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エレノーラ編

エレノーラの頼み(4)

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「うっ、ぐすっ……サムエル殿、まさか私をそこまで愛していただけていたなんて」

 小説を読み終えたエレノーラは感動のあまり涙を流していた。
 私は自分で書いたものなのでそこまで感動しないので驚いてしまったが、考えてみればエレノーラが作中のエレノーラに感情移入して読めばそこまで感動してしまうのも分からなくはない。何かこんがらがってきたな。

「とても感動しました……素晴らしい作品ですわ」
「ありがとう、そこまで言ってもらえるなんて、私も書いた甲斐があるよ」
「これを読んで勇気をいただきました。私もただ嘆いているだけではいけませんわね」
「あの、勇気を得たのはいいけど、現実は小説と同じとは限らないと思うんだけど」

 女性恐怖症というのはあくまで私の想像だし、仮に当たっていたとしても本当にトラウマだったら努力だけで乗り越えられるかは分からない。仮に小説と同じことをしてもより症状が悪化する可能性すらある。

 そもそも私はサムエルのことをほとんど知らないので、本当にどこぞの女と不倫している可能性もある。エレノーラが何か行動に移れば不都合な事実が暴かれてしまうかもしれない。

 だが、エレノーラはすでに覚悟を決めた表情をしている。

「うまくいかないならそれはもう仕方ないですわ。ただ、それでも前に進まなければいけないのです。その結果、拒絶されたらそれは元からうまくいかない恋だったということですわ」
「なるほど。分かった、そこまでの覚悟があるなら私も応援する」

 まさか私が何となくの想像で書いた小説がこのような影響を及ぼすなどとは思わなかったが、そう言われては応援するしかない。
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