聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃

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【女友達視点】 狼狽するクライン

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「サーシャ、一緒にご飯食べない?」
「え、クラインさんはいいの?」

 久しぶりにカレンに昼食に誘われた私、サーシャは驚いた。私はカレンと同じクラスで、彼女とは気が合ったのでよく話す仲になった。

 しかしカレンの隣にはいつも婚約者のクラインがいたし、カレンも傍から見ても分かるほどクラインにべたぼれしていたので、二人の世界に割って入るのも申し訳なくなってしまい、カレントそれ以上の仲に進んでいくことはあまりなかった。
 最初は私もクラインのことをいい男だし機会があればお近づきになりたいと思ったものの、二人の相思相愛っぷりに次第にそんな気持ちもどこかに行ってしまった。

 昼食はいつもクラインと一緒に食べているので邪魔しては悪い、と私は他の女友達と食べていた。楽しそうにご飯を食べている二人を見るたびに自分もそんな婚約者が欲しい、と思ったものだ。
 そんな彼女が珍しくクラインを差し置いて自分を昼食に誘ってくる。

「うん、今日はサーシャと食べたい気分なの」
「いつもクラインばかりなのにどういう風の吹き回し? まあいいか」

 とはいえ他人に誘われて悪い気はしない。
 私はすぐに頷いた。

「せっかくだしカフェテリアに行こうよ」

 そう言ってカレンは私を連れてカフェテリアに行く。彼女は屋敷で作ってもらった豪華なお弁当を、私はカフェでスパゲティを頼んで食べる。

「それでね、最近……が手芸に嵌まっていてね、いつも私に……て言ってくるんだけど、」
「へえ、そうなんだ」

 何というか今日のカレンはやけに口数が多い。いつもはどちらかというと聞き役に徹することが多い印象なのに、今日は自分から積極的に雑談を振ってくる。

 しかも、いつもは彼女が口を開くと必ずと言っていいほどクラインの話題が出て来て、私は「惚気?」などとおちょくったのだが、今日はクラインのクの字も出ない。

 そこで私は相槌を打ちながらふと察してしまう。

「あの、もしかしてカレン、クラインと喧嘩した?」
「え、い、いや、別に、そんなことはないけど!?」

 私の言葉にカレンはおもしろいほど分かりやすい反応をする。

 なるほど、そういうことか。これまでずっと仲睦まじい二人だったから想像もしなかったけど、確かに一年以上仲良くしていれば喧嘩の一つや二つしても不自然ではない。

「まあいいんじゃない? それにこんな時でもないと、カレンは私と昼ごはん食べてくれないし」
「え、あ、それはごめん」

 急に申し訳なさそうにするカレン。確かに私は冗談っぽくこういうことが言える人間だけど彼女は変に真面目なところがあるから鬱憤を溜めてしまうところがあるのかもしれない。

「いや、別に全然気にしてないからいいよ。でももし愚痴があるなら聞くけど」
「でもそういうのってあまり良くないんじゃないかな?」

 確かに他人の悪口を言うのはあまり良くないことだけど、カレンの場合はため込み過ぎる方が心配だ。

「カレンはそういうの全然言わないし、たまにはいいんじゃない?」
「じゃあ……」

 そう言って彼女は遠慮がちにクラインの愚痴を語りだす。
 が、最初は遠慮がちだったが、次第に彼女の口調は熱を帯びてくる。傍目には仲がいい二人だったが、カレンの話を聞くと確かにクラインのしたことは酷い。それでも仲良く見えていたのはカレンの我慢のおかげだったのだろう。

 これは相当溜まっているな、と思いながら聞いているとふとカフェテリアの隅で不審な挙動をしている人影を見つける。

 クラインだ。

 彼は身を隠しながらちらちらとこちらを窺っている。喧嘩したカレンがどうしているのかが気になっているのだろう。

 カレンの話も合わせて考えると、本当に彼はカレンを愛しており、レイラを優先することを悪いとは思わずにやっていたようだ。それを悪いと思っていなかっただけで、カレンへの愛情に嘘はなかったのだろう。

「……ごめん、ちょっとお手洗い」

 それに気づいた私は少々強引に席を立ち、聞き耳を立てているクラインの方へ歩いていく。
 彼は私に気づくと一瞬ぎょっとしたような表情になった。

「大丈夫、多分カレンは話すのに夢中で気づいてないと思う」
「そうか、なあ、やはりカレンは怒っているだろうか?」

 これまでクラスではいつも優雅な微笑みを浮かべたイケメンというイメージがあったクラインが今は必死で私に婚約者の機嫌を尋ねているというのは少しおかしかった。
 とはいえこの件について私はクラインに味方してやるつもりは全くなかった。

「私はカレンの味方だから何も言えません。言いたいことがあれば本人に直接言った方がいいのと、さすがにそれ続けてるとばれるよ」
「う……」

 そう言って彼はうなだれたままその場を離れていく。
 それを見て私は何事もなかった振りをしてカレンの愚痴を聞きに戻るのだった。
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