相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴

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14 愚かさの答え合わせ

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「……?」

 じわり、じわりと腹の底から熱が湧き出してくる。
 始めは気のせいとも思った疼きは、耐えきれない熱へと変わっていく。

「な、なんだ……これ……」

 明らかに自然のものでは無かった。おそらくアズマに何か盛られていたのだ。
 そして月島はそれを知っていた。車に乗り込む前に男たちと話していたが、その時か。
 だからこうして拘束されたのだと、今更ながらに納得がいった。

「…………っ」

 がしゃりと、張り詰めた鎖が耳障りな金属音を立てる。両手が自由であったなら、今頃夢中で自分を慰めていたことだろう。
 しかし、それは叶わない。
 じりじりと両足を擦り合わせれば微かな快感が生まれたが、それは自分を追い詰めるだけにしかならなかった。

 生殺し、である。

「ふ……っ、はぁ……」

 もどかしさに息が上がる。刺激が欲しい。徐々に、それしか考えられなくなっていく。
 無意識に腰が揺れ、ついに耐えきれなくなる。俺は苦戦しながらも腹ばいになって、ベッドに股間を擦りつけた。

「あっ、はあっ……」

  先ほどよりも確かな刺激に、喉が上ずる。
 自分がはしたない格好をしていることは理解していたが、荒れ狂う熱に急かされるまま、恥を忘れて夢中で腰を振り続けた。
 布の上からの刺激では物足りなかったが、それでも少しずつ上り詰めてくる。

 固く目を瞑って、ようやく訪れた絶頂の快感に身を任せたその瞬間。突如腰を掴まれた。

「——ッあ、あ、ひ⁉︎」
「反省しろと言ったのに、一人で随分と楽しんでいるじゃないか」
「ば、か、見るなよ……!」 

 身体を無理矢理ひっくり返され、絶頂の衝撃で震える様をまじまじと観察される。
 紺のスーツがまるで粗相をしたかのように色を濃くしていく様まで視姦され、あまりの羞恥に視界が滲んだ。

 ……いつから見られていたのかは考えたくもない。 

「……ッ」
「お漏らしとはいけないな」

 追い討ちをかけるように、嘲笑を浮かべた月島が濡れた布地をなぞる。
 薬で敏感になっている上に達したばかりの身体には、指先だけでも過ぎた刺激となった。

「ああ……っ!」
「そう物欲しげな声を出すな。夜は長いのだからな」

 月島は楽しげに囁くと、ベッドの下から何かを取り出して俺の前へと掲げた。
 それは男たちから奪ってきた、あの見慣れない大きな鞄だった。
 探るような視線を向けると、月島は見せつけるようにゆっくりと鞄を開け、中身を全てぶちまけた。

「は……⁉︎」

 中から出てきたのは、えげつない色をした奇妙な物体の数々だ。その正体を理解した時、俺は口元を引き攣らせた。
 いわゆる、大人の玩具と言うヤツである。

「君のお友達が持っていた。まったく、怪しげな動画でも撮るつもりだったのかね?」
「……」

 絶句した。

 月島の軽口を笑い飛ばせないほど、男たちは様々な道具を用意していた。俺の両腕を拘束しているこの手錠も、その一つなのだろう。
 本当に、月島が来ていなかったらどうなっていたのか。
 ゾッとする想像の答え合わせが始まろうとしていた。

「さあ、篠崎君。薬も回ってきた様子だし、私が来ていなかったらどんな目に遭わされていたのか、味わってもらうとしようか」
「……ま、待って」
「待たない。手始めに、君のだらしない下半身を調教するとしよう」

 抵抗できない俺に、月島の魔手が伸びる。
 抱き殺される——心の底から、そう思った。
 
 ◆
 
 調教とやらが始められてから、どのくらいの時間が経っただろうか。

「月島……ッ! つきしまぁぁ……!」
「まったく、君は待ても出来ないのか?」

 乱れた呼吸を繰り返し、縋るように何度も月島の名前を呼ぶ。焦らされ続けて飽和した熱が、俺の理性を溶かしていた。
 調教と言われて自身を戒められてから、絶頂を迎えることは一度も許されていない。
 それなのに、体内に入れられた玩具は絶え間なく振動し、容赦なく俺を嬲り続けている。
 月島は男たちが用意した玩具を全て俺の身体で試す気なのか、片っ端から手に取っては、俺を嬲り続けていた。

「これはお気に召さないようだから次の物にしてあげようか。待て、だよ。篠崎君」
「いや、やあぁ……!」

 待て、と。何度そう聞かされたことか。

 もう充分待った。待ったというのに、まだ許してはもらえないのか。
 体内で振動していたモノが無造作に引き抜かれ、より質量を増した何かが挿入される。
 かちりと無機質な音がすると同時に、先ほどよりも重い振動が身を襲った。
 下肢から響く機械音に、鼻をすする音が混じり始める。

「ああ……! ううぅ……っやぁぁぁ……!」

 ぼろぼろと勝手に涙が零れてくる。
 涙と鼻水と、大分前に飲み込むことを諦めた唾液で、今頃俺の顔は酷いことになっているだろう。だが、月島が気にする様子はない。

「ほら、こんな物もあるぞ?」

 そう言って愉しげに俺の眼前へ何かを掲げている。月島の手の動きに合わせてしなやかに揺れるそれは、マドラーのような細い金属の棒だった。
 使ったことは無かったが、それが何かは知っていた。尿道バイブである。
 思わず背筋に冷たいものが走った。 

「い、嫌だ、嫌だぁ……! それ、したこと無いからっ……」
「こちら側を犯すのは私が初めてか? それはいい」

 俺の言葉に、月島は何故か機嫌を良くしてにっこりと笑う。
 そして躊躇いもなく俺の先端にソレをあてがうと、つぷりと侵入を開始した。
 未知の痛みに襲われ、みっともなく足が震える。

「つ、つき、しま、痛い……って!」
「ゆっくりしてやるから落ち着きたまえ。良い子だからじっとしているんだよ」
「ひ、ひいっ……!」

 優しげな声色とは裏腹に、バイブは容赦なく埋められていく。
 出口を塞がれた今、もはや必要の無くなった戒めも解かれ、更にその奥を犯される。
 見た目は細くても、体内に挿れられればその異物感は凄まじい。
 無理矢理押し広げられていく感触に身を固くしていると、月島が場違いに柔らかい手つきで俺の太ももを撫でた。

「ひっ、んん……っ!」

 やがてバイブがその身のほとんどを収めたところで、痛み以外の刺激に襲われる。

「そろそろイイところへ届いたか?」

 尿道から挿し込まれたバイブによって、後ろから押し上げられている前立腺を前からも抉られる。
 耐え難い快楽に腰が跳ね、思いがけず一層深くバイブを飲み込んでしまい、声にならない声を上げた。

「ひっ、——ッ!」
「ここが気持ちいいのか?」
「や、待って、待てっ、おかしくなるッ!」

 俺の反応を見て、月島が今までよりも速いスピードで抜き差しを繰り返す。
 前立腺を挟み込まれ、前からも後ろからも嬲られて、逃げ場の無い快楽に身悶えた。
 よがり狂っている俺に対して、月島は嘲りを含んだ視線を送っている。
 今では、それも興奮を助長させる材料にしかならない。

「怖がっていた割には、もう随分と気に入ったようだな?」
「ううう……っ」
「それは何よりだが、これで終わりではないのだよ」
「や、やめて……!」

 月島の指がバイブのスイッチへとかかる。
 力無く制止したが、無慈悲にもスイッチは入れられた。

「あっ、ああああッ! ひっ、ひいいっ‼︎」
「おっと危ない」

 目の前が真っ白に染まるほど強い快感に晒され、全身が跳ねる。制御不能に陥った脚が月島の頬を掠めたが、そんなことに頓着している余裕はなかった。 

「うああっ、止めて、も、やだあぁぁッ!」
「何がそんなに嫌なんだ?」
「抜いて、これ……! い、イかせてくれぇ……!」

 必死に懇願しても、月島はまるで聞く耳を持たない。
 それどころか、まだ物足りなさそうに散らばった玩具の物色を始めている。
 程なくして月島は、ゴムで出来た筒状のモノを手に取ると、悪魔の笑みを浮かべた。

「あ、あっ」

 あれは、オナホールだ。
 とてつもなく嫌な想像が脳裏を過ぎる。

「もう少し我慢が出来たらイかせてあげよう」
「ゆ、許し……て」

 逃げ腰になる俺を捕まえて、月島はおもむろにオナホールを掲げる。そして、バイブが突き刺さったままの俺のモノをその中へと捻じ込んだ。
 先端が空いていないタイプのため、月島の手の動きに合わせてバイブが奥まで押し込まれる。
 気が狂いそうな快楽に成す術もなく、喉の奥から引き攣った嬌声が絞り出された。

「も、むりぃ……! し、死んじゃ……ああッ‼︎」

 滅茶苦茶な呼吸を繰り返しているうちに、視界がぼやけてくる。もう息を吸っているのかしゃくり上げているのか分からなかった。

「たす、助けてっ! つきしまぁぁぁ!」

 恐怖か快楽か分からないものに突き動かされて、自由にならない手でもがく。
 当然だがいくら引っ張っても手錠は外れず、俺の腕に赤い跡を残すばかりだった。

「あんまり暴れるから手首が真っ赤になってしまっているぞ」

 力任せに暴れたせいで血が滲んだ手首を抑え込まれる。
 傷に這わされた舌の柔らかさとは裏腹に、もう片方の手は俺を責め苛み続けていた。

「つきしま、お願っ……も、許してくれ……ッ!」
「少しは反省したかね」
「した、反省したから……ッ! ひっ、あ、許し……!」

 月島は徐々に身体を下げながら、俺の首や胸に赤い跡を幾つも残していく。時折、歯を立てていくので、俺の身体は噛み跡と赤い華で酷い有様になってしまった。
 身体中に所有の証を刻んだ月島は、満足げに目を細めてようやく手を止めた。

「これで少しは君も大人しくなるかな」
「ひっ……ぐぅ……」
「ほら、どうして欲しいのか聞いてあげるよ」

 月島が意地の悪い顔を寄せて、俺の耳元で囁く。
 やっと、許してもらえる。それしか考えることが出来ず、俺はひくつく喉で懇願した。

「抜い、て……もう、イかせて、ください……ッ!」
「よく出来ました、と褒めてやるところかな?」

 小馬鹿にするような声が響き、腹を立てるより先にバイブを一気に引き抜かれる。
 内臓ごと引きずり出されそうな強烈な快感に襲われて、悲鳴のような声を上げて絶頂を迎えた。 

「う、ああぁ————ッ‼︎」

 待ち望んだ解放に腰が浮き、がたがたと脚が震える。
 身体全体が言う事を聞かず、あちこちが好き勝手に跳ね動いていた。
 月島がゆるゆると手を動かすのに合わせて、次から次へと精液が吐き出されていく。

「あ、ぐぅ……あひ……っ」

 長い絶頂に見開いた目から涙が零れる。しばらく息を吸うこともままならなかった。
 ようやく全てを絞りつくされた頃には意識も遠くなっていたが、まだ気絶させてはもらえない。

「ひ、いいっ……!」

 再び身を襲った暴力的な快感に意識を引き戻され、慌てて下肢に目をやる。
 すると、白濁に塗れた俺自身を嬲り続ける月島と目が合った。

「いま、イったばかりだから、は、なして……っ」
「君は欲求不満みたいだから、しっかり搾り取っておこうと思ってね」
「うあ、は、はなせっ!」

 本気で抱き殺す気なのかと思ったが、抗議の言葉を紡ぐことも出来ない。
 必死で月島の手を引き剥がそうと暴れたが、元より体格差もある身だ。形勢も不利な上に拘束までされていれば、全身で暴れてもロクな抵抗にならない。
 俺を容易く組み伏せた月島の口から、低い声が落ちてくる。


「溜まっているのだろう? セフレとして、責任を持って処理しようではないか」


 これは、どうやら本気で怒っているらしい。普段から酷い鬼畜ぶりが一層増している。
 刺すような月島の視線に、きちんと反省を示さなければ、死ぬまで搾り取られるという確信が湧いた。

「ご、め……なさい、ごめんなさいぃ……ッ!」

 本気の怒りに晒され、意地も矜持もかなぐり捨てて必死で謝罪の言葉を繰り返す。
 けれども月島は薄皮一枚下に怒りを湛えた表情で、ただ俺を見下ろしていた。

「ゆる、して……っ許して、くださ……ぁ!」
「……」
「反省した、したから! お願い……っ放してぇ!」

 それでも、俺には許しを請うことしか出来ない。
 半狂乱になって髪を振り乱し、もつれた舌でただただ謝罪を重ね続けた。

 ◆

 やがて、二度、三度と立て続けに絶頂へ追いやられ、呻き声しか上げられなくなった頃。

「————ッ‼︎ ……か、は……ッ!」

 一際大きな波が訪れて、俺は瞬間的に意識を失った。

「……う、ぐぅ……ッぁ、が……!」

 多分、その一瞬は死んでいたとすら思う。
 止まっていた息と共に現実に戻った俺の前には、驚いた月島の顔とびしょ濡れになったシーツがあった。

 何が起こったか分からない。こんなことは初めてだ。
 呆然と月島に目をやれば、月島は目を丸くして、汗と体液に塗れて震える俺の身体を眺めていた。

「……驚いた。まさか、今のは潮か?」
「…………あ……?」
「君は、今まで幾人の男にその身を開発されてきたのだろうな……!」
「……う、あ…………」

 絶頂の衝撃で現実感が無く、月島の言葉が理解出来ない。しかし、月島が苛立っていることだけは何となく感じられた。

 いや、苛立ちと表現するのは正しくないかもしれない。これは、嫉妬だ。
 今まで俺を抱いてきた、名も知らぬ男たちに向けて、月島は煮えたぎった嫉妬心を向けていた。

「頼むから、もうこんな姿を、誰にも見せないでくれ……ッ!」

 珍しく感情を露わにして月島が呻く。
 完璧人間に相応しくないその歪んだ表情は、何故だか俺の心をひどく搔き乱した。
 何か、言わなくては。
 コイツにこんな顔をさせているのは俺なのだから。

「……っ、ぁ……」

 沸き上がる後悔に突き動かされて口を開いたが、乾ききった喉から零れたのは掠れた吐息のみだった。
 一度唇を閉ざし、僅かな唾を飲み込んで何とか喉を湿らせる。
 胸を突き刺すようなこの痛みを、早く言葉にして吐き出してしまいたくて仕方なかった。

「…………ごめ、なさい……っも、しないから……」
「……ああ」

 もう何度目になるか分からない謝罪の言葉を必死で口にしたところ、ようやく月島はそれを受け入れた。

 口先だけの台詞では無いことが伝わったのかもしれない。
 二度とこんなことはしないと、そう心の底から思っていた。
 手酷く抱かれたからではない。月島が晒した感情にあてられてしまっていた。

 二度とそんな顔をさせたくないと思うほどには――、

「……んッ」

 ずるりと後穴からバイブを引き抜かれ、しばらくぶりに快楽から解放される。
 未だ小さく痙攣を続けながら荒れた呼吸を整えていると、ぽつりと月島が呟いた。

「――心底、今回のことは肝を冷やしたんだ……」

 先刻までの様子が嘘のように、弱々しい言葉だった。
 見れば、ぷつりと糸が切れてしまったかのように力なく座り込んでいる。
 いつもはしゃんと伸ばしている背中を丸め、肩を落としているせいか、妙に月島が小さく見えた。

「君を満足させるためなら何でもする。だから頼む、もう危ないことはしないでくれ……」
「つ、き……しま……」

 力無く項垂れた頭にそろそろと手を伸ばす。しかし、かしゃんと鳴った鎖に阻まれた。
 その音に気付いた月島が、鍵を取り出して手錠を外す。

「何……?」

 解放された手でぐしゃりと月島の髪を掻き交ぜると、不思議そうな声が上がった。

 自分でも説明が付かない行動について聞かれても困る。ただ、無性にそうしてやりたかっただけなのだから。
 ぐちゃぐちゃになった髪の向こうに、揺れる月島の瞳が見える。
 その目を見ていられなくて、俺は月島を強引に抱き寄せた。

「篠、崎……?」

 腕の中に抱えた身体は固く強張っていたが、やがてゆっくりと力が抜けていく。
 スーツ越しにも、月島の体温と鼓動が高まっていくのが分かった。

「篠崎君……!」

 震えてくぐもった声で名を呼ばれる。
 堰を切ったように、何度も、何度も。
 更には、胸元が熱い雫で濡れていくのを感じて、俺は堪らず腕の力を強めた。

「本当に、悪かった」
「もう、今日の事は」
「違う。……お前を傷付けて、悪かった」

 月島が息を飲んで身を起こす。
 俺に負けず劣らず酷い顔をした男に手を伸ばし、先ほど乱した髪を、今度は綺麗に撫で付けてやる。
 額にかかった髪も丁寧に払い除け、ようやく元の男前が戻ってきたところで、俺はわざとらしい声を作って言った。

「俺を満足させるためなら、何でもしてくれるって言ったよな」
「……ああ」

「散々、裸で放っておかれて寒いんだよ。……温めてくれ」

 ぽかんと、月島が呆気にとられた表情を浮かべる。
 そして、聞き間違いかと思うような微かな笑い声と共に腰を抱かれた。

「まったく、君ってヤツはどこまでも……!」
「く、あ……っ!」

 性急に、熱い高ぶりが押し当てられる。
 充分に慣らされたそこは、何の抵抗も無く月島を最奥まで受け入れた。

「あ、つい……」

 今までの無機物とは異なる熱量に、うわ言のように呟く。
 月島は震える俺の身体を強く掻き抱き、ゆっくりと動き始めた。

「は……中までうねっているな」

 端正な顔を歪ませて、月島が荒い息を吐く。
 口元に流れ落ちた汗を赤い舌がぺろりと舐め取る様を見て、胸が焼けるような心地がした。
 誘われるままその顔を手繰り寄せ、深く口づける。

「つ、きしまぁ……!」

 邪魔なスーツをたくし上げ、月島の背に縋り付く。激しい動きに振り落とされそうになる度に赤い爪痕を増やしながら、必死でしがみついた。

「篠崎……ッ 」

 切羽詰まった声が耳朶を打つ。
 固く閉じていた目を開けば、欲望に満ちた瞳が俺を映していた。まばたきすら惜しむほど強く求められ、心の奥底まで貫かれる。

 だめだ、いけないと思っていても、優越感とは違う感情が胸を満たしていく。
 そんな自分を認めることは、どうしてもできなかった。


 怖かった。


 この感情を受け入れてしまえば、何もかもが変わってしまいそうで恐ろしかった。

「……ッ」
「なあ、私では、駄目か……?」

 浮かびかけた想いを打ち消そうと首を振る俺の頰に、月島の手が添えられる。
 互いの体温が混ざり合っていく感覚に、温かな涙が零れ落ちた。
 俺の目を覗き込んだ月島の瞳の奥に、劣情とは異なる熱を見てしまい、喉がつかえる。

 どうしようもなく胸が苦しかった。



「……俺は…………っ!」

 口にしようとした否定の言葉と共に、月島が俺の唇を喰らう。
 臆病さの滲む、貪るような口付けに、何も言えなくなってしまい。後はもう、どちらも言葉を発しないまま。

 やがて空が白んで来るまで、ただひたすらにお互いの熱を求め続けた。
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