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【リーアム視点】 クラインの思い違い

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「リーアム、放課後ちょっと相談に乗ってくれないか?」
「クラインが相談なんて珍しいな」

 少し疲れた様子の友人に俺は驚いた振りをしながら答える。
 俺はカレンに相談を受けてから、学園では彼女に注意を払っていたためクラインに本音をぶつけた場面も遠くから見守っていたし、それでクラインがダメージを受けているのも知っていた。

 もっとも、俺も彼女がまさかあそこまで堂々とクラインに物を言うとは思っていなかったが。
 カレンとクラインはいくら仲がいい婚約者とは言っても、お互い貴族の生まれ同士である。だから両想いとは言っても、普通の恋人とは違ってどこか壁があったのだと思う。
 クラインがカレンに優しくするのは元々の性格が優しいだけでなくガスター公爵家の名を背負って学園生活を送っているからというのはあるだろうし、カレンがクラインに文句を言ってこなかったのは、彼女がクラインを愛しているからというだけでなく、貴族令嬢として慎み深くあれという教育を受けてきたこともあるだろう。

 そのため、そんな彼女がクラインに対してあそこまで本心をさらけ出したというのは俺には驚きだったし、同時によほど彼女はクラインのことを愛しているのだろう、と思った。
 一方のクラインも日ごろの優雅な立ち居振る舞いが嘘のように憔悴しきった様子を見せている。

「分かった。それならバスケットコートでも行くか」
「ああ」

 学園には授業で使う球技場があるが、放課後は空いていれば自由に使うことが出来る。女子ならば悩み事の相談はおしゃれなカフェでするのかもしれないが、俺はこういうところで体を動かしながらする方が好きだった。
 俺たちは校庭の隅にあるバスケットゴールのところへやってくると、クラインにボールを投げて渡す。

「ならクラインから来い」
「……分かった」

 そう言って彼はドリブルを始める。

「これまでカレンは僕のことを愛してくれていて、不満など一度も漏らしたことはなかったのに、今日は急に僕に向かって『レイラと自分どっちが好きなんだ』などと困らせるようなことを言ってきたんだ」
「言われていたな」

 そう言って彼はゴールに向かって進んでくるが、落ち込んでいるせいか動きにキレがなく、あっさり俺に進路を阻まれる。

「何か心当たりでもあるのか?」
「実はこの前デートの約束をしていたんだが、朝に突然レイラが体調を崩していけなくなったんだ。でもレイラが病弱で、僕がついていてやらないといけないというのはカレンにも言ってあるし、彼女も分かってくれていたはずなんだ。それなのにどうして急に」
「クライン」

 そう言って俺は彼のボールを奪い取る。
 いつもならそう簡単にはいかないのに、今日はやけにあっさりと奪うことが出来た。

「な、何だ?」
「相手が分かってくれている、というのと納得している、というのは別問題だと思う。例えばもしクラインが家のために好きでもない相手と婚約させられたら、言葉では『分かった』と言うけど別にその相手のことを好きにはならないだろう?」
「それはそうだが……でもカレンはずっと優しくて」

 クラインは動揺したが、それでも納得いかない、という風に言い返してくる。

「クライン、優しいというのは別に心の作りが俺たちと違うということじゃない。彼女はお前に優しかったかもしれないが、それは彼女が何をされても心が痛まないということではないんだ」
「そ、そうなのか!?」

 驚きのあまりクラインの動きが止まる。俺はその隙に彼を抜いてボールをゴールに放り込んだ。が、クラインはそんな俺の動きに全く反応しない。

 あまりに当然のことを、と思ったが確かにカレンは人並み以上に出来た娘だから他人とは違う、と思わせてしまったのかもしれない。

「お前は彼女に本心を見せられてどう思ったか? 面倒な女とでも思ったか?」
「いや、そんなことはない! 俺は今でもカレンを愛している!」

 急にクラインの語気が強くなる。
 それを聞いて俺は苦笑した。

「その気持ちがあれば十分だ。ただクライン、お前のシスコンは同性の俺から見ても少し度が過ぎている。それは治した方がいい」
「そんな……」

 再び彼の表情が青くなる。

「気づいていなかったのか? 少なくとも、よっぽどの重病じゃなければ他人と約束があるときに彼女の元に向かうな」
「だが、それだとレイラは……」
「心配なのは分からなくもないが、お前のその行動がレイラの自立を阻んでいると思わないか? それに、お前がそうしている限りレイラを助けてくれる人は現れないぞ?」
「なるほど」

 それを聞いてクラインは考え込む。

「とはいえ、カレンへの好意がなくなっていないと聞いて安心した。とりあえず一日二日は気持ちの整理をして、それで今度こそちゃんと愛を伝えるんだ」
「大丈夫だろうか? 振られることはないだろうか?」
「それは大丈夫だ。カレンはカレンでお前のことが好きだからな」
「そうか……それは確かに申し訳ないことをしてしまった」

 そう言ってクラインは肩を落とす。
 ようやく彼は自分が彼女をどうして傷つけてしまったのかを理解したらしい。何というか、世話が焼ける二人だ、と思うのだった。

「よし、理由が分かったところで今度はちゃんとやってくれよ?」

 そう言って俺は彼にボールを渡す。

「分かった。話を聞いてくれてありがとう」

 こうしてクラインは、今度はもう少し力の入った様子でドリブルを始めるのだった。
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