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三十七話 二度あることは三度ある
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立ち入り禁止区域である聖樹の森はほとんど未開の地となっていて、当然人がまともに歩けるような道など存在するはずもなかった。シモンはなるべく歩きやすい道を選んでくれているようだったが、それでもセルジュは何度も転びかけ、木の枝に擦られて身体中傷だらけになっていた。
(しかしまさかスティーブがこんな事をするなんて。俺と同じオメガで肩身の狭い思いをしながらも、立身出世を夢見て誠実に頑張っているものだとばかり思っていたのに)
罪のない村人を殺め、魔法生物を密猟して私腹を肥やすとは。
(しかも俺たちみたいな身分の低いオメガを騎士に取り立ててくれたフランソワの顔に泥を塗ったんだ。恩を仇で返すなんて)
仲の良かった人間に失望し、憎むのは辛い事だったが、セルジュは歯を食いしばって小枝に肌を切られる痛みに耐えながらひたすら前へと進んだ。
やがて、漆黒の闇の向こうにポウッと淡い光を放つ姿が見える距離まで、三人は聖樹の近くに辿り着いた。
「光ってる……」
「魔法の力だろう」
と、聖樹の側で何者かが動く気配がして、三人の体に緊張が走った。
「あっ!」
長い金髪の美しい姿が聖樹の明かりに照らされて、セルジュは思わず歓声を上げた。
「フランソワだ!」
まさか偶然にも、こんなにもすぐに彼に会えるだなんて。セルジュはクロードとシモンの手を離すと、ガサガサと薮をかき分ける音が響くのも構わず走り出した。
「フランソワ!」
フランソワは立ち入り禁止区域から人が走り出てくるのを見てギョッとした表情をしたが、セルジュに気がついて少しばかり表情を緩めた。
「セルジュ! どうしたんだ? こんな所で何をしてる?」
「ああ、フランソワ!」
セルジュはホッとして思わず涙ぐみそうになりながら、供物台の後ろに立って呼吸を整えた。
「大変なことになったんだ! スティーブがフエリト村襲撃の犯人で、俺とクロードがその罪を着せられちまって……」
「スティーブが?」
フランソワは青い目を見開いてセルジュを見た。
「確かに君たちが牢屋に入ったと聞いて、そんなはずないとは思っていたけど、まさかスティーブが犯人だなんて」
「本当なんだ! フエリト村の生存者が証言してくれる」
「フエリト村に生存者がいたのか?」
「ああ、俺の親友のフェアリーで、詳しく話せば長くなるんだが、とにかく早くスティーブを……」
その時フランソワの背後で足音がして、セルジュはハッとして慌てて口をつぐんだ。
(誰だ? もしかしてスティーブ……)
「フランソワ様? どなたかいらっしゃるのですか?」
(えっ、その声は……)
ザクザクと地面を踏む音が近づいて、聖樹の明かりの範囲にその人物が入ってきた時、セルジュは再び歓声を上げた。
「マルク!」
「えっ、セルジュ様?」
立ち入り禁止区域にいるセルジュを見て、マルクもギョッとした表情で腕に抱いている子供を思わずギュッと抱きしめた。マルクの腕の中ですやすやと眠っているエミールを見て、セルジュはホッと息をついた。
「良かった。俺たちが捕まって、エミールが泣いてるんじゃないかって心配してたんだ。カトリーヌ様は無事なのか?」
「え、と、カトリーヌ様ですか?」
マルクはおずおずと顔色を伺うようにフランソワを見た。
「……セルジュ、そういえば君はどうやって牢屋を抜け出してこれたんだい?」
「例のフエリト村の生存者が助けてくれたんだ。シモンって言って、俺の友人なんだけど……」
「今も一緒に来てるのか?」
「ああ、ここまで彼が案内してくれたんだ。シモ……」
意気揚々と振り返ったセルジュだったが、シモンの顔を見て一瞬言葉に詰まった。聖樹の光に照らされたシモンの顔は、薄明かりの中でもはっきりと分かるほどに青ざめ、立っているのがやっとのほどに全身をわなわなと震わせていた。
「そ、そいつ……」
「シモン?」
「セルジュ! そいつはフエリト村で君を蹴り飛ばした馬に乗ってた奴だ!」
シモンの言葉が脳みそに届く前に、一陣の金色の風がさっと喉元に迫るのを感じた。と、次の瞬間、強い力で押されて地面に転がったセルジュの前に黒い姿が立ちはだかり、パアンッ! と鋭い音がしてぱっと血飛沫が飛び散った。
「!!!」
「真剣白刃取りとは、よくやったもんですね。武器はどうされたんです?」
「黙れ、二枚舌」
「何言ってるんですか、自分だって嘘つきのくせに」
一年前にセルジュを助けてから、これで三度目の負傷である。ここまで来ると、セルジュがクロードの手に呪いをかけているのではないかと疑いたくなるほどだ。
「クロード? え、フランソワ?」
「こいつに手を出そうとするとは、いい度胸だな」
ポカンとして地面に倒れたままのセルジュの前で、クロードが両掌でフランソワの剣先を掴んだまま、凄まじい形相で相手を睨みつけていた。
「記憶を失っていると内偵に聞いていなければ、もっと早く始末していましたよ」
「えっ、フランソワ、お前何言って……」
「セルジュ、今すぐ君の後ろにいるフェアリーをこちらに寄越すんだ。でなければそっちの子供を使わなければならなくなる」
フランソワはいつも通りの柔和で美しい顔のままだったが、なぜか鬼の形相のクロードよりも冷たく恐ろしい顔に見えて、セルジュの背筋にぞわっと鳥肌が立った。
「何で? フランソワ、一体何を言って……」
「セルジュ」
いつの間にかこちらに来ていたシモンが地面に転がっているセルジュを助け起こした。
「あの子どうしたんだ?」
「あ、あの子は俺とクロードの子供で……」
「何言ってんだよ、そんなわけないだろ」
シモンは驚いた表情でセルジュを見た。
「あの子はフェアリーじゃないか」
(しかしまさかスティーブがこんな事をするなんて。俺と同じオメガで肩身の狭い思いをしながらも、立身出世を夢見て誠実に頑張っているものだとばかり思っていたのに)
罪のない村人を殺め、魔法生物を密猟して私腹を肥やすとは。
(しかも俺たちみたいな身分の低いオメガを騎士に取り立ててくれたフランソワの顔に泥を塗ったんだ。恩を仇で返すなんて)
仲の良かった人間に失望し、憎むのは辛い事だったが、セルジュは歯を食いしばって小枝に肌を切られる痛みに耐えながらひたすら前へと進んだ。
やがて、漆黒の闇の向こうにポウッと淡い光を放つ姿が見える距離まで、三人は聖樹の近くに辿り着いた。
「光ってる……」
「魔法の力だろう」
と、聖樹の側で何者かが動く気配がして、三人の体に緊張が走った。
「あっ!」
長い金髪の美しい姿が聖樹の明かりに照らされて、セルジュは思わず歓声を上げた。
「フランソワだ!」
まさか偶然にも、こんなにもすぐに彼に会えるだなんて。セルジュはクロードとシモンの手を離すと、ガサガサと薮をかき分ける音が響くのも構わず走り出した。
「フランソワ!」
フランソワは立ち入り禁止区域から人が走り出てくるのを見てギョッとした表情をしたが、セルジュに気がついて少しばかり表情を緩めた。
「セルジュ! どうしたんだ? こんな所で何をしてる?」
「ああ、フランソワ!」
セルジュはホッとして思わず涙ぐみそうになりながら、供物台の後ろに立って呼吸を整えた。
「大変なことになったんだ! スティーブがフエリト村襲撃の犯人で、俺とクロードがその罪を着せられちまって……」
「スティーブが?」
フランソワは青い目を見開いてセルジュを見た。
「確かに君たちが牢屋に入ったと聞いて、そんなはずないとは思っていたけど、まさかスティーブが犯人だなんて」
「本当なんだ! フエリト村の生存者が証言してくれる」
「フエリト村に生存者がいたのか?」
「ああ、俺の親友のフェアリーで、詳しく話せば長くなるんだが、とにかく早くスティーブを……」
その時フランソワの背後で足音がして、セルジュはハッとして慌てて口をつぐんだ。
(誰だ? もしかしてスティーブ……)
「フランソワ様? どなたかいらっしゃるのですか?」
(えっ、その声は……)
ザクザクと地面を踏む音が近づいて、聖樹の明かりの範囲にその人物が入ってきた時、セルジュは再び歓声を上げた。
「マルク!」
「えっ、セルジュ様?」
立ち入り禁止区域にいるセルジュを見て、マルクもギョッとした表情で腕に抱いている子供を思わずギュッと抱きしめた。マルクの腕の中ですやすやと眠っているエミールを見て、セルジュはホッと息をついた。
「良かった。俺たちが捕まって、エミールが泣いてるんじゃないかって心配してたんだ。カトリーヌ様は無事なのか?」
「え、と、カトリーヌ様ですか?」
マルクはおずおずと顔色を伺うようにフランソワを見た。
「……セルジュ、そういえば君はどうやって牢屋を抜け出してこれたんだい?」
「例のフエリト村の生存者が助けてくれたんだ。シモンって言って、俺の友人なんだけど……」
「今も一緒に来てるのか?」
「ああ、ここまで彼が案内してくれたんだ。シモ……」
意気揚々と振り返ったセルジュだったが、シモンの顔を見て一瞬言葉に詰まった。聖樹の光に照らされたシモンの顔は、薄明かりの中でもはっきりと分かるほどに青ざめ、立っているのがやっとのほどに全身をわなわなと震わせていた。
「そ、そいつ……」
「シモン?」
「セルジュ! そいつはフエリト村で君を蹴り飛ばした馬に乗ってた奴だ!」
シモンの言葉が脳みそに届く前に、一陣の金色の風がさっと喉元に迫るのを感じた。と、次の瞬間、強い力で押されて地面に転がったセルジュの前に黒い姿が立ちはだかり、パアンッ! と鋭い音がしてぱっと血飛沫が飛び散った。
「!!!」
「真剣白刃取りとは、よくやったもんですね。武器はどうされたんです?」
「黙れ、二枚舌」
「何言ってるんですか、自分だって嘘つきのくせに」
一年前にセルジュを助けてから、これで三度目の負傷である。ここまで来ると、セルジュがクロードの手に呪いをかけているのではないかと疑いたくなるほどだ。
「クロード? え、フランソワ?」
「こいつに手を出そうとするとは、いい度胸だな」
ポカンとして地面に倒れたままのセルジュの前で、クロードが両掌でフランソワの剣先を掴んだまま、凄まじい形相で相手を睨みつけていた。
「記憶を失っていると内偵に聞いていなければ、もっと早く始末していましたよ」
「えっ、フランソワ、お前何言って……」
「セルジュ、今すぐ君の後ろにいるフェアリーをこちらに寄越すんだ。でなければそっちの子供を使わなければならなくなる」
フランソワはいつも通りの柔和で美しい顔のままだったが、なぜか鬼の形相のクロードよりも冷たく恐ろしい顔に見えて、セルジュの背筋にぞわっと鳥肌が立った。
「何で? フランソワ、一体何を言って……」
「セルジュ」
いつの間にかこちらに来ていたシモンが地面に転がっているセルジュを助け起こした。
「あの子どうしたんだ?」
「あ、あの子は俺とクロードの子供で……」
「何言ってんだよ、そんなわけないだろ」
シモンは驚いた表情でセルジュを見た。
「あの子はフェアリーじゃないか」
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