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テレジア編
広まる秘密
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「……まさか今回はこんな形でくるとは。一本とられたわ!」
私の部屋にやってきたテレジアは二回分の小説を読んで感激したように言う。
確かに、最初のリリアの時は狂った婚約者に誘拐されるという今思い返すとよく分からない内容だったし、次のエレノーラの時は婚約相手の過去を断ち切るという話だった。
しかし今回はリュークが自力で自分の殻を破り、テレジアの陰口を言う令嬢たちを一喝するという内容になっている。
良く言えば画期的だが、悪く言えば捻りすぎだと思っていたので反応が少し不安だった。
「どうだったかな? 正直言うと少し不安だったんだけど」
私が言うと、テレジアはすごい勢いで首を横に振る。
「いえいえ、大変おもしろかったわ! 最初のを読んだときはどうなることかと思ったけど、まさか普段物静かなリュークがそこまでしてくれるなんて。あのギャップが良かったわ」
「それなら良かった。あ、あとこれは小説であって完全なフィクションだから。私たちは誰の陰口も言ってないからね?」
一応私は念を押しておく。
「まあさすがにそれは分かってるわ。ただ、こういう人間関係ってリアルだからちょっとぞくっとしたところはあったけど」
「やっぱりそうなんだ」
私は苦笑する。私自身はあまり人付き合いが広いタイプではないからこれまで幸運にもこういうことに遭遇したことはなかった。
まあ、前世でのことを思い出す限り聖女時代は気づいてないだけで色々あったんだろうけど。
「でも、この後はどうなるのかしら。自分の殻を破ったリュークは無事思いを伝えてくれるのかな」
「それはまだ言えないから、楽しみにしていてね」
それから私たちはひとしきり小説の話で盛り上がる。
が、やがてテレジアがふと真顔になる。
「あの……実は私、謝らなければならないことがあって」
「え、何?」
急なテレジアの雰囲気の変化に私は少し怖くなる。もしかしてテレジアも裏ではリリアやエレノーラと私の悪口を言っていたとか?
いや、この三人に限ってそんなことはないはずだ。
「実は、この前私が話しちゃったメイドさんが、他の人にもイリスさんが小説を書いていること話しちゃったらしいの」
「え!?」
悪口を言われていなかったことにほっとしたのも束の間、これはこれで悪い事だった。
とはいえ、小説を書き始めたころに比べて、不可抗力で友達やドレイクたちに読まれていくにつれ、私は自分の小説が読まれることに対する抵抗がどんどん薄れていくのを感じていた。
もちろん私は今でも小説を読まれるのが恥ずかしいとは思うけど、それと同じくらい、もしくはそれ以上に小説を読んで喜んでもらいたい、という気持ちも芽生えてきている。
だから最初のころほど私はそのカミングアウトに衝撃を受けることはなくなっていた。
「まあ、広まっちゃったならもういいよ」
「本当にごめんなさい」
「ううん、それにどうせ他ルートでも広まってるっぽいし」
最初にリリアに知られてしまったときから、遅かれ早かれこのことはばれる運命だったのだろう。それに、聖女であることを隠し続ける以上、いずれ小説の方の秘密は世間に公開されることになる。
私の部屋にやってきたテレジアは二回分の小説を読んで感激したように言う。
確かに、最初のリリアの時は狂った婚約者に誘拐されるという今思い返すとよく分からない内容だったし、次のエレノーラの時は婚約相手の過去を断ち切るという話だった。
しかし今回はリュークが自力で自分の殻を破り、テレジアの陰口を言う令嬢たちを一喝するという内容になっている。
良く言えば画期的だが、悪く言えば捻りすぎだと思っていたので反応が少し不安だった。
「どうだったかな? 正直言うと少し不安だったんだけど」
私が言うと、テレジアはすごい勢いで首を横に振る。
「いえいえ、大変おもしろかったわ! 最初のを読んだときはどうなることかと思ったけど、まさか普段物静かなリュークがそこまでしてくれるなんて。あのギャップが良かったわ」
「それなら良かった。あ、あとこれは小説であって完全なフィクションだから。私たちは誰の陰口も言ってないからね?」
一応私は念を押しておく。
「まあさすがにそれは分かってるわ。ただ、こういう人間関係ってリアルだからちょっとぞくっとしたところはあったけど」
「やっぱりそうなんだ」
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まあ、前世でのことを思い出す限り聖女時代は気づいてないだけで色々あったんだろうけど。
「でも、この後はどうなるのかしら。自分の殻を破ったリュークは無事思いを伝えてくれるのかな」
「それはまだ言えないから、楽しみにしていてね」
それから私たちはひとしきり小説の話で盛り上がる。
が、やがてテレジアがふと真顔になる。
「あの……実は私、謝らなければならないことがあって」
「え、何?」
急なテレジアの雰囲気の変化に私は少し怖くなる。もしかしてテレジアも裏ではリリアやエレノーラと私の悪口を言っていたとか?
いや、この三人に限ってそんなことはないはずだ。
「実は、この前私が話しちゃったメイドさんが、他の人にもイリスさんが小説を書いていること話しちゃったらしいの」
「え!?」
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とはいえ、小説を書き始めたころに比べて、不可抗力で友達やドレイクたちに読まれていくにつれ、私は自分の小説が読まれることに対する抵抗がどんどん薄れていくのを感じていた。
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だから最初のころほど私はそのカミングアウトに衝撃を受けることはなくなっていた。
「まあ、広まっちゃったならもういいよ」
「本当にごめんなさい」
「ううん、それにどうせ他ルートでも広まってるっぽいし」
最初にリリアに知られてしまったときから、遅かれ早かれこのことはばれる運命だったのだろう。それに、聖女であることを隠し続ける以上、いずれ小説の方の秘密は世間に公開されることになる。
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