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テレジア編

テレジア編作中作(5)

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 部屋に入り私の姿を見た瞬間、はっとリュークが息をのむのが聞こえてきた。
 私から言葉を発するのも違う気がして、しばしの間私とリュークは無言で見つめ合う形になった。
 やがてリュークが遠慮がちに口を開く。

「本当に美しい」
「ありがとうございます、これもリューク様のおかげです」
「済まない、僕は口下手だから君の美しさを正確に表現することが出来ない。僕はこんなにも君に見とれているというのに、それを伝えるすべがないなんて」

 そして彼は落ち込んでしまう。そんな落ち込み方があるだろうか。
 私はリュークに慌てて駆け寄る。

「ちょっと、せっかく色々していただいたのにそんなことで落ち込まないでください!」
「そうだな、せっかく君が綺麗になったのに。ところでせっかくきれいになった以上、その姿を他の人に見せないともったいないと思わないか?」
「いえ、私はリューク様に見ていただければ十分ですが」

 が、意外なことにリュークは強情だった。

「そ、そうか。だが僕はどうしても見返したい相手がいるんだ」
「それはもしかして」

 リュークの見返したい、という言葉で私は相手が誰なのかぴんときた。

「あの三人だ」
「で、でも私は別に……」

 それを聞いて私は反射的に遠慮してしまう。出来ればもうあの三人とは顔を合わせたくもない。
 が、いつもは何も言わないリュークが今日に限っては強い口調で言った。

「君が気にしていなくても僕が気にしているんだ。ちょうど今日、あの三人は君をのけ者にしてお茶会をしているらしい。そこに行くぞ」
「え、そ、そんな……」

 私はそんな恐ろしいことをしたい訳ではないが、リュークは是非にと言って譲らなかった。私はなされるがままにリュークに手を引かれていく。

 そしてリュークに馬車に乗せられ、あの三人のうちの一人が暮らす屋敷に向かった。
 屋敷が見えて来ても私の気持ちは晴れない。

「あの、リューク様、本当にやるんですか?」
「もちろんだ。あの三人はいまだに君のことを何のとりえもない暗い女だと思っている。僕にはそれが許せないんだ」

 まさかあれほど無口だったリュークが内心ここまで熱い気持ちを私に抱いてくれていたとは。これまでの落差に私は驚くばかりだった。

「それにここで決着をつけておかないと、この先ずっと引きずることになるぞ」
「……分かりました、そこまで言っていただけけるのでしたら」

 確かに一度あの三人と決着をつけなければ私は今後ずっとトラウマを背負ったまま生きていかなければならないかもしれない。それなら、リュークが横についていてくれる今しかない。

 馬車から私たちはリュークに案内されて屋敷に入っていく。リュークの名前を出されるとあっさりと中に入ることが出来た。

 そしてリュークはつかつかと歩いていくと、とある部屋のドアをいきなり開ける。
 それまで中からは談笑のような声が聞こえていたのに、その音でいきなり周囲は静まり返った。
 中にいたのは例の三人。三人はいきなり現れたリューク、そしてその隣にいる私を見て凍り付く。が、一人が愛想笑いを浮かべて言った。

「これはこれはリューク様。いきなり何の用でしょうか?」
「その女性はどなたでしょう?」

 もう一人が尋ねる。どうも彼女らは私がテレジアだと気づいていないらしい。確かに私でも自分でなければ分からないだろう。
 するとリュークが私の方を向いて言う。

「自己紹介してあげてくれないか?」

「私はテレジア。忘れるなんてひどいわ、あんなに仲が良かったのに」

 私は嫌味をこめてそう言ってみる。すると彼女らの表情がすっと変わった。
 小さく、「嘘……」という声が漏れてくるが、声は紛れもなく私のものだ。それこそ疑いようもないほどに。

「い、一体何で……」
「君たちが僕の婚約者の悪口を言うから、一応それが見当違いであることを見せておこうと思ってね」

 リュークの言葉に、彼女たち三人は反論の言葉を失ってしまったようだ。
 これまで馬鹿にしていた相手が実は自分たちより美しく、しかも憧れのリュークの心を掴んでいる。その現実を突きつけられ、今更言葉もなかった。
 もっとも、今更何を言ってもこの状況が良くなることないだろうが。
 そんな三人を見てリュークは満足そうに笑う。

「さて、せっかくおしゃれした訳だし、僕たちはこれから一緒にディナーにでも行かないか?」
「はい、喜んで」

 最初からそういうデートがしたかったんだけど。私は照れ隠しにそう思いながら、リュークとともにその場を去っていくのだった。

 後に残った三人はついに何も言葉を発しなかった。
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