1 / 2
1話「儀兄弟の日常」
しおりを挟む
この世界の中で1位2位を争う
繁栄力を持つ北の帝国首都ルミナサネ。
どの国よりも莫大な資産と強力な軍事力を持ち
何より色んな国から優秀な人材が訪れ
常に新たな技術を追求し争いのない
平和な国を作る事を目標にしている国。
そんな国で暮らす1人の青年がいた
「……これは食べれそうにないな……」
パンパンになり今にも破裂しそうになってる
鉄製のゴミ箱を覗きながら小さな溜息をつく
「あ、これは食べれそうだ」
悪臭のするゴミ箱に手を突っ込み中を
掻き分けてると少しカビが生えた食べかけの
サンドイッチらしき物を見つける
「半分にしても充分腹に溜まるな」
ゴミ箱から引き抜いたサンドイッチを
左手に持っていたボロボロな布袋に入れる
「今日の分はこれで足りそうかな……」
袋に入ってるゴミ箱に捨てられていた
汚い食べ物の数々を見ながら呟く
「うわっ……また居るよアイツ……」
「仕方ねぇだろ。アイツは身寄りが無いし
金もないからあぁするしかねぇんだよ」
「……聞こえてんだけどなぁ」
俺達の家に帰ろうとすると俺の身なりや境遇を
哀れるも小馬鹿にする話し声が聞こえる。
だけど仕方ない。全て本当の事なのだから
俺は約8歳から前の記憶が全く無い。
気付いたらこの国の人気が無い場所で
1人ポツンと佇んでいた。誰から産まれたか。
何処に住んでたのか。色んな記憶が無かった。
そんな状態で生きていく為にはさっきの様に
捨てられた残り物を漁りそれを食べるしかない。
そんな暮らしが早5年近く続いている。
5年もこんな暮らしをしていれば国の人に
悪い意味で認知されるのは当たり前の事だ
「とりあえず帰ろ……兄さんも待ってるし」
俺には兄さんと呼べる存在がいる。
勿論血の繋がった兄弟では無く義兄弟だ。
自我が芽生え行く宛ても頼る人もいなく
途方に暮れるしかなかったそんなある日の話
今から4年前。住み着けそうな場所もなく
休息も飲食もまともに出来ず廃墟の壁に
もたれ掛かり死を待っていた冬の日の事
「あ、見ろよあれ。まだ生きてるぜ?」
「ホントだ~!さっさと死ねばいいのに~!」
「いっそここら辺の石投げて殺っちゃう?」
「いいじゃーん!殺っちゃお!」
そんな会話と共に次々と石が投げ付けられる。
顔や胴体に当たるのもあれば後ろの壁に
当たるのもありその大きさや強さも様々だ
「なんか反応しろよゴミ!」
「もしかして死んでるんじゃな~い?」
「まぁいいや!さっさと帰ろうぜ!」
しばらくすると下品な笑い声を上げながら
石を投げてた奴らはどこかに去っていく
「なぁ……お前、大丈夫か?」
「……?」
石を投げられるのも罵倒を浴びせられるのも
いつもの事。だけどその日は少しだけ違った
肩を軽く叩かれた俺は俯けていた顔を上げる。
その視線の先には俺と同じ歳位の男がいた
「うわっ頭から血出てるじゃん!?」
「血……?」
額を触るとヌチャッとした赤い液体が手に付く
「……気にしなくていい。いつものk」
「動くなよ!俺が治してやるからさ!」
男は俺の前で屈み右手を額に添える
「なっ……!?何を……!?」
「動くなって!大丈夫だから!」
男の謎の行動に戸惑ってると突然血が
流れていた所が暖かくなっていく。
それどころか体全体が毛布に包まれてる様な
暖かさがひしひしと伝わってくる
「…………うん!これで大丈夫!治った!」
「治った……?」
もう一度額に触れてみるとさっきの
ヌチャッとした感覚は一切ない
「……何をしたんだ?」
「何って……魔法だけど?」
「マホウ………?」
初めて聞く単語が頭の中に渦巻く
「なんだそれ……初めて聞いた……」
「はぁ?常識的な事だぞ?」
「……そのマホウ?と言うのを教えてくれ」
「変な奴だなぁ……まぁいいけど」
男は俺の隣に座ると両掌を広げる。
すると何もしてないのに小さな火の玉が
掌の上にボッ!いきなり現れる
「どうだ?すごいだろ!」
「あ、あぁ……どうやって炎を……?
何もしてないし持ってないのに……」
「体内には魔力って言う不思議な力がある。
その魔力を使ってお前の怪我を治したり
この炎の玉を生み出しているんだよ」
「その……魔力?てのは俺にもあるのか?」
「勿論生きてる人は全員持ってるさ。
老若男女、種族問わずにな」
魔法……そんな凄い物があるなんて
今まで全然知らなかった……
「それよりさ。こんな所で何してたんだ?」
「え?」
「え?じゃねぇよ。こんな真冬にそんな
薄着で廃墟の壁にもたれてるなんて
それ相応の理由とかあるんじゃねぇの?」
「……ただ……住む場所が無いだけだ」
俺は男に今までの事を話した。
自我が芽生えた時から人気の無い場所で
佇んでた事。まともに飲食出来てない事。
住み着ける場所がなくここで死ぬまで
ボーッとしようとしていた事等を
「な~んだ。つまり俺と同じ感じか」
「同じ……?」
男は立ち上がると俺に笑顔を向ける
「実は俺も帰る場所のない人間でさ。
今はこの近くにあるゴミ捨て場に無断で
住んでるんだ。ここで会ったのも
何かの縁だしさ……一緒に暮らさないか?」
今1度見てみると確かに男の服装は
俺と似て穴だらけ傷だらけの服で
髪もボサボサで匂いもまぁ酷い
そんな男が笑顔で俺に手を差し伸べている
「……良いのか?俺に出来る事は少ないし
お前の負担が増える事になるんだぞ……?」
「んな事気にすんなって!ほら!」
「……ありがとう」
俺は男の手を握り立ち上がる
「そうと決まれば早く帰ろうぜ!
あ、俺の名前はアベル!お前は?」
「……アルグ。よろしく……アベル」
「おう!よろしくなアベル!」
その後。俺はアベルが住む場所に向かう道中で
色んな事を聞いた。通貨や言葉等日常的に
使う物から魔法や存在する種族等の常識。
そして俺達の様な小さな子供が生きる為の方法。
聞いた時は心底驚いたものだ。裕福か人達が
捨てた物を取ったり隙を見て店から盗んだり
俺にとって全てが目新しく新鮮な事だった
何より死を待つことしか出来なかった俺に
貧しく苦痛ながらも生きる気力と生きる楽しさを
教えてくれたアベルには感謝しきれない
アベルと出会い半年が過ぎた頃。
俺は疑問に思っていた事を聞いてみた
「アベルは何で今の状況になったんだ?」
「んぇ?」
その日、俺達はゴミ捨て場に捨てられていた
穴だらけのテントの中でゴミ箱から拾った
鶏肉の丸焼きの残り物を食べていた
「ほら……アベルは俺みたいな奴にも
優しいし頭も良いし魔法だって上手い。
なのにこんな暮らしをしてる理由が知りたい」
アベルと暮らした半年の中で
幾つか分かった事がある。
1つはアベルは俺より2つ年上だと言う事。
俺が8歳でアベルが10歳。同い年なのに
頼りになるなと思っていたが年上だった。
いや10歳でも頼もしい人はいないだろうが
2つはアベルは魔法の才能があると言う事。
この世界には色んな種族、魔法が存在し
種族事に扱い易い魔法が決められているらしい。
人間は全ての魔法を平均並みに使えるし
魚人と呼ばれる存在は水の魔法が得意らしいが
アベルはどの種類の魔法も得意なのだ
とまぁアベルと過ごす内に色んな事を
知ったがアベルがこの暮らしを
する羽目になった理由を俺はまだ知らない
「ん~……俺が産まれたばっかの事だけど
俺が住んでた場所戦争に巻き込まれてさ。
今じゃ跡形もなく焼け野原になってるんだ」
「戦争……」
「属国だった王国はあまり豊じゃなかった。
なのに戦争する羽目になって滅んだ。
俺は母さん達が婆ちゃんと一緒に
逃がしてくれたから助かったんだよ。
まぁその婆ちゃんも数年前に死んだけどな。
1人になって生きる為に売れる物は
全部売って……まぁそんな経緯だよ」
過去を語るアベルの表情はかなり暗く
少しだけ体が震えている
「……ごめん」
「気にすんなっての!過去の事だ!
それに今が幸せならそれでいい!」
「……ポジティブだな」
「こうでもないと生きていけないよ」
鶏肉の丸焼きをペロッと食べ終わると
アベルはボロい皮袋を持って腰を上げる
「じゃあ明日の分の飯を探してくるよ」
この半年、俺はアベルに頼りきっていた。
水は魔法で何とかなるが魔法を使うにも
体力がいる。魔法を使う程体力を消耗し
疲れが溜まるのであまり使う事はできない。
その為自分達で飲食を調達すべきなのだが
俺はこの国の地形をあまり知らなく
探索は全てアベルに任せきっていた
だけど今の話を聞いて心が決まった。
いつまでこのままじゃ申し訳ない。
俺も、アベルの力になりたいって
「俺も着いていくよ」
「うぇ?」
「荷物持ちは多い方がいいだろ?
それにいつまでもお前に頼るのも
申し訳ないし……ダメか……?」
「ダメじゃねぇよ!じゃあ一緒に行くか!」
アベルはいつも以上に笑顔になり
俺の手を強く引っ張りながら走り出す
「うわっ!?ちょ、早い!」
「あっはは!ほらほら行くぞ!」
その日から……いや、その日より前から
俺にとってアベルは憧れで目標で
人生の中で1番大切な存在だって事を
強く……強く……思い知らされた
「兄さんと会った日……懐かしいなぁ……」
帰路を歩きながら兄さんと
会った日の事を思い出す
「お~い!アルグ!」
歩いていると正面から声をかけられる。
顔を上げるとある人物が手を振っている
「兄さん!」
それは俺の恩人であり義兄弟のアベル。
アベルは手を振りながら走って近付いてくる
「やっと帰ってきたな。遅かったなぁ」
「ごめんごめん。その代わりどっさり
食べれそうな物を持って帰ってきたからさ」
「お、それは楽しみだ!」
アベルと出会って5年。俺もアベルも
5年前と比べそれなりに成長している。
アベルは肩まである髪を後ろで纏め
模様すら見えない程に茶色に染まった
ポンチョを着こなしている
対して俺の髪は腰辺りまで伸びており
前髪も胸辺りまで伸びてしまっている。
服はほとんど兄さんのお下がりで
今は傷がほとんど付いてない布製の
シャツとズボンを着用している
兄さんと雑談しながらゴミ捨て場まで
帰ってくると地面に敷かれた大きな布の
上に座り俺が持っていた袋から食べ物を出す
「これだけあれば3日位は飢えをしのげるかな」
「量は多くても食べかけばっかだからな」
袋から食べ物が次々出てくるが全て
誰かの食べ残し。腹に溜まる物は少ない
「あ、喉乾いてるだろ?水持ってくるよ」
現時刻は……6時前。昼前から食料を
探していたから疲労は溜まっているし
喉もカラカラ。そんな俺を見た兄さんは
テントの中から木製の小さいコップを
持ってきて手渡してくれる
「ありがと兄さん」
中にはコップの半分まで入った濁った水。
これは雨水だ。雨の日にコップを外に
起きまくって溜めて少しづつ飲む。
魔法で清潔な水を出す事もできるが
ただでさえ不健康で一日生きる事すら
危ういこの状況で魔法を使う気は起きない
貰った水を無駄にしないよう
少しづつ飲んでいき少しだけ
喉が潤った所で口を離す。
中にはさっき入ってた量の
更に半分の量が残っている
「やっぱり水を飲むと生き返るよな」
「間違いねぇ。雨水なのが残念だけどさ」
その後も下らない雑談を交わしながら
ゴミ箱から取った物を食べて飢えを凌ぐ。
そうしていつの間にか夕日が沈み
空には星と月が見え始めていた
「あれ?兄さんまたその箱弄ってんの?」
就寝時間も近くなり俺達はテントの中で
眠気が来るまでゆっくりしていた。
「んぉ?なんだよ悪いか?」
「そんな事一言も言ってないだろ?
ただ毎日弄ってるなって思っただけ」
兄さんの手に握られてるのは横に長く
鍵穴が着いた木箱。ここ最近兄さんは
ずっとあの木箱を触っている
「こん中には俺の宝物が入ってんだよ。
中身は教えれないけどこれは俺の人生で
かけがえのない……大事な物なんだ」
「知ってる知ってる。何回も聞いたよ」
あの箱には何が入ってるのか少々気になる。
何度頼んでも兄さんは絶対見せてくれないし
俺も絶対見たいって訳ではないけど
ホントに何が入ってんだあの箱……
そんな事を考えてると突然兄さんが立ち上がる
「……どうした?」
「いや……誰か入ってきた」
「へ?ここに?」
「あぁ。少し様子を見てくる」
こんな時間にこんな場所に来る人が?
今までそんな事一切無かったのに……
「だったら俺m」
「いや、お前はここに残ってろ」
立とうとすると兄さんが肩に手を置いてくる
「凄く……嫌な予感がする」
「兄……さん……?」
「とにかく、待ってろ」
見たとこない程真剣な表情で。
聞いた事ない程真面目な声で言われる
「……わか、た」
兄さんの言う通り腰を下ろす
「じゃ、行ってくる」
「う、うん……行ってらっしゃい」
謎の不安感に包まれながらも兄さんが
外に出ていく後ろ姿を眺める
「……や、やっぱり俺も!」
1度は納得したが兄さんが出た瞬間
不安感が大きくなり俺に動けと命じる。
兄さんは待ってろと言ったけど何故か
今日だけは指示を聞いてはいけない気がした
兄さんに遅れないよう慌てて外に出たその時。
信じられない光景を目の当たりにした
「チッ……もう1人いたのか…………」
「……え?」
テントから少し離れた場所で
兄さんは立っていた。その胸に
大きな風穴を開けて……
「兄さん…………?」
俺の呼び掛けに答えることは無く
兄さんの体はゆっくり前に倒れる
「お前………………誰……だ……?」
兄さんが倒れた先にいるのは真っ白な仮面を
着けた謎の人物。暗くてそれ以外見えないが
白い仮面には赤い液体が着いている
「お前が……兄さんを……?」
信じられない。信じたくない光景。
俺はふらつきながら倒れている兄さんに近付く
そして脳に焼きつかされる。胸に穴が空き
出血は止まる事を知らず溢れ続けている
「な……なん、で……兄さん……!」
膝を着き兄さんの胸に手を当て
傷口を塞ごうとするも無意味
「魔法……兄さんみたいにぃ……!」
兄さんが俺の怪我を治してくれた様に。
今度は俺が治そうとする。それも無意味。
俺の手からは何も出ず血が着くのみ。
兄さんみたいに怪我を治す魔法を使えない。
その方法を……なんにも知らない
「何で……なんでぇ…………!」
俺は両手を伸ばし仮面男の首に掴みかかる
「邪魔だゴミムシが」
「ウッ!?」
しかしその手は何も掴まず空を切る。
空を切った瞬間、とてつもない突風が
向かい風となり襲い後ろへ吹き飛ばされ
ゴミの山に衝突しゴミの中に埋もれる
「飛ば……され、た……?」
何をされたかは分からないまま
飛ばされた俺は這い出ようとする
「死ね。人間のガキ」
埋もれた隙間から見えるのは赤い炎。
それは近付いてき途端に視界から消える
「……ゴミが」
「ま……ま、て……!」
必死に抜け出そうともがき
逃がさまいと左手を伸ばす
「アッヅ!?」
何かが燃える音が聞こえると共に
下半身が急激に熱くなる。
そして、あいつが何をしたのか悟った。
埋もれた俺をゴミの山事燃やす気なんだと
数秒後。炎は一気にゴミからゴミへと移り
小さい火の種は一瞬にして炎の山となり
俺の視界を赤色に染め上げるのだった
繁栄力を持つ北の帝国首都ルミナサネ。
どの国よりも莫大な資産と強力な軍事力を持ち
何より色んな国から優秀な人材が訪れ
常に新たな技術を追求し争いのない
平和な国を作る事を目標にしている国。
そんな国で暮らす1人の青年がいた
「……これは食べれそうにないな……」
パンパンになり今にも破裂しそうになってる
鉄製のゴミ箱を覗きながら小さな溜息をつく
「あ、これは食べれそうだ」
悪臭のするゴミ箱に手を突っ込み中を
掻き分けてると少しカビが生えた食べかけの
サンドイッチらしき物を見つける
「半分にしても充分腹に溜まるな」
ゴミ箱から引き抜いたサンドイッチを
左手に持っていたボロボロな布袋に入れる
「今日の分はこれで足りそうかな……」
袋に入ってるゴミ箱に捨てられていた
汚い食べ物の数々を見ながら呟く
「うわっ……また居るよアイツ……」
「仕方ねぇだろ。アイツは身寄りが無いし
金もないからあぁするしかねぇんだよ」
「……聞こえてんだけどなぁ」
俺達の家に帰ろうとすると俺の身なりや境遇を
哀れるも小馬鹿にする話し声が聞こえる。
だけど仕方ない。全て本当の事なのだから
俺は約8歳から前の記憶が全く無い。
気付いたらこの国の人気が無い場所で
1人ポツンと佇んでいた。誰から産まれたか。
何処に住んでたのか。色んな記憶が無かった。
そんな状態で生きていく為にはさっきの様に
捨てられた残り物を漁りそれを食べるしかない。
そんな暮らしが早5年近く続いている。
5年もこんな暮らしをしていれば国の人に
悪い意味で認知されるのは当たり前の事だ
「とりあえず帰ろ……兄さんも待ってるし」
俺には兄さんと呼べる存在がいる。
勿論血の繋がった兄弟では無く義兄弟だ。
自我が芽生え行く宛ても頼る人もいなく
途方に暮れるしかなかったそんなある日の話
今から4年前。住み着けそうな場所もなく
休息も飲食もまともに出来ず廃墟の壁に
もたれ掛かり死を待っていた冬の日の事
「あ、見ろよあれ。まだ生きてるぜ?」
「ホントだ~!さっさと死ねばいいのに~!」
「いっそここら辺の石投げて殺っちゃう?」
「いいじゃーん!殺っちゃお!」
そんな会話と共に次々と石が投げ付けられる。
顔や胴体に当たるのもあれば後ろの壁に
当たるのもありその大きさや強さも様々だ
「なんか反応しろよゴミ!」
「もしかして死んでるんじゃな~い?」
「まぁいいや!さっさと帰ろうぜ!」
しばらくすると下品な笑い声を上げながら
石を投げてた奴らはどこかに去っていく
「なぁ……お前、大丈夫か?」
「……?」
石を投げられるのも罵倒を浴びせられるのも
いつもの事。だけどその日は少しだけ違った
肩を軽く叩かれた俺は俯けていた顔を上げる。
その視線の先には俺と同じ歳位の男がいた
「うわっ頭から血出てるじゃん!?」
「血……?」
額を触るとヌチャッとした赤い液体が手に付く
「……気にしなくていい。いつものk」
「動くなよ!俺が治してやるからさ!」
男は俺の前で屈み右手を額に添える
「なっ……!?何を……!?」
「動くなって!大丈夫だから!」
男の謎の行動に戸惑ってると突然血が
流れていた所が暖かくなっていく。
それどころか体全体が毛布に包まれてる様な
暖かさがひしひしと伝わってくる
「…………うん!これで大丈夫!治った!」
「治った……?」
もう一度額に触れてみるとさっきの
ヌチャッとした感覚は一切ない
「……何をしたんだ?」
「何って……魔法だけど?」
「マホウ………?」
初めて聞く単語が頭の中に渦巻く
「なんだそれ……初めて聞いた……」
「はぁ?常識的な事だぞ?」
「……そのマホウ?と言うのを教えてくれ」
「変な奴だなぁ……まぁいいけど」
男は俺の隣に座ると両掌を広げる。
すると何もしてないのに小さな火の玉が
掌の上にボッ!いきなり現れる
「どうだ?すごいだろ!」
「あ、あぁ……どうやって炎を……?
何もしてないし持ってないのに……」
「体内には魔力って言う不思議な力がある。
その魔力を使ってお前の怪我を治したり
この炎の玉を生み出しているんだよ」
「その……魔力?てのは俺にもあるのか?」
「勿論生きてる人は全員持ってるさ。
老若男女、種族問わずにな」
魔法……そんな凄い物があるなんて
今まで全然知らなかった……
「それよりさ。こんな所で何してたんだ?」
「え?」
「え?じゃねぇよ。こんな真冬にそんな
薄着で廃墟の壁にもたれてるなんて
それ相応の理由とかあるんじゃねぇの?」
「……ただ……住む場所が無いだけだ」
俺は男に今までの事を話した。
自我が芽生えた時から人気の無い場所で
佇んでた事。まともに飲食出来てない事。
住み着ける場所がなくここで死ぬまで
ボーッとしようとしていた事等を
「な~んだ。つまり俺と同じ感じか」
「同じ……?」
男は立ち上がると俺に笑顔を向ける
「実は俺も帰る場所のない人間でさ。
今はこの近くにあるゴミ捨て場に無断で
住んでるんだ。ここで会ったのも
何かの縁だしさ……一緒に暮らさないか?」
今1度見てみると確かに男の服装は
俺と似て穴だらけ傷だらけの服で
髪もボサボサで匂いもまぁ酷い
そんな男が笑顔で俺に手を差し伸べている
「……良いのか?俺に出来る事は少ないし
お前の負担が増える事になるんだぞ……?」
「んな事気にすんなって!ほら!」
「……ありがとう」
俺は男の手を握り立ち上がる
「そうと決まれば早く帰ろうぜ!
あ、俺の名前はアベル!お前は?」
「……アルグ。よろしく……アベル」
「おう!よろしくなアベル!」
その後。俺はアベルが住む場所に向かう道中で
色んな事を聞いた。通貨や言葉等日常的に
使う物から魔法や存在する種族等の常識。
そして俺達の様な小さな子供が生きる為の方法。
聞いた時は心底驚いたものだ。裕福か人達が
捨てた物を取ったり隙を見て店から盗んだり
俺にとって全てが目新しく新鮮な事だった
何より死を待つことしか出来なかった俺に
貧しく苦痛ながらも生きる気力と生きる楽しさを
教えてくれたアベルには感謝しきれない
アベルと出会い半年が過ぎた頃。
俺は疑問に思っていた事を聞いてみた
「アベルは何で今の状況になったんだ?」
「んぇ?」
その日、俺達はゴミ捨て場に捨てられていた
穴だらけのテントの中でゴミ箱から拾った
鶏肉の丸焼きの残り物を食べていた
「ほら……アベルは俺みたいな奴にも
優しいし頭も良いし魔法だって上手い。
なのにこんな暮らしをしてる理由が知りたい」
アベルと暮らした半年の中で
幾つか分かった事がある。
1つはアベルは俺より2つ年上だと言う事。
俺が8歳でアベルが10歳。同い年なのに
頼りになるなと思っていたが年上だった。
いや10歳でも頼もしい人はいないだろうが
2つはアベルは魔法の才能があると言う事。
この世界には色んな種族、魔法が存在し
種族事に扱い易い魔法が決められているらしい。
人間は全ての魔法を平均並みに使えるし
魚人と呼ばれる存在は水の魔法が得意らしいが
アベルはどの種類の魔法も得意なのだ
とまぁアベルと過ごす内に色んな事を
知ったがアベルがこの暮らしを
する羽目になった理由を俺はまだ知らない
「ん~……俺が産まれたばっかの事だけど
俺が住んでた場所戦争に巻き込まれてさ。
今じゃ跡形もなく焼け野原になってるんだ」
「戦争……」
「属国だった王国はあまり豊じゃなかった。
なのに戦争する羽目になって滅んだ。
俺は母さん達が婆ちゃんと一緒に
逃がしてくれたから助かったんだよ。
まぁその婆ちゃんも数年前に死んだけどな。
1人になって生きる為に売れる物は
全部売って……まぁそんな経緯だよ」
過去を語るアベルの表情はかなり暗く
少しだけ体が震えている
「……ごめん」
「気にすんなっての!過去の事だ!
それに今が幸せならそれでいい!」
「……ポジティブだな」
「こうでもないと生きていけないよ」
鶏肉の丸焼きをペロッと食べ終わると
アベルはボロい皮袋を持って腰を上げる
「じゃあ明日の分の飯を探してくるよ」
この半年、俺はアベルに頼りきっていた。
水は魔法で何とかなるが魔法を使うにも
体力がいる。魔法を使う程体力を消耗し
疲れが溜まるのであまり使う事はできない。
その為自分達で飲食を調達すべきなのだが
俺はこの国の地形をあまり知らなく
探索は全てアベルに任せきっていた
だけど今の話を聞いて心が決まった。
いつまでこのままじゃ申し訳ない。
俺も、アベルの力になりたいって
「俺も着いていくよ」
「うぇ?」
「荷物持ちは多い方がいいだろ?
それにいつまでもお前に頼るのも
申し訳ないし……ダメか……?」
「ダメじゃねぇよ!じゃあ一緒に行くか!」
アベルはいつも以上に笑顔になり
俺の手を強く引っ張りながら走り出す
「うわっ!?ちょ、早い!」
「あっはは!ほらほら行くぞ!」
その日から……いや、その日より前から
俺にとってアベルは憧れで目標で
人生の中で1番大切な存在だって事を
強く……強く……思い知らされた
「兄さんと会った日……懐かしいなぁ……」
帰路を歩きながら兄さんと
会った日の事を思い出す
「お~い!アルグ!」
歩いていると正面から声をかけられる。
顔を上げるとある人物が手を振っている
「兄さん!」
それは俺の恩人であり義兄弟のアベル。
アベルは手を振りながら走って近付いてくる
「やっと帰ってきたな。遅かったなぁ」
「ごめんごめん。その代わりどっさり
食べれそうな物を持って帰ってきたからさ」
「お、それは楽しみだ!」
アベルと出会って5年。俺もアベルも
5年前と比べそれなりに成長している。
アベルは肩まである髪を後ろで纏め
模様すら見えない程に茶色に染まった
ポンチョを着こなしている
対して俺の髪は腰辺りまで伸びており
前髪も胸辺りまで伸びてしまっている。
服はほとんど兄さんのお下がりで
今は傷がほとんど付いてない布製の
シャツとズボンを着用している
兄さんと雑談しながらゴミ捨て場まで
帰ってくると地面に敷かれた大きな布の
上に座り俺が持っていた袋から食べ物を出す
「これだけあれば3日位は飢えをしのげるかな」
「量は多くても食べかけばっかだからな」
袋から食べ物が次々出てくるが全て
誰かの食べ残し。腹に溜まる物は少ない
「あ、喉乾いてるだろ?水持ってくるよ」
現時刻は……6時前。昼前から食料を
探していたから疲労は溜まっているし
喉もカラカラ。そんな俺を見た兄さんは
テントの中から木製の小さいコップを
持ってきて手渡してくれる
「ありがと兄さん」
中にはコップの半分まで入った濁った水。
これは雨水だ。雨の日にコップを外に
起きまくって溜めて少しづつ飲む。
魔法で清潔な水を出す事もできるが
ただでさえ不健康で一日生きる事すら
危ういこの状況で魔法を使う気は起きない
貰った水を無駄にしないよう
少しづつ飲んでいき少しだけ
喉が潤った所で口を離す。
中にはさっき入ってた量の
更に半分の量が残っている
「やっぱり水を飲むと生き返るよな」
「間違いねぇ。雨水なのが残念だけどさ」
その後も下らない雑談を交わしながら
ゴミ箱から取った物を食べて飢えを凌ぐ。
そうしていつの間にか夕日が沈み
空には星と月が見え始めていた
「あれ?兄さんまたその箱弄ってんの?」
就寝時間も近くなり俺達はテントの中で
眠気が来るまでゆっくりしていた。
「んぉ?なんだよ悪いか?」
「そんな事一言も言ってないだろ?
ただ毎日弄ってるなって思っただけ」
兄さんの手に握られてるのは横に長く
鍵穴が着いた木箱。ここ最近兄さんは
ずっとあの木箱を触っている
「こん中には俺の宝物が入ってんだよ。
中身は教えれないけどこれは俺の人生で
かけがえのない……大事な物なんだ」
「知ってる知ってる。何回も聞いたよ」
あの箱には何が入ってるのか少々気になる。
何度頼んでも兄さんは絶対見せてくれないし
俺も絶対見たいって訳ではないけど
ホントに何が入ってんだあの箱……
そんな事を考えてると突然兄さんが立ち上がる
「……どうした?」
「いや……誰か入ってきた」
「へ?ここに?」
「あぁ。少し様子を見てくる」
こんな時間にこんな場所に来る人が?
今までそんな事一切無かったのに……
「だったら俺m」
「いや、お前はここに残ってろ」
立とうとすると兄さんが肩に手を置いてくる
「凄く……嫌な予感がする」
「兄……さん……?」
「とにかく、待ってろ」
見たとこない程真剣な表情で。
聞いた事ない程真面目な声で言われる
「……わか、た」
兄さんの言う通り腰を下ろす
「じゃ、行ってくる」
「う、うん……行ってらっしゃい」
謎の不安感に包まれながらも兄さんが
外に出ていく後ろ姿を眺める
「……や、やっぱり俺も!」
1度は納得したが兄さんが出た瞬間
不安感が大きくなり俺に動けと命じる。
兄さんは待ってろと言ったけど何故か
今日だけは指示を聞いてはいけない気がした
兄さんに遅れないよう慌てて外に出たその時。
信じられない光景を目の当たりにした
「チッ……もう1人いたのか…………」
「……え?」
テントから少し離れた場所で
兄さんは立っていた。その胸に
大きな風穴を開けて……
「兄さん…………?」
俺の呼び掛けに答えることは無く
兄さんの体はゆっくり前に倒れる
「お前………………誰……だ……?」
兄さんが倒れた先にいるのは真っ白な仮面を
着けた謎の人物。暗くてそれ以外見えないが
白い仮面には赤い液体が着いている
「お前が……兄さんを……?」
信じられない。信じたくない光景。
俺はふらつきながら倒れている兄さんに近付く
そして脳に焼きつかされる。胸に穴が空き
出血は止まる事を知らず溢れ続けている
「な……なん、で……兄さん……!」
膝を着き兄さんの胸に手を当て
傷口を塞ごうとするも無意味
「魔法……兄さんみたいにぃ……!」
兄さんが俺の怪我を治してくれた様に。
今度は俺が治そうとする。それも無意味。
俺の手からは何も出ず血が着くのみ。
兄さんみたいに怪我を治す魔法を使えない。
その方法を……なんにも知らない
「何で……なんでぇ…………!」
俺は両手を伸ばし仮面男の首に掴みかかる
「邪魔だゴミムシが」
「ウッ!?」
しかしその手は何も掴まず空を切る。
空を切った瞬間、とてつもない突風が
向かい風となり襲い後ろへ吹き飛ばされ
ゴミの山に衝突しゴミの中に埋もれる
「飛ば……され、た……?」
何をされたかは分からないまま
飛ばされた俺は這い出ようとする
「死ね。人間のガキ」
埋もれた隙間から見えるのは赤い炎。
それは近付いてき途端に視界から消える
「……ゴミが」
「ま……ま、て……!」
必死に抜け出そうともがき
逃がさまいと左手を伸ばす
「アッヅ!?」
何かが燃える音が聞こえると共に
下半身が急激に熱くなる。
そして、あいつが何をしたのか悟った。
埋もれた俺をゴミの山事燃やす気なんだと
数秒後。炎は一気にゴミからゴミへと移り
小さい火の種は一瞬にして炎の山となり
俺の視界を赤色に染め上げるのだった
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる