上 下
7 / 21

本音

しおりを挟む
 翌日の休日を挟み、いよいよクラインの約束すっぽかしの件以来初めて私は学園に登校することになった。
 私が教室に向かって歩いていくと、すでに教室の前ではクラインが強張った表情で待ち構えている。

 その様子を見て私はそんなに気にしていてくれたんだ、と一瞬浮かれてしまったがすぐに気を引き締める。

 思い返してみると、これまでも彼はレイラの件で私に何か迷惑が掛かったとき、いつも丁寧にお詫びをしてくれた。だが、確かにお詫びはするが実際に彼の行動は変わるどころかむしろどんどん悪化している。クラインの態度を見る限り本当に申し訳ないと思ってはいるのだろうが、だからといって自分の優先順位を変えるつもりはないらしい。リーアムも言う通り、私は後回しでもいいと思われているのだろう。

 だからこれまでのように簡単に彼を許してはいけない。
 私はリーアムの言葉を思い出して決意を固める。そうだ、ここは心を鬼にして私の本音を伝えなければ。

 私がクラインに近づいていくと彼はこちらに駆け寄って来て手を合わせる。

「カレン! この前は本当にごめん! 出かけようとしたらレイラが体調を崩してしまって僕がいてあげないとだめだったんだが、本当に申し訳ない!」

 彼はそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。一瞬心が揺れるが、私はすでに決めている。

「……ずっと思っていたんだけど、クラインは私とレイラ、どっちが大切なの?」
「え?」

 思いもしない私の言葉にクラインの表情が固まる。
 そして少し上ずった声で言った。

「あの、一体今のはどういう……」
「どうもこうもない。私とレイラどっちが大切なのかって聞いているの!」

 私は再び同じ質問を彼にぶつける。

 これまで聞き分けの良い婚約者に徹していた私が急に困らせるようなことを言ったせいか、クラインの表情には目に見えて動揺が浮かんでいた。

 どう答えるか少し悩んだ末、彼はなだめるように言う。

「確かにこの間のことは僕が悪かった、謝る。しかしカレンとレイラどちらか一人を選ぶことなんて僕には出来ない。だって考えてみてくれ、確かにカレンは婚約者だがレイラは家族だしたった一人の妹なんだ。そう、言うなら大切さの基準が違うんだ。だから二人を比べるなんて不可能だ!」

 浮気男の言い訳みたいなことを言い出したが、私が知る限りクラインは本心からこのように考えている。

「でも、一昨日は来なかったよね?」
「そ、それはレイラが急に体調を崩してしまったからで……」
「それって本当に私との約束を破ってでも看病しないといけないぐらい重症だったのかな? というかそこまでの重病だったのなら今日も学園に来ている場合ではないよね?」

 私はなおも追撃の手を緩めない。
 そうだ、今まで何となく「家族だから」で納得してしまっていたけど冷静に考えるとクラインの優先順位はおかしい。この機会にそれをきちんと伝えなければ。

 私の言葉にクラインは沈黙する。そして苦し気に口を開く。

「な、何でそんなことを言うんだ? 今までカレンはそんなこと言わなかっただろう? 僕にも色々あるんだ、分かってくれないか? 埋め合わせはするから」
「だって……私が聞き分けの良い婚約者でいたら、ずっと私よりもカレンのことを優先するでしょう?」
「そ、そんな、別にカレンの方を優先するなんてことは」
「でも一昨日の件はそういうことだよね?」

 私がなおも問い詰めると、やがてクラインは何もしゃべれなくなってしまう。
 必死に何かを釈明して口をぱくぱくさせている彼を見ると胸が痛むが、この問題を解決しなければ私たちが今後も正常な婚約者の関係で居続けることは難しいだろう。

「一昨日のことは本当に申し訳ないと思っている。でも、そんな風に二者択一を迫るのは冷静じゃないと思う。少し時間を置こう」

 そう言って、彼は私の返答を聞かずに去っていった。
 本当にこれで良かったのだろうか、と私は少し不安になった。

 そんな私の元にリーアムが歩いて来る。

「よく言ったな」
「リーアム!」
「大丈夫、後のフォローは俺がやっておくから安心してくれ。だからクラインがいないのは寂しいかもしれないが、しばらくはこの件は忘れて友達との学園生活を楽しんでくれ」
「ありがとう」

 やり過ぎてしまっただろうか、と不安になっていたところにリーアムの言葉を聞いて私は慰められた。

 クラインのいない学園生活を楽しむ。そんなことが出来るかは分からないけどやってみよう。私はそう決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

処理中です...