10 / 21
【リーアム視点】 クラインの思い違い
しおりを挟む
「リーアム、放課後ちょっと相談に乗ってくれないか?」
「クラインが相談なんて珍しいな」
少し疲れた様子の友人に俺は驚いた振りをしながら答える。
俺はカレンに相談を受けてから、学園では彼女に注意を払っていたためクラインに本音をぶつけた場面も遠くから見守っていたし、それでクラインがダメージを受けているのも知っていた。
もっとも、俺も彼女がまさかあそこまで堂々とクラインに物を言うとは思っていなかったが。
カレンとクラインはいくら仲がいい婚約者とは言っても、お互い貴族の生まれ同士である。だから両想いとは言っても、普通の恋人とは違ってどこか壁があったのだと思う。
クラインがカレンに優しくするのは元々の性格が優しいだけでなくガスター公爵家の名を背負って学園生活を送っているからというのはあるだろうし、カレンがクラインに文句を言ってこなかったのは、彼女がクラインを愛しているからというだけでなく、貴族令嬢として慎み深くあれという教育を受けてきたこともあるだろう。
そのため、そんな彼女がクラインに対してあそこまで本心をさらけ出したというのは俺には驚きだったし、同時によほど彼女はクラインのことを愛しているのだろう、と思った。
一方のクラインも日ごろの優雅な立ち居振る舞いが嘘のように憔悴しきった様子を見せている。
「分かった。それならバスケットコートでも行くか」
「ああ」
学園には授業で使う球技場があるが、放課後は空いていれば自由に使うことが出来る。女子ならば悩み事の相談はおしゃれなカフェでするのかもしれないが、俺はこういうところで体を動かしながらする方が好きだった。
俺たちは校庭の隅にあるバスケットゴールのところへやってくると、クラインにボールを投げて渡す。
「ならクラインから来い」
「……分かった」
そう言って彼はドリブルを始める。
「これまでカレンは僕のことを愛してくれていて、不満など一度も漏らしたことはなかったのに、今日は急に僕に向かって『レイラと自分どっちが好きなんだ』などと困らせるようなことを言ってきたんだ」
「言われていたな」
そう言って彼はゴールに向かって進んでくるが、落ち込んでいるせいか動きにキレがなく、あっさり俺に進路を阻まれる。
「何か心当たりでもあるのか?」
「実はこの前デートの約束をしていたんだが、朝に突然レイラが体調を崩していけなくなったんだ。でもレイラが病弱で、僕がついていてやらないといけないというのはカレンにも言ってあるし、彼女も分かってくれていたはずなんだ。それなのにどうして急に」
「クライン」
そう言って俺は彼のボールを奪い取る。
いつもならそう簡単にはいかないのに、今日はやけにあっさりと奪うことが出来た。
「な、何だ?」
「相手が分かってくれている、というのと納得している、というのは別問題だと思う。例えばもしクラインが家のために好きでもない相手と婚約させられたら、言葉では『分かった』と言うけど別にその相手のことを好きにはならないだろう?」
「それはそうだが……でもカレンはずっと優しくて」
クラインは動揺したが、それでも納得いかない、という風に言い返してくる。
「クライン、優しいというのは別に心の作りが俺たちと違うということじゃない。彼女はお前に優しかったかもしれないが、それは彼女が何をされても心が痛まないということではないんだ」
「そ、そうなのか!?」
驚きのあまりクラインの動きが止まる。俺はその隙に彼を抜いてボールをゴールに放り込んだ。が、クラインはそんな俺の動きに全く反応しない。
あまりに当然のことを、と思ったが確かにカレンは人並み以上に出来た娘だから他人とは違う、と思わせてしまったのかもしれない。
「お前は彼女に本心を見せられてどう思ったか? 面倒な女とでも思ったか?」
「いや、そんなことはない! 俺は今でもカレンを愛している!」
急にクラインの語気が強くなる。
それを聞いて俺は苦笑した。
「その気持ちがあれば十分だ。ただクライン、お前のシスコンは同性の俺から見ても少し度が過ぎている。それは治した方がいい」
「そんな……」
再び彼の表情が青くなる。
「気づいていなかったのか? 少なくとも、よっぽどの重病じゃなければ他人と約束があるときに彼女の元に向かうな」
「だが、それだとレイラは……」
「心配なのは分からなくもないが、お前のその行動がレイラの自立を阻んでいると思わないか? それに、お前がそうしている限りレイラを助けてくれる人は現れないぞ?」
「なるほど」
それを聞いてクラインは考え込む。
「とはいえ、カレンへの好意がなくなっていないと聞いて安心した。とりあえず一日二日は気持ちの整理をして、それで今度こそちゃんと愛を伝えるんだ」
「大丈夫だろうか? 振られることはないだろうか?」
「それは大丈夫だ。カレンはカレンでお前のことが好きだからな」
「そうか……それは確かに申し訳ないことをしてしまった」
そう言ってクラインは肩を落とす。
ようやく彼は自分が彼女をどうして傷つけてしまったのかを理解したらしい。何というか、世話が焼ける二人だ、と思うのだった。
「よし、理由が分かったところで今度はちゃんとやってくれよ?」
そう言って俺は彼にボールを渡す。
「分かった。話を聞いてくれてありがとう」
こうしてクラインは、今度はもう少し力の入った様子でドリブルを始めるのだった。
「クラインが相談なんて珍しいな」
少し疲れた様子の友人に俺は驚いた振りをしながら答える。
俺はカレンに相談を受けてから、学園では彼女に注意を払っていたためクラインに本音をぶつけた場面も遠くから見守っていたし、それでクラインがダメージを受けているのも知っていた。
もっとも、俺も彼女がまさかあそこまで堂々とクラインに物を言うとは思っていなかったが。
カレンとクラインはいくら仲がいい婚約者とは言っても、お互い貴族の生まれ同士である。だから両想いとは言っても、普通の恋人とは違ってどこか壁があったのだと思う。
クラインがカレンに優しくするのは元々の性格が優しいだけでなくガスター公爵家の名を背負って学園生活を送っているからというのはあるだろうし、カレンがクラインに文句を言ってこなかったのは、彼女がクラインを愛しているからというだけでなく、貴族令嬢として慎み深くあれという教育を受けてきたこともあるだろう。
そのため、そんな彼女がクラインに対してあそこまで本心をさらけ出したというのは俺には驚きだったし、同時によほど彼女はクラインのことを愛しているのだろう、と思った。
一方のクラインも日ごろの優雅な立ち居振る舞いが嘘のように憔悴しきった様子を見せている。
「分かった。それならバスケットコートでも行くか」
「ああ」
学園には授業で使う球技場があるが、放課後は空いていれば自由に使うことが出来る。女子ならば悩み事の相談はおしゃれなカフェでするのかもしれないが、俺はこういうところで体を動かしながらする方が好きだった。
俺たちは校庭の隅にあるバスケットゴールのところへやってくると、クラインにボールを投げて渡す。
「ならクラインから来い」
「……分かった」
そう言って彼はドリブルを始める。
「これまでカレンは僕のことを愛してくれていて、不満など一度も漏らしたことはなかったのに、今日は急に僕に向かって『レイラと自分どっちが好きなんだ』などと困らせるようなことを言ってきたんだ」
「言われていたな」
そう言って彼はゴールに向かって進んでくるが、落ち込んでいるせいか動きにキレがなく、あっさり俺に進路を阻まれる。
「何か心当たりでもあるのか?」
「実はこの前デートの約束をしていたんだが、朝に突然レイラが体調を崩していけなくなったんだ。でもレイラが病弱で、僕がついていてやらないといけないというのはカレンにも言ってあるし、彼女も分かってくれていたはずなんだ。それなのにどうして急に」
「クライン」
そう言って俺は彼のボールを奪い取る。
いつもならそう簡単にはいかないのに、今日はやけにあっさりと奪うことが出来た。
「な、何だ?」
「相手が分かってくれている、というのと納得している、というのは別問題だと思う。例えばもしクラインが家のために好きでもない相手と婚約させられたら、言葉では『分かった』と言うけど別にその相手のことを好きにはならないだろう?」
「それはそうだが……でもカレンはずっと優しくて」
クラインは動揺したが、それでも納得いかない、という風に言い返してくる。
「クライン、優しいというのは別に心の作りが俺たちと違うということじゃない。彼女はお前に優しかったかもしれないが、それは彼女が何をされても心が痛まないということではないんだ」
「そ、そうなのか!?」
驚きのあまりクラインの動きが止まる。俺はその隙に彼を抜いてボールをゴールに放り込んだ。が、クラインはそんな俺の動きに全く反応しない。
あまりに当然のことを、と思ったが確かにカレンは人並み以上に出来た娘だから他人とは違う、と思わせてしまったのかもしれない。
「お前は彼女に本心を見せられてどう思ったか? 面倒な女とでも思ったか?」
「いや、そんなことはない! 俺は今でもカレンを愛している!」
急にクラインの語気が強くなる。
それを聞いて俺は苦笑した。
「その気持ちがあれば十分だ。ただクライン、お前のシスコンは同性の俺から見ても少し度が過ぎている。それは治した方がいい」
「そんな……」
再び彼の表情が青くなる。
「気づいていなかったのか? 少なくとも、よっぽどの重病じゃなければ他人と約束があるときに彼女の元に向かうな」
「だが、それだとレイラは……」
「心配なのは分からなくもないが、お前のその行動がレイラの自立を阻んでいると思わないか? それに、お前がそうしている限りレイラを助けてくれる人は現れないぞ?」
「なるほど」
それを聞いてクラインは考え込む。
「とはいえ、カレンへの好意がなくなっていないと聞いて安心した。とりあえず一日二日は気持ちの整理をして、それで今度こそちゃんと愛を伝えるんだ」
「大丈夫だろうか? 振られることはないだろうか?」
「それは大丈夫だ。カレンはカレンでお前のことが好きだからな」
「そうか……それは確かに申し訳ないことをしてしまった」
そう言ってクラインは肩を落とす。
ようやく彼は自分が彼女をどうして傷つけてしまったのかを理解したらしい。何というか、世話が焼ける二人だ、と思うのだった。
「よし、理由が分かったところで今度はちゃんとやってくれよ?」
そう言って俺は彼にボールを渡す。
「分かった。話を聞いてくれてありがとう」
こうしてクラインは、今度はもう少し力の入った様子でドリブルを始めるのだった。
32
お気に入りに追加
3,327
あなたにおすすめの小説
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
ご愛妾様は今日も無口。
ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」
今日もアロイス陛下が懇願している。
「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」
「ご愛妾様?」
「……セレスティーヌ様」
名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。
彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。
軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。
後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。
死にたくないから止めてくれ!
「……セレスティーヌは何と?」
「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」
ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。
違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです!
国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。
設定緩めのご都合主義です。
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
【完結】初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる