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エレノーラ編
王都編 うなされる王子
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その日、アレクセイはとある夢を見た。
夢の中のアレクセイは現実によく似た城に住み、よく似た姿をしている。周りにはよく似た家臣が仕えている。しかし少しずつ現実と違うことがあった。
まず、お気に入りのメリアが宮廷魔術師に出世している。そして、アレクセイが知らないイリスという女が聖女に就任していた。他にも王宮に仕えている人などが少しずつ違うことはあるが、その辺は些細なことだった。
(ここはもしかして俺の理想通りになった願望の世界か?)
最初アレクセイはそう思った。聖女は見つかっているし、メリアも出世させることが出来た。おおむねアレクセイの望み通りになっている。
一つだけ不愉快なのはなぜかメリアではなくイリスが婚約者になっていたことだ。イリスはメリアと違ってアレクセイに媚びないし、見た目もそこまで可愛くない。
そこで、アレクセイは彼女を追い落とすための策謀をめぐらせる。憎いとまでは言わないが、やはり結婚するならメリアがいい。
ある日、アレクセイはイリスを呼びつけると武装した兵士に囲ませて叫ぶ。
「イリス・ハイランダー! お前は偽聖女である! お前とは婚約破棄の上、入牢を命ずる!」
「そんなことはありません! 私は本物の聖女です!」
「そうか。そこまで言うなら証明してみるがいい」
抗議するイリスに、アレクセイはメリアが持ってきた聖なる百合の偽物を差し出す。これはメリアが一年間かけて作り上げた偽の聖なる百合であった。その話を聞いたとき、メリアが自分と結婚するためにずっと研究してくれていたなんて、とアレクセイは胸が熱くなったものだ。
さすがのイリスもこれを偽物と見破ることが出来ず、当然花を咲かせることも出来ない。
困惑する彼女にアレクセイは告げる。
「見れば分かるだろうが百合は本物だ。偽物なのは君だということだよ、イリス」
「そんな……これは嘘です! 何かの間違えです!」
急に抗議を始めるイリス。
だが、夢の中のアレクセイは耳を貸さずに彼女を牢屋に放り込む。
そしてめでたくメリアとの婚約を決めたのだった。
「……夢か」
目が覚めたアレクセイは少し名残惜しくなる。夢の内容には何の不満もない。
しかしただの夢であったはずなのに、なぜかそれが本当にあったことかのような既視感を覚えた。それに、普段目が覚めると夢の内容は忘れてしまうアレクセイであるが、その夢だけはなぜか鮮明に覚えていた。
「もしかして今の夢と聖女の不在には関係があるのか? 俺が夢の中で聖女を追い出したから、聖女はいないのか? でもどうして……」
アレクセイは頭を抱えた。
今国全体が悩んでいる聖女不在問題がもしかしたら自分のせいかもしれないのだから。
しかし夢のことなど相談したところで信じてもらえる訳ないし、仮に信じられたとしても顰蹙を買うだけだろう。
「俺はどうしたらいいんだ」
とりあえずアレクセイは朝食をとろうとする。そしてパンを手に取った。
が、そこで今度は脳裏に牢の中で毒に苦しむイリスの表情が浮かんでくる。突然脳裏をよぎったイリスは、牢内で出されたパンに入っていた毒により苦しまされたようだ。
「うわあああああああっ!」
思わずアレクセイは悲鳴を上げてその場に尻餅をついてしまった。
(今のは何だ……何で夢の出来事なのに俺をこんなに苦しめるんだ!? というかこれは本当にただの夢なのか!?)
気が付くとアレクセイの動悸は早くなり、全身から嫌な汗が吹き出し、頭は痛むし熱も出ている。
それからはパンだけでなく夢の中のイリスと似た服装の女性、百合、地下室など夢を連想させるものを見るたびにアレクセイの脳裏を苦しむイリスの姿がよぎるようになっていった。
その日から、アレクセイは病と称して部屋に引きこもるようになった。
夢の中のアレクセイは現実によく似た城に住み、よく似た姿をしている。周りにはよく似た家臣が仕えている。しかし少しずつ現実と違うことがあった。
まず、お気に入りのメリアが宮廷魔術師に出世している。そして、アレクセイが知らないイリスという女が聖女に就任していた。他にも王宮に仕えている人などが少しずつ違うことはあるが、その辺は些細なことだった。
(ここはもしかして俺の理想通りになった願望の世界か?)
最初アレクセイはそう思った。聖女は見つかっているし、メリアも出世させることが出来た。おおむねアレクセイの望み通りになっている。
一つだけ不愉快なのはなぜかメリアではなくイリスが婚約者になっていたことだ。イリスはメリアと違ってアレクセイに媚びないし、見た目もそこまで可愛くない。
そこで、アレクセイは彼女を追い落とすための策謀をめぐらせる。憎いとまでは言わないが、やはり結婚するならメリアがいい。
ある日、アレクセイはイリスを呼びつけると武装した兵士に囲ませて叫ぶ。
「イリス・ハイランダー! お前は偽聖女である! お前とは婚約破棄の上、入牢を命ずる!」
「そんなことはありません! 私は本物の聖女です!」
「そうか。そこまで言うなら証明してみるがいい」
抗議するイリスに、アレクセイはメリアが持ってきた聖なる百合の偽物を差し出す。これはメリアが一年間かけて作り上げた偽の聖なる百合であった。その話を聞いたとき、メリアが自分と結婚するためにずっと研究してくれていたなんて、とアレクセイは胸が熱くなったものだ。
さすがのイリスもこれを偽物と見破ることが出来ず、当然花を咲かせることも出来ない。
困惑する彼女にアレクセイは告げる。
「見れば分かるだろうが百合は本物だ。偽物なのは君だということだよ、イリス」
「そんな……これは嘘です! 何かの間違えです!」
急に抗議を始めるイリス。
だが、夢の中のアレクセイは耳を貸さずに彼女を牢屋に放り込む。
そしてめでたくメリアとの婚約を決めたのだった。
「……夢か」
目が覚めたアレクセイは少し名残惜しくなる。夢の内容には何の不満もない。
しかしただの夢であったはずなのに、なぜかそれが本当にあったことかのような既視感を覚えた。それに、普段目が覚めると夢の内容は忘れてしまうアレクセイであるが、その夢だけはなぜか鮮明に覚えていた。
「もしかして今の夢と聖女の不在には関係があるのか? 俺が夢の中で聖女を追い出したから、聖女はいないのか? でもどうして……」
アレクセイは頭を抱えた。
今国全体が悩んでいる聖女不在問題がもしかしたら自分のせいかもしれないのだから。
しかし夢のことなど相談したところで信じてもらえる訳ないし、仮に信じられたとしても顰蹙を買うだけだろう。
「俺はどうしたらいいんだ」
とりあえずアレクセイは朝食をとろうとする。そしてパンを手に取った。
が、そこで今度は脳裏に牢の中で毒に苦しむイリスの表情が浮かんでくる。突然脳裏をよぎったイリスは、牢内で出されたパンに入っていた毒により苦しまされたようだ。
「うわあああああああっ!」
思わずアレクセイは悲鳴を上げてその場に尻餅をついてしまった。
(今のは何だ……何で夢の出来事なのに俺をこんなに苦しめるんだ!? というかこれは本当にただの夢なのか!?)
気が付くとアレクセイの動悸は早くなり、全身から嫌な汗が吹き出し、頭は痛むし熱も出ている。
それからはパンだけでなく夢の中のイリスと似た服装の女性、百合、地下室など夢を連想させるものを見るたびにアレクセイの脳裏を苦しむイリスの姿がよぎるようになっていった。
その日から、アレクセイは病と称して部屋に引きこもるようになった。
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