上 下
17 / 21

【レイラ視点】 叱ってくれる人

しおりを挟む
「大丈夫か!?」
「あれ、ここは?」

 大声で呼びかけられて私は目を覚ましました。
 はっと体を起こして私は周囲を見渡します。どうもここは少し高級な喫茶店のようで、私はソファに寝かされていたようです。

 そして私のすぐ傍には先ほど私に絡んできたクラスメイトが心配そうな表情で立っています。
 彼は私が目を覚ましたのを見てほっとした様子です。

「良かった……急に倒れたから心配してたんだ」
「あれ、私いつの間に意識を……一体何が!?」
「よく分からないが、体調悪いのに無理して歩き回ったから倒れたんじゃないのか? そんなに兄上のことが気になるのか?」

 彼の言葉に私はお兄様があの女と一緒に歩いていたことを思い出します。
 こうしてはいられない、早くお兄様を追わなくては。
 そして反射的に立ち上がろうとしましたが、彼に押さえつけられるようにして止められます。

「何で止めるのですか!」
「一体なぜ君は兄上にそこまで執着するんだ? 兄妹というのはいつか離れ離れになるなんて分かり切ったことだろう!?」

 彼の言葉を聞くと頭に響いて頭痛がします。

「あんたなんかに何が分かるというのですか!」

 気が付くと私はそう叫んでいました。
 思ったよりも大きな声が出ていたせいか、彼はぎょっとするし、周りの客もぎょっとした表情でこちらを振り向きます。
 が、すぐに彼は険しい表情で言います。

「君が兄上以外の誰にも心を開かないのにそんなの分かる訳ないだろ。だが、君と兄上がいつか離れ離れになることだけは分かる。君がしていることは単なる現実逃避だ。この際だからはっきり言ってやる。君が兄上を自分に縛り付けるのは兄上の一人立ちを遅らせることは出来ても、阻止することは出来ない!」
「そ、そんな……」

 彼の言葉に私は思わず呆然としてしまいます。
 そんな、私がどれだけ頼んでもお兄様がいつか出ていってしまうなんて……。私にはお兄様しかいないというのに。
 そんな未来を想像しただけで目の前が真っ暗になります。

 そして彼はそんな私の反応を見てはあっとため息をつきました。

「どうせ君が兄上しかいないと思っているのは君が、兄上以外の世界を全く見ようとしないからだ」
「そ、そんな、あなたなんかに何が分かると言うのですか!?」
「どうせ俺の名前すら知らないんだろう?」
「それはそうですが……」

 確かに彼はよく私に絡んでくる、というぐらいの認識でした。しかしもしかすると、私が全く意識していなかっただけで実は私に大きな好意を向けてくれていたのかもしれません。

「俺はアルトだ。兄上しかいない、などと言う前にもう少し周りを見渡してみたらどうだ? 兄上だって君のことを家族だから面倒みているだけで、いつかは恋人と一緒になりたいと思っているはずだ! それも君は薄々分かっているんじゃないのか? それでも兄上しかいないと思うなら、そうなったらもはや俺にも止められない」
「……確かにそうかもしれません」

 彼の言葉に私は不覚にもなるほどと思ってしまいました。
 思えば生まれつき病弱で私は家族以外の人と会うことがほぼありませんでした。そのせいか、学園に入ってからも無意識のうちに周囲に向かって壁を作っていたのでしょう。私はクラスメイトの名前すらもほとんど覚えていませんでした。

 そして家族は家族で、今思えば私に対して壁を作っていたように思います。もちろん私を愛してくれていたとは思うのですが、どこか腫れ物に触るような、大事にしすぎるようなそんな扱いでした。お兄様が私の言うことを何でも聞いてくれたのも、真の愛情というよりは配慮に近いものがあったのかもしれません。
 おそらくお兄様は私を愛していたというよりは私が病弱な妹だから何でも言うことを聞いてくれていたに過ぎないのでしょう。
 私は目の前の彼、アルトにまっすぐな気持ちを向けられてようやくそれに気づくのでした。

「あなた、いえ、アルトはなぜ私にそこまで言ってくれるのですか?」
「ここまでしてまだ気づかれていなかったのか……お前のことが好きだからに決まっているだろ」

 そう言って彼はため息をつきました。

 なるほど、彼は私が好きだからこそここまでまっすぐに気持ちをぶつけてくれたのでしょう。そう考えて私は妙に納得してしまったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

処理中です...