3 / 20
prologue 『死者奴隷』
第3話 翼をなくした。
しおりを挟む
───キィィィッ!
鈍い音を立てながら、グラム帝国のとある領地にある死者奴隷を収容しておく檻の扉が閉まる。少年が一人入るには大きすぎる位の檻を一周見回すと、無造作に置かれている最早ただの布切れと化した布団に入る。
この檻も、随分寂しくなったものだ。俺が来た時には10人ほどの同じ死者奴隷が居たはずだが、1、2週間に一人ずつ数が減っていき、俺が来て半年と経たずにこの檻の住人は俺だけになったんだったな。
「明日は西の地区に行く、いいな。」
そんな兵士の言葉を聞き届けると、少年は布団へと潜り込む。
俺にとって、寝る前のほんの少しばかり自由に過ごせるこの時間が一番好きだ。布団であった布の仄かな温もりに包まれると、心が落ち着く。まるで、いつか母に抱かれた時の様な...
「俺がここに来たのは、たしか3年前のこの日だったか」
少年はふと、すべてが地に堕ち、すべてを失った日を思い出した。
あの日から、俺は1歩も進めていないな。足掻くこともできずに、こんなところで3年も...
少年が覚えているのは、中級貴族の父と母が居た事。3年前に引き離されてしまったことだけだ。両親が居た頃にどんな遊びをして、どの様に生活していたかなどもう覚えていない。一つだけ分かることは、その生活がとても輝いていたという事だ。
3年前、少年は2歳。とある貴族のもとで暮らしていた。この国の貴族の子は3才になった誕生日に名付けの儀式が行われる。そして初めて貴族の子供として認められるのだ。
少年が3才になる1週間前。雨の降る夜の事だった。目が覚めてしまった少年がトイレから自室に戻ろうとした時のこと。
父と誰かの話す声が聞こえる。父上の書斎に来客が来たようだ。こんな時間に来る人なんているのかな。
少年は少しだけ開かれた父の書斎の扉から、中を覗き込む。
「すまないが貴方が一体何をおっしゃっているのか私には分からない。こんなもの、全部出鱈目ではないか」
「なかなか認めてはくれませんか。 貴方達がこの領地の税を横領したという証拠は在るのですぞ!」
「だからそんな事、私は知らないと言っているではないか!」
そこには少年の母親と父親、そしてもう1人、貴族の男が何かを言い合っていた。父親の手には、何らかの書類だ。その書類には、羊の印が湛えられている。
あれって... となりの領土の家紋、だよね。なぜ父上が?
「...それでは分かりました、証拠お持ちしましょう」
そう言うと貴族の男は扉の方を見て。
「オイッ!あれを持ってこい。」
と声を上げた。
少年はビックリして後ずさると、いつの間にか少年の後ろに立っていた背格好のいい大きな男にぶつかった。
「邪魔だ、そこをどけ」
大男はぶつかった少年を人にらみすると、少年を書斎へと蹴飛ばした。
「うわっっ」
「──!? 一体どうしたの!? ───さん、息子に一体何をするんです!」
少年はゴロゴロところがって書生の中で倒れたところを、母親に抱きとめられた。母親は子供を蹴られた怒りを込めて、貴族の男を見た。貴族の男はそんな少年の母親の視線をひらひらと手を振ってかわすと、少年を蹴飛ばした大男から、もう一つの書類をもらった。
「ここに領主に税金を悪用されたというお前の文官の報告書がある。これを見てまだしらばっくれるつもりかな?」
父親は報告書を奪い取ると隅々まで目を通した。文字通り、穴が開くほどに。
「なんということだ...」
父親は驚愕し膝から崩れ落ちた。そんな父親を、少年の母親は少年と共に父親に寄り添うようにして近づき、その書類に目を通した。その内容に、少年の母親もまた目を見開いている。
「というわけだ、お前と妻の極刑は免れまい。息子は国の奴隷として私が貰っていこう。コイツらを連れていけ」
大男が少年の腕をつかみ外へと連れていく。
「そんな、父上ッ!母上ッ!この人を止めてください。痛い!」
少年は必死に抵抗するが鍛え抜かれた大男の膂力に勝てることが出来ずに、引きずられていく。少年の両親は、それを黙ってみている事しか出来なかった。
「貴様、騙したな」
と苦虫を噛み潰したような表情で、貴族の男を睨みながら言った。それに対し貴族の男は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「私は何も騙していませんよ、フフフ、貴方の文官が裏切ったのでは」
「貴様ァ!!」
少年の父親が貴族の男に飛び掛かろうとするが、後ろに控えていた護衛に抑え込まれてしまう。
「そうですねぇ、貴方の息子さんは死者奴隷にでも堕とすといいでしょうかねぇ、フフフ。もう用は済みました。早く自分の領に戻って祝杯でも挙げましょうかねぇ」
貴族の男は笑いながら少年の家を後にした。
それから数日後、貴族の男が提出した証拠により、少年の父親と母親は宮廷裁判へ。判決は死刑。
残された少年は死者奴隷として一生グラム帝国で使役されることになった。そう、ここから少年の死者奴隷としての地獄の生活が始まるのだった。
そして現在に至る。
あの日から俺は何も変わっていない
この腐った世界を変えられる日は来るのだろうか・・・
少年は瞑想を終えると静かに眠りについた。
鈍い音を立てながら、グラム帝国のとある領地にある死者奴隷を収容しておく檻の扉が閉まる。少年が一人入るには大きすぎる位の檻を一周見回すと、無造作に置かれている最早ただの布切れと化した布団に入る。
この檻も、随分寂しくなったものだ。俺が来た時には10人ほどの同じ死者奴隷が居たはずだが、1、2週間に一人ずつ数が減っていき、俺が来て半年と経たずにこの檻の住人は俺だけになったんだったな。
「明日は西の地区に行く、いいな。」
そんな兵士の言葉を聞き届けると、少年は布団へと潜り込む。
俺にとって、寝る前のほんの少しばかり自由に過ごせるこの時間が一番好きだ。布団であった布の仄かな温もりに包まれると、心が落ち着く。まるで、いつか母に抱かれた時の様な...
「俺がここに来たのは、たしか3年前のこの日だったか」
少年はふと、すべてが地に堕ち、すべてを失った日を思い出した。
あの日から、俺は1歩も進めていないな。足掻くこともできずに、こんなところで3年も...
少年が覚えているのは、中級貴族の父と母が居た事。3年前に引き離されてしまったことだけだ。両親が居た頃にどんな遊びをして、どの様に生活していたかなどもう覚えていない。一つだけ分かることは、その生活がとても輝いていたという事だ。
3年前、少年は2歳。とある貴族のもとで暮らしていた。この国の貴族の子は3才になった誕生日に名付けの儀式が行われる。そして初めて貴族の子供として認められるのだ。
少年が3才になる1週間前。雨の降る夜の事だった。目が覚めてしまった少年がトイレから自室に戻ろうとした時のこと。
父と誰かの話す声が聞こえる。父上の書斎に来客が来たようだ。こんな時間に来る人なんているのかな。
少年は少しだけ開かれた父の書斎の扉から、中を覗き込む。
「すまないが貴方が一体何をおっしゃっているのか私には分からない。こんなもの、全部出鱈目ではないか」
「なかなか認めてはくれませんか。 貴方達がこの領地の税を横領したという証拠は在るのですぞ!」
「だからそんな事、私は知らないと言っているではないか!」
そこには少年の母親と父親、そしてもう1人、貴族の男が何かを言い合っていた。父親の手には、何らかの書類だ。その書類には、羊の印が湛えられている。
あれって... となりの領土の家紋、だよね。なぜ父上が?
「...それでは分かりました、証拠お持ちしましょう」
そう言うと貴族の男は扉の方を見て。
「オイッ!あれを持ってこい。」
と声を上げた。
少年はビックリして後ずさると、いつの間にか少年の後ろに立っていた背格好のいい大きな男にぶつかった。
「邪魔だ、そこをどけ」
大男はぶつかった少年を人にらみすると、少年を書斎へと蹴飛ばした。
「うわっっ」
「──!? 一体どうしたの!? ───さん、息子に一体何をするんです!」
少年はゴロゴロところがって書生の中で倒れたところを、母親に抱きとめられた。母親は子供を蹴られた怒りを込めて、貴族の男を見た。貴族の男はそんな少年の母親の視線をひらひらと手を振ってかわすと、少年を蹴飛ばした大男から、もう一つの書類をもらった。
「ここに領主に税金を悪用されたというお前の文官の報告書がある。これを見てまだしらばっくれるつもりかな?」
父親は報告書を奪い取ると隅々まで目を通した。文字通り、穴が開くほどに。
「なんということだ...」
父親は驚愕し膝から崩れ落ちた。そんな父親を、少年の母親は少年と共に父親に寄り添うようにして近づき、その書類に目を通した。その内容に、少年の母親もまた目を見開いている。
「というわけだ、お前と妻の極刑は免れまい。息子は国の奴隷として私が貰っていこう。コイツらを連れていけ」
大男が少年の腕をつかみ外へと連れていく。
「そんな、父上ッ!母上ッ!この人を止めてください。痛い!」
少年は必死に抵抗するが鍛え抜かれた大男の膂力に勝てることが出来ずに、引きずられていく。少年の両親は、それを黙ってみている事しか出来なかった。
「貴様、騙したな」
と苦虫を噛み潰したような表情で、貴族の男を睨みながら言った。それに対し貴族の男は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「私は何も騙していませんよ、フフフ、貴方の文官が裏切ったのでは」
「貴様ァ!!」
少年の父親が貴族の男に飛び掛かろうとするが、後ろに控えていた護衛に抑え込まれてしまう。
「そうですねぇ、貴方の息子さんは死者奴隷にでも堕とすといいでしょうかねぇ、フフフ。もう用は済みました。早く自分の領に戻って祝杯でも挙げましょうかねぇ」
貴族の男は笑いながら少年の家を後にした。
それから数日後、貴族の男が提出した証拠により、少年の父親と母親は宮廷裁判へ。判決は死刑。
残された少年は死者奴隷として一生グラム帝国で使役されることになった。そう、ここから少年の死者奴隷としての地獄の生活が始まるのだった。
そして現在に至る。
あの日から俺は何も変わっていない
この腐った世界を変えられる日は来るのだろうか・・・
少年は瞑想を終えると静かに眠りについた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる