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クラインとの思い出
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あれは去年のことだ。当時まだ学園に入ったばかりだった私はいまいち勝手が分からずに困っていた。あと、学園は思ったより広くて次の授業がどの教室で行われるのか、そしてその教室がどこにあるのかも分からないことがあった。
「あれ、次の『第三史学講義室』ってどこだろう」
その日も私は時間割が書かれたメモを片手に困っていた。いつもは同じクラスの生徒に何となくついていけば困ることはないが、昼休みの次の授業はその手が使えない。
そのため、私は校舎内でうろうろしていた。
「もしかして次の授業の教室が分からないのかい?」
「クライン!」
そんな時に私の元にやってきてくれたのがクラインだった。クラインとの婚約は学園に入る前からすでに決まっていたし、会ったこともあったがその時は形式的な挨拶をしただけだった。
顔立ちが整っていて、学問の成績もよく運動神経もいいクラインはすでにクラスで人気者の地位を掴みかけていた。彼なら友達も作り放題のはずなのに、わざわざ私のところにやってきてくれたのが嬉しかった。
「実はそうなの」
「だと思った。いつもは授業の数分前には教室に来ている君がなかなかやってこないから心配してたんだ」
「ありがとう」
いくら婚約者だからといって普通はそこまで心配してもらえることはない。私はクラインの善意に胸が熱くなる。
「さ、こっちだ。ちょっと走ることにはなるけど今からならまだ間に合うはずだ」
そう言ってクラインはごく自然に私の手を掴む。そして私たちは一緒に教室に走っていくのだった。
私たちが走っていくと、ちょうど向かい側から次の授業の教授が歩いて来るのが見える。遅刻は教授が教室に入った後から、という不文律があったため、教授は足を止めて私たちに早く教室に入るよう促す。
「「ありがとうございます」」
私たちは教授に頭を下げて教室に駆け込む。
一番後から、しかもぎりぎりで入ってきたこともあって教室中の生徒が一斉にこちらを振り向いた。
「手を繋いでる!」
「仲いいんだね~」
「ヒューヒュー!」
「お似合いの婚約者だね」
「あーあ、私クラインさんのこと狙ってたのにな」
そして私たちを見て好き勝手にはやし立てる。
その様子に、私たちは思わず顔を見合わせる。そして手を繋いだままだったことを思い出し、慌てて手を離す。そしてどちらからともなく恥ずかしさで顔を赤くした。
「ほら、授業が始まるから静かにしなさい」
そこへ教授が入って来て教室はようやく静かになる。
私たちは慌てて後ろの方の席に座り、教科書を机に並べる。私はそこで隣のクラインに小声でささやいた。
「授業終わったら一緒に帰らない? 行きたいお店があるの」
「もちろんいいよ」
これが、私の中でクラインが政略結婚の婚約者から、異性として意識する相手に変わった最初の日であった。
その後もクラインは勉強で分からないところがあれば教えてくれたし、一緒に委員会の仕事をすることもあった。こうして私とクラインの仲は着実に深まっていった……はずだったのに。
「あれ、次の『第三史学講義室』ってどこだろう」
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「「ありがとうございます」」
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「手を繋いでる!」
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その後もクラインは勉強で分からないところがあれば教えてくれたし、一緒に委員会の仕事をすることもあった。こうして私とクラインの仲は着実に深まっていった……はずだったのに。
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