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第1章 『動き出す世界』
第3話 力が欲しい
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ソランの部屋は鍛錬場の右の廊下、アトラがリョーダンと話していた廊下を北に進み、つきあたりのT字になっている廊下を更に左側に曲がったところにある3つ目の部屋だ
ここはアルステラ城内のため、兎に角部屋数が多い
ソラン自身、何度か迷ってしまいそうになったことがある
その部屋の中で、ソランは今日の鍛錬を振り返る
「こんなんじゃ駄目だ、誰も守ることはできない。
もっと、もっと強くならなくちゃ。」
駄目だ。またミリアの時のように、大切なものを失ってしまう。
やっと手に入れた居場所だ。
簡単に失ってたまるか。
ソランは、自分の心が何か黒いものに沈んでいくような感覚を得た
───コンコンコン
扉を叩く音にソランは思考を止めた
「ソラン、中に居るか?
入ってもいいか?」
アトラだ。
「大丈夫、入っていいよ」
「そうか。それでは失礼するぞ。」
ガチャリ、という音を立てアトラが入ってくる
城の中だというのに、戦場の様に鎧をしっかりと着込んでいる
この城に来て早1ヶ月、見慣れては来たが気になってつい聞いてしまった
「アトラはどうしていつも鎧を着ているんだ?」
「あぁこれか。突然何か起きてもすぐ対処できるように私は城の中でも武装を解除しないんだ。
いざ敵が攻めてきたとき、主将である私がすぐ戦えなくては『戦姫』という二つ名に傷がついてしまうからな」
流石は人間族の救世主と呼ばれるだけある。
何時、何処にいても油断はしないことを徹底しているようだ。
アトラは、腰に下げているオリハルコンの剣を机に立てかけると、ソランに向かい合うように椅子に座った。
「少し話がずれてしまったな。最近、剣術の調子はどうだ?
うまくやれているか?」
アトラにそう聞かれて、ソランはドキッとした。
ソランもここ何日か剣術の伸びの悪さに頭を悩ませているからだ。
何度やっても一向にリョーダンに勝てる気がしない。
少しの間ソランが押し黙っていると、
「やはりそうか。
リョーダンからも聞いた。最近、強くなることに拘り過ぎているんじゃないか?」
「それはっ!」
───強くならないと、誰も守れないじゃないか。
そう言おうとしてソランは口を噤んだ。
リョーダンにも同じことを言われたからだ。
「強くなるのは確かに大事だ。けれどそれだけじゃ強さの先に行くことはできない。
もし行くことが出来ても所詮付け焼刃。諸刃の剣でしかない。」
それはそうだと思う。しかし自分には他に何が残っているというのだ。
目に進むための翼を失って、大切な人を失った。
もう何も失わないために、強くなるしかない。
もう、ソランの心のよりどころは力しかなかった。
「いいか。君も何か守るべき大切なものを見つけるんだ。
そうしたら、君はもっと伸びていくと思う」
「そうかな?」
「あぁ。ソランならできるさ。
リョーダンだってそう言っていたよ。」
アトラは胸を叩いて微笑んだ。
そして、自身の胸においている拳を前に出すとソランの胸をドン、と叩いた。
アトラの拳は力強く、そして優しさの籠った拳だった。
「直ぐには難しいかもしれないけど、少しずつでもやってみるよ」
「私もできる限り応援しよう」
アトラが立ち上がる
どうやらもう行ってしまうようだ。
アトラも王女である身、何かと忙しいのだろう。
「私も少し職務があるのでな。
私はここでお暇させてもらおう」
「今日は、ありがとう」
「あぁ、鍛錬は怠らないようにな」
そして、アトラは部屋を後にした。
自分の部屋に一人残っているソラン。
ベッドに横になると、窓から空を見た。
空はいつの間にか薄青くなっており、星が点々と輝いている。
「守りたい大切なもの・・・か。
ミリアはもういないしな。見つかるだろうか・・・」
小さく呟くいた。
そういえば、何時かミリアに出会った時も今と同じ宵時だったな。
「なぁミリア。あれから一ヶ月以上たった。
今はうまくとは言えないが、何とかやっているよ」
「明日は魔法の授業だ。鍛錬は怠るな。」
時は宵。空には月だけでなく、三日月が昇っていた。
◇◆◇
ソランの部屋の外、その扉の前。
そこには、一つの人影があった。
アルステラ王国第3王女、アトラティーナ=ルール=アルステラ彼女だった。
アトラが出た後のソランの呟きを覗き聞きしていたのだ。
「やはりまだ立ち直れ切れていないか」
それもそうだろう。だってまだ9歳なのだ。
心の傷がすぐ癒えるほど心は強くなっていない。
「ソランがまた大切な物を見つけるまでに折れてしまわないかは神のみぞ知る、ということか。
私達は祈るしかないんだな」
───なんて不条理の多い世界なのだ、此処は。
そう言って、アトラは自室へと帰っていった。
ここはアルステラ城内のため、兎に角部屋数が多い
ソラン自身、何度か迷ってしまいそうになったことがある
その部屋の中で、ソランは今日の鍛錬を振り返る
「こんなんじゃ駄目だ、誰も守ることはできない。
もっと、もっと強くならなくちゃ。」
駄目だ。またミリアの時のように、大切なものを失ってしまう。
やっと手に入れた居場所だ。
簡単に失ってたまるか。
ソランは、自分の心が何か黒いものに沈んでいくような感覚を得た
───コンコンコン
扉を叩く音にソランは思考を止めた
「ソラン、中に居るか?
入ってもいいか?」
アトラだ。
「大丈夫、入っていいよ」
「そうか。それでは失礼するぞ。」
ガチャリ、という音を立てアトラが入ってくる
城の中だというのに、戦場の様に鎧をしっかりと着込んでいる
この城に来て早1ヶ月、見慣れては来たが気になってつい聞いてしまった
「アトラはどうしていつも鎧を着ているんだ?」
「あぁこれか。突然何か起きてもすぐ対処できるように私は城の中でも武装を解除しないんだ。
いざ敵が攻めてきたとき、主将である私がすぐ戦えなくては『戦姫』という二つ名に傷がついてしまうからな」
流石は人間族の救世主と呼ばれるだけある。
何時、何処にいても油断はしないことを徹底しているようだ。
アトラは、腰に下げているオリハルコンの剣を机に立てかけると、ソランに向かい合うように椅子に座った。
「少し話がずれてしまったな。最近、剣術の調子はどうだ?
うまくやれているか?」
アトラにそう聞かれて、ソランはドキッとした。
ソランもここ何日か剣術の伸びの悪さに頭を悩ませているからだ。
何度やっても一向にリョーダンに勝てる気がしない。
少しの間ソランが押し黙っていると、
「やはりそうか。
リョーダンからも聞いた。最近、強くなることに拘り過ぎているんじゃないか?」
「それはっ!」
───強くならないと、誰も守れないじゃないか。
そう言おうとしてソランは口を噤んだ。
リョーダンにも同じことを言われたからだ。
「強くなるのは確かに大事だ。けれどそれだけじゃ強さの先に行くことはできない。
もし行くことが出来ても所詮付け焼刃。諸刃の剣でしかない。」
それはそうだと思う。しかし自分には他に何が残っているというのだ。
目に進むための翼を失って、大切な人を失った。
もう何も失わないために、強くなるしかない。
もう、ソランの心のよりどころは力しかなかった。
「いいか。君も何か守るべき大切なものを見つけるんだ。
そうしたら、君はもっと伸びていくと思う」
「そうかな?」
「あぁ。ソランならできるさ。
リョーダンだってそう言っていたよ。」
アトラは胸を叩いて微笑んだ。
そして、自身の胸においている拳を前に出すとソランの胸をドン、と叩いた。
アトラの拳は力強く、そして優しさの籠った拳だった。
「直ぐには難しいかもしれないけど、少しずつでもやってみるよ」
「私もできる限り応援しよう」
アトラが立ち上がる
どうやらもう行ってしまうようだ。
アトラも王女である身、何かと忙しいのだろう。
「私も少し職務があるのでな。
私はここでお暇させてもらおう」
「今日は、ありがとう」
「あぁ、鍛錬は怠らないようにな」
そして、アトラは部屋を後にした。
自分の部屋に一人残っているソラン。
ベッドに横になると、窓から空を見た。
空はいつの間にか薄青くなっており、星が点々と輝いている。
「守りたい大切なもの・・・か。
ミリアはもういないしな。見つかるだろうか・・・」
小さく呟くいた。
そういえば、何時かミリアに出会った時も今と同じ宵時だったな。
「なぁミリア。あれから一ヶ月以上たった。
今はうまくとは言えないが、何とかやっているよ」
「明日は魔法の授業だ。鍛錬は怠るな。」
時は宵。空には月だけでなく、三日月が昇っていた。
◇◆◇
ソランの部屋の外、その扉の前。
そこには、一つの人影があった。
アルステラ王国第3王女、アトラティーナ=ルール=アルステラ彼女だった。
アトラが出た後のソランの呟きを覗き聞きしていたのだ。
「やはりまだ立ち直れ切れていないか」
それもそうだろう。だってまだ9歳なのだ。
心の傷がすぐ癒えるほど心は強くなっていない。
「ソランがまた大切な物を見つけるまでに折れてしまわないかは神のみぞ知る、ということか。
私達は祈るしかないんだな」
───なんて不条理の多い世界なのだ、此処は。
そう言って、アトラは自室へと帰っていった。
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