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リリア編
リリアの頼み(3)
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「イリスさん! これ素晴らしいです!」
その翌日のことである。リリアはまだ朝だというのに血相を変えて昨日送りつけた文章を握りしめ、ハイランダー家に突撃してきた。あまりの勢いに私は困惑した。これではまるで恋する乙女だ。
「そ、そうかな」
「そうですわ、まず良かったのは……」
大した出来でもなかったし、てっきりお礼の一つでも言われてそのままなかったことにされるのかと思っていたが、リリアは鼻息も荒く語り出そうとしていた。
しかしこのまま玄関で私の文章の良さを力説させる訳にはいかない。家族に聞かれるし、もし客人の耳にでも入れば恥ずかしすぎて死ぬ。
「分かった、分かったからとりあえず中入ってよ。あ、そうだ、最近どう?」
「私の最近の話なんてどうでもいいのです! それより……」
「お父様元気?」
「お父様は今どうでもいいです!」
私は廊下を駆け足に近い早歩きで自室に向かう。廊下で力説されるのも嫌なので私はどうにか話題をそらそうと思ったが、焦っているせいかしょうもない話題しか思いつかない。こんな時だけ無駄に広い屋敷が恨めしい。
ようやく自室に着いた私はリリアを押し込めるようにして部屋に入れると後ろ手にドアを閉めて一息ついた。これで他の人に聞かれることはないだろう。
「まず何といっても素晴らしいのはこの文章が私のためだけにあることです! 主人公の名前がリリアで男の名前がオルト。だからイメージが湧きやすいですし、まるで現実のオルト殿が私に情熱的な愛をささやいてくれているようで興奮してしまいます! 私一度でいいからあそこまで情熱的に迫られてみたいと思っておりましたが、婚約者がいる身で、しかも彼では二度と叶わないと思っておりました。しかしイリスさんが書いた文章の中ではまるで私自身が直接迫られているかのような体験が出来て、安全な方法で夢がかないました! そうこれはまるで理想の方法です、というのも……」
部屋に入った瞬間にものすごい早口でまくしたて始めるリリア。最初の方は真面目に聞いていたけど、途中から内容のループが増えてきたし、しかも話している内容全部合わせたら余裕で私が書いた文章よりも多くなるしで私は途中から聞き流すことにした。
「……という訳で是非続きや私たちのなれそめを書いて欲しいです! あ、出来ればオルト視点のシーンもお願いします!」
「……嘘でしょ?」
私は目の前が真っ暗になるのを感じた。こんなことってあるだろうか。自分で言うのもなんだけどあれは小説としての出来はいまいちだと思う。
しかし目の前のリリアは目をきらきらさせて私に頼んでいる。話を聞いていたところ内容が素晴らしいというよりは主人公がリリアで相手役がオルトなのが刺さっただけのようだが、確かにそんなピンポイントな物語を書けるのは私だけかもしれない。
「是非お願いします、さもないと……」
リリアの目が不敵に笑う。
「さもないと?」
「この作品を神作品として世に広めます!」
「書くから、書くからそれはやめてえええええええええええええええええ!」
「はい、ありがとうございます♪」
そう言ってリリアはにっこり笑う。おかしい、リリアはこんな娘じゃなかったはずなのに。続きが読みたすぎて人格が変わってしまっているのではないか。
こうして私は友達だと思っていた相手の卑劣な脅迫に膝を屈することになったのである。
色々要望はあったものの、とりあえずその日は続きを書くことにした。
その翌日のことである。リリアはまだ朝だというのに血相を変えて昨日送りつけた文章を握りしめ、ハイランダー家に突撃してきた。あまりの勢いに私は困惑した。これではまるで恋する乙女だ。
「そ、そうかな」
「そうですわ、まず良かったのは……」
大した出来でもなかったし、てっきりお礼の一つでも言われてそのままなかったことにされるのかと思っていたが、リリアは鼻息も荒く語り出そうとしていた。
しかしこのまま玄関で私の文章の良さを力説させる訳にはいかない。家族に聞かれるし、もし客人の耳にでも入れば恥ずかしすぎて死ぬ。
「分かった、分かったからとりあえず中入ってよ。あ、そうだ、最近どう?」
「私の最近の話なんてどうでもいいのです! それより……」
「お父様元気?」
「お父様は今どうでもいいです!」
私は廊下を駆け足に近い早歩きで自室に向かう。廊下で力説されるのも嫌なので私はどうにか話題をそらそうと思ったが、焦っているせいかしょうもない話題しか思いつかない。こんな時だけ無駄に広い屋敷が恨めしい。
ようやく自室に着いた私はリリアを押し込めるようにして部屋に入れると後ろ手にドアを閉めて一息ついた。これで他の人に聞かれることはないだろう。
「まず何といっても素晴らしいのはこの文章が私のためだけにあることです! 主人公の名前がリリアで男の名前がオルト。だからイメージが湧きやすいですし、まるで現実のオルト殿が私に情熱的な愛をささやいてくれているようで興奮してしまいます! 私一度でいいからあそこまで情熱的に迫られてみたいと思っておりましたが、婚約者がいる身で、しかも彼では二度と叶わないと思っておりました。しかしイリスさんが書いた文章の中ではまるで私自身が直接迫られているかのような体験が出来て、安全な方法で夢がかないました! そうこれはまるで理想の方法です、というのも……」
部屋に入った瞬間にものすごい早口でまくしたて始めるリリア。最初の方は真面目に聞いていたけど、途中から内容のループが増えてきたし、しかも話している内容全部合わせたら余裕で私が書いた文章よりも多くなるしで私は途中から聞き流すことにした。
「……という訳で是非続きや私たちのなれそめを書いて欲しいです! あ、出来ればオルト視点のシーンもお願いします!」
「……嘘でしょ?」
私は目の前が真っ暗になるのを感じた。こんなことってあるだろうか。自分で言うのもなんだけどあれは小説としての出来はいまいちだと思う。
しかし目の前のリリアは目をきらきらさせて私に頼んでいる。話を聞いていたところ内容が素晴らしいというよりは主人公がリリアで相手役がオルトなのが刺さっただけのようだが、確かにそんなピンポイントな物語を書けるのは私だけかもしれない。
「是非お願いします、さもないと……」
リリアの目が不敵に笑う。
「さもないと?」
「この作品を神作品として世に広めます!」
「書くから、書くからそれはやめてえええええええええええええええええ!」
「はい、ありがとうございます♪」
そう言ってリリアはにっこり笑う。おかしい、リリアはこんな娘じゃなかったはずなのに。続きが読みたすぎて人格が変わってしまっているのではないか。
こうして私は友達だと思っていた相手の卑劣な脅迫に膝を屈することになったのである。
色々要望はあったものの、とりあえずその日は続きを書くことにした。
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