相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴

文字の大きさ
上 下
57 / 69

54 ふたりの約束

しおりを挟む
「ほう」
「!」

 何か得心が行ったように吐息を零したのを見て、ぎくりと肩が跳ねる。
 月島のサド心に火がついてしまったのを感じて、俺は顔を青ざめさせた。

「あ……お、お前もまだ本調子じゃないし、今日はこの辺で」
「まあ待て。君、まだ中ではイってないだろう?」
「いやいや気を遣わないでくれていいから……ぅあ」

 形勢の不利を悟り逃げ出そうとしたが、そろりと浮かしかけた腰を掴まれて退路を塞がれてしまった。
 冷や汗を浮かべる俺とは対照的に、胡散臭いぐらいの笑顔を浮かべた月島は、にこやかに問いを重ねた。

「それで、話を戻すが。もしかして、私が居ない間は自分で慰めていたのか?」
「そ、れは」
「まさか浮気をしたとは思わないが、しっかり言ってくれないと不安だな」
「ぐ……」

 欠片も不安を感じてなさそうな嫌味ったらしい薄ら笑いを浮かべて、月島が俺の顔を覗き込む。恥ずかしくてその顔を直視できずにいると、月島が答えを急かすように腰を動かした。

「んん……っくそ、そうだよ自分でシたさ! 悪いかッ!」

 経験上、ここで隠そうとすればするほど傷が深くなることはよく分かっていた。そのため、観念して正直に話すことにする。
 しかし、月島は俺の答えを聞いてもまだ満足していない様子だった。

「ちゃんと私のことを考えていてくれたか?」
「ああ、ああ、考えてたよ!」
「君が思い描いた私は、どんな風に君に触れていた? 優しかったか、それとも意地悪だったか」
「お前はいつも意地悪だろうが!」
「おや心外だね、意地悪もしたが、同じくらい優しくもしたつもりなのだけどね」

 信憑性の薄い話をしながら、月島が左手を俺の下腹部へと伸ばす。

「ぅあ……おい、お前、傷が……!」
「左手の方はもうほとんど治っている。右はまだ時間がかかりそうだが……それまでは、君に甘えさせてもらうとするよ」

 いつもより拙い動きで、月島が俺の熱を昂らせていく。
 俺がひとりで思い描いていた指使い通りに、優しく、容赦なく。

「ただ、片手だと君を満足させるのは難しそうだな」
「は、んぁぁ……ッ、な、にを」
「君の手も貸してくれ」

 絶頂を迎えそうになった瞬間、ぱっと手を離されて熱を放り出される。
 何をさせるつもりなのかと顔色を伺っていると、月島は嗜虐的な色を滲ませて言った。

「いつも私がしているように、イけないよう自分で戒めていてくれ」
「は!?」
「もっとも、このままあっさり達してしまいたいと言うのなら、話は別だが……」

 どうする、と言外に問いかけて月島が俺を見つめる。
 羞恥と欲望の境で葛藤に揺れる俺の答えは決まっていた。しかし、それは自分から「虐めてくれ」と言うようなもので、あまりにも……!


「そ、そんなこと……!」
「嫌かね? 無理強いはしないが」
「……う、ぐ」

 葛藤に揺れ動くが、結局、欲望には勝てず。
 俺は背を丸めて月島の顔を視界から外しながら、そろりと自身に手を添えた。
 そして、自分で自身の根本を握り締めた瞬間、欲望に従順な俺の姿を鼻で笑う音が聞こえた。

「ふ、素直でよろしい」
「てめぇ……!」

 顔を見ずとも嘲るような笑みを浮かべているのが分かり、恨みがまし気な声が零れる。
 しかし、そんな言葉はあっという間に嬌声へと変えられていくのであった。

「私がいいと言うまでは、放してはいけないよ」
「ッ、あ、ひっ……!」

 ゆるりと先端と指先でなぞられ、腰が浮くような快感に襲われる。爪先で軽くなぞられただけで達してしまいそうになり、俺は慌てて握り込む力を強めた。
 月島は、俺の様子を見ながら徐々に手の動きを早めていく。

「ああっ、ああぁ……! うぅ……!」

 段々と強められていく責め苦に、視界が滲み、口の端から唾液が伝っていく。
 手で拭い去ることも出来ずに流れ落ちたそれらは、月島の腹の上にぽたぽたと滴り落ちていった。
 その光景に、強い羞恥心が沸き起こる。

「あ、う、んん……ッ!」
「気にしないで、いくらでも垂れ流してくれたまえ」
「い、や……! や、やめろ……! 動くなぁ!」

 必死で口を閉ざし、唾液を飲み下そうと試みるが、それは他ならぬ月島本人の手によって阻まれる。
 俺が月島の上に落ちていく唾液を止めようと躍起になっていることを悟った男は、前からだけでなく後ろからも責め立ててこちらの邪魔をしてきた。

 両手で自身を握り込んでいるというのに、下からも突き上げられ、身体を支えることが出来なくなって崩れ落ちてしまう。
 そして、月島の胸に額を擦り付けながら、ただただされるがままに喘がされた。

「ひっ、んあ、ああぅ……! やぁ……っ!」
「ふ、君はいつもこんなに泣いているんだね。目が真っ赤になってしまう訳だ」

 俺の目からひっきりなしに流れて月島の胸を濡らしていく雫を、月島が指先で掬い取る。
 月島は右手で優しく俺の涙を拭いながらも、左手では情け容赦なく俺を責め続けていた。

「りょ、すけ……もう、もうイきたい……!」
「まだ駄目だ。待て、だよ。出来るだろう?」
「ひう、ううっ……!」

 腹の中で行き場を失った熱が荒れ狂うのを感じながらも、月島の言葉に従って自身を戒め続ける。
 本当は今すぐにでもイきたい、けれども、月島の囁きに逆らうことが出来ない。
 身も心も支配されている心地になり、倒錯的な快楽に震えが走った。

「んぁ、あああっ……! 亮介、りょう、すけぇ……!」

 次第に理性が崩れ始め、もはや溢れる唾液に構うことなく、甘えた声で男の名前を呼ぶ。
 胸を突く衝動をどうにも出来ず、ひたすら名前を繰り返していると、月島が柔らかい手付きで俺の頭を撫でた。

「どうした、今日は随分と甘えてくれるな」
「ん、あぁ……! さ、寂しかった、から……っ」
「嬉しいことを言ってくれるね。……私も、寂しかったよ」

 さらさらと髪を梳かれ、その心地よさに陶然として目を伏せる。
 惜しげもなく与えられる愛情に身を任せていると、月島が一層俺を強く責め立てて囁いた。

「そろそろ、イってもいいぞ」
「ああっ、んぁ……っ!」

 絶頂を迎える許可を得て、ようやく自身から手を放す。
 その手を月島の背に回して強くしがみつきながら、俺は二度目の熱を吐き出した。

「あぁ――ッ、んあ、ひぃ……ッ!」

 小刻みに身を震わせながら、更に月島の身を汚していく。
 しかし罪悪感を覚える暇も無く、今度は両手で腰を掴まれ、集中的に奥を責められ始めた。行き過ぎた快楽に身を貫かれ、視界が滲み、必死で月島に懇願する。

「ま、待って、今イってるから! ひっ、待てってばぁ……!」
「今が一番気持ちがイイのだろう?」
「良すぎる、から! うあ、や、めて……ぇ!」

 相変わらず、月島は俺の制止など聞く気配が無い。
 手加減なしに体内を蹂躙され、もはや俺の身体は、俺の言うことを聞かなくなっていた。

 がくがくと全身が好き勝手に跳ね動き、足を突っ張って抵抗することも、月島の手を引き剥がすことも出来ない。
 涙も唾液も、精液すらも垂れ流され……滴り落ちたそれらは、月島の身体だけではなくシーツまでも汚し始めていた。
 それでも、月島の上から逃げることは許されない。

「た、頼むから……ッもう、下ろして……!」
「ふふ、凄い有様だね」

 俺の体液でべしょべしょになった月島が、腹部に溜まった液体を掬って指先で弄んでいる。月島の筋張った手から糸を引いて滴るアレが何かすら、もう分からなかった。


「ごめ……ごめん、なさ……!」
「責めてなんていないよ。可愛いな、聡」
「うう、んあッ、ひ……ッ!」

 甘く囁かれながら一際奥を抉られて、悲鳴のような声を上げながら絶頂を迎える。
 脈打つ体内に絞られた月島も共に果て、二人で息も絶え絶えになりながらベッドへと深く沈み込んだ。

「はっ、はぁっ、は……っ」
「……ふう、これは、大分体力が落ちているな」

 月島も息を切らしているのが珍しくて、思わず目を見張る。いつも良いように人を抱き潰してくれているが、さしもの月島も今日ばかりは無茶が聞かないらしい。

 それでも、俺よりは余裕そうに見えるのは気のせいだろうか。いや、どうか気のせいであって欲しかった。

「はっ……亮介」
「ん……」

 荒い息を繰り返す月島へにじり寄り、唇を重ねる。
 その頬に残った白濁を指先で拭い去り、綺麗になった顔を見つめて再び口付けを落とした。

「早く体力を戻して、傷も治して、君を満足させてやらなくてはな」
「いや大丈夫……このくらいで丁度いいから」
「君さえ良ければ毎日でも相手をして欲しいところだけどね」
「た、頼むから遠慮させてくれ。腹上死ってのは洒落にならないからな……」

 恐ろしいことを宣う男の上から今度こそ逃げ出し、いそいそと月島の腕枕へと収まる。
 ごく自然に肩を抱かれて、髪を撫でられ、見つめ合って微笑みを浮かべる。ただそれだけの無言のやり取りが、心から幸せだと感じた。


「なあ、亮介。その怪我じゃ日常生活も大変だろ?」
「ん? まあ、な。苦労はしているよ」
「それならさ、その……」

 照れ臭さで言い淀む俺を前に、月島が言葉の先を察して顔を輝かせていく。
 俺はごほんと咳払いをして腹を括り、話を続けた。

「その、だな。俺のところで一緒に住まないか?」
「……! ああ、勿論だ!」

 嬉しそうに声を弾ませた月島が、強く俺の身体を掻き抱く。その緩んだ頬に手を添えて、俺も同じように笑みを浮かべた。

「お前がちゃんと治ったら、もっと広いところに引っ越すのもいいかもな」
「そうだね、もう少し部屋数も増やして、ベッドも広い物にして……」
「お前のコレクション用の部屋も準備してやらないとな」
「ふふ、そうしてくれると嬉しいね」

 気の早い話に花を咲かせて、そう遠くないであろう将来へ想いを馳せる。
 何処までも膨らんでいく話を嬉々として語っていると、不意に月島が真面目な顔になって言った。

「聡、約束をしよう」
「約束?」
「そうだ。君と私で、約束をしよう。これまで迷い苦しんできた分、幸せになると」
「――ああ。いいな、それ。なら約束だ」

 月島と、右手の小指同士を絡ませ合う。

「これからは、ふたりで歩んで行こう。俺とお前のことだ、また喧嘩することもあるかもしれないけれど、そっぽ向いてても同じ道を進んで行こうぜ」
「ああ。もう決して、離れはしない。迷った時や苦しい時には……君も道連れだ」
「上等だ、今度置いて行ったら死ぬほど後悔させてやるからな。二度と安眠出来なくしてやるつもりだから、約束は破るなよ」
「君こそ、万が一にでも約束を違えた時には、地の果てまで追いかけて二度と逃げられないように囲うつもりだから、覚悟しておいてくれ」

「……重いな」
「君も大概だぞ」

 針千本よりも重たい約束を交わし、指を切る。
 そして、無性に愉快な心地になり、声を上げて笑った。

 随分と遠回りをしてしまったけれども、これから月島とふたりで、幸せな人生を歩んでいくのだ。退屈で無味な人生に別れを告げて、今まで取りこぼしてしまった分も黒字になってしまうくらい幸せになろう。

 きっと、この先楽しいことばかりではない。苦しいことも悲しいことも待ち受けているだろう。けれども、月島が隣に居るのなら何も問題は無い。
 例え、いつか置いて行かれたって、コイツは死んでも俺を離してはくれないのだから。
 共に在る限り、何だって乗り越えられると確信している。


 俺の胸にはもう、孤独も恐怖も無かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...