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Ⅰ
サリー
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「我らが同行するのはここまでだ。もう二度と王都には帰ってくるな」
「はい」
その後私は二人の屈強な兵士に連れられて王都の城門を出ました。
処分を決めた王宮も私の罪に疑問を抱いたせいか、単にやる気がなかったのか王都から出ると、兵士も私から離れてさっさと帰ってしまいます。
王都は城壁に囲まれており周囲には平原が広がっているため、外に出ると急に視界が広くなったような気がします。服装も庶民的なものにしてきたため、これで私は正真正銘の平民です。これまで私を守ってくれた家や婚約者はいなくなりましたが、代わりに無限の自由を手に入れました。
私はとりあえず、王都の近くで一番栄えているラタンという街に向かうことにします。父上からもらったお金がある以上栄えている街であればしばらくは暮らしていけるはずです。それに女一人である以上、出来るだけ治安がいいところに行きたいものです。
そのため私はまず王都から出ているという馬車の発着場に向かいます。
これまで馬車と言えば自分の家で用意されたものにしか乗ったことがないので、乗り合い馬車というのは少し新鮮です。
発着場に向かうと、そこには商人や旅人など数人が世間話をしながら待っていました。私が近くに立っていても誰も私が元貴族だとは思いません。
待つことしばらくして一台の馬車がやってきて、乗って来た人々が降りていきます。そしてそれと入れ替わりになる形で私たちが乗り込みます。
馬車に座っていると特にすることもないため退屈ですが、他の乗客の世間話にいきなり入っていけるほど私は豪胆ではありません。しかも今は周りには気づかれていないとはいえ追放直後なので尚更です。
ふと私は自分の隣に座っている少女がお弁当を食べ始めたのに目をやります。彼女はおそらく年齢は同じぐらいで、隣に商人と思われる三十ほどの男が同行しています。広げたお弁当はパンや日持ちする干し肉などが入っているのが見えます。
それを見て私は自分が何も食べ物を持ってこなかったことに思い至り後悔します。馬車が次の街に停まるまで少なくとも数時間はかかるでしょう。とはいえ、じっと見つめるのははしたない、とどうにか窓の外に意識をそらします。
その時でした。
「うっ」
突然隣の少女がくぐもった悲鳴を漏らします。
彼女は弁当箱を膝の上に置くと、何かを堪えるような表情でお腹を抑えていました。
「大丈夫でしょうか?」
反射的に私は声を掛けます。
「う、お腹が痛い……」
「食あたりでしょうか!?」
「分からない……」
少女の表情はどんどん青白くなり、額には汗が浮かんでいます。
「大丈夫か?」
同行している男も声をかけますが、彼女の表情は険しくなっていくばかりです。私はふと彼女の弁当に目をやりますが、当たりそうなものは入っていません。とはいえ咳や吐き気などはなさそうに見えます。他に腹痛以外の異常は見当たりません。
「彼女は最近他に病気になったり体調を崩したりしたことは?」
「いや、ない」
男は突然他人なのに話しかけてきた私に戸惑いながらも答えます。
ということはおそらく旅先で普段と環境が変わり、お腹を壊しただけでしょう。
そう思った私は素早く荷物からお腹の薬を取り出します。そして丸薬をいくつか取り出して渡しました。
「これをどうぞ」
「え?」
突然薬を差し出して来た私を彼女と同行の男は不審げに見てきます。
「ただの腹痛の薬です。どうぞ」
「ありがとうございます」
私が少女の目を見て言うと、彼女に気持ちが伝わったのか意を決して薬を口に含みました。そこへ男が慌てて水筒を差し出し、彼女は水を飲みます。
少しして、彼女はほっと息をつきます。
「ありがとう、少し良くなった」
「良かった」
それを聞いて私はほっと胸を撫で下ろしたのでした。
「はい」
その後私は二人の屈強な兵士に連れられて王都の城門を出ました。
処分を決めた王宮も私の罪に疑問を抱いたせいか、単にやる気がなかったのか王都から出ると、兵士も私から離れてさっさと帰ってしまいます。
王都は城壁に囲まれており周囲には平原が広がっているため、外に出ると急に視界が広くなったような気がします。服装も庶民的なものにしてきたため、これで私は正真正銘の平民です。これまで私を守ってくれた家や婚約者はいなくなりましたが、代わりに無限の自由を手に入れました。
私はとりあえず、王都の近くで一番栄えているラタンという街に向かうことにします。父上からもらったお金がある以上栄えている街であればしばらくは暮らしていけるはずです。それに女一人である以上、出来るだけ治安がいいところに行きたいものです。
そのため私はまず王都から出ているという馬車の発着場に向かいます。
これまで馬車と言えば自分の家で用意されたものにしか乗ったことがないので、乗り合い馬車というのは少し新鮮です。
発着場に向かうと、そこには商人や旅人など数人が世間話をしながら待っていました。私が近くに立っていても誰も私が元貴族だとは思いません。
待つことしばらくして一台の馬車がやってきて、乗って来た人々が降りていきます。そしてそれと入れ替わりになる形で私たちが乗り込みます。
馬車に座っていると特にすることもないため退屈ですが、他の乗客の世間話にいきなり入っていけるほど私は豪胆ではありません。しかも今は周りには気づかれていないとはいえ追放直後なので尚更です。
ふと私は自分の隣に座っている少女がお弁当を食べ始めたのに目をやります。彼女はおそらく年齢は同じぐらいで、隣に商人と思われる三十ほどの男が同行しています。広げたお弁当はパンや日持ちする干し肉などが入っているのが見えます。
それを見て私は自分が何も食べ物を持ってこなかったことに思い至り後悔します。馬車が次の街に停まるまで少なくとも数時間はかかるでしょう。とはいえ、じっと見つめるのははしたない、とどうにか窓の外に意識をそらします。
その時でした。
「うっ」
突然隣の少女がくぐもった悲鳴を漏らします。
彼女は弁当箱を膝の上に置くと、何かを堪えるような表情でお腹を抑えていました。
「大丈夫でしょうか?」
反射的に私は声を掛けます。
「う、お腹が痛い……」
「食あたりでしょうか!?」
「分からない……」
少女の表情はどんどん青白くなり、額には汗が浮かんでいます。
「大丈夫か?」
同行している男も声をかけますが、彼女の表情は険しくなっていくばかりです。私はふと彼女の弁当に目をやりますが、当たりそうなものは入っていません。とはいえ咳や吐き気などはなさそうに見えます。他に腹痛以外の異常は見当たりません。
「彼女は最近他に病気になったり体調を崩したりしたことは?」
「いや、ない」
男は突然他人なのに話しかけてきた私に戸惑いながらも答えます。
ということはおそらく旅先で普段と環境が変わり、お腹を壊しただけでしょう。
そう思った私は素早く荷物からお腹の薬を取り出します。そして丸薬をいくつか取り出して渡しました。
「これをどうぞ」
「え?」
突然薬を差し出して来た私を彼女と同行の男は不審げに見てきます。
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「ありがとうございます」
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少しして、彼女はほっと息をつきます。
「ありがとう、少し良くなった」
「良かった」
それを聞いて私はほっと胸を撫で下ろしたのでした。
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