上 下
20 / 51
エレノーラ編

エレノーラの頼み(2)

しおりを挟む

「……まさか、サムエル殿にこのような過去があったなんて。にしても、イリスさんはどうしてこのことを知っていますの?」

 私が書いた第一章を読んだエレノーラは涙ぐみながら感想を言ってくれる。
 というか、目の前で感想を言われるのは恥ずかしいから郵便物と一緒に送り付けたはずなんだけど何でわざわざ私の目の前まで小説を持ってきて感動を言うんだ。
 しかし私のつたない文章を読んで感動してくれているエレノーラを見ているとそんな野暮なツッコミをするのは申し訳ない気分になってくる。
 というか、エレノーラはこの小説の内容を事実だと思っているのか。

「いや、知らないから。これはあくまで小説だって」
「そうですの……。でも臨場感があってまるで本当のことのようですわ。確かにサムエル殿は私のことを愛していない風ではありませんでしたし、納得してしまいましたわ」

 私の言葉にエレノーラは少し気落ちする。

 私はエレノーラとは親しいが、サムエルとはあまり会ったことがないので、サムエルがエレノーラに対して距離をとっている件の理由までは分からなかった。

「しかし一体ここからどうなるのでしょう? サムエル殿が女性恐怖症というのであればこの恋愛は実らないのでしょうか?」

 エレノーラは不安そうな表情で尋ねる。

「それはこれからの話の内容だから答えられないかな……」

 正確に言うと、まだ話を思いついていないだけなんだけど、それは秘密だ。まあ、小説である以上何らかのハッピーエンドにするつもりはあるけど。

 私が答えると、エレノーラははっと申し訳なさそうな表情になる。

「確かにそうですわ。失礼しました。では続きを待っていますわ」

 しかしここからどうにか二人の恋を実らせる方法を考えなければ。
 すると帰ろうとしていたエレノーラが再び腰を下ろして言う。

「ちなみにこのリセラというひどい女はどなたですか? いくら五歳も下だからといってサムエル殿を弄んだ挙句罵倒して捨てたというのは許せないですわ!」

 エレノーラはリセアに心底怒っているようだった。その表情は怒りの対象でない私から見ても少し怖い。
 私は少し申し訳なくなりつつ答える。

「ごめん、その人オリキャラだから実在しないんだ」
「……そうですか。そうですわね、一人で熱くなってしまって恥ずかしいですわ」

 エレノーラはそう言って頬を赤くした。
 とはいえ、そこまで感情移入してくれるのは書き手として少し嬉しいものがあった。

「サムエルの元にやってきたのも誰か気になりますし、先が楽しみです」

 そう言ってエレノーラはその日は帰っていくのだった。
 それを見て、楽しみにしてくれるのは嬉しいけどきちんとハードルを超えられるだろうか、と少し不安になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...