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テレジア編
テレジアの反応
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「すごい、とてもおもしろかったわ!」
最終話まで書いた後、テレジアはわざわざ感想を言いにうちにまで来てくれた。よほど感動したのだろう、彼女の表情は紅潮している。
そんな彼女の表情を見て私まで感動してしまう。
「ありがとう」
「今回まさか最初あそこまで寡黙だったリューク様がここまで積極的になってくれるなんて思わなかったわ。最後リューク様が私を連れてお茶会に乗り込むところは鳥肌ものだったわ」
「そう言ってもらえると嬉しいけど……ただ、現実のリューク様がどう思っているのかは私には分からないからね?」
一応それだけ釘を刺しておく。一応これまでは小説のおかげで現実もうまくいったというパターンが続いたけど、そうじゃなかったら申し訳ないから。
私の言葉にテレジアは少し微妙な表情を見せる。
「そっか……そうだよね。確かに私も別にあんな過去はなかったし、これは小説だよね」
「そう言えば私は作品内ではテレジアさんが派手な格好をしない理由をこういうふうにしたけど、実際はどうなの?」
私の問いにテレジアは少し考えこむ。
それを聞いて私は少しまずいことを聞いてしまったかもしれない、と思い至る。
「もちろん言いたくなければ言わなくてもいいけど」
「ぼやかして言うと、一回攫われそうになったんだよね」
「……」
それを聞いて私は少し後悔した。作中でもまあまあ重い設定をつけた気がしたが、攫われそうになったという話を聞くと急に薄い設定に思えてくる。
しかも攫われそうになってから地味な恰好ばかりしているということは、その犯人はそういう目的だったということだろう。本人の中ではかなり重いトラウマになっているかもしれない。
「ごめん、もう昔のことだから、そんなに気にしないで! それに、イリスさんの小説を読んで元気が出てきたのは本当だから。現実では出来ないおしゃれを小説の中で実現出来たのは嬉しかった」
なるほど、エレノーラの時は小説のおかげで現実でも前向きになれた、と言っていたけど確かに本来小説というのはこういうものなのかもしれない。
「きっとリューク様も本心では私のことを思ってくださっているに違いないわ」
「そうだといいけど」
逆にテレジアにフォローさせてしまい、私は申し訳ない気持ちになる。
「ところで、この小説、他の人に読んでいただく訳にはいかない? もちろん作者は伏せて」
「え? どうして?」
「もちろん、いい作品と出会ったら他の人と感想を共有したいからよ。だって今まで読んできた恋愛小説って結構男女がいちゃいちゃするものばかりで、こういうパターンはすごい新鮮だったから! もちろんそういうのも悪くないけど、何て言うのかな、これを発見したっていう喜びを分かち合いたいというか。でも、イリスさんは小説を書いていることを隠してるのよね」
テレジアは早口で、興奮しながら口調で言う。
以前の私なら即座に否定していたが、今の私は少し考えてしまった。テレジアにそこまで褒められてその気になったというのも大きい。
それにもっとたくさんの人に読んでもらえば、もっと他の人の感想も分かるかもしれない。私が作者であることはあえて言わなければ分からないだろう。テレジアがどこかで買ってきた、とか適当に誤魔化せば何とかなるはずだ。
「ごめん、やっぱり知られたくないよね」
「いや、いいよ」
「え? いいの!?」
私が承諾すると途端にテレジアは目を輝かせる。
「うん。その代わり、作者を伏せて欲しいっていうのと、他の人に見せて感想を聞いたらそれを私にも教えて欲しい」
「もちろん!」
テレジアは頷く。
もしこれがきっかけで私が小説を書いていることがばれてしまえば。もしくはばれなかったとしても、人気が高くなれば。私の運命は変わるかもしれない。
だが、すでに私の運命は少しずつ変わり始めていたのである。
最終話まで書いた後、テレジアはわざわざ感想を言いにうちにまで来てくれた。よほど感動したのだろう、彼女の表情は紅潮している。
そんな彼女の表情を見て私まで感動してしまう。
「ありがとう」
「今回まさか最初あそこまで寡黙だったリューク様がここまで積極的になってくれるなんて思わなかったわ。最後リューク様が私を連れてお茶会に乗り込むところは鳥肌ものだったわ」
「そう言ってもらえると嬉しいけど……ただ、現実のリューク様がどう思っているのかは私には分からないからね?」
一応それだけ釘を刺しておく。一応これまでは小説のおかげで現実もうまくいったというパターンが続いたけど、そうじゃなかったら申し訳ないから。
私の言葉にテレジアは少し微妙な表情を見せる。
「そっか……そうだよね。確かに私も別にあんな過去はなかったし、これは小説だよね」
「そう言えば私は作品内ではテレジアさんが派手な格好をしない理由をこういうふうにしたけど、実際はどうなの?」
私の問いにテレジアは少し考えこむ。
それを聞いて私は少しまずいことを聞いてしまったかもしれない、と思い至る。
「もちろん言いたくなければ言わなくてもいいけど」
「ぼやかして言うと、一回攫われそうになったんだよね」
「……」
それを聞いて私は少し後悔した。作中でもまあまあ重い設定をつけた気がしたが、攫われそうになったという話を聞くと急に薄い設定に思えてくる。
しかも攫われそうになってから地味な恰好ばかりしているということは、その犯人はそういう目的だったということだろう。本人の中ではかなり重いトラウマになっているかもしれない。
「ごめん、もう昔のことだから、そんなに気にしないで! それに、イリスさんの小説を読んで元気が出てきたのは本当だから。現実では出来ないおしゃれを小説の中で実現出来たのは嬉しかった」
なるほど、エレノーラの時は小説のおかげで現実でも前向きになれた、と言っていたけど確かに本来小説というのはこういうものなのかもしれない。
「きっとリューク様も本心では私のことを思ってくださっているに違いないわ」
「そうだといいけど」
逆にテレジアにフォローさせてしまい、私は申し訳ない気持ちになる。
「ところで、この小説、他の人に読んでいただく訳にはいかない? もちろん作者は伏せて」
「え? どうして?」
「もちろん、いい作品と出会ったら他の人と感想を共有したいからよ。だって今まで読んできた恋愛小説って結構男女がいちゃいちゃするものばかりで、こういうパターンはすごい新鮮だったから! もちろんそういうのも悪くないけど、何て言うのかな、これを発見したっていう喜びを分かち合いたいというか。でも、イリスさんは小説を書いていることを隠してるのよね」
テレジアは早口で、興奮しながら口調で言う。
以前の私なら即座に否定していたが、今の私は少し考えてしまった。テレジアにそこまで褒められてその気になったというのも大きい。
それにもっとたくさんの人に読んでもらえば、もっと他の人の感想も分かるかもしれない。私が作者であることはあえて言わなければ分からないだろう。テレジアがどこかで買ってきた、とか適当に誤魔化せば何とかなるはずだ。
「ごめん、やっぱり知られたくないよね」
「いや、いいよ」
「え? いいの!?」
私が承諾すると途端にテレジアは目を輝かせる。
「うん。その代わり、作者を伏せて欲しいっていうのと、他の人に見せて感想を聞いたらそれを私にも教えて欲しい」
「もちろん!」
テレジアは頷く。
もしこれがきっかけで私が小説を書いていることがばれてしまえば。もしくはばれなかったとしても、人気が高くなれば。私の運命は変わるかもしれない。
だが、すでに私の運命は少しずつ変わり始めていたのである。
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