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似た者同士
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「ねえ、どっちが可愛いと思う?」
突然文房具屋に綾音を連れ出した美青は、水色と紫色の筆箱を綾音の顔の前に出した。パステルカラーとでもいうのだろうか、どちらも優しい色合いでかわいらしい。白い水玉模様が入っていて、まったく同じタイプの形をしている。違うのは地の色だけだった。
「えーと、そうだね…」
真剣に考えるものの、綾音はあまり文房具の見た目に頓着しないほうなので、どちらも同じようにかわいらしいとしか思えなかった。見た目よりも、どれだけペンが入るか、使いやすいか、汚れにくいかで選んでしまう。それに、キャラクターものや流行の女の子らしいデザインのものを使って「あいつには似合わない」と言われるのが怖いから無難なものを選ぶようになっていた。
だから、美青のように心のままに好きなものを誰かと一緒に選ぶことに躊躇がない人物のことは、どうしても眩しく見えてしまう。誰かに趣味を否定された経験がないのか、はたまた否定されても一切気にしない強さがあるのか。
「水色のほうがいいかな」
目を凝らして筆箱の色と美青を見て、綾音は水色を選んだ。どちらの色もかわいいけれど、パステルカラーの水色から感じられる瑞々しさが、美青によく似合っている気がした。
「ありがとう、綾音ちゃん。水色にする」
美青は本当に嬉しそうに微笑んで、買い物かごに水色の筆箱を入れた。それから、綾音を手招きして、本の売り場へも向かっていく。綾音もその軽やかな足取りについていった。
「あのね、私誰かと買い物するのって苦手なんだ」
「え?」
予想外の美青の告白に、綾音は面食らった。さも当然のように綾音を連れて来たから、ショッピングが好きなのだと思っていたのに。
「だって自分の趣味が見えるでしょ。イタい奴だと思われたら嫌じゃない」
明るい弾むような声色から放たれる言葉で、勝手に感じていた美青との壁がハンマーでたたき壊されたような気がした。言葉を発することなく後ろをついてまわる綾音を気にすることなく、美青はポニーテールを揺らしながらゆっくりと歩を進める。
「あのね、私、君山が好きなんだ」
人気のない売り場で適当に本を漁りながら、美青は独り言のようにつぶやいた。
「ずっと前から好き。最初は怖くてしょうがなかったのにね。人間って分かんないよね」
そう言う美青はいつになく大人びていて、綺麗だった。
いつもの美青からは、いかにも年頃の少女らしい瑞々しさと可愛らしさ、弾むような陽気さを感じるのだけれど、今は違っている。少女、というより女性という形容が正しいような気がした。
綾音は店のライトに照らされる美青の横顔に息を呑んだ。先ほどまでとは全く違う人に見える。はじめて、池田美青という人間と向き合っているような感覚がした。もちろん、普段の美青が自分を偽っているとは思わないが、美青の普段は簡単に他者に見せない一面に出会えた、そんな気がする。
「どうして私にそんな大事な話をしてくれるの…?」
そこではじめて、美青は綾音に目を合わせた。
「綾音ちゃんだからだよ」
美青の答えはなんだか根源的なところを突いているようで、心がじんわりと温かくなるような気がした。けれど、なんだか煮え切らないものも感じる。じっと美青を見ていると、目当てが見つかったのかぴたりと立ち止まった。
「この本面白いんだ。残酷な描写がすごく多いから、批判も多いんだけどね。でも、そういうことじゃないと思うの」
それはメディアで一時期取り上げられていた『奇書』に分類される小説の後編だった。たしか、ある日突然≪支配者≫がやってきて、彼らに人間が使役される話である。そして人間は自分たちの過ちに気付いていくが、どうしようもない。
「うん」と綾音がうなずくと、美青は笑って手に取った本を丁寧にかごに入れた。
「ほら、『意外』って言わないでしょ。そういうところ」
美青はいつも通りのお日様のようなきらきらとした明るい笑みに戻ってふらりとレジに並んだ。
綾音は邪魔にならない所に立って、美青の会計が終わるところを待つ。人当たりの良い美青は、会計の人とも仲良くなってしまいそうな雰囲気があった。
会計を終えた美青は「お待たせ」と小走りで綾音のもとに戻って来た。そして、二人で外に向かって歩き出す。
綾音は美青との距離が一気に縮んだ気がして、とても心地の良い気分がした。
「あの、美青ちゃん。ありがとう」
礼を言わなければいけない気がして美青のほうを向くと、美青は両目を見開いた。
「私が付き合ってもらったのに。綾音ちゃんってそういうところあるよね」
「え…?」
「ごめんごめん」
美青の言う意味はよく分からなかったが、分からなくてもいいことのような気がして、綾音は思わず頬をゆるめた。
「あ!笑った!!」
美青はその瞬間を見逃さなかったようで、驚嘆しながら綾音の顔を指さす。綾音は大きな反応に驚いて、再びいつもの真顔にもどっている。それでも美青は嬉しそうだ。
「ねえ、綾音ちゃんバス民でしょ?ごめんね。バス何時?」
綾音はバスの時刻表を暗記している。暗記が得意なのだ。だからすぐに答えられた。
「あと10分後くらい」
「だったらさ、綾音ちゃんのバスが来るまで一緒にお話してもいい?私の電車まだだから」
美青は高揚しているようで、頬をすこし染めてまくし立てるような口調になっていた。綾音は「もちろん」と頷いて、階段を降りて八番バス停のベンチに二人で腰掛ける。
「私ね、君山が好きって誰かにはっきり教えたの今日が初めてなんだ。誰かに吐き出してみたかったから、聞いてくれてありがとう」
「うん…」
気恥ずかしい気持ちになって、綾音は震えるようにして頷いた。
「小学校一年生のときから知り合いだからね、もう何年かなあ。まあ、好きって気付いたのは中一なんだけどね。距離が近すぎて解んなかったの。きっと本当はもっとずっと前から好きだったんだろうけど。自分で自分の気持ちをコントロールするのって難しいよねー」
美青はすっきりとした面持ちで空を見上げている。夕方から夜に差し掛かるとき特有のくすんだような色だった。雲が少し出ていて、そこまで美しいとは言えない。なかなか折り合いのつかない、複雑な心模様のようだった。
「…黒瀬くんじゃないんだね」
ふと開の顔が浮かんできて、どうしても気になってしまった。開とも小学生時代からの仲と言っていた。なら、とっつきやすいのは開の方だろうに、美青はどうしてわざわざ君山を好きになったんだろう。
いわゆる≪恋バナ≫が苦手な綾音だが、不意に言葉が口を突いて出てきてしまったのだった。失礼だっただろうか、と美青の顔色を窺うと、機嫌を悪くするどころか、にこやかに身を乗り出してくる。
「やっぱり綾音ちゃんもそう思うでしょ?でもね、なんか好きになっちゃったの!」
美青は小さな子どもみたいに足をばたつかせた。恥ずかしいのだろうか。可愛らしい仕草だと思いながら、綾音は美青の靴のあたりを見つめる。
「普通ってなんだろう、って考えたからかな‥‥」
急に寂寥感のある声色になって、美青は呟いた。綾音が再び美青の顔を見ると、美青は微笑む。
「なんだかうちら、今めっちゃ女子っぽくない?」
そして、美青はばっと綾音をくすぐって来た。
「え、あの、ちょっと‥‥」
友だちと呼べる相手にこんなことをされるのは初めてのことで、綾音はじゃれているというより、身体がこわばってしまった。美青はとても楽しそうにしているから、嬉しいのだが、くすぐったさより、緊張のほうが勝っている。
「綾音ちゃんは黒瀬でしょー?」
「え、あの、違います!」
じゃれつく間に美青が君山と同じようなことを言うので、綾音は勢いよく否定した。美青はふとくすぐるのを止め、ぎゅっと綾音を抱きしめる。
やたらとスキンシップが多いな、と思いながら綾音も美青と同じように美青の背中あたりに触れた。全く嫌ではない。むしろ嬉しいのだが、なんにしろ同年代との対等なコミュニケーションに慣れていないので、どうしても身体がロボットのようにこわばってしまうのだった。
「本当に違うんだったらごめんね。でも、隠すことないのに。大丈夫。黒瀬は自分に本気で向き合う人のことだけは絶対裏切らない。それだけは、腐れ縁の私が保証する」
耳元で聞こえてくる美青の声色は本当にやわらかく、とても優しかった。なんだか夢の中にいるようだった。身体のこわばりが一気に溶けたような感覚がする。あまりに初めてのことが多すぎて綾音はぼうっとしてしまった。
美青はゆっくりと綾音の身体から手を放して、ふわりと立ち上がる。
「綾音ちゃんってさ、全然ポーカーフェイスじゃないよね。黒瀬の言う通りだった。また明日。じゃね」
美青はしばらく歩いてから、またふりかえって大きく手を振った。
綾音が小さく手を振り返したところで、大きなエンジン音とともにバスが来た。
『黒瀬の言う通りだった』。その言葉を聞いて、綾音は開に言われたことを思い出した。
――ポーカーフェイスとか超嘘だしさ。
よく話をするようになった頃、開がそう言ってくれた。そこで、周りから押し付けられていたラベルが剥がれ始めた気がしたものだ。
開と小学生の頃から知り合いの二人の言うことは、かなり違っている。君山は「手に負えないからやめておけ」と言うのに、美青は「大丈夫」と太鼓判を押すから、なにがなんだか分からなくなる。
バスに揺られ、外の景色を見ながら、まだ黒瀬開という人をよく知らないなと綾音は思った。もちろん、君山や、美青もそうだ。ずっと人との関わりを避けてきた。逃げるのを止めようとしたけれど、楽な方に行こうとした。そして、美青に助けられた。やはり、誰かと繋がりを作ることから逃げてはいけないのだ。
美青の言葉で、一気に肩の荷が下りた。
開のことが好きだ。別に、だからといってどういうことはないけれど。
どうせ、きっと上手く隠せないのだ。いっそのこと認めてしまおう。綾音は全然ポーカーフェイスではないのだから。
突然文房具屋に綾音を連れ出した美青は、水色と紫色の筆箱を綾音の顔の前に出した。パステルカラーとでもいうのだろうか、どちらも優しい色合いでかわいらしい。白い水玉模様が入っていて、まったく同じタイプの形をしている。違うのは地の色だけだった。
「えーと、そうだね…」
真剣に考えるものの、綾音はあまり文房具の見た目に頓着しないほうなので、どちらも同じようにかわいらしいとしか思えなかった。見た目よりも、どれだけペンが入るか、使いやすいか、汚れにくいかで選んでしまう。それに、キャラクターものや流行の女の子らしいデザインのものを使って「あいつには似合わない」と言われるのが怖いから無難なものを選ぶようになっていた。
だから、美青のように心のままに好きなものを誰かと一緒に選ぶことに躊躇がない人物のことは、どうしても眩しく見えてしまう。誰かに趣味を否定された経験がないのか、はたまた否定されても一切気にしない強さがあるのか。
「水色のほうがいいかな」
目を凝らして筆箱の色と美青を見て、綾音は水色を選んだ。どちらの色もかわいいけれど、パステルカラーの水色から感じられる瑞々しさが、美青によく似合っている気がした。
「ありがとう、綾音ちゃん。水色にする」
美青は本当に嬉しそうに微笑んで、買い物かごに水色の筆箱を入れた。それから、綾音を手招きして、本の売り場へも向かっていく。綾音もその軽やかな足取りについていった。
「あのね、私誰かと買い物するのって苦手なんだ」
「え?」
予想外の美青の告白に、綾音は面食らった。さも当然のように綾音を連れて来たから、ショッピングが好きなのだと思っていたのに。
「だって自分の趣味が見えるでしょ。イタい奴だと思われたら嫌じゃない」
明るい弾むような声色から放たれる言葉で、勝手に感じていた美青との壁がハンマーでたたき壊されたような気がした。言葉を発することなく後ろをついてまわる綾音を気にすることなく、美青はポニーテールを揺らしながらゆっくりと歩を進める。
「あのね、私、君山が好きなんだ」
人気のない売り場で適当に本を漁りながら、美青は独り言のようにつぶやいた。
「ずっと前から好き。最初は怖くてしょうがなかったのにね。人間って分かんないよね」
そう言う美青はいつになく大人びていて、綺麗だった。
いつもの美青からは、いかにも年頃の少女らしい瑞々しさと可愛らしさ、弾むような陽気さを感じるのだけれど、今は違っている。少女、というより女性という形容が正しいような気がした。
綾音は店のライトに照らされる美青の横顔に息を呑んだ。先ほどまでとは全く違う人に見える。はじめて、池田美青という人間と向き合っているような感覚がした。もちろん、普段の美青が自分を偽っているとは思わないが、美青の普段は簡単に他者に見せない一面に出会えた、そんな気がする。
「どうして私にそんな大事な話をしてくれるの…?」
そこではじめて、美青は綾音に目を合わせた。
「綾音ちゃんだからだよ」
美青の答えはなんだか根源的なところを突いているようで、心がじんわりと温かくなるような気がした。けれど、なんだか煮え切らないものも感じる。じっと美青を見ていると、目当てが見つかったのかぴたりと立ち止まった。
「この本面白いんだ。残酷な描写がすごく多いから、批判も多いんだけどね。でも、そういうことじゃないと思うの」
それはメディアで一時期取り上げられていた『奇書』に分類される小説の後編だった。たしか、ある日突然≪支配者≫がやってきて、彼らに人間が使役される話である。そして人間は自分たちの過ちに気付いていくが、どうしようもない。
「うん」と綾音がうなずくと、美青は笑って手に取った本を丁寧にかごに入れた。
「ほら、『意外』って言わないでしょ。そういうところ」
美青はいつも通りのお日様のようなきらきらとした明るい笑みに戻ってふらりとレジに並んだ。
綾音は邪魔にならない所に立って、美青の会計が終わるところを待つ。人当たりの良い美青は、会計の人とも仲良くなってしまいそうな雰囲気があった。
会計を終えた美青は「お待たせ」と小走りで綾音のもとに戻って来た。そして、二人で外に向かって歩き出す。
綾音は美青との距離が一気に縮んだ気がして、とても心地の良い気分がした。
「あの、美青ちゃん。ありがとう」
礼を言わなければいけない気がして美青のほうを向くと、美青は両目を見開いた。
「私が付き合ってもらったのに。綾音ちゃんってそういうところあるよね」
「え…?」
「ごめんごめん」
美青の言う意味はよく分からなかったが、分からなくてもいいことのような気がして、綾音は思わず頬をゆるめた。
「あ!笑った!!」
美青はその瞬間を見逃さなかったようで、驚嘆しながら綾音の顔を指さす。綾音は大きな反応に驚いて、再びいつもの真顔にもどっている。それでも美青は嬉しそうだ。
「ねえ、綾音ちゃんバス民でしょ?ごめんね。バス何時?」
綾音はバスの時刻表を暗記している。暗記が得意なのだ。だからすぐに答えられた。
「あと10分後くらい」
「だったらさ、綾音ちゃんのバスが来るまで一緒にお話してもいい?私の電車まだだから」
美青は高揚しているようで、頬をすこし染めてまくし立てるような口調になっていた。綾音は「もちろん」と頷いて、階段を降りて八番バス停のベンチに二人で腰掛ける。
「私ね、君山が好きって誰かにはっきり教えたの今日が初めてなんだ。誰かに吐き出してみたかったから、聞いてくれてありがとう」
「うん…」
気恥ずかしい気持ちになって、綾音は震えるようにして頷いた。
「小学校一年生のときから知り合いだからね、もう何年かなあ。まあ、好きって気付いたのは中一なんだけどね。距離が近すぎて解んなかったの。きっと本当はもっとずっと前から好きだったんだろうけど。自分で自分の気持ちをコントロールするのって難しいよねー」
美青はすっきりとした面持ちで空を見上げている。夕方から夜に差し掛かるとき特有のくすんだような色だった。雲が少し出ていて、そこまで美しいとは言えない。なかなか折り合いのつかない、複雑な心模様のようだった。
「…黒瀬くんじゃないんだね」
ふと開の顔が浮かんできて、どうしても気になってしまった。開とも小学生時代からの仲と言っていた。なら、とっつきやすいのは開の方だろうに、美青はどうしてわざわざ君山を好きになったんだろう。
いわゆる≪恋バナ≫が苦手な綾音だが、不意に言葉が口を突いて出てきてしまったのだった。失礼だっただろうか、と美青の顔色を窺うと、機嫌を悪くするどころか、にこやかに身を乗り出してくる。
「やっぱり綾音ちゃんもそう思うでしょ?でもね、なんか好きになっちゃったの!」
美青は小さな子どもみたいに足をばたつかせた。恥ずかしいのだろうか。可愛らしい仕草だと思いながら、綾音は美青の靴のあたりを見つめる。
「普通ってなんだろう、って考えたからかな‥‥」
急に寂寥感のある声色になって、美青は呟いた。綾音が再び美青の顔を見ると、美青は微笑む。
「なんだかうちら、今めっちゃ女子っぽくない?」
そして、美青はばっと綾音をくすぐって来た。
「え、あの、ちょっと‥‥」
友だちと呼べる相手にこんなことをされるのは初めてのことで、綾音はじゃれているというより、身体がこわばってしまった。美青はとても楽しそうにしているから、嬉しいのだが、くすぐったさより、緊張のほうが勝っている。
「綾音ちゃんは黒瀬でしょー?」
「え、あの、違います!」
じゃれつく間に美青が君山と同じようなことを言うので、綾音は勢いよく否定した。美青はふとくすぐるのを止め、ぎゅっと綾音を抱きしめる。
やたらとスキンシップが多いな、と思いながら綾音も美青と同じように美青の背中あたりに触れた。全く嫌ではない。むしろ嬉しいのだが、なんにしろ同年代との対等なコミュニケーションに慣れていないので、どうしても身体がロボットのようにこわばってしまうのだった。
「本当に違うんだったらごめんね。でも、隠すことないのに。大丈夫。黒瀬は自分に本気で向き合う人のことだけは絶対裏切らない。それだけは、腐れ縁の私が保証する」
耳元で聞こえてくる美青の声色は本当にやわらかく、とても優しかった。なんだか夢の中にいるようだった。身体のこわばりが一気に溶けたような感覚がする。あまりに初めてのことが多すぎて綾音はぼうっとしてしまった。
美青はゆっくりと綾音の身体から手を放して、ふわりと立ち上がる。
「綾音ちゃんってさ、全然ポーカーフェイスじゃないよね。黒瀬の言う通りだった。また明日。じゃね」
美青はしばらく歩いてから、またふりかえって大きく手を振った。
綾音が小さく手を振り返したところで、大きなエンジン音とともにバスが来た。
『黒瀬の言う通りだった』。その言葉を聞いて、綾音は開に言われたことを思い出した。
――ポーカーフェイスとか超嘘だしさ。
よく話をするようになった頃、開がそう言ってくれた。そこで、周りから押し付けられていたラベルが剥がれ始めた気がしたものだ。
開と小学生の頃から知り合いの二人の言うことは、かなり違っている。君山は「手に負えないからやめておけ」と言うのに、美青は「大丈夫」と太鼓判を押すから、なにがなんだか分からなくなる。
バスに揺られ、外の景色を見ながら、まだ黒瀬開という人をよく知らないなと綾音は思った。もちろん、君山や、美青もそうだ。ずっと人との関わりを避けてきた。逃げるのを止めようとしたけれど、楽な方に行こうとした。そして、美青に助けられた。やはり、誰かと繋がりを作ることから逃げてはいけないのだ。
美青の言葉で、一気に肩の荷が下りた。
開のことが好きだ。別に、だからといってどういうことはないけれど。
どうせ、きっと上手く隠せないのだ。いっそのこと認めてしまおう。綾音は全然ポーカーフェイスではないのだから。
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