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クラインの気持ち
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服のお店を出た私たちはクラインが予約してくれたというレストランへと歩いていく。
ちょうど夕方時ということもあって街は仕事から帰って来た人たちでにぎわっていて、人通りの多い通りを歩いていると、私はクラインとはぐれそうになる。
するとクラインはそっと私の手を掴んでくれた。私のあまり大きくない手はクラインの少し大きくしてごつごつした手に包まれる。彼の手には妙な安心感があった。
「クライン……」
「は、はぐれるといけないからな」
クラインは少し照れたように言う。
「ありがとう」
私がお礼を言うと彼はほっとしたように頷く。
そして私たちは手を繋いだまま大通りを出て、少し閑静な高級なお店が並ぶエリアへ向かう。そこは私たちのような貴族を除くと裕福な商人や、記念日に奮発したと思われる平民しか道を歩いておらず、人通りは急激に少なくなった。
そんな中を歩き、クラインは小高い丘の上にある見晴らしのいいレストランへと向かった。
そのレストランは店の外にはきれいな庭が広がっており、周りが暗くなったためかロウソクが灯されており、幻想的な光に包まれていた。
「わあ、きれい」
「そう言ってくれて良かった。今日はどこに連れていこうか悩んだから喜んでくれて良かった」
私たちが中に入ると、事前に予約していたため店員がすぐに庭の一角に案内してくれる。他の席とは少し離れており、完全に二人の世界に入ってしまったかのようだ。
そこからは王城を始め、王都を一望することが出来た。
ちょうど王都の街並みにも灯りが灯り始め、きれいな景色が広がる。まだ少し明るいが、完全に日がくれればきれいな夜景になるだろう。
私たちは運ばれてくる料理を食べたり、他愛のない話をしたりしながら景色の変化を眺めた。
夕食をあらかた食べ終えたところでクラインが少し真面目そうな表情に変わる。
「こんな時に他の人の話をするのは悪いが、どうしても聞いて欲しいんだ」
「うん」
他の人、というのはレイラのことだろう。
私は少し唐突に感じたが、もしかするとクラインはずっと話すタイミングを窺っていたのかもしれない。
「レイラは昔から病弱だったんだ。最初は僕以外に両親とかメイドとか色んな人が面倒を見ていたんだが、僕が看病するとなぜか具合が良さそうだったんだ。それから彼女の看病は少しずつ僕が担当することが増えていった。そして気が付くと、彼女はブラコンになってしまっていたんだ」
「そうだったんだ」
クラインが静かな、でも真面目なトーンで話すので私も静かに聞き入る。
「そんな調子だから彼女はずっと同年代の友達が出来なかった。そして友達が出来ないとどんどん引っ込み思案になっていくし、少しでも出遅れるとどんどん周囲に馴染みづらくなっていくだろう?」
「うん」
私はクラインや、他にも話せる友達がいたからそうは思わなかったけど、その立場だったらそうなったかもしれない。
「でも学園に入れば彼女にも自然に友達が出来ると思って、それまでは甘やかしてしまっていたんだ。そしてそれが過ぎた結果、彼女は僕に依存してしまって、学園でも孤立していった。でもそれは僕にも責任がある。それで僕はついついレイラに構い過ぎてしまっていたんだ」
「そうだったんだ」
とはいえ、私はなぜクラインが急にこんな話を始めたのか、少し疑問に思った。私としては過去のクラインの行為は水に流すつもりでいたのに自分から言い訳を始められると少し微妙な気持ちになってしまう。
そんな私の疑問を察したのか、クラインは少しもどかしそうに言葉を探した後、言う。
「だから何が言いたいのかと言うと、別に僕はレイラのことは全く女として見ていた訳ではないってことで、異性として見ているのはカレンだけだってことを伝えたかったんだ!」
「ありがとう」
なるほど、それが伝えたくてクラインはわざわざこんな話をしたのか、と納得する。と同時に私はクラインのレイラに対する気持ちが分かって安堵した。
話し終えたクラインは私の反応をうかがうようにこちらを見る。
「悪いね、ムードを壊すような話をしてしまって。でも今朝もレイラが体調を崩して気づいたんだ、これからは彼女を突き放すことも必要だって。もちろん僕にしか出来ないことがあれば僕が助けるけど、今日も彼女の看病はメイドに任せてきた。だからこれからはレイラに少し厳しくするけど、そういうことだと思って欲しい」
「分かった」
なるほど、それで今日も集合の時は時間ぎりぎりだったのか、と思い出して納得した。
その話を聞き終えると、それ以上私からは何も言うことはない。ただレイラが自立してくれることを祈るばかりだ。
話し終えてすっきりしたのか、クラインは少しだけ表情を緩ませる。
そこへちょうどよくデザートのチーズケーキが運ばれてきたので私たちはそちらに気持ちを向けたのだった。
ちょうど夕方時ということもあって街は仕事から帰って来た人たちでにぎわっていて、人通りの多い通りを歩いていると、私はクラインとはぐれそうになる。
するとクラインはそっと私の手を掴んでくれた。私のあまり大きくない手はクラインの少し大きくしてごつごつした手に包まれる。彼の手には妙な安心感があった。
「クライン……」
「は、はぐれるといけないからな」
クラインは少し照れたように言う。
「ありがとう」
私がお礼を言うと彼はほっとしたように頷く。
そして私たちは手を繋いだまま大通りを出て、少し閑静な高級なお店が並ぶエリアへ向かう。そこは私たちのような貴族を除くと裕福な商人や、記念日に奮発したと思われる平民しか道を歩いておらず、人通りは急激に少なくなった。
そんな中を歩き、クラインは小高い丘の上にある見晴らしのいいレストランへと向かった。
そのレストランは店の外にはきれいな庭が広がっており、周りが暗くなったためかロウソクが灯されており、幻想的な光に包まれていた。
「わあ、きれい」
「そう言ってくれて良かった。今日はどこに連れていこうか悩んだから喜んでくれて良かった」
私たちが中に入ると、事前に予約していたため店員がすぐに庭の一角に案内してくれる。他の席とは少し離れており、完全に二人の世界に入ってしまったかのようだ。
そこからは王城を始め、王都を一望することが出来た。
ちょうど王都の街並みにも灯りが灯り始め、きれいな景色が広がる。まだ少し明るいが、完全に日がくれればきれいな夜景になるだろう。
私たちは運ばれてくる料理を食べたり、他愛のない話をしたりしながら景色の変化を眺めた。
夕食をあらかた食べ終えたところでクラインが少し真面目そうな表情に変わる。
「こんな時に他の人の話をするのは悪いが、どうしても聞いて欲しいんだ」
「うん」
他の人、というのはレイラのことだろう。
私は少し唐突に感じたが、もしかするとクラインはずっと話すタイミングを窺っていたのかもしれない。
「レイラは昔から病弱だったんだ。最初は僕以外に両親とかメイドとか色んな人が面倒を見ていたんだが、僕が看病するとなぜか具合が良さそうだったんだ。それから彼女の看病は少しずつ僕が担当することが増えていった。そして気が付くと、彼女はブラコンになってしまっていたんだ」
「そうだったんだ」
クラインが静かな、でも真面目なトーンで話すので私も静かに聞き入る。
「そんな調子だから彼女はずっと同年代の友達が出来なかった。そして友達が出来ないとどんどん引っ込み思案になっていくし、少しでも出遅れるとどんどん周囲に馴染みづらくなっていくだろう?」
「うん」
私はクラインや、他にも話せる友達がいたからそうは思わなかったけど、その立場だったらそうなったかもしれない。
「でも学園に入れば彼女にも自然に友達が出来ると思って、それまでは甘やかしてしまっていたんだ。そしてそれが過ぎた結果、彼女は僕に依存してしまって、学園でも孤立していった。でもそれは僕にも責任がある。それで僕はついついレイラに構い過ぎてしまっていたんだ」
「そうだったんだ」
とはいえ、私はなぜクラインが急にこんな話を始めたのか、少し疑問に思った。私としては過去のクラインの行為は水に流すつもりでいたのに自分から言い訳を始められると少し微妙な気持ちになってしまう。
そんな私の疑問を察したのか、クラインは少しもどかしそうに言葉を探した後、言う。
「だから何が言いたいのかと言うと、別に僕はレイラのことは全く女として見ていた訳ではないってことで、異性として見ているのはカレンだけだってことを伝えたかったんだ!」
「ありがとう」
なるほど、それが伝えたくてクラインはわざわざこんな話をしたのか、と納得する。と同時に私はクラインのレイラに対する気持ちが分かって安堵した。
話し終えたクラインは私の反応をうかがうようにこちらを見る。
「悪いね、ムードを壊すような話をしてしまって。でも今朝もレイラが体調を崩して気づいたんだ、これからは彼女を突き放すことも必要だって。もちろん僕にしか出来ないことがあれば僕が助けるけど、今日も彼女の看病はメイドに任せてきた。だからこれからはレイラに少し厳しくするけど、そういうことだと思って欲しい」
「分かった」
なるほど、それで今日も集合の時は時間ぎりぎりだったのか、と思い出して納得した。
その話を聞き終えると、それ以上私からは何も言うことはない。ただレイラが自立してくれることを祈るばかりだ。
話し終えてすっきりしたのか、クラインは少しだけ表情を緩ませる。
そこへちょうどよくデザートのチーズケーキが運ばれてきたので私たちはそちらに気持ちを向けたのだった。
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