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衝撃

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 それから待ちに待った週末の日がやってきた。楽しい時は過ぎるのがあっという間とは言うが、楽しみ過ぎてこの間の一週間はまるで一か月や一年にも感じられた。

 せっかくのデートだから早く寝ておこうと思ったのに、着ていく服に悩み過ぎて結局寝たのは朝方になってしまった。もちろん服は寝る前に用意しておいたのだが、いざ布団に入るとやっぱりあれがいい、これにしたい、という気持ちがとめどなく溢れてきたのだ。

 もっとも、悩みなおした結果最初に決めたものに落ち着いたのだったが。
 朝早く目が覚めた私は昨夜、と言っても数時間前に用意した服装に着替える。
 鏡に映る自分の姿を見て何度も確認して朝食を食べに向かう。

「あら、今日のカレンは一段と可愛いわね」

 ダイニングに歩いていくと、母上にそんな言葉を掛けられる。

「大丈夫かな? 変なところはない?」
「大丈夫よ。今週ずっと楽しみにしてたものね。それだけ楽しみにしてくれていたら、どんな男でもきっと喜んでくれると思うわ」
「そう? きっとそうよね」

 母上の言葉を言い聞かせるようにして私は朝食を食べる。もっとも、緊張していることとお腹を壊したくないこともあってあまり食は進まなかったが。

 そんな私を見て母上と父上は「若いわねえ」「お前にもあんなころがあったな」などと語り合っている。
 食事を終えて「行ってきます」と家を出ていくと、母上は「頑張ってね」と手を振ってくれた。

 早めに家を出た私は待ち合わせ場所に決めていた王都の中心にある広場に歩いていく。
 そこには大きな噴水があり、その周りには私以外にも待ち合わせをしていると思われる人々が立っている。貴族、豪商、庶民など立場は様々だが、男女問わずおめかしして待ち遠しそうに恐らく恋人を待っている。ここは街の中心だからどこに行くのにも都合がいいし、大きな噴水があるから待ち合わせスポットとして使われている。

 私はその中にクラインの姿がないことを確認してほっとした。待ち合わせは緊張している時ほど、先についていると心の余裕が得られる。そのためにわざわざ早起きもしてきた。

 そして待つこと数十分、広場にある時計が待ち合わせ時刻を指す。
 私は周囲には目立たないように、目を皿のようにして周囲を見回すが、クラインがやってくる気配はない。彼は本来待ち合わせ時刻の数分前にはやってくる人だというのに。周囲の待ち合わせをしていた人々は続々と待ち合わせ相手がやってきて、仲睦まじげにどこかに歩いていくのが見える。それを見て私は少しずつ不安になっていった。

 予定時刻を数分過ぎたころである。
 突然、広場にぜえぜえと荒い息で走ってくる男がいた。一瞬クラインかとも思ったが全然違うし、第一執事が着るようなタキシードを纏っている。大方、お使いか何かで急いでいるのだろうかと思っていたらなぜか彼は広場をきょろきょろし、私を見つけるとこちらに走ってくる。

「はあ、はあ……すみません、カレン様でございますか?」
「はい、そうですが」

 私は困惑しながら頷く。言われてみればどこかで見たことあるような気もするが、思い出せない。

「わたくしガスター公爵家の執事でございます」

 そう言われて私は納得する。きっとクラインの家に行ったときに姿を見たのだろう。

「一体何が?」
「実は今朝方、急に体調を崩されまして。それで先ほど今日のデートの件を知り、急ぎわたくしが報告に参ったのでございません」
「えぇ、本当に!? 大丈夫なの!?」

 私は思わず声をあげてしまう。

「それなら今からでもお見舞いに行かせて!」

 私がそう言うと、執事はしまった、という顔をする。

「あの、それなのですが、大変申し上げにくいのですが体調を崩されたのはレイラお嬢様でして……」
「え、それはデートには関係ないのでは?」

 答えながら私は胸の内に嫌な予感が湧き上がってくるのを感じる。一体なぜレイラが体調を崩すとクラインの代わりに執事がデートに姿を現すのだろう。
 執事の男も非常に申し訳なさそうな表情に変わっていった。

「我々がレイラ様のお世話をすると申し上げたのですが、レイラ様たってのお頼みで、クライン様も屋敷に残られたのです」
「あの、きっと彼女はすごい重病なのですよね!?」

 私は藁にもすがる思いで尋ねる。本来、他人が重病であることを願うなどあってはならないが、もし重病であればクラインがそちらを優先するのも仕方ない、と納得できるからだ。
 そんな自分本位な思いに自分で胸が痛むのを感じる。

 が、私の願いに反して執事は非常に申し訳なさそうな表情で言った。

「いえ、おそらくただの風邪かと……」
「そんな」

 私はくらくらとめまいがするのを感じて、その場に崩れ落ちる。

「カレン様、大丈夫ですか!? カレン様!?」

 そんな私を執事の男が支えてくれる。
 意識が遠くなる中、何で私の隣にいるのがクラインではないのだろう、という気持ちだけが脳裏に渦巻くのだった。
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