蛙は嫌い

柏 サキ

文字の大きさ
上 下
4 / 13

3.錆びた黄金

しおりを挟む




~【西尾 隆志】目線~





1人の女子生徒と帰り際に遭遇した。

誰だかは分からなかったが、何やら胸騒ぎがした。



翌日、空席だった席は空席のままだ。
少し気になってはいたが、一限目が始まると知らぬうちに考えるのを辞めていた。
何せ今日は課題テストという最悪の一日だ。
今日を乗り切るのに必死なのである。


昼食の時間、周りを見るともうグループがいくつか出来ている。
皆のコミュニケーション能力には驚きを隠せない。

自分も何とか【若宮】と【田嶋】との3人でグループを作った。
田嶋は辞めてしまったサッカー部の同期で、その中では1番仲が良かったのだ。
若宮と田嶋は初対面だったが、2人ともおちゃらけた性格が似ていたのか、昼食の時には既に意気投合していた。
この3人の中では自分がツッコミ役といったところだろう。


「ふぅ~、やっと終わったわあ~。今日部活無いし3人でどっか寄って帰らん??」


田嶋がそう提案すると、若宮はすぐにその提案に乗っかった。
自分もバイトは入れてなかったので、図書委員の仕事が終わるまで待っててくれることを条件にその提案を受け入れた。


図書室、委員会で同期の【向井 徹】は昨日受けた新刊の注文申請を整理しながら不満を漏らしている。


「なんで少年漫画とかダメなんだろうな、てかどうせならエロ本とか導入して欲しいわ~。なあそう思うだろ?西尾ちゃん】


「いや漫画は賛成だけど、エロ本は普通に無理だろ。てかそこに男子が群がってるとこ考えるとめちゃきもい。」


「お前女子みたいなこと言うな。まあでもその中に混じりたいとは思わんな確かに。」


だろ?と促して、図書委員の仕事を続けた。

この委員会に所属してから、本が割と好きになった。
本の貸し出しの仕事もあるので、人が来ないのに図書室の番をしなきゃいけない時はとてつもなく暇だ。
その時に、適当な小説を読み漁ったのが始まりだ。

ファンタジー物が好きなのでライトノベルは結構読んだが、ラノベよりも好きなファンタジー作家がいる。
【一間 一磨(ひとま かずま)】、この人の『凍てつく空の下』シリーズが好きでたまらない。

世界は一面真っ白、雪国の地から始まる。
主人公は雪国育ちの剣士だが、突如氷の魔女によって雪国は氷河期並の世界にされてしまい、太陽も隠されてしまって、人口はかなり減ってしまった。
その危機を救う為にも、主人公は旅立ち、仲間を集って魔女の討伐に向かうという、RPG要素のあるストーリーだ。

その物語ではヒロインも登場する。
セミロングくらいの黒髪で色白の白いローブを着た女の子だ。
年は15歳。
丁度あの子の様な…、


と頭の中に誰かが入って来ようとしたところで、向井から声がかかった。

「こっちは終わったぞ~、そっちも早くしろよ~。」

おうっ、と返事だけして目の前の仕事を片付けた。

お、そうだ、『凍てつく空の下』4巻が新しく入ってたんだっけ。
借りてからあの2人と合流しよう。


あ、、か、、さ、、た、な…。
は、、ひ…あった、よしまだ借りられてない…!


するとその本棚の列の廊下に1人の女子生徒が横目に移った。
横目でも見覚えのある、しかも新しい記憶だ。

そうか、昨日の…。


女子生徒はやはりこちらを警戒しているようだ。
何故かはわからないが、いつでも逃げられる体勢をとっている。

しかし何故逃げない…??


彼女の目線に気付いた。
どうやら持っている本を見て悔しんでいるようにも見えた。


さらに警戒させないように小声で切り出した。


「あのぅ…。」


それだけでも彼女はかなり驚いたようで、今にも泣き出しそうだ。


「あ、、、えっ、、、ちがくて、、、。その…、この本もしかして借りたかったかな…?ならお先譲るけど……。どうします??」


彼女は呆気にとられた様な顔付きで、それでも尚警戒は解いてないようだ。


何やら彼女の口元が動いた気がするが、静かな図書室でもそれは耳に届かなかった。


何?って切り出す前にはもう彼女は背を向けていた。



にしても、同じ小説を読みたがっている生徒というだけで少し好感が持てた。
何せ周りに読書を嗜む生徒がいない、皆無だ。


次機会があればお話しできないかな…?

色白で少し好みでもあったその女子生徒との、あるはずの無い淡い期待は、その通りあるはずもなかったのだ。


彼女はゴールデンウィーク前日になっても教室に顔を出さなかった、もちろん図書室で会うこともなかった。





しかしゴールデンウィーク、そんな輝いたような日々にはならなかったのである。
それは次の語りで話すとしよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次話から今まで出てきた登場人物を割と頻繁に出そうと思っているので、間話で一旦、登場人物紹介をします…!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...