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3.錆びた黄金
しおりを挟む~【西尾 隆志】目線~
1人の女子生徒と帰り際に遭遇した。
誰だかは分からなかったが、何やら胸騒ぎがした。
翌日、空席だった席は空席のままだ。
少し気になってはいたが、一限目が始まると知らぬうちに考えるのを辞めていた。
何せ今日は課題テストという最悪の一日だ。
今日を乗り切るのに必死なのである。
昼食の時間、周りを見るともうグループがいくつか出来ている。
皆のコミュニケーション能力には驚きを隠せない。
自分も何とか【若宮】と【田嶋】との3人でグループを作った。
田嶋は辞めてしまったサッカー部の同期で、その中では1番仲が良かったのだ。
若宮と田嶋は初対面だったが、2人ともおちゃらけた性格が似ていたのか、昼食の時には既に意気投合していた。
この3人の中では自分がツッコミ役といったところだろう。
「ふぅ~、やっと終わったわあ~。今日部活無いし3人でどっか寄って帰らん??」
田嶋がそう提案すると、若宮はすぐにその提案に乗っかった。
自分もバイトは入れてなかったので、図書委員の仕事が終わるまで待っててくれることを条件にその提案を受け入れた。
図書室、委員会で同期の【向井 徹】は昨日受けた新刊の注文申請を整理しながら不満を漏らしている。
「なんで少年漫画とかダメなんだろうな、てかどうせならエロ本とか導入して欲しいわ~。なあそう思うだろ?西尾ちゃん】
「いや漫画は賛成だけど、エロ本は普通に無理だろ。てかそこに男子が群がってるとこ考えるとめちゃきもい。」
「お前女子みたいなこと言うな。まあでもその中に混じりたいとは思わんな確かに。」
だろ?と促して、図書委員の仕事を続けた。
この委員会に所属してから、本が割と好きになった。
本の貸し出しの仕事もあるので、人が来ないのに図書室の番をしなきゃいけない時はとてつもなく暇だ。
その時に、適当な小説を読み漁ったのが始まりだ。
ファンタジー物が好きなのでライトノベルは結構読んだが、ラノベよりも好きなファンタジー作家がいる。
【一間 一磨(ひとま かずま)】、この人の『凍てつく空の下』シリーズが好きでたまらない。
世界は一面真っ白、雪国の地から始まる。
主人公は雪国育ちの剣士だが、突如氷の魔女によって雪国は氷河期並の世界にされてしまい、太陽も隠されてしまって、人口はかなり減ってしまった。
その危機を救う為にも、主人公は旅立ち、仲間を集って魔女の討伐に向かうという、RPG要素のあるストーリーだ。
その物語ではヒロインも登場する。
セミロングくらいの黒髪で色白の白いローブを着た女の子だ。
年は15歳。
丁度あの子の様な…、
と頭の中に誰かが入って来ようとしたところで、向井から声がかかった。
「こっちは終わったぞ~、そっちも早くしろよ~。」
おうっ、と返事だけして目の前の仕事を片付けた。
お、そうだ、『凍てつく空の下』4巻が新しく入ってたんだっけ。
借りてからあの2人と合流しよう。
あ、、か、、さ、、た、な…。
は、、ひ…あった、よしまだ借りられてない…!
するとその本棚の列の廊下に1人の女子生徒が横目に移った。
横目でも見覚えのある、しかも新しい記憶だ。
そうか、昨日の…。
女子生徒はやはりこちらを警戒しているようだ。
何故かはわからないが、いつでも逃げられる体勢をとっている。
しかし何故逃げない…??
彼女の目線に気付いた。
どうやら持っている本を見て悔しんでいるようにも見えた。
さらに警戒させないように小声で切り出した。
「あのぅ…。」
それだけでも彼女はかなり驚いたようで、今にも泣き出しそうだ。
「あ、、、えっ、、、ちがくて、、、。その…、この本もしかして借りたかったかな…?ならお先譲るけど……。どうします??」
彼女は呆気にとられた様な顔付きで、それでも尚警戒は解いてないようだ。
何やら彼女の口元が動いた気がするが、静かな図書室でもそれは耳に届かなかった。
何?って切り出す前にはもう彼女は背を向けていた。
にしても、同じ小説を読みたがっている生徒というだけで少し好感が持てた。
何せ周りに読書を嗜む生徒がいない、皆無だ。
次機会があればお話しできないかな…?
色白で少し好みでもあったその女子生徒との、あるはずの無い淡い期待は、その通りあるはずもなかったのだ。
彼女はゴールデンウィーク前日になっても教室に顔を出さなかった、もちろん図書室で会うこともなかった。
しかしゴールデンウィーク、そんな輝いたような日々にはならなかったのである。
それは次の語りで話すとしよう。
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次話から今まで出てきた登場人物を割と頻繁に出そうと思っているので、間話で一旦、登場人物紹介をします…!
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