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エレノーラ編
エレノーラの頼み(2)
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「……まさか、サムエル殿にこのような過去があったなんて。にしても、イリスさんはどうしてこのことを知っていますの?」
私が書いた第一章を読んだエレノーラは涙ぐみながら感想を言ってくれる。
というか、目の前で感想を言われるのは恥ずかしいから郵便物と一緒に送り付けたはずなんだけど何でわざわざ私の目の前まで小説を持ってきて感動を言うんだ。
しかし私のつたない文章を読んで感動してくれているエレノーラを見ているとそんな野暮なツッコミをするのは申し訳ない気分になってくる。
というか、エレノーラはこの小説の内容を事実だと思っているのか。
「いや、知らないから。これはあくまで小説だって」
「そうですの……。でも臨場感があってまるで本当のことのようですわ。確かにサムエル殿は私のことを愛していない風ではありませんでしたし、納得してしまいましたわ」
私の言葉にエレノーラは少し気落ちする。
私はエレノーラとは親しいが、サムエルとはあまり会ったことがないので、サムエルがエレノーラに対して距離をとっている件の理由までは分からなかった。
「しかし一体ここからどうなるのでしょう? サムエル殿が女性恐怖症というのであればこの恋愛は実らないのでしょうか?」
エレノーラは不安そうな表情で尋ねる。
「それはこれからの話の内容だから答えられないかな……」
正確に言うと、まだ話を思いついていないだけなんだけど、それは秘密だ。まあ、小説である以上何らかのハッピーエンドにするつもりはあるけど。
私が答えると、エレノーラははっと申し訳なさそうな表情になる。
「確かにそうですわ。失礼しました。では続きを待っていますわ」
しかしここからどうにか二人の恋を実らせる方法を考えなければ。
すると帰ろうとしていたエレノーラが再び腰を下ろして言う。
「ちなみにこのリセラというひどい女はどなたですか? いくら五歳も下だからといってサムエル殿を弄んだ挙句罵倒して捨てたというのは許せないですわ!」
エレノーラはリセアに心底怒っているようだった。その表情は怒りの対象でない私から見ても少し怖い。
私は少し申し訳なくなりつつ答える。
「ごめん、その人オリキャラだから実在しないんだ」
「……そうですか。そうですわね、一人で熱くなってしまって恥ずかしいですわ」
エレノーラはそう言って頬を赤くした。
とはいえ、そこまで感情移入してくれるのは書き手として少し嬉しいものがあった。
「サムエルの元にやってきたのも誰か気になりますし、先が楽しみです」
そう言ってエレノーラはその日は帰っていくのだった。
それを見て、楽しみにしてくれるのは嬉しいけどきちんとハードルを超えられるだろうか、と少し不安になる。
「……まさか、サムエル殿にこのような過去があったなんて。にしても、イリスさんはどうしてこのことを知っていますの?」
私が書いた第一章を読んだエレノーラは涙ぐみながら感想を言ってくれる。
というか、目の前で感想を言われるのは恥ずかしいから郵便物と一緒に送り付けたはずなんだけど何でわざわざ私の目の前まで小説を持ってきて感動を言うんだ。
しかし私のつたない文章を読んで感動してくれているエレノーラを見ているとそんな野暮なツッコミをするのは申し訳ない気分になってくる。
というか、エレノーラはこの小説の内容を事実だと思っているのか。
「いや、知らないから。これはあくまで小説だって」
「そうですの……。でも臨場感があってまるで本当のことのようですわ。確かにサムエル殿は私のことを愛していない風ではありませんでしたし、納得してしまいましたわ」
私の言葉にエレノーラは少し気落ちする。
私はエレノーラとは親しいが、サムエルとはあまり会ったことがないので、サムエルがエレノーラに対して距離をとっている件の理由までは分からなかった。
「しかし一体ここからどうなるのでしょう? サムエル殿が女性恐怖症というのであればこの恋愛は実らないのでしょうか?」
エレノーラは不安そうな表情で尋ねる。
「それはこれからの話の内容だから答えられないかな……」
正確に言うと、まだ話を思いついていないだけなんだけど、それは秘密だ。まあ、小説である以上何らかのハッピーエンドにするつもりはあるけど。
私が答えると、エレノーラははっと申し訳なさそうな表情になる。
「確かにそうですわ。失礼しました。では続きを待っていますわ」
しかしここからどうにか二人の恋を実らせる方法を考えなければ。
すると帰ろうとしていたエレノーラが再び腰を下ろして言う。
「ちなみにこのリセラというひどい女はどなたですか? いくら五歳も下だからといってサムエル殿を弄んだ挙句罵倒して捨てたというのは許せないですわ!」
エレノーラはリセアに心底怒っているようだった。その表情は怒りの対象でない私から見ても少し怖い。
私は少し申し訳なくなりつつ答える。
「ごめん、その人オリキャラだから実在しないんだ」
「……そうですか。そうですわね、一人で熱くなってしまって恥ずかしいですわ」
エレノーラはそう言って頬を赤くした。
とはいえ、そこまで感情移入してくれるのは書き手として少し嬉しいものがあった。
「サムエルの元にやってきたのも誰か気になりますし、先が楽しみです」
そう言ってエレノーラはその日は帰っていくのだった。
それを見て、楽しみにしてくれるのは嬉しいけどきちんとハードルを超えられるだろうか、と少し不安になる。
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