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二十二話 壁が薄いんですのよ!
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「ちょっと!」
狼狽するセルジュに構わず、クロードはセルジュの左手を掴むと、金色の棒を薬指の根元に押し当てた。
すると、ピンとまっすぐ伸びていたはずの棒が、セルジュの指に触れた部分に巻き付くようにクルリと形を変えた。
「え……」
金の棒は勝手に自分でセルジュの指を採寸すると、余った部分を切り離して両端を繋ぐようにくっついた。チャリン、と切れ端が寝具の上を滑って床に落ちる音が聞こえた時には、セルジュの左手薬指にオーダーメイドの指輪が完成していた。
「クロード、これって……」
クロードはその質問には答えず、セルジュの左手首を掴んで自分の目の前にかざした。
「よし、上手くいった」
「なあ、クロード……」
「最近は重ね付けっていうのが流行りらしいから、宝石は結婚指輪の邪魔にならないような形になってるみたいだぞ」
「結っ!?」
セルジュは驚いてクロードの手から自分の手を引き抜くと、薬指にはまった指輪を凝視した。金色の細い線の上に、青と緑の宝石がまるで天の川のようにうねった模様を作り出している。
(あ、綺麗だ……)
思わず一瞬見惚れてしまったが、セルジュはすぐにはっと正気に戻ってブンブンと頭を振った。
「いや、これ何だよ?」
「婚約指輪」
「婚っ!?」
「西の金細工は縁起物だが、その中でも領主自らが生成する装飾品は値段がつけられないほど貴重なものだ。俺はそういうのにあまり詳しくないが、スワンが言うには持ち主を守護する力があるそうだ」
(そんなこと言われたら外しにくくなるだろうが!)
クロードは北の領主という立場と、先ほどのテストで右手を犠牲にすることによって、このとんでもなく貴重な指輪を手に入れたということなのだろう。
「それをしていれば大抵のアルファは追い払えるはずだ。地位の高い人間の婚約者だと一目でわかるからな」
(俺は別に、お前と婚約した覚えはないんだけど……)
そう言いたいのはやまやまだったが、クロードがロベール伯爵と閉じ込められていた時の事を思い出してぐっと堪えた。むしろ、こんな風に執着されることにどこかホッとしてしまう自分に戸惑った。
(でも俺だけ指輪をしてるのって、なんだか不公平な気が……)
「ていうかお前だって……」
そこまで言ってしまって、セルジュは慌てて口を閉じた。
(やべっ! 俺今なんて言おうとした?)
お前も薬指に指輪をしとけよって?
「え?」
不思議そうな表情でこちらを見るクロードに、セルジュは必死に手を振って否定の意を示した。
「い、いや、何でもない」
(それって束縛の強い女のセリフみたいじゃないか! 俺は絶対そんな事言いたくない)
目の前の束縛の強い彼氏みたいなクロードは、それを聞くと黙って腕を伸ばしてセルジュをぎゅうっと抱きしめた。
「な、何だよ」
「言いたいことがあるなら言え」
「無いよ。ちょっと間違えただけ」
クロードはセルジュの顎の下にすうっと手を滑り込ませると、顎を持ち上げるようにして唇を重ねた。
「んっ」
(こいつはこういうのが好きなのか? 発情期でもないオメガ相手に?)
しかし先ほど中和されたとはいえ、一度発情を誘発された体の奥が疼いているのも事実であった。
(だから俺も、嫌じゃないって思ってしまうのかな?)
番のいないオメガは、発情期になると見境なく相手を求めてしまう。普段は抑制剤で抑えているが、このような事態はセルジュも想定外であった。
「ふぁっ、クロード……」
首や鎖骨の辺りを吸われて喘いだセルジュは、すんでのところでハッと正気を取り戻した。
「いや、待て! お前これ以上やったら手が……」
しかしクロードは再びセルジュの唇を塞ぎながら、セルジュの両手を枕元に押しつけてそこに指を絡めてきた。
「んんっ! ちょ、手が……」
「痛むか?」
「いや、俺は痛くないけど」
「ならいい」
クロードはそれを聞くと、左手でセルジュの両手首を掴んで頭の上に押さえつけた。
「え、何を……」
次の瞬間、右手でズボンを下ろされて、セルジュは思わず悲鳴をあげた。
「ちょっとやめ……! あぁっ!」
前回クロードとそんなことになった時は、自分のものは安全な服の下に隠されていた。それがいきなり引き出された上、温かい粘液に包まれて吸われるというとんでもない刺激を受けて、セルジュは目の前がチカチカするような衝撃を受けた。
「止めろって! いや、出るから、クロード! んあっ!」
二、三回口の中で扱かれて吸われただけなのに、簡単にイカされてしまった。しかもタイミング悪く達したため、口からズレて白濁液をクロードの顔にぶちまけてしまった。
「うそ、ごめん……」
顔射されたにも関わらず、クロードは涼しい顔でペロリと口周りを舐めた。そのあまりの色気に、セルジュは下腹がズクリと熱くなるのを止められなかった。
(やばい、これは……)
オメガの悲しい性なのか、挿れて欲しいと願わずにはいられなかった。この綺麗な顔が欲望に歪み、自分の中で達する様を想像するだけでもう一度イけそうだった。
「セルジュ」
セルジュの瞳の中に自分と同じ野生を見たクロードは、オメガの本当の秘部に手を伸ばして指を入れようとした。
その時、ドンドンドン! と扉を激しく叩く音が部屋中に響き渡り、睦み合っていた二人は思わず寝台の上でビクリと体を硬直させた。
「ちょっと、隣の部屋私なんですけど! レディの隣部屋で何てことしてくれてんのよ!」
「え、俺の声、もしかして聞こえて……」
セルジュの顔からさあっと血の気が引いた。クロードは壁に手をついてしげしげと眺めている。
「そんなに薄い壁には見えないが……」
「聞こえてるんですのよ、クロード様!」
イザベルはもはやクロードを諦めたのか、今までの媚び媚びの態度を改めて厳しい口調で扉の向こうのクロードに説教した。
「わざわざよそ様のお城で子作りに勤しむのはやめていただけますか!」
クロードは意に介する風もなく、わなわなと震えているセルジュをのんびりと振り返った。
「母上は孫を作ってこいって言っておられたが」
「お前、ちょっと黙れ!」
狼狽するセルジュに構わず、クロードはセルジュの左手を掴むと、金色の棒を薬指の根元に押し当てた。
すると、ピンとまっすぐ伸びていたはずの棒が、セルジュの指に触れた部分に巻き付くようにクルリと形を変えた。
「え……」
金の棒は勝手に自分でセルジュの指を採寸すると、余った部分を切り離して両端を繋ぐようにくっついた。チャリン、と切れ端が寝具の上を滑って床に落ちる音が聞こえた時には、セルジュの左手薬指にオーダーメイドの指輪が完成していた。
「クロード、これって……」
クロードはその質問には答えず、セルジュの左手首を掴んで自分の目の前にかざした。
「よし、上手くいった」
「なあ、クロード……」
「最近は重ね付けっていうのが流行りらしいから、宝石は結婚指輪の邪魔にならないような形になってるみたいだぞ」
「結っ!?」
セルジュは驚いてクロードの手から自分の手を引き抜くと、薬指にはまった指輪を凝視した。金色の細い線の上に、青と緑の宝石がまるで天の川のようにうねった模様を作り出している。
(あ、綺麗だ……)
思わず一瞬見惚れてしまったが、セルジュはすぐにはっと正気に戻ってブンブンと頭を振った。
「いや、これ何だよ?」
「婚約指輪」
「婚っ!?」
「西の金細工は縁起物だが、その中でも領主自らが生成する装飾品は値段がつけられないほど貴重なものだ。俺はそういうのにあまり詳しくないが、スワンが言うには持ち主を守護する力があるそうだ」
(そんなこと言われたら外しにくくなるだろうが!)
クロードは北の領主という立場と、先ほどのテストで右手を犠牲にすることによって、このとんでもなく貴重な指輪を手に入れたということなのだろう。
「それをしていれば大抵のアルファは追い払えるはずだ。地位の高い人間の婚約者だと一目でわかるからな」
(俺は別に、お前と婚約した覚えはないんだけど……)
そう言いたいのはやまやまだったが、クロードがロベール伯爵と閉じ込められていた時の事を思い出してぐっと堪えた。むしろ、こんな風に執着されることにどこかホッとしてしまう自分に戸惑った。
(でも俺だけ指輪をしてるのって、なんだか不公平な気が……)
「ていうかお前だって……」
そこまで言ってしまって、セルジュは慌てて口を閉じた。
(やべっ! 俺今なんて言おうとした?)
お前も薬指に指輪をしとけよって?
「え?」
不思議そうな表情でこちらを見るクロードに、セルジュは必死に手を振って否定の意を示した。
「い、いや、何でもない」
(それって束縛の強い女のセリフみたいじゃないか! 俺は絶対そんな事言いたくない)
目の前の束縛の強い彼氏みたいなクロードは、それを聞くと黙って腕を伸ばしてセルジュをぎゅうっと抱きしめた。
「な、何だよ」
「言いたいことがあるなら言え」
「無いよ。ちょっと間違えただけ」
クロードはセルジュの顎の下にすうっと手を滑り込ませると、顎を持ち上げるようにして唇を重ねた。
「んっ」
(こいつはこういうのが好きなのか? 発情期でもないオメガ相手に?)
しかし先ほど中和されたとはいえ、一度発情を誘発された体の奥が疼いているのも事実であった。
(だから俺も、嫌じゃないって思ってしまうのかな?)
番のいないオメガは、発情期になると見境なく相手を求めてしまう。普段は抑制剤で抑えているが、このような事態はセルジュも想定外であった。
「ふぁっ、クロード……」
首や鎖骨の辺りを吸われて喘いだセルジュは、すんでのところでハッと正気を取り戻した。
「いや、待て! お前これ以上やったら手が……」
しかしクロードは再びセルジュの唇を塞ぎながら、セルジュの両手を枕元に押しつけてそこに指を絡めてきた。
「んんっ! ちょ、手が……」
「痛むか?」
「いや、俺は痛くないけど」
「ならいい」
クロードはそれを聞くと、左手でセルジュの両手首を掴んで頭の上に押さえつけた。
「え、何を……」
次の瞬間、右手でズボンを下ろされて、セルジュは思わず悲鳴をあげた。
「ちょっとやめ……! あぁっ!」
前回クロードとそんなことになった時は、自分のものは安全な服の下に隠されていた。それがいきなり引き出された上、温かい粘液に包まれて吸われるというとんでもない刺激を受けて、セルジュは目の前がチカチカするような衝撃を受けた。
「止めろって! いや、出るから、クロード! んあっ!」
二、三回口の中で扱かれて吸われただけなのに、簡単にイカされてしまった。しかもタイミング悪く達したため、口からズレて白濁液をクロードの顔にぶちまけてしまった。
「うそ、ごめん……」
顔射されたにも関わらず、クロードは涼しい顔でペロリと口周りを舐めた。そのあまりの色気に、セルジュは下腹がズクリと熱くなるのを止められなかった。
(やばい、これは……)
オメガの悲しい性なのか、挿れて欲しいと願わずにはいられなかった。この綺麗な顔が欲望に歪み、自分の中で達する様を想像するだけでもう一度イけそうだった。
「セルジュ」
セルジュの瞳の中に自分と同じ野生を見たクロードは、オメガの本当の秘部に手を伸ばして指を入れようとした。
その時、ドンドンドン! と扉を激しく叩く音が部屋中に響き渡り、睦み合っていた二人は思わず寝台の上でビクリと体を硬直させた。
「ちょっと、隣の部屋私なんですけど! レディの隣部屋で何てことしてくれてんのよ!」
「え、俺の声、もしかして聞こえて……」
セルジュの顔からさあっと血の気が引いた。クロードは壁に手をついてしげしげと眺めている。
「そんなに薄い壁には見えないが……」
「聞こえてるんですのよ、クロード様!」
イザベルはもはやクロードを諦めたのか、今までの媚び媚びの態度を改めて厳しい口調で扉の向こうのクロードに説教した。
「わざわざよそ様のお城で子作りに勤しむのはやめていただけますか!」
クロードは意に介する風もなく、わなわなと震えているセルジュをのんびりと振り返った。
「母上は孫を作ってこいって言っておられたが」
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