53 / 69
50 アイの形象
しおりを挟む
予想外の同行者を乗せたまま、車を飛ばして半日。
目的地付近には着いたものの、玲二によって出鼻をくじかれてしまったため、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
仕方なく、手頃なホテルにチェックインしたところで、不意に玲二が問いかけてきた。
「今更聞くのもどうかと思うんだけどさ、アンタは何処に向かってるんだ?」
「本当に今更な質問だな」
俺も行き当たりばったりではあるが、コイツも相当である。
一瞬適当に濁しておくか迷ったが、玲二が例の報告書を読んでいることを思い出し、隠すまでもないかと思い直す。
「墓参りに来たんだよ。両親の」
「そう、か」
玲二は決まり悪げに視線を泳がせた。
墓参りなんて、赤の他人が一緒に着いていくような場所ではない。流石に悪いと思っているのか、玲二は言葉を探しては声にならない声を漏らしていた。
「先に言っておくが、明日は俺一人で行ってくるからな。まあ安心しろ、置いて帰ったりしないから」
「そう言われると逆に不安になるからやめてくれよ」
敢えて軽口を叩けば、玲二はこわばった表情を解いて笑った。
「昼過ぎには帰ってくるから、適当に時間を潰しててくれ」
「分かった」
ちょうど話がまとまった頃合いにそれぞれの部屋に辿り着き、就寝の挨拶をして玲二と別れる。
「……ふぅ」
上着を脱いで適当に放り、だらしなくソファーに座り込む。
玲二とは息が合うが、他人と居ると無条件で疲れてしまう。ようやく一心地つけた気がして、やはり別々の部屋を取って良かったと感じた。
宿代がもったいないから同室でいいと主張する玲二を退けて正解だった。
(それに、他の男と同じ部屋で寝泊りなんてしたら……)
月島にバレた時のことを想像するだけで、ぞくりと身体の芯が震えた。
セフレになった後、出会い系サイトを使って他の男に抱かれに行った時を思い出す。
きっとあの時のように手酷く抱かれることになるのだ。焼けるような嫉妬に翻弄されて、声が枯れるまで啼かされて、涙が枯れてもまだ許されなくて、
「……っ」
被虐的な快感を思い出して身体が熱を持つ。すっかり征服される喜びを教え込まれた肉体は、空想だけで淫らに疼いた。
心を鎮めようと天井を仰いだが、一向に熱が引く様子は無い。
「ちっ、ああくそっ」
舌打ちを零して、ベルトを外す。
「……月、島」
そして、シャツの裾に手を差し込んで胸の飾りに爪をかけた。
あの意地の悪い手付きを思い出すために目を閉じて、もう片方の手でジーパンの前を寛げる。既に硬さを持った自身を握り込み、月島の指使いをなぞった。
「はぁ、ふ……」
自分で自分を慰めるなんて、何時以来だろうか。
最近はそんな必要が無いくらい頻繁に抱かれていたことを自覚し、恥ずかしくなる。
セックスなんて月一程度で満足していたというのに。今は身体が疼いて仕方がなかった。
「ん、うう……ッ」
ただ出すだけではもう物足りなくて、達する直前に自身を強く握りしめる。
悪魔の笑みを浮かべた月島に何度も何度も焦らされてきたことを思い出し、俺は自身の根元を締め付けたまま、先端をゆるりと撫でた。
「あっ、あ……月島ぁ……!」
足を引き攣らせ、逃げ腰になりながらも、自分で自分を虐め続ける。
目を瞑り、月島の薄ら笑いと低く掠れた声を思い出しながら、俺は涙が滲むまで自身を責め苛んだ。
泣きながら、自虐的な自慰を続ける自分の姿はどれほど滑稽だろうか。
それでも、そこまでしないと満足出来ない身体にされてしまっていた。あの憎たらしい男の手によって。
先走りで手がべったりになり、下着まで濡らし始めても尚、虐められ足りない。
「ふ、うぁぁ……ッ! ぁ……」
しかし、自分の手ではどうにも責めきれず、満たされる前にびくりと震えて欲を吐き出してしまった。吐精したというのに、まだ物足りなさを感じてしまう自分に呆れながら、汚れたティッシュをゴミ箱へと放り投げた。
「……はぁ」
未だに燻る熱を持て余す。この飢えを満たしてくれる男は、ここには居なかった。
「風呂入って、さっさと寝ちまおう……」
射精後特有の虚脱感に苛まれながら、俺はシャワー室へと向かった。
◆
翌日の天気はあいにくの雨だった。
玲二をホテルに残し、身を切るような寒さの中、一人で車を走らせていく。
遠い記憶を手繰って郊外に出て、見晴らしの良い丘を登っていくと、なんとか目的地まで辿り着くことができた。
天気が悪い上に、もう昼も近いせいか、墓地には誰の姿も見えない。
虫の声も、鳥の声も聞こえない静寂の中で、ただ静かに雨が降り続けている。その冷たさは、両親を亡くした日の記憶を嫌でも思い起こさせた。
あの日も、雨が降っていた。
「嫌な天気だ」
身体だけではなく、胸の内までもが冷え込んでいく。
胸中に沈んだ虚無感が、ひんやりと自己主張していた。
「……確か、この辺りだったよな」
並んだ墓石を眺めながら、頼りない足取りで歩を進める。
何分、十年ぶりの墓参りだ。周囲の様子も様変わりしており、上手く足を進められずにいた。
「……ぁ」
あてもなく彷徨わせていた視線が、不意に強く引き付けられる。
篠崎家之墓。そう墓石に刻まれた文字を見るだけで胸が締め付けられ、しばし無言で立ち竦んだ。
「久しぶり、だな」
納骨以来初めて訪れた両親の墓は、記憶にあるよりも少し荒れてしまっていた。
寺や遠縁の親戚が管理してくれているハズなのだが、時節が悪かったのか手入れが行き届いておらず、ちらほらと雑草が生えているのが目に入った。
「悪いな、なかなか来れなくって」
手に持っていた傘を肩にかけ、手当たり次第に雑草をむしり始める。
丁寧に根っこまで抜き取って、乱れた玉砂利をならしながら、罪悪感に眉を顰めた。
「とんだ親不孝者だな。……待たせて、ごめん」
記憶にあるよりも大きく育っていた植木や、色褪せた墓石を見て、経過した年月の長さを実感する。
せめて、今まで来れなかった分まで念入りに掃除をしよう。
そして、俺はしばらく無心で手入れを行った。
「これで、少しはマシになったか?」
寒空の下で汗ばむほど掃除に没頭し、ようやく記憶と相違ない程度まで綺麗になった墓標の前にしゃがみ込む。
花と線香を供えて、燻る煙の中で手を合わせた。
そして、両親と別れてからの間に起こった変化を一つ一つ報告していく。話したいことは色々あったが、どうしても、話の中心はあの男へと向いてしまって仕方がなかった。
「この歳になってさ、厄介な男に好かれてしまったんだよ。どこまでも嫉妬深くて面倒臭い分からず屋なんだ」
月島との関係が変わり始めてからは、まだ一年も経っていない。それなのに、あの男に関する事柄はいくら話しても話し足りなかった。
「そんなこんなで、今はちょっと喧嘩中だけどな。アイツが悪いんだぜ?」
口では拗ねたように言いつつも、心の中では自分の行いを思い返していた。
今まで素直に伝えてこなかった、想いの数々を。
思い返せば、自分はどれだけのものを月島に返してこれただろうか。
「……」
身に着けた鞄へ、無意識に手をやる。
月島が意識を失ったあの日から、今もなお、肌身離さず持ち歩いているプルースタイトを想って。
気持ちも、言葉も、物も、俺はアイツに与えられてばかりだ。
自分は、好きだとか愛しているとか言葉にするような柄では無いと逃げ続けてきた。
拒まない時点で気持ちを察してくれと、甘えていた。
そのせいで月島が、自分の価値を見誤っているのだとしたら、月島が自分を大事にしない原因の一端は、俺にもあるのではないだろうか。
俺も、月島に散々好きと言われるまで、愛される価値を自分に見出すことが出来なかった。
あの一見自信に満ち溢れた男だって、その実は深い自己嫌悪に苛まれていたのだ。俺と同じように、自分を軽んじてしまっているのではないだろうか。
「近くに居たって、言葉にしてくれなきゃ分からない、か」
玲二の嘆きが、今もこの胸に突き刺さっていた。
本音を晒すには抵抗がある。気恥ずかしいから察して欲しい。見栄を張って格好付けていたい。けれども、それで相手を失っては本末転倒である。
今度月島に会ったら、素直に寂しかったと言ってやろう。
愛していると……きちんと、伝えよう。
(いや、言葉だけじゃ足りないか?)
俺の気持ちを伝えるには、どんな言葉が適切だろう。そう頭を捻っていたところで、いつか月島が言った言葉をふと思い出した。
私は愛情を見える形にしているだけだ、という言葉を。
そういえば、このプルースタイトだって、俺を想う心の表れだと言って渡されていた。月島は、気持ちを目に見える形にしたい性質なのだろうか。
すっかり忘れかけていたが、あれは元々理性的な現実主義者である。
もしかしたら、気持ちとか約束とかいう目に見えないものよりも、確固たる物証を与えた方が安心させてやれるのかもしれない。
アイツに心から信じてもらう為には、月島流で挑まなければならないだろう。
ならば。
「……」
俺が抱いている気持ちを形にするなら、何が良いか。その答えは一瞬で固まっていた。
気障すぎて、俺がやるには似合わない。でも、月島流で考えるならばこれしかない。
「……ふっ。次は二人で来るから、よろしくな」
いつの間にか考え込んでいた自分に苦笑し、思考をまとめて立ち上がる。
月島のことを想って少し温かくなった胸に手を当てて、少し軽くなった足取りで両親の墓を後にした。
そして、綻んだ口元も隠さないまま、ホテルではなく、街の中心部へと向かうのだった。
目的地付近には着いたものの、玲二によって出鼻をくじかれてしまったため、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
仕方なく、手頃なホテルにチェックインしたところで、不意に玲二が問いかけてきた。
「今更聞くのもどうかと思うんだけどさ、アンタは何処に向かってるんだ?」
「本当に今更な質問だな」
俺も行き当たりばったりではあるが、コイツも相当である。
一瞬適当に濁しておくか迷ったが、玲二が例の報告書を読んでいることを思い出し、隠すまでもないかと思い直す。
「墓参りに来たんだよ。両親の」
「そう、か」
玲二は決まり悪げに視線を泳がせた。
墓参りなんて、赤の他人が一緒に着いていくような場所ではない。流石に悪いと思っているのか、玲二は言葉を探しては声にならない声を漏らしていた。
「先に言っておくが、明日は俺一人で行ってくるからな。まあ安心しろ、置いて帰ったりしないから」
「そう言われると逆に不安になるからやめてくれよ」
敢えて軽口を叩けば、玲二はこわばった表情を解いて笑った。
「昼過ぎには帰ってくるから、適当に時間を潰しててくれ」
「分かった」
ちょうど話がまとまった頃合いにそれぞれの部屋に辿り着き、就寝の挨拶をして玲二と別れる。
「……ふぅ」
上着を脱いで適当に放り、だらしなくソファーに座り込む。
玲二とは息が合うが、他人と居ると無条件で疲れてしまう。ようやく一心地つけた気がして、やはり別々の部屋を取って良かったと感じた。
宿代がもったいないから同室でいいと主張する玲二を退けて正解だった。
(それに、他の男と同じ部屋で寝泊りなんてしたら……)
月島にバレた時のことを想像するだけで、ぞくりと身体の芯が震えた。
セフレになった後、出会い系サイトを使って他の男に抱かれに行った時を思い出す。
きっとあの時のように手酷く抱かれることになるのだ。焼けるような嫉妬に翻弄されて、声が枯れるまで啼かされて、涙が枯れてもまだ許されなくて、
「……っ」
被虐的な快感を思い出して身体が熱を持つ。すっかり征服される喜びを教え込まれた肉体は、空想だけで淫らに疼いた。
心を鎮めようと天井を仰いだが、一向に熱が引く様子は無い。
「ちっ、ああくそっ」
舌打ちを零して、ベルトを外す。
「……月、島」
そして、シャツの裾に手を差し込んで胸の飾りに爪をかけた。
あの意地の悪い手付きを思い出すために目を閉じて、もう片方の手でジーパンの前を寛げる。既に硬さを持った自身を握り込み、月島の指使いをなぞった。
「はぁ、ふ……」
自分で自分を慰めるなんて、何時以来だろうか。
最近はそんな必要が無いくらい頻繁に抱かれていたことを自覚し、恥ずかしくなる。
セックスなんて月一程度で満足していたというのに。今は身体が疼いて仕方がなかった。
「ん、うう……ッ」
ただ出すだけではもう物足りなくて、達する直前に自身を強く握りしめる。
悪魔の笑みを浮かべた月島に何度も何度も焦らされてきたことを思い出し、俺は自身の根元を締め付けたまま、先端をゆるりと撫でた。
「あっ、あ……月島ぁ……!」
足を引き攣らせ、逃げ腰になりながらも、自分で自分を虐め続ける。
目を瞑り、月島の薄ら笑いと低く掠れた声を思い出しながら、俺は涙が滲むまで自身を責め苛んだ。
泣きながら、自虐的な自慰を続ける自分の姿はどれほど滑稽だろうか。
それでも、そこまでしないと満足出来ない身体にされてしまっていた。あの憎たらしい男の手によって。
先走りで手がべったりになり、下着まで濡らし始めても尚、虐められ足りない。
「ふ、うぁぁ……ッ! ぁ……」
しかし、自分の手ではどうにも責めきれず、満たされる前にびくりと震えて欲を吐き出してしまった。吐精したというのに、まだ物足りなさを感じてしまう自分に呆れながら、汚れたティッシュをゴミ箱へと放り投げた。
「……はぁ」
未だに燻る熱を持て余す。この飢えを満たしてくれる男は、ここには居なかった。
「風呂入って、さっさと寝ちまおう……」
射精後特有の虚脱感に苛まれながら、俺はシャワー室へと向かった。
◆
翌日の天気はあいにくの雨だった。
玲二をホテルに残し、身を切るような寒さの中、一人で車を走らせていく。
遠い記憶を手繰って郊外に出て、見晴らしの良い丘を登っていくと、なんとか目的地まで辿り着くことができた。
天気が悪い上に、もう昼も近いせいか、墓地には誰の姿も見えない。
虫の声も、鳥の声も聞こえない静寂の中で、ただ静かに雨が降り続けている。その冷たさは、両親を亡くした日の記憶を嫌でも思い起こさせた。
あの日も、雨が降っていた。
「嫌な天気だ」
身体だけではなく、胸の内までもが冷え込んでいく。
胸中に沈んだ虚無感が、ひんやりと自己主張していた。
「……確か、この辺りだったよな」
並んだ墓石を眺めながら、頼りない足取りで歩を進める。
何分、十年ぶりの墓参りだ。周囲の様子も様変わりしており、上手く足を進められずにいた。
「……ぁ」
あてもなく彷徨わせていた視線が、不意に強く引き付けられる。
篠崎家之墓。そう墓石に刻まれた文字を見るだけで胸が締め付けられ、しばし無言で立ち竦んだ。
「久しぶり、だな」
納骨以来初めて訪れた両親の墓は、記憶にあるよりも少し荒れてしまっていた。
寺や遠縁の親戚が管理してくれているハズなのだが、時節が悪かったのか手入れが行き届いておらず、ちらほらと雑草が生えているのが目に入った。
「悪いな、なかなか来れなくって」
手に持っていた傘を肩にかけ、手当たり次第に雑草をむしり始める。
丁寧に根っこまで抜き取って、乱れた玉砂利をならしながら、罪悪感に眉を顰めた。
「とんだ親不孝者だな。……待たせて、ごめん」
記憶にあるよりも大きく育っていた植木や、色褪せた墓石を見て、経過した年月の長さを実感する。
せめて、今まで来れなかった分まで念入りに掃除をしよう。
そして、俺はしばらく無心で手入れを行った。
「これで、少しはマシになったか?」
寒空の下で汗ばむほど掃除に没頭し、ようやく記憶と相違ない程度まで綺麗になった墓標の前にしゃがみ込む。
花と線香を供えて、燻る煙の中で手を合わせた。
そして、両親と別れてからの間に起こった変化を一つ一つ報告していく。話したいことは色々あったが、どうしても、話の中心はあの男へと向いてしまって仕方がなかった。
「この歳になってさ、厄介な男に好かれてしまったんだよ。どこまでも嫉妬深くて面倒臭い分からず屋なんだ」
月島との関係が変わり始めてからは、まだ一年も経っていない。それなのに、あの男に関する事柄はいくら話しても話し足りなかった。
「そんなこんなで、今はちょっと喧嘩中だけどな。アイツが悪いんだぜ?」
口では拗ねたように言いつつも、心の中では自分の行いを思い返していた。
今まで素直に伝えてこなかった、想いの数々を。
思い返せば、自分はどれだけのものを月島に返してこれただろうか。
「……」
身に着けた鞄へ、無意識に手をやる。
月島が意識を失ったあの日から、今もなお、肌身離さず持ち歩いているプルースタイトを想って。
気持ちも、言葉も、物も、俺はアイツに与えられてばかりだ。
自分は、好きだとか愛しているとか言葉にするような柄では無いと逃げ続けてきた。
拒まない時点で気持ちを察してくれと、甘えていた。
そのせいで月島が、自分の価値を見誤っているのだとしたら、月島が自分を大事にしない原因の一端は、俺にもあるのではないだろうか。
俺も、月島に散々好きと言われるまで、愛される価値を自分に見出すことが出来なかった。
あの一見自信に満ち溢れた男だって、その実は深い自己嫌悪に苛まれていたのだ。俺と同じように、自分を軽んじてしまっているのではないだろうか。
「近くに居たって、言葉にしてくれなきゃ分からない、か」
玲二の嘆きが、今もこの胸に突き刺さっていた。
本音を晒すには抵抗がある。気恥ずかしいから察して欲しい。見栄を張って格好付けていたい。けれども、それで相手を失っては本末転倒である。
今度月島に会ったら、素直に寂しかったと言ってやろう。
愛していると……きちんと、伝えよう。
(いや、言葉だけじゃ足りないか?)
俺の気持ちを伝えるには、どんな言葉が適切だろう。そう頭を捻っていたところで、いつか月島が言った言葉をふと思い出した。
私は愛情を見える形にしているだけだ、という言葉を。
そういえば、このプルースタイトだって、俺を想う心の表れだと言って渡されていた。月島は、気持ちを目に見える形にしたい性質なのだろうか。
すっかり忘れかけていたが、あれは元々理性的な現実主義者である。
もしかしたら、気持ちとか約束とかいう目に見えないものよりも、確固たる物証を与えた方が安心させてやれるのかもしれない。
アイツに心から信じてもらう為には、月島流で挑まなければならないだろう。
ならば。
「……」
俺が抱いている気持ちを形にするなら、何が良いか。その答えは一瞬で固まっていた。
気障すぎて、俺がやるには似合わない。でも、月島流で考えるならばこれしかない。
「……ふっ。次は二人で来るから、よろしくな」
いつの間にか考え込んでいた自分に苦笑し、思考をまとめて立ち上がる。
月島のことを想って少し温かくなった胸に手を当てて、少し軽くなった足取りで両親の墓を後にした。
そして、綻んだ口元も隠さないまま、ホテルではなく、街の中心部へと向かうのだった。
12
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる