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第二章 敵国の人間
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休憩時間になると、皆が群がって質問を浴びせてくる。たどたどしくも一つ一つに丁寧に答えると、それぞれ満足したのか、数日後には皆の興味はよそに移っていた。
(同年代の子って皆、こうなのかしら……)
月宮殿では年上の侍女に囲まれて育ったため、同年代との交流経験は乏しい。
(セシルは昔なじみだから、友達っていうよりは兄妹みたいなものだったし……)
フロラルの塩対応も相変わらずだ。事務的な質問には答えてくれるが、雑談には一切応じてくれない。誰に対してもそうなのかと思いきや、クラスメイトとは気さくに話していた。
人と違う対応は、やはりこの髪のせいなのかもしれない。
学園内を歩いていても、白銀色の髪は悪目立ちするようで、どこにいても奇異の視線にさらされる。遠巻きに見られるのは故郷と同じだが、ひそひそと囁かれる内容は満月の王家に対するものが多い。
好奇心、畏怖、敵対心、さまざまな思いが錯綜している。
今のところ、勉学は問題ないが、同級生からの情報収集はいらぬ火種をまくことになりかねない。
寮からとぼとぼ歩き、教室に入ると、皆の視線がディアナに向けられる。
「な……なに?」
体を硬くして尋ねると、輪になっていた生徒の中から一人の女生徒が前に進み出る。
クラス委員長のケイトだ。ポニーテールをなびかせ、形のよい細い眉をひそめた。
「今朝、来たらカーテンが切り裂かれていたの。あなたの仕業でしょ」
「え……?」
窓際のカーテンに視点を転じれば、無残にもズタズタに切り裂かれていた。
「昨日は補習で残っていたわよね。犯人はあなたしかいないわ」
確かに補習は受けていた。転入して間もないため、皆の授業についていくために特別補習が行われていたからだ。
だがしかし、完全に濡れ衣だ。
「ちょっと待ってよ、私じゃないわ!」
「この期に及んで往生際が悪いわね。潔く罪を認めたら?」
「だから違うってば……!」
どう言えば、この疑惑を払拭できるのか。誰か一人でも同じ意見の者はいないかと、周りをぐるりと見渡す。けれど、誰もがさっと視線をそらす。
ケイトは子供に言い含めるように、声のトーンを和らげた。
「わずかだけど、闇の精霊が召喚された形跡があるの。この学園で闇を操れるのは、満月の王国から来たディアナしかいないでしょう?」
「そ、それは……」
闇の精霊は、太陽の皇国の者には使役できない。長年、太陽の大精霊の保護下にあるため、呼び出しはできても契約はできない。
一方、満月の王国は月の大精霊の保護下にあるため、眷属である闇の精霊と契約できる。けれど、これは一般論だ。
精霊から見放された「新月の巫女」であるディアナは、どの精霊も召喚に応じない。呼び出すことすら不可能なのだ。
(だけど、女王の妹が精霊を呼び出せないなんて知られたら……なんて言われるか)
グッと歯を食いしばる。嘲笑はいつも聞き流してきた。だけど、自分だけをおとしめる言葉ならともかく、波及して姉まで悪く言われる可能性は高い。
周囲の視線がちくちく刺さり、ディアナは顔を曇らす。犯人だと決めつけられている中、いくら反論しても誰も取り合ってくれない気がする。
(どうしたら……いいの……)
返す言葉も思いつかずに黙っていると、ケイトが焦れたように口を開く。
「悪いと思っているなら謝ればいいでしょう。そんなこともできないの?」
「……やっていないもの」
「じゃあ、一体誰がやったって言うの? 他に心当たりでもあるの?」
「…………」
心当たりなど、あるはずがない。誰が何のために、こんなことをしたのか、まるでわからない。ディアナに罪を着せる気だったのか、偶然の事故なのか。どちらとも言えない。
「黙っていてもわからないで……」
「そこまでだ。学生議会長、ロイヴァート・S・ゼフィードがこの場を引き受ける」
(同年代の子って皆、こうなのかしら……)
月宮殿では年上の侍女に囲まれて育ったため、同年代との交流経験は乏しい。
(セシルは昔なじみだから、友達っていうよりは兄妹みたいなものだったし……)
フロラルの塩対応も相変わらずだ。事務的な質問には答えてくれるが、雑談には一切応じてくれない。誰に対してもそうなのかと思いきや、クラスメイトとは気さくに話していた。
人と違う対応は、やはりこの髪のせいなのかもしれない。
学園内を歩いていても、白銀色の髪は悪目立ちするようで、どこにいても奇異の視線にさらされる。遠巻きに見られるのは故郷と同じだが、ひそひそと囁かれる内容は満月の王家に対するものが多い。
好奇心、畏怖、敵対心、さまざまな思いが錯綜している。
今のところ、勉学は問題ないが、同級生からの情報収集はいらぬ火種をまくことになりかねない。
寮からとぼとぼ歩き、教室に入ると、皆の視線がディアナに向けられる。
「な……なに?」
体を硬くして尋ねると、輪になっていた生徒の中から一人の女生徒が前に進み出る。
クラス委員長のケイトだ。ポニーテールをなびかせ、形のよい細い眉をひそめた。
「今朝、来たらカーテンが切り裂かれていたの。あなたの仕業でしょ」
「え……?」
窓際のカーテンに視点を転じれば、無残にもズタズタに切り裂かれていた。
「昨日は補習で残っていたわよね。犯人はあなたしかいないわ」
確かに補習は受けていた。転入して間もないため、皆の授業についていくために特別補習が行われていたからだ。
だがしかし、完全に濡れ衣だ。
「ちょっと待ってよ、私じゃないわ!」
「この期に及んで往生際が悪いわね。潔く罪を認めたら?」
「だから違うってば……!」
どう言えば、この疑惑を払拭できるのか。誰か一人でも同じ意見の者はいないかと、周りをぐるりと見渡す。けれど、誰もがさっと視線をそらす。
ケイトは子供に言い含めるように、声のトーンを和らげた。
「わずかだけど、闇の精霊が召喚された形跡があるの。この学園で闇を操れるのは、満月の王国から来たディアナしかいないでしょう?」
「そ、それは……」
闇の精霊は、太陽の皇国の者には使役できない。長年、太陽の大精霊の保護下にあるため、呼び出しはできても契約はできない。
一方、満月の王国は月の大精霊の保護下にあるため、眷属である闇の精霊と契約できる。けれど、これは一般論だ。
精霊から見放された「新月の巫女」であるディアナは、どの精霊も召喚に応じない。呼び出すことすら不可能なのだ。
(だけど、女王の妹が精霊を呼び出せないなんて知られたら……なんて言われるか)
グッと歯を食いしばる。嘲笑はいつも聞き流してきた。だけど、自分だけをおとしめる言葉ならともかく、波及して姉まで悪く言われる可能性は高い。
周囲の視線がちくちく刺さり、ディアナは顔を曇らす。犯人だと決めつけられている中、いくら反論しても誰も取り合ってくれない気がする。
(どうしたら……いいの……)
返す言葉も思いつかずに黙っていると、ケイトが焦れたように口を開く。
「悪いと思っているなら謝ればいいでしょう。そんなこともできないの?」
「……やっていないもの」
「じゃあ、一体誰がやったって言うの? 他に心当たりでもあるの?」
「…………」
心当たりなど、あるはずがない。誰が何のために、こんなことをしたのか、まるでわからない。ディアナに罪を着せる気だったのか、偶然の事故なのか。どちらとも言えない。
「黙っていてもわからないで……」
「そこまでだ。学生議会長、ロイヴァート・S・ゼフィードがこの場を引き受ける」
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