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序章
友達と日常
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私はアリシアに手伝ってもらってドレスに着替え、予定されていた友人令嬢たちとのお茶会に出かける。そしてお茶会の席で他愛のない雑談(どうでもいいが、雑談の内容も記憶と全く一緒だった)に花を咲かせながら私はどうするかを考えていた。
とりあえず聖女に名乗り出るのはやめよう。もちろん名乗り出て事件を防ぐことが出来る可能性もゼロではないが、結局どういう陰謀なのか分からないまま死んでしまったので戦うのは危険過ぎる。
そもそも聖女は別に王宮で祈りを捧げなければならないという訳ではおそらくない。国からすれば聖女が病気になったり、勝手に祈りをやめたり、もしくは悪い奴に狙われたりしたら困るので王宮に呼んでいるというだけである。
もちろんそれに応じれば衣食住は保障されるし、貴族であれば一族も栄達する。王子との婚約も本来は非常にありがたいことであった。あのまま結婚していればしがない男爵であるハイランダー家も子爵ぐらいにはなれたかもしれない。
が、それも名乗り出て殺されるというなら話は変わってくる。
とはいえ、祈らないと国に魔物が入ってきたり不作になったりするから自室でひっそり祈りだけは捧げよう。ただ、家族にも祈っていることはばれないようにしないといけない。一周目の話をしても信じてもらえないだろうし、私が聖女だと分かれば国のため、家のために名乗り出てしまうだろう。
「……聞いてます、イリスさん?」
どうも自分のことを考える方に夢中になりすぎてしまっていたらしい。
友達の男爵令嬢のリリア・スカーレットが口を尖らせながらこちらに呼びかけてくる。彼女は私と同じ地味な容姿で、趣味は物語や劇の鑑賞というちょっとオタクっぽい娘だ。最近家の都合で婚約させられており、婚約相手であるオルトの愚痴を漏らしていた。
とはいえ彼女の話はすでに一回聞いているから聞いていなくても話は合わせられる。
「聞いてる聞いてる、オルト殿が違う女の子に声をかけたって話でしょ?」
「いや……それはまだ言ってませんが」
リリアはぽかんとした顔をする。
やばい、この話は二周目ではまだしていなかったか。早速ボロを出しそうになってしまったので残りの時間は私は雑談に集中することにする。
「私の話も聞いて欲しいですわ」
次に口を開いたのはエレノーラだ。彼女は私たちの中では一番顔が美形で、ドレスもいつも派手なものを選んでいる。そしておそらく一番モテる。
「えー、サムエルさんはすごいいい人そうなのにですか?」
リリアが口を尖らせる。サムエルというのはエレノーラの婚約者の男爵で、イケメンで性格も紳士的と評判がいい。さらに家に仕える家臣たちにも無闇に居丈高になることなく、丁寧な接し方をするとも言われている。聞いて回った訳ではないけど、おそらく男爵位の令嬢たちの中でトップの人気ではないか。
「それはそうなのですが……あのお方は五歳のころから婚約しているというのに未だに手の一つも握ってくれませんの」
「え“」
思わず私は聞き返してしまう。私の中では婚約したらキスの一つや二つぐらいはしているのが当然だったのに、いまだ手すら握ってこないとは。
恋人ではなく幼なじみとしてしか見れないというパターンだろうか。
「きっと私のことを大事に思ってくれているのでしょうが……傷つきますわ」
「確かにそれはそれで嫌ですね」
先ほどは口を尖らせていたリリアもこれには同意した。
「この間も“君のことは僕が一生守る”と言ってくださったのに何もなしで……困ったものですわ」
「あ、のろけ話はやめてください」
一瞬にしてリリアの表情が変わる。よほど他人がいい相手と婚約していることに嫉妬しているのだろう。他のいくらそれ以上に進んでくれないとはいえ、他の女子に声をかけるよりはよっぽどましだ。
「テレジアさんは何かありませんの?」
エレノーラは今度はテレジアに会話を向ける。前髪を少し長めに伸ばして目元が隠れており、さらに眼鏡をかけているというかなり目立たない外見である。
前に本人に言ってみたところ、その恰好が一番落ち着くらしい。
そんなテレジアはこの中で唯一子爵家の出だ。ただ、子爵家の中では領地も狭く地位も低い家のため、また年齢が近いということもあって私たちと仲がいい。この三人に私を加えた四人が年齢と家柄が近くて比較的仲がいいグループである。
テレジアの相手はリュークという貴族だ。凛々しい容貌で武勇にも優れているが、武門の家にありがちな荒々しいふるまいではなく、寡黙でクールな雰囲気と評判であった。サムエルと違って万人受けする訳ではないが、一部で根強い人気を誇ると聞く。
「実はあの方……私に全然言葉をかけてくれないの。クールというよりは本当は私に興味がないんじゃないかって」
「それは私より酷いですわ」
エレノーラも驚く。私でさえアレクセイと会話ぐらいはしたことあるのに。
こうして話を聞いていると、私以外全員婚約者がいるのでどうしても疎外感を覚えてしまう。みんな政略婚約だから羨ましいかと言われると婚約自体はしたくないんだけど、それでもその輪に入れないのは少し寂しい。
とはいえ、優しくて武勇にも優れてクールで時々愛をささやいてくれてたまにはキスもしてくれる。そんな理想の男はなかなかいないらしい。そんな男がいるとしても物語の中ぐらいだろう、と私はぼんやり考えるのだった。
とりあえず聖女に名乗り出るのはやめよう。もちろん名乗り出て事件を防ぐことが出来る可能性もゼロではないが、結局どういう陰謀なのか分からないまま死んでしまったので戦うのは危険過ぎる。
そもそも聖女は別に王宮で祈りを捧げなければならないという訳ではおそらくない。国からすれば聖女が病気になったり、勝手に祈りをやめたり、もしくは悪い奴に狙われたりしたら困るので王宮に呼んでいるというだけである。
もちろんそれに応じれば衣食住は保障されるし、貴族であれば一族も栄達する。王子との婚約も本来は非常にありがたいことであった。あのまま結婚していればしがない男爵であるハイランダー家も子爵ぐらいにはなれたかもしれない。
が、それも名乗り出て殺されるというなら話は変わってくる。
とはいえ、祈らないと国に魔物が入ってきたり不作になったりするから自室でひっそり祈りだけは捧げよう。ただ、家族にも祈っていることはばれないようにしないといけない。一周目の話をしても信じてもらえないだろうし、私が聖女だと分かれば国のため、家のために名乗り出てしまうだろう。
「……聞いてます、イリスさん?」
どうも自分のことを考える方に夢中になりすぎてしまっていたらしい。
友達の男爵令嬢のリリア・スカーレットが口を尖らせながらこちらに呼びかけてくる。彼女は私と同じ地味な容姿で、趣味は物語や劇の鑑賞というちょっとオタクっぽい娘だ。最近家の都合で婚約させられており、婚約相手であるオルトの愚痴を漏らしていた。
とはいえ彼女の話はすでに一回聞いているから聞いていなくても話は合わせられる。
「聞いてる聞いてる、オルト殿が違う女の子に声をかけたって話でしょ?」
「いや……それはまだ言ってませんが」
リリアはぽかんとした顔をする。
やばい、この話は二周目ではまだしていなかったか。早速ボロを出しそうになってしまったので残りの時間は私は雑談に集中することにする。
「私の話も聞いて欲しいですわ」
次に口を開いたのはエレノーラだ。彼女は私たちの中では一番顔が美形で、ドレスもいつも派手なものを選んでいる。そしておそらく一番モテる。
「えー、サムエルさんはすごいいい人そうなのにですか?」
リリアが口を尖らせる。サムエルというのはエレノーラの婚約者の男爵で、イケメンで性格も紳士的と評判がいい。さらに家に仕える家臣たちにも無闇に居丈高になることなく、丁寧な接し方をするとも言われている。聞いて回った訳ではないけど、おそらく男爵位の令嬢たちの中でトップの人気ではないか。
「それはそうなのですが……あのお方は五歳のころから婚約しているというのに未だに手の一つも握ってくれませんの」
「え“」
思わず私は聞き返してしまう。私の中では婚約したらキスの一つや二つぐらいはしているのが当然だったのに、いまだ手すら握ってこないとは。
恋人ではなく幼なじみとしてしか見れないというパターンだろうか。
「きっと私のことを大事に思ってくれているのでしょうが……傷つきますわ」
「確かにそれはそれで嫌ですね」
先ほどは口を尖らせていたリリアもこれには同意した。
「この間も“君のことは僕が一生守る”と言ってくださったのに何もなしで……困ったものですわ」
「あ、のろけ話はやめてください」
一瞬にしてリリアの表情が変わる。よほど他人がいい相手と婚約していることに嫉妬しているのだろう。他のいくらそれ以上に進んでくれないとはいえ、他の女子に声をかけるよりはよっぽどましだ。
「テレジアさんは何かありませんの?」
エレノーラは今度はテレジアに会話を向ける。前髪を少し長めに伸ばして目元が隠れており、さらに眼鏡をかけているというかなり目立たない外見である。
前に本人に言ってみたところ、その恰好が一番落ち着くらしい。
そんなテレジアはこの中で唯一子爵家の出だ。ただ、子爵家の中では領地も狭く地位も低い家のため、また年齢が近いということもあって私たちと仲がいい。この三人に私を加えた四人が年齢と家柄が近くて比較的仲がいいグループである。
テレジアの相手はリュークという貴族だ。凛々しい容貌で武勇にも優れているが、武門の家にありがちな荒々しいふるまいではなく、寡黙でクールな雰囲気と評判であった。サムエルと違って万人受けする訳ではないが、一部で根強い人気を誇ると聞く。
「実はあの方……私に全然言葉をかけてくれないの。クールというよりは本当は私に興味がないんじゃないかって」
「それは私より酷いですわ」
エレノーラも驚く。私でさえアレクセイと会話ぐらいはしたことあるのに。
こうして話を聞いていると、私以外全員婚約者がいるのでどうしても疎外感を覚えてしまう。みんな政略婚約だから羨ましいかと言われると婚約自体はしたくないんだけど、それでもその輪に入れないのは少し寂しい。
とはいえ、優しくて武勇にも優れてクールで時々愛をささやいてくれてたまにはキスもしてくれる。そんな理想の男はなかなかいないらしい。そんな男がいるとしても物語の中ぐらいだろう、と私はぼんやり考えるのだった。
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