廃嫡するという訳ではない。体調が良くなるまで暫定的にケリンに家督継承権を移すというだけだ」
「はい、微力ながら謹んでお受けいたします」

 そう言ってケリンはそれ以上私の反論を許さない、とばかりに素早く頭を下げる。
 父上の言葉は一見妥当なものであるが、レイト兄上にろくな医者もついていない以上、体調が良くなることがないのは明白であった。どうせ父上は今の母上が連れてきたケリンを後継者にしたいだけだろう。私に嫌がらせをするだけならまだしも、まさかそのようなことまでするなんて。

「もういいです!」

 私はそう叫んで立ち上がり、部屋を飛び出した。
 去り際、こちらを見た母上が嘲笑するような笑みを浮かべているのが目に入った。もしケリンが跡を継げばこの家は本当に義母上に乗っ取られることになる。とはいえ、今の私にはどうすることも出来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...