二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃

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テレジア編

聖騎士との邂逅

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「イリス様、聖騎士のドレイクという方がいらしていますが」
「嘘!?」

 ある日のこと。メイドにそんな声をかけられて私は背筋が凍り付いた。
 通常は治安維持や魔物討伐などを行う聖騎士であるが、最近はもっぱら聖女探しを本業としている。そして言うまでもなく私は聖女だ。

 もしや私の正体がばれた? もしくはばれてないまでも怪しいと思われたのだろうか?

 私は原因を考えてみるが、特にそれらしいことはなかったはずだ。相変わらず毎日の祈りは続けているが、偽装は完璧に成功し、恋愛小説を書いている時間だと思われている。
 ただ、えらい聖騎士や神官であれば魔法的な手段で聖女を特定することが出来てもおかしくない。

 どうしよう、まだばれてないといいけど。
 もしまだばれてないようであれば全力で誤魔化さなければ。

 とはいえ、聖女であることを証明するのは簡単であるが、聖女でないことを証明するのは難しい。聖なる百合を目の前に持って来られて咲かなければいいのかもしれないが、私が聖女である以上私の意志とは関係なく咲いてしまう可能性もある。
 百合を持ってこられる前に疑いを晴らすしかない。

「仕方ない、ここはやっぱり話術で誤魔化すしかないか」

 別に話術が得意な訳でもないが、私は心を決める。
 玄関に向かうと、そこには堂々とした体格に貫禄がある聖騎士が立っていた。鋭い眼光と短く刈り上げた髪が印象的だが、なかなか精悍で勇ましい風貌をしている。もし彼と戦うことになれば一睨みされるだけで脚がすくんでしまいそうだった。

「初めまして、私がイリス・ハイランダーです」
「我が名はドレイク。一応聖騎士団長を務めております」
「とりあえず中へどうぞ」

 さすがに追い返す訳にもいかないので私は応接室へ彼を迎え入れる。
 テーブルにつくと、メイドがお茶とお菓子を用意してくれた。

「さて、早速用件なのですが、聖騎士団では今聖女の捜索に全力を挙げておりまして。イリス殿は聖女に心当たりはありませんか?」
「いえ、全くありません」

 答えつつ、私は少し不審に思った。ドレイクの訊き方では私が聖女だと疑っているというよりは、とりあえず尋ねたという雰囲気である。

 ということはもしや私が聖女だとばれた訳ではないのか?
 では、だとしたら一体どんな用件で声をかけられたのか?
 私の中は疑問でいっぱいになる。

 が、ドレイクはそんな私の様子にはあまり注意を払わなかった。
 そして少し緊張した面持ちで切り出す。

「ところで、本題なのですがあなたは噂によると小説を書いているとか」

 え。
 まさか聖騎士団長に聖女であることよりも先にそちらがばれるとは思わなかった。
 全く予想していなかった事態に私はさすがに動揺してしまう。
 しかしまずは何でばれたのかを確かめなければ。

「あ、あの、その噂はどちらからでしょうか?」

 が、私の問いに今度はなぜかドレイクが動揺する。

「い、いや、ちょっと小耳にはさんだもので。そして私は最近文学に強い関心を抱いていましてな、はい」

 ドレイクが動揺している間に私は脳内をフル回転させる。ここで下手に小説を書いていることを否定すれば、部屋にこもっているのがばれた場合、聖女ではないかと思われてしまうかもしれない。
 ここはとりあえず小説を書いていることを認めるしかないか。

「実はそうなんですが……恥ずかしいので他人には隠しているのです」
「そ、そうでしたか。それは申し訳ない。しかし今度作品を見せていただくことは出来ませんか?」

 恋愛小説とは無縁そうなドレイクが意外とぐいぐいくるので私は困った。
 そこである可能性に思い至る。
 これはもしかして知らない振りをして、私が本当に小説を書いているのか疑っているのではないか? ここでもし小説を見せないと言えば、私の小説を書いていることを疑われ、私が聖女ではないかとの疑いを深めてしまうかもしれない。
 そう思った私は仕方なく頷くことにする。

「分かりました。しかしこのことは他言無用でございます」
「はい! 聖騎士団長の名にかけて他言いたしませぬ」

 ドレイクは断言する。
 が、そこで私は最近「他言無用で」と何回か言ってきたことを思い出す。やはり他言無用と言っていてもそのどこかからドレイクに秘密が漏れている以上、だめなのかもしれないと思ったが今更どうしようもない。

「それでは数日後、またお越しください」
「分かりました」

 こうして私の小説家ライフは思わぬ展開を迎えたのだった。

 そしてドレイクが帰っていった後、私はようやく気付く。彼は聖騎士団長という地位にさえついていなければ、イケメンで格好よく性格も真面目そうな、理想的な男性だったのではないかと。
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