相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴

文字の大きさ
上 下
7 / 69

07 不器用な狼

しおりを挟む
 何をするつもりか考える間もなく、月島が俺の性器をかぷりと口に含む。
 そのまま音を立てて吸い上げられると、腰が浮くような快感に襲われた。

「あっ、ああ……! そ、んな」

 制止しようと試みるが、上手く言葉が出てこない。いつもは油を塗ったかのように滑らかに動く舌も、酒のせいですっかり鈍ってしまっていた。
 喉の奥まで含まれると、抵抗しようという気勢まで削がれてしまう。酔いと快感に浮かされて、俺はいつしか与えられるままに快楽を享受していた。

「うあ、あぁ……うぅ」

 同じ性を持つだけあって、月島は気持ちの良い箇所を正確に把握していた。あっという間に上り詰めていくが、どうにもあと一歩絶頂には辿り着けない。

 月島の技量が問題な訳ではない。飲み過ぎているせいだった。

 そんな事情を月島が知るよしもなく。月島は一層激しく責め立ててくるが、快楽はやがて苦痛へと変わっていく。

「待て、月島ぁ、まって……ッ! おれ、イけな……ああっ!」

 途切れ途切れの抗議は全く取り合ってもらえない。快感を逃がそうと、靴下を履いたままの足でシーツをにじるが、無駄な努力に終わった。
 イけそうで、イけない。もどかしい苦しみに視界が滲んでいく。

「い、や、やだ、やだぁ……!」
「……そんなに嫌がられると、興奮するからやめてくれないか?」

 半ばぐずりながら月島の髪を握りしめていると、ようやく口が離された。
 今の言葉は皮肉なのか本気なのか分からなかったが、とにかく今しかないと必死で事情を説明する。

「おれ……俺、酒飲んでるから……い、イけなくて……!」
「ああ、それでいまいち固くならなかったのか」

 言いながら、月島が俺の性器の端を指ではじく。
 一応勃ってはいるものの、まだまだ柔らかいそれはゆるりと振れた。

「……ッ」

 小さな痛みに息を詰める。
 俺の反応に、月島は意地の悪い顔をして、鞄の中から携帯用のローションとゴムを取り出した。

「気にするな。君が勃たなくても問題はない」
「てめぇ……」

 あんまりな発言に牙を剥く。
 月島は俺の視線を無視して、唾液と先走りによってぐちゃぐちゃになった下着を奪い取り、ぞんざいに後ろへ放り投げた。それから、ローションの封を切り、どろりと溢れた液体を直接俺の下肢へと滴らせる。
 突然の冷たさに身を竦めると、微かな笑い声が聞こえてきた。どうやら確信犯のようだ。

 文句を言ってやろうと口を開いたが、見計らったかのように秘部へと指を忍び込まされて、苦情は嬌声へと変わる。

「うあ、くっ……」
「どうした、何か言いたげだな」
「冷た、あ、うあ」
「よく聞こえないのだが」
「いっ、お、ま……わざとだろ……ッ!」

 全く話を聞く気の感じられない指使いに、拳を握り締める。そっちがその気なら、こちらも肉体言語で応じるまでだ。
 力なく振るった拳はあっけなく避けられたが、言いたいことは伝わったらしい。月島は口先だけで怖がると、肩をすくめた。

「思ったより元気だね、結構飲ませたつもりだったが」
「あ……?」

 何か今、聞き逃せないことを言ったような気がする。

 送り狼。そんな言葉が脳裏によぎったが、浮かびかけた疑念は快感に流されていく。
 ぐりぐりと前立腺を押し込まれ、口元からは唾液が零れ落ちた。

「あ、ああっ」

 頭が真っ白になっていくような感覚に、背中を弓なりにしならせて喘ぐ。月島の長い指は、俺の中でばらばらに動いて快楽を生み出していくが、どうにももどかしい。
 もう少し。いや、もっと強い快楽が欲しくて仕方がなかった。

「つ、きしまぁ……!」

 もっと、と口の動きだけで伝えると、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。
 感触を確かめるように、ぐるりと内壁をなぞってから指が抜き取られる。そして軽い金属音がしたかと思うと、火照った俺の身体よりも熱いモノが体内へ突き立てられた。

「あまり煽らないで欲しいと言ったのだが」
「う、あ、熱い……!」
「我慢してくれ」

 堪らず声を上げるが、聞き入れられることはなかった。付いて行かない心とは裏腹に、慣らされた秘部は月島の欲望を易々と受け入れていく。身体の中を焼かれていくような感覚に目の前が明滅した。
 やがて月島は自身を全て収めると、性急に律動を開始する。

「ちょっ……と、待てよ……!」
「我慢なら、もう充分しただろう?」

 間近で囁いた月島の瞳はぎらぎらと輝いており、思いの外切羽詰まっていた。いつもと大差のないすました表情をしていながらも、その目と体内の熱が雄弁に物語っている。

 欲しくて欲しくて堪らない——と。

 こんな顔をさせているのは自分だと思うと、腹の奥がぞくりと疼いた。

「ははっ、余裕ない、な」
「そういう君は随分と余裕そうじゃないか、刺激が足りないのかね?」

 そう言うと月島は、性懲りもなく俺の性器へと手を伸ばしてきた。
 唾液で濡れたままの亀頭を撫でられると、忘れていた苦しみがぶり返してくる。

「あ、やめろ、や、イけないって……!」
「知ってる、先ほど聞いたからな」

 ふてぶてしく述べながらも、その手を止める気配はない。強引に引き剥がそうにも、腕に力が入らなかった。

「な、ら、触るなよぉ……ッ」
「気持ちいいのだろう?」
「ちがっ……つら……」
「こら、あまり邪魔をするな」

 抵抗しているうちに爪を立ててしまったらしく、月島が一瞬顔をしかめる。反射的に手が引っ込められて苦しみから解放されたが、それも一瞬の事だった。

 体内の熱が引き抜かれたと思うと、間髪入れずにひっくり返される。俺の背後に回った月島は、そのまま力任せに俺の腰を持ち上げて再び体内へ侵入してきた。
 体勢が変わり、より奥まで犯される感触に息が詰まる。声にならない声を漏らしていると、不意に右腕を掴み取られて後ろ手に固定された。嫌な予感がした時にはもう遅い。

「あっ、ひっ、触るなぁ……!」

 身動きを封じられた状態で性器を嬲られ、なす術もなく身悶える。集中的に亀頭を擦られ、絶頂間近の快感に襲われながらも、決して達することはできない。

「あああッイけない、イけないから……ッ」

 必死に訴えかけても手は緩まない。それどころか、嫌がる姿を見て興奮しているようにすら感じる。

「うあ、やめ、やめ……ろっ! 先ばっか……ぁ!」
「は……人に物を頼むときは、もっと言い方があるんじゃないか」
「……ッ!」

 鬼だ。顔は見えないが、月島が悪魔のような笑みを浮かべていることは分かった。
 ぐっと唇を噛み締めて黙り込むと、わずかに爪が立てられる。

「それとも、もっと虐めて欲しかったのか? 気が付かなくて悪かった」
「違っ、あああッ!」

 忘れかけていた後ろの動きが再開される。ごりごりと前立腺を突き上げられ、もはや悲鳴に近い喘ぎ声が絞り出されるが、手心を加えてくれる気配はない。
 月島は跳ねる俺の身体を抑えつけると、乱暴にシャツを引き下げて肩口に歯を立てた。

「ひ、ひいっ、ひあ……! 痛……っ!」
「満更でもなさそうじゃないか」

 くっきりと残った歯型をぺろりと舐め、あちこちに所有の跡を残していく。随分と好き勝手しているが、そんな些細なことに構っていられるだけの余裕はなかった。
 前からも後ろからも執拗に責められ、頭の中は快楽で一杯だ。零れ落ちる涙もそのままに、ただただ喘がされる。
 悲鳴が泣き声へと変わっていくのに、それほど時間はかからなかった。

 もう、限界だ。

「つき、しまぁ……ッ!」
「……何だね」

 振り返って悪魔の名を呼べば、月島はややペースを落として聞く姿勢をとった。

「頼む……から、も……やめてくれ……!」

 小さく懇願すると、月島は優しく微笑んでこう言った。

「嫌だね」と。
 しばし、発せられた言葉の意味が理解出来なかった。じわじわと月島の言葉が脳に染み込んでいくと同時に、顔が紅潮していくのを感じる。
 ……信じられない。

「う、嘘吐き……ひっ!」
「別に嘘を吐いてなどいない、私は君の態度を正しただけであって——」

 そこで月島は一度言葉を区切り、歯を見せて獰猛に笑った。

「丁寧に頼めばやめてやるなど、一言も言っていない」
「~~っ!」

 言葉も出なかった。とんだ外道である。
 まんまと月島の手のひらで踊らされた悔しさに歯噛みするが、相手はいつまでも待ってくれるような男ではなかった。

「く、そ! 鬼畜野郎! はなせ、んう……!」
「酷い言われようだな」

 くすくすと軽く笑っているくせに、その動きに一切の慈悲は無い。俺は掠れた声で悪態の限りを吐きながらも、あっという間に追い詰められ、待ち望んだ絶頂に身を委ねた。

「んあ、ああああッ! ひっ、ひい……ッ!」
「っは、締まるな……」

 全身を痙攣させて恍惚としていると、咥え込んだ熱も共に弾けるのを感じた。
 これでやっと解放される。そう思ったが、未だ俺の性器を嬲り続ける月島の指に意識を引き戻された。

「ああ、あ、イったから……! も……」
「こっちはまだ出してないだろう?」
「ひあ、ああ、ううぅ……ッ!」

 これだけ蹂躙しても物足りないのか、達したばかりで敏感になっている全身を撫で回される。いつの間にか俺の右手は解放されていたが、もはやシーツに縋りつくことしかできなかった。
 強すぎる快楽に言葉を紡ぐこともままならず、それでも何とか苦しみから逃れたくて、ぐずる子どものように首を横に振る。

「うぐ、うう、うううっ……!」
「いい加減、酒も抜けてきただろう」

 月島の言う通り、酔いも醒めてきていた。
 しかしそれでも達することが出来ず、先走りばかりがぽたぽたとシーツに染みを作っていく。一体、この男は何処まで嬲れば気が済むのだろうか。

「あ、ぐ……! ————ッ! ひああっ、ああッ!」

 やっとの思いで絶頂を迎えるが、焦らされていたせいか、なかなか波が引かない。月島の手の動きにそって、次から次へと白濁が溢れ出してくる。
 狂ったように嬌声を上げながら、延々と終わらない絶頂に恐怖を覚える。

「つき、しま、つきしまぁぁ……!」
「篠崎」

 不安な気持ちに追い立てられ、縋るように月島の名を呼ぶ。情けない痴態を嘲笑われるかと思ったが、意外にも月島は優しく口付けてきた。

 柔らかく触れるだけのキスが思いの外心地よくて、俺は目を閉じ——そのまま意識を手放した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...