聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

穏やかな学園生活

　その日の昼休みのこと。

「お昼一緒に食べよう？」

　最近いつもお昼を一緒に食べていたサーシャが私の席に向かって歩いて来る。
　サーシャと一緒に昼食を食べることが日常の一幕のようになってしまっていた私だったが、残念ながら今日は、というか今日からは先約があった。

「ごめんサーシャ、私クラインと食べるから」
「ああそうだった、仲直りしたんだっけ」

　サーシャが少し申し訳なさそうに、そして同時に寂しそうに言う。

　先週仲直りして以来学園でも私は再びクラインと一緒にいることが増えたし、今朝はクラインと一緒に教室に入って来たのでほとんどの生徒は私が仲直りしたことを知っているだろう。

「ありがとう。クラインに本音を言った後、多分サーシャがいなければ私もっと不安になるか落ち込んでしまっていたと思う」
「そう？　私はむしろカレンと今までよりも仲良くなれて嬉しかったからちょっと残念かも、なんてね」
「ううん、これからも放課後とか一緒に遊びに行こうよ」
「いいの！？」
「クラインだって男友達と体動かしたい日だってあるだろうし」

　そう言って彼の方を見ると、ちょうど彼もリーアムら数人の男子と何かをしゃべっていた。

「でもいいな、シスコンが治ったらクラインは理想の恋人でしょう？」
「まあそれは……そうかも」

　確かにクラインに感じていた唯一にして最大の不満は解消されてしまったので否定出来ない。

「もう、のろけちゃって。私もいい婚約者見つからないかな？」
「そう言えばサーシャは婚約者とかまだ決まらないの？」
「うん、うちは姉妹も多いから上がつっかえているんだと思う。その分自由時間が多いと思ったんだけど、相手がいないんじゃね」

　そう言って彼女は肩をすくめてみせる。

「そうなんだ。でもサーシャもいい娘だからきっといい人に会えるよ」
「そうかな？　ありがとう」

　そう言って私はクラインの元へ向かう。

　すると私の姿を見て、クラインと話していた男子の一人がおどけて言う。

「お、クライン、お姫様が来たぞ」
「お熱いね～」
「おい、そういう風に言うなよ」
「それじゃあ俺たちお邪魔虫は退散するか」

　クラインは少し顔を赤くして抗議するものの、男子たちは笑いながら去っていく。クラインはそれを苦笑して見送り、その場に残ったのはリーアムだけだった。彼は私を見てほっとしたように言う。

「すっかりうまくいったようだな。今じゃ前より仲良しに見える」
「ありがとう、リーアムがいなかったら私もっとどうしていいか分からなかったかもしれない」

　彼がいなければ私はもっと限界まで我慢して、後戻りできないぐらい感情を爆発させてしまっていたかもしれない。それに恐らく私の見ていないところでもクラインに色々言ってくれていたのだろうと思う。

「僕からも礼を言うよ。リーアムのおかげで僕は何が間違っているか気づくことが出来た」

　急に二人にお礼を言われたリーアムは気恥ずかしそうに頭をかく。

「おいおいやめてくれよ、熱々カップルの両方からお礼を言われるなんて」
「おい、お前までそういうこと言うのか！？」
「ああ、それじゃ邪魔者は退散するぜ！」

　リーアムは芝居がかった口調で言うと、その場を離れていく。もしかしたら彼も急にお礼を言われて恥ずかしくなったのかもしれない。

　こうしてその場には私とクラインの二人が取り残されたのだった。
　私たちは顔を見合わせる。

「……それじゃ、行こうか」
「ああ、そうだな」

　こうして私たちはカフェテリアに向かうのだった。