9 / 51
リリア編
リリア編 作中作(1)
しおりを挟む
*
今日は久しぶりに婚約相手のオルトに屋敷に招待された。顔は目鼻立ちが整ったイケメンだし、会えば私のことを好きだとは言ってくれるし不満はないけど、何を考えているのか分からないところがある。
だからそんな彼の屋敷に招かれると聞いて、今度こそ愛の言葉を伝えてくれるのではないかと私は密かに胸を高鳴らせていた。
「よく来たね、リリア」
屋敷に着くとオルトが直々に出迎えてくれた。そして私の手をとると部屋へと案内してくれる。
「あの、ここは?」
今日は今まで案内された彼の私室や応接間、もしくはパーティーが開かれるホールではなく、なぜか離れにある建物に連れていかれる。こんな建物、前に来たときあっただろうか。
「君のために特別に作らせたんだ。きれいな庭だろう?」
言われてみれば離れの庭には色とりどりの花が植えられており、きれいだ。
「はい、ありがとうございます」
私は手を引かれるまま離れの室内に入る。そこは私好みの家具や調度品がしつらえられた私の部屋だった。しかも中には私の好きな本まで置いてある。
最初こそ無邪気に喜んでいた私だったが、だんだん疑念が芽生えてくる。いくら貴族でもこんな建物を私のために建ててくれるのは普通ではないのではないか。
「あの、時々しかこちらには来られないのにここまでしてもらうのは悪いです」
するとそれまでにこやかな笑みを浮かべていたオルトの表情が急変する。
「何を言っているんだい? 君は今日からここに住むんだ」
突然出てきた訳の分からない台詞に私は困惑する。
正直彼が何を言っているのか全く分からない。
「え? ……いえ、そんな話は聞いてないのですが」
「聞いたところによると君はこの前他家のご令息と親し気に話し込んでいたようじゃないか。婚約相手がいるというのに随分軽率じゃないかい?」
見るとオルトの目からは光が消えている。
ここで私はようやく身の危険を意識した。
今のオルトは普通ではない。
「ち、違うんです! あれはパーティーで話しかけられたから失礼にならない程度に……」
「うるさい!」
私が弁明しようとすると、突然オルトは大声を上げた。これまで聞いたこともないような威圧的な声に思わず私はびくりと体を震わせる。
「だめじゃないか、君は魅力的なんだから。ちゃんと自分の価値というものを正しく理解しないと。君があんな風に親し気に話したらそこら辺の男は勘違いしてしまうよ。だからそういう男を出さないために、僕は君をここに閉じ込めるんだ」
そう言ってオルトの目が怪しく光る。
閉じ込められるのは嫌なはずなのに、なぜかオルトの言葉に心のどこかで嬉しく思ってしまう私がいた。
「いえ、そんな、困ります……」
「何も困ることはないさ。君の相手は僕一人で十分だ。大丈夫、欲しいものがあれば何でも用意させるし、愛して欲しいときはいつでも僕が愛してあげるよ」
そう言って彼は乱暴に私の唇を奪った。私はなすすべもなく、身を任せるしかなかった。
*
「……なんか思ったより大変なことになってるな」
久しぶりに書いたせいか、なかなか大変な内容になってしまっている。ていうか、もはや名前以外元のオルトの要素は残っていない。そして性格もこれでは一途というより危ない人だ。
「でもまあ、これならリリアも失望してもう私にも頼まないでしょ」
出来が良くなかったのは少し残念だが、当初の予定通りではある。私はほっと息をついた。そして私は使いの者に文章を持たせてリリアの家に向かわせた。会った時に手渡ししたら絶対目の前で読みそうだから嫌だ。懸念だった小説を書き終えたその日は安らかな気持ちで祈りを捧げた。
今日は久しぶりに婚約相手のオルトに屋敷に招待された。顔は目鼻立ちが整ったイケメンだし、会えば私のことを好きだとは言ってくれるし不満はないけど、何を考えているのか分からないところがある。
だからそんな彼の屋敷に招かれると聞いて、今度こそ愛の言葉を伝えてくれるのではないかと私は密かに胸を高鳴らせていた。
「よく来たね、リリア」
屋敷に着くとオルトが直々に出迎えてくれた。そして私の手をとると部屋へと案内してくれる。
「あの、ここは?」
今日は今まで案内された彼の私室や応接間、もしくはパーティーが開かれるホールではなく、なぜか離れにある建物に連れていかれる。こんな建物、前に来たときあっただろうか。
「君のために特別に作らせたんだ。きれいな庭だろう?」
言われてみれば離れの庭には色とりどりの花が植えられており、きれいだ。
「はい、ありがとうございます」
私は手を引かれるまま離れの室内に入る。そこは私好みの家具や調度品がしつらえられた私の部屋だった。しかも中には私の好きな本まで置いてある。
最初こそ無邪気に喜んでいた私だったが、だんだん疑念が芽生えてくる。いくら貴族でもこんな建物を私のために建ててくれるのは普通ではないのではないか。
「あの、時々しかこちらには来られないのにここまでしてもらうのは悪いです」
するとそれまでにこやかな笑みを浮かべていたオルトの表情が急変する。
「何を言っているんだい? 君は今日からここに住むんだ」
突然出てきた訳の分からない台詞に私は困惑する。
正直彼が何を言っているのか全く分からない。
「え? ……いえ、そんな話は聞いてないのですが」
「聞いたところによると君はこの前他家のご令息と親し気に話し込んでいたようじゃないか。婚約相手がいるというのに随分軽率じゃないかい?」
見るとオルトの目からは光が消えている。
ここで私はようやく身の危険を意識した。
今のオルトは普通ではない。
「ち、違うんです! あれはパーティーで話しかけられたから失礼にならない程度に……」
「うるさい!」
私が弁明しようとすると、突然オルトは大声を上げた。これまで聞いたこともないような威圧的な声に思わず私はびくりと体を震わせる。
「だめじゃないか、君は魅力的なんだから。ちゃんと自分の価値というものを正しく理解しないと。君があんな風に親し気に話したらそこら辺の男は勘違いしてしまうよ。だからそういう男を出さないために、僕は君をここに閉じ込めるんだ」
そう言ってオルトの目が怪しく光る。
閉じ込められるのは嫌なはずなのに、なぜかオルトの言葉に心のどこかで嬉しく思ってしまう私がいた。
「いえ、そんな、困ります……」
「何も困ることはないさ。君の相手は僕一人で十分だ。大丈夫、欲しいものがあれば何でも用意させるし、愛して欲しいときはいつでも僕が愛してあげるよ」
そう言って彼は乱暴に私の唇を奪った。私はなすすべもなく、身を任せるしかなかった。
*
「……なんか思ったより大変なことになってるな」
久しぶりに書いたせいか、なかなか大変な内容になってしまっている。ていうか、もはや名前以外元のオルトの要素は残っていない。そして性格もこれでは一途というより危ない人だ。
「でもまあ、これならリリアも失望してもう私にも頼まないでしょ」
出来が良くなかったのは少し残念だが、当初の予定通りではある。私はほっと息をついた。そして私は使いの者に文章を持たせてリリアの家に向かわせた。会った時に手渡ししたら絶対目の前で読みそうだから嫌だ。懸念だった小説を書き終えたその日は安らかな気持ちで祈りを捧げた。
14
お気に入りに追加
2,060
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる