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06 不穏な祝勝会
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「……」
「何かな?」
「何の用か聞きたいのはこっちだよ」
先程まで俺が座っていた席は月島に占領されてしまったため、渋々神原の隣に腰かける。
一気に酔いの醒めた俺たちを尻目に、闖入者は悠々と梅酒を傾けていた。
「なに、大した理由ではないよ。偶然立ち寄った店で知り合いを見つけたものでね。挨拶くらいしておこうかと思って」
「一人で焼肉しに来るヤツがあるか。帰れストーカー」
「あっ、じゃあ僕お邪魔みたいなので帰りますね」
「待て、俺を一人置いてくな!」
『天敵』同士の険悪な空気に耐えかねた神原が腰を浮かしかけるが、すかさず腕を掴んで引き留める。こちらを向いた神原の顔には、「逃げたい」とはっきり書かれていた。
「絶対嫌ですよ、お二人の間に挟まれるなんて!」
「お前裏切らないって言っただろ!」
「これはちょっと保証対象外ですかね」
「コイツと二人きりにするなんて良心は痛まないのか!」
「その言葉そのままお返ししますよ……っ」
ぎりぎりと攻防を繰り広げる俺と神原を余所に、月島は平然と肉を焼いている。その姿を見て何だか馬鹿馬鹿しくなった俺は、神原を飯で買収し、ひとまず腰を落ち着けた。
「…………それで?」
「ん?」
「何の用だよ。聞いてやるからさっさと話してとっとと失せろ」
手元の酒を呷って気を取り直し、月島に向き直る。
キンキンに冷えた度の強い日本酒が喉を焼く感覚に思わず唸った。
(俺、日本酒のロックなんか頼んでいたか?)
想定外のことに驚いたが、存外美味かったので良しとする。今度はちびりと舐めるようにして、じっくりと味わいながら月島の言葉を待った。
我が物顔で肉を食んでいた月島は、俺の問いかけも気にせず咀嚼を続けると、しっかり嚥下してから口を開いた。
「話ならもう終わったよ。そこの神原君に用があったものでね」
「ああ⁉︎」
思いがけない返答に腰を浮かしかけるも、今度は俺が神原に引き留められた。
しっかり釘を刺したにも関わらず、また誘いに来たのか。問い詰めるように神原の目を覗き込むと、何故か気まずそうに目を反らされた。
「いや、篠崎先輩が心配しているような話じゃなかったんですけど」
「じゃあ何だったんだ」
「ちょっと、僕の口からは……」
「は?」
神原に釣られて月島の方を見ると、我関せずと言った顔でピーマンをついばんでいた。
この男、マイペース過ぎやしないか。
「なんてことのない、つまらない話をしたまでだよ」
「……」
神原は、何とも言えない表情をしている。
コイツが俺に話せないということは、月島のプライベートに関わるような話だと予想はつくのだが、内容は皆目見当もつかない。
「その顔はどういう意味だよ……」
「いつか月島さんから直接聞いてください」
「そんな日が来るとも思えないがね」
「……」
二人とも、梃子でも話す気は無さそうだった。
仕方がないので追及を諦めて飲み直す。酒でも飲んでいなければやっていられなかった。
しばらく個室には肉の焼ける音だけが響いていたが、そんな気まずい空気を壊すように店員が顔を覗かせた。その手には俺の好きな銘柄の一升瓶を抱えている。
そのまま置いて行ってしまったが、注文した覚えはない。薄っすら霧がかってきた思考の中でも、流石にそれは理解できた。
「あれ、俺頼んでないよな」
「私が入れておいた。邪魔をしてしまったせめてものお詫びだよ。さあ飲んでくれ」
言ったそばから月島はボトルを開け、こちらに差し出してくる。
物で釣られているような気がしたが、口を開けてしまった以上、飲まなくてはもったいない。俺は手元のグラスを空にすると、月島へと突き出した。
空のグラスはすぐに透明の液体で満たされていく。この男の酌で酒を飲むことには抵抗があったが、酒に罪はないので素直に飲み干すことにした。
やはり美味い。自然と頬がほころぶ。
現金な話だが、酒と肉を前にしては不機嫌も続かなかった。
「っああ、やっぱり美味いな」
「いい飲みっぷりじゃないか。どれ、もう一杯飲むといい」
月島に促され、すぐさま二杯目に取り掛かる。
徐々に酒に溺れていく俺を、神原が心配そうな目で見詰めていた。
「せ、先輩? ほどほどにしておいた方がいいですよ」
「神原君も遠慮せずに、ほら」
「え、いや僕は……」
「そう言わず飲んでみろって。お前、日本酒いけたよな?」
逃げ腰な神原を捕まえてグラスを握らせると、間髪入れずに月島が酒を注ぎ込んだ。
神原は往生際悪く、「ここで酔いつぶれたら先輩が」などとよく分からないことを呟いていたが、徐々に誘惑に負けてグラスを口元へと近付けていく。
そして遠慮がちに一口啜ると、恍惚と天を仰いだ。
「美味しい……!」
「そうだろ、美味いだろ?」
「ああ駄目だ、美味しい……すいません先輩、お酒には勝てなかったです……っ」
神原は何故か罪悪感に苛まれながら飲み進めていく。それを不思議に思いつつも、理由を考えるだけの思考能力は残っていなかった。
もし、俺が酔っていなかったらすぐに気付けただろう。
一升瓶を調子よく傾けている月島本人は、すでにグラスを持ってすらいないことに。
◆
「…………あ?」
気が付くと、タクシーに揺られていた。
隣には月島の姿も見える。眠りこける前のことを思い出そうとしたが、どうにも上手くいかなかった。
「起きたか。今、神原君を送り届けたところだ。君の家まではもう少しかかるだろう」
「そ……」
話している内に、ぼんやりと記憶が蘇ってきた。あれから散々飲んだ俺と神原は見事に酔い潰れ、月島の手によってタクシーに放り込まれたのだった。
まだぐるぐると回る頭を抱えてうなだれていると、タクシーが停車した。
月島は会計を済ませ、俺を抱えて降車する。地面に足がついたので自力で立ち上がろうと試みたのだが、身体が全く言う事を聞いてくれなかった。我ながらどれだけ飲んだのか。
結局、崩れ落ちそうになったところを月島に支えられ、そのまま抱え上げられてしまった。所謂、お姫様抱っこというヤツだ。
「随分と酒が回っているな。君がそんなに酩酊しているのは初めて見たよ」
「うう……」
恥ずかしさで文句を言ってやりたい気分だったが、運んでもらっている手前何も言えない。
「部屋は?」
「……五〇一」
「鍵は?」
「んー……」
回らない頭と舌では、部屋の番号を伝えるのが精一杯だった。指紋認証式のエントランスを抜け、エレベーターで五階まで上がると、部屋の前で一度床に降ろされる。
「失礼するよ」
鍵を探しているのか、月島の冷えた指が身体のあちこちをまさぐっていく。
極めて事務的な手付きだったが、嫌でもあの夜のことが思い出され、妙な気分になってしまいそうだった。
努めて無心でやり過ごそうとしていたが、胸ポケットに手を突っ込まれて、開きっぱなしの口から吐息が零れる。
「う、あ」
月島の手が一瞬止まる。
しかし、すぐに気を取り直したらしい。今度は内ポケットに手を突っ込むと、ようやく鍵を発見した。
月島は無言で部屋の鍵を開けると、再び俺を抱き上げる。そのまま玄関に放り込まれるかと思いきや、月島は靴を脱いで部屋の奥へと歩を進めた。
「寝室は……こちらか」
「ん……」
御丁寧に寝室まで運び込んでくれたようだ。割れ物を扱うかのような慎重さでベッドに下ろされて、身を包む柔らかい感触に安堵する。
半ば無意識に布団に潜り込もうとしたが、脚を掴まれて動きを止めた。
「こら、靴を渡したまえ」
妙に優しい声色で叱咤され、俺は素直に足を差し出した。
俺の靴を脱がせた月島は、微かに笑って玄関へと消えて行った。今度こそ帰ったのだろう。そう思っていたのだが、再び足音が近付いてくる。
どうやら、もう少し世話を焼いてくれるようだ。
「さんきゅ……」
月島は、俺のシャツを寛げた後、ネクタイや上着、ベルトなどを次々と剥ぎ取っていく。
しかし、その手付きはお世辞にも手際が良いとは言えない。
俺は月島の意外な弱点を見つけた気がして小さく笑った。
「不器用なヤツ」
「……っ」
俺の何気ない一言で、月島は狼狽してベルトを取り落とした。それから少しして、遠慮がちに問いかけてくる。
「……手際が悪い、と?」
「ん? あぁ。ネクタイ解くのにどれだけ時間かけるんだよと思って」
「——そうか」
けらけらと笑う俺を余所に、月島は何やら安心したように息を吐いていた。他にどんな意味があると思ったのだろう。
不思議に思ったが、俺の思考は唐突に走った快感によって遮られる。
見れば、月島が俺のスラックスに手をかけていた。ボタンが上手く外せず、布の擦れる感触が緩い刺激となっていた。
「おまえ……ちょ、手……っ」
「動くな、すぐ外せるから」
「いいってば……!」
「スーツが皺になるだろう。……よっと」
力ない抵抗は軽々と抑えつけられ、スラックスが引き下ろされる。
露になった下半身は、下着越しにも反応を示していることが目に取れた。
「おや、感じてしまったかね?」
「うるせ、見んなよ……!」
蹴りの一つでもお見舞いしてやろうとしたが、スラックスが絡まって身動きが取れない。
じたばたともがいてると、見かねた月島がスラックスを抜き取り、手近な椅子へと投げ掛けた。
そして、何故か自身も上着を脱ぎ、同じように椅子に投げる。
「月島?」
「それは私のせいなのだろう? なら、私が責任をとろうではないか」
「何かな?」
「何の用か聞きたいのはこっちだよ」
先程まで俺が座っていた席は月島に占領されてしまったため、渋々神原の隣に腰かける。
一気に酔いの醒めた俺たちを尻目に、闖入者は悠々と梅酒を傾けていた。
「なに、大した理由ではないよ。偶然立ち寄った店で知り合いを見つけたものでね。挨拶くらいしておこうかと思って」
「一人で焼肉しに来るヤツがあるか。帰れストーカー」
「あっ、じゃあ僕お邪魔みたいなので帰りますね」
「待て、俺を一人置いてくな!」
『天敵』同士の険悪な空気に耐えかねた神原が腰を浮かしかけるが、すかさず腕を掴んで引き留める。こちらを向いた神原の顔には、「逃げたい」とはっきり書かれていた。
「絶対嫌ですよ、お二人の間に挟まれるなんて!」
「お前裏切らないって言っただろ!」
「これはちょっと保証対象外ですかね」
「コイツと二人きりにするなんて良心は痛まないのか!」
「その言葉そのままお返ししますよ……っ」
ぎりぎりと攻防を繰り広げる俺と神原を余所に、月島は平然と肉を焼いている。その姿を見て何だか馬鹿馬鹿しくなった俺は、神原を飯で買収し、ひとまず腰を落ち着けた。
「…………それで?」
「ん?」
「何の用だよ。聞いてやるからさっさと話してとっとと失せろ」
手元の酒を呷って気を取り直し、月島に向き直る。
キンキンに冷えた度の強い日本酒が喉を焼く感覚に思わず唸った。
(俺、日本酒のロックなんか頼んでいたか?)
想定外のことに驚いたが、存外美味かったので良しとする。今度はちびりと舐めるようにして、じっくりと味わいながら月島の言葉を待った。
我が物顔で肉を食んでいた月島は、俺の問いかけも気にせず咀嚼を続けると、しっかり嚥下してから口を開いた。
「話ならもう終わったよ。そこの神原君に用があったものでね」
「ああ⁉︎」
思いがけない返答に腰を浮かしかけるも、今度は俺が神原に引き留められた。
しっかり釘を刺したにも関わらず、また誘いに来たのか。問い詰めるように神原の目を覗き込むと、何故か気まずそうに目を反らされた。
「いや、篠崎先輩が心配しているような話じゃなかったんですけど」
「じゃあ何だったんだ」
「ちょっと、僕の口からは……」
「は?」
神原に釣られて月島の方を見ると、我関せずと言った顔でピーマンをついばんでいた。
この男、マイペース過ぎやしないか。
「なんてことのない、つまらない話をしたまでだよ」
「……」
神原は、何とも言えない表情をしている。
コイツが俺に話せないということは、月島のプライベートに関わるような話だと予想はつくのだが、内容は皆目見当もつかない。
「その顔はどういう意味だよ……」
「いつか月島さんから直接聞いてください」
「そんな日が来るとも思えないがね」
「……」
二人とも、梃子でも話す気は無さそうだった。
仕方がないので追及を諦めて飲み直す。酒でも飲んでいなければやっていられなかった。
しばらく個室には肉の焼ける音だけが響いていたが、そんな気まずい空気を壊すように店員が顔を覗かせた。その手には俺の好きな銘柄の一升瓶を抱えている。
そのまま置いて行ってしまったが、注文した覚えはない。薄っすら霧がかってきた思考の中でも、流石にそれは理解できた。
「あれ、俺頼んでないよな」
「私が入れておいた。邪魔をしてしまったせめてものお詫びだよ。さあ飲んでくれ」
言ったそばから月島はボトルを開け、こちらに差し出してくる。
物で釣られているような気がしたが、口を開けてしまった以上、飲まなくてはもったいない。俺は手元のグラスを空にすると、月島へと突き出した。
空のグラスはすぐに透明の液体で満たされていく。この男の酌で酒を飲むことには抵抗があったが、酒に罪はないので素直に飲み干すことにした。
やはり美味い。自然と頬がほころぶ。
現金な話だが、酒と肉を前にしては不機嫌も続かなかった。
「っああ、やっぱり美味いな」
「いい飲みっぷりじゃないか。どれ、もう一杯飲むといい」
月島に促され、すぐさま二杯目に取り掛かる。
徐々に酒に溺れていく俺を、神原が心配そうな目で見詰めていた。
「せ、先輩? ほどほどにしておいた方がいいですよ」
「神原君も遠慮せずに、ほら」
「え、いや僕は……」
「そう言わず飲んでみろって。お前、日本酒いけたよな?」
逃げ腰な神原を捕まえてグラスを握らせると、間髪入れずに月島が酒を注ぎ込んだ。
神原は往生際悪く、「ここで酔いつぶれたら先輩が」などとよく分からないことを呟いていたが、徐々に誘惑に負けてグラスを口元へと近付けていく。
そして遠慮がちに一口啜ると、恍惚と天を仰いだ。
「美味しい……!」
「そうだろ、美味いだろ?」
「ああ駄目だ、美味しい……すいません先輩、お酒には勝てなかったです……っ」
神原は何故か罪悪感に苛まれながら飲み進めていく。それを不思議に思いつつも、理由を考えるだけの思考能力は残っていなかった。
もし、俺が酔っていなかったらすぐに気付けただろう。
一升瓶を調子よく傾けている月島本人は、すでにグラスを持ってすらいないことに。
◆
「…………あ?」
気が付くと、タクシーに揺られていた。
隣には月島の姿も見える。眠りこける前のことを思い出そうとしたが、どうにも上手くいかなかった。
「起きたか。今、神原君を送り届けたところだ。君の家まではもう少しかかるだろう」
「そ……」
話している内に、ぼんやりと記憶が蘇ってきた。あれから散々飲んだ俺と神原は見事に酔い潰れ、月島の手によってタクシーに放り込まれたのだった。
まだぐるぐると回る頭を抱えてうなだれていると、タクシーが停車した。
月島は会計を済ませ、俺を抱えて降車する。地面に足がついたので自力で立ち上がろうと試みたのだが、身体が全く言う事を聞いてくれなかった。我ながらどれだけ飲んだのか。
結局、崩れ落ちそうになったところを月島に支えられ、そのまま抱え上げられてしまった。所謂、お姫様抱っこというヤツだ。
「随分と酒が回っているな。君がそんなに酩酊しているのは初めて見たよ」
「うう……」
恥ずかしさで文句を言ってやりたい気分だったが、運んでもらっている手前何も言えない。
「部屋は?」
「……五〇一」
「鍵は?」
「んー……」
回らない頭と舌では、部屋の番号を伝えるのが精一杯だった。指紋認証式のエントランスを抜け、エレベーターで五階まで上がると、部屋の前で一度床に降ろされる。
「失礼するよ」
鍵を探しているのか、月島の冷えた指が身体のあちこちをまさぐっていく。
極めて事務的な手付きだったが、嫌でもあの夜のことが思い出され、妙な気分になってしまいそうだった。
努めて無心でやり過ごそうとしていたが、胸ポケットに手を突っ込まれて、開きっぱなしの口から吐息が零れる。
「う、あ」
月島の手が一瞬止まる。
しかし、すぐに気を取り直したらしい。今度は内ポケットに手を突っ込むと、ようやく鍵を発見した。
月島は無言で部屋の鍵を開けると、再び俺を抱き上げる。そのまま玄関に放り込まれるかと思いきや、月島は靴を脱いで部屋の奥へと歩を進めた。
「寝室は……こちらか」
「ん……」
御丁寧に寝室まで運び込んでくれたようだ。割れ物を扱うかのような慎重さでベッドに下ろされて、身を包む柔らかい感触に安堵する。
半ば無意識に布団に潜り込もうとしたが、脚を掴まれて動きを止めた。
「こら、靴を渡したまえ」
妙に優しい声色で叱咤され、俺は素直に足を差し出した。
俺の靴を脱がせた月島は、微かに笑って玄関へと消えて行った。今度こそ帰ったのだろう。そう思っていたのだが、再び足音が近付いてくる。
どうやら、もう少し世話を焼いてくれるようだ。
「さんきゅ……」
月島は、俺のシャツを寛げた後、ネクタイや上着、ベルトなどを次々と剥ぎ取っていく。
しかし、その手付きはお世辞にも手際が良いとは言えない。
俺は月島の意外な弱点を見つけた気がして小さく笑った。
「不器用なヤツ」
「……っ」
俺の何気ない一言で、月島は狼狽してベルトを取り落とした。それから少しして、遠慮がちに問いかけてくる。
「……手際が悪い、と?」
「ん? あぁ。ネクタイ解くのにどれだけ時間かけるんだよと思って」
「——そうか」
けらけらと笑う俺を余所に、月島は何やら安心したように息を吐いていた。他にどんな意味があると思ったのだろう。
不思議に思ったが、俺の思考は唐突に走った快感によって遮られる。
見れば、月島が俺のスラックスに手をかけていた。ボタンが上手く外せず、布の擦れる感触が緩い刺激となっていた。
「おまえ……ちょ、手……っ」
「動くな、すぐ外せるから」
「いいってば……!」
「スーツが皺になるだろう。……よっと」
力ない抵抗は軽々と抑えつけられ、スラックスが引き下ろされる。
露になった下半身は、下着越しにも反応を示していることが目に取れた。
「おや、感じてしまったかね?」
「うるせ、見んなよ……!」
蹴りの一つでもお見舞いしてやろうとしたが、スラックスが絡まって身動きが取れない。
じたばたともがいてると、見かねた月島がスラックスを抜き取り、手近な椅子へと投げ掛けた。
そして、何故か自身も上着を脱ぎ、同じように椅子に投げる。
「月島?」
「それは私のせいなのだろう? なら、私が責任をとろうではないか」
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