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「267話」

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家の外から聞こえた足音は、玄関へと近づいていく。
数は一人分……もし、お義父さんが帰ってくるのであれば、お義兄さんと一緒のはず。
つまりこれは帰ってきたのではなく、ただの客かなにかではないか? なんて淡い期待を抱いていたのだが……。

呼び鈴を鳴らすことなく、玄関の扉が開いた。
はい、この時点でアウトー!

家族でもないのに呼び鈴ならさずに入ってくるなんてありえんからな。
ちくせう。

いや、でもまだあるから!
お義父さんじゃなくてお義兄さんの可能性もあるから!

「戻ったぞ」

「あれ、お父さんだけ?」

「茂、置いてきたのかしらねえ」

可能性は死んだ。
がんばって引き留めてよ義兄さん!
てかお義父さんも息子おいて帰ってこないで!?

くそう……。
みしっと廊下の軋む音がする……けっこう良い体格な予感。
ガチャリとノブがまわり、ドアが開く……はたしてどんな人なのか。

「おかえりなさい、早かったわねえ」

「おかえりー」

「おかー」

「ああ……」

ドアから顔を出したのは初老といって差し支えない人物だった。
ただ年齢の割に体は複の上からでも分かるぐらいがっしりしており、足取りも確かだ。
てか、60前後って……そっか遥さんの年齢を考えて、そのうえで長男もいると考えればおかしい年齢ではないか。俺のじいちゃんばあちゃんとあんま年齢変わらんのな。

……なかなか厳つい顔だなあ。
ちょっと逃げ出したくなったけど、ここは踏ん張りどころだ。がんばらねば。

「父の勲でーす」

「島津です。お邪魔しています」

挨拶するタイミングを計っていると、遥さんがサラッとお義父さんを紹介してくれた。
おかげで少し緊張がとれた。援護ありがてえ。

「もっとまじめに紹介せんか……父の勲だ。よく来てくれた、寛いでいってくれ」

「はい、ありがとうございます!」

そういってお父さんは厳つい顔に笑みを浮かべる。
見かけによらず優しそうな人だ。よかった。

「ん? なにか甘い匂いがするな」

そっこうばれてーら。
俺とお義父さん以外の三人が、サッと顔をそらした。



「全部食ったって……」

まあ、そんなことをすれば何か食っていたのはバレバレなわけで。
結局俺が買ってきたケーキを全部食いつくしたことはお義父さんの知る事となった。

「おいしかった」

「そりゃそうだろうよ……」

妹さんの言葉に少し疲れたように言葉を零すお義父さん。
遥さんもだけど、この妹さんもなんかキャラが独特な気配があるし……苦労してるんだろうか。

ケーキなんぞで良ければまた持ってこよう。

「また持ってきますんで」

「いや、そう何度も持ってきて貰っては悪いだろう」

「いえいえ、喜んで貰えて私も嬉しかったですし」

このままお互い「いえいえ」「いやいや」言い続けるパターンだこれ。

「じゃー、島津くんとダンジョン行った時に一緒に買ってくるよー。ならいいでしょ?」

「む」

って思ったら、遥さんが一緒にいくからと言った瞬間お義父さんが黙った。
……なんだろう、このお義父さんの表情。判断に困るな!

娘と一緒に買いにだとう? ゆるさん! とかそういうのじゃないことを祈る。

「てか、島津くんが私っていうの違和感すごい」

まあ、自分でもそう思います。

「まあ、無理せんで慣れたらでな」

これにはお義父さんも苦笑いだ。
慣れたら俺っていえるんだろうか……しばらく掛かるかもな。
とりあえず曖昧に笑みを浮かべておこうか。

「ところで康平くんもダンジョンに潜っているんだったかな?」

む、これはあれか。
彼氏が来た時によく聞くお仕事への質問だな!

ダンジョンに潜っているって、世間一般的にはどう見られているのだろう。
ニート扱いなのか……それともなんとかチューバーみたいな扱い?
お義父さんはどう思っているのか……。



「通りで良い体をしている」

そっちかい。

「ありがとうございます。そういう遥さんのお義父さんも凄いですね。なにかやっているのですか?」

「ああ」

俺の言葉に満更でもなさそうに頷くお義父さん。
実際すごい体しとんのよな。ポーション飲んで若返ったらどうなってしまうのだろう。

そのままお義父さんが言葉を続けようとしたのだけど……遥さんが先に口を開く。

「道場やってるんだよー」

ちょっとお義父さん、しょんぼりしてるじゃない。

しかし道場か……ふむ。

「おお……剣道ですか?」

「ん? 正解だ。良く分かったな……」

「タコの位置からそうじゃないかなーと」

「なるほど」

剣道やってる人って、手にタコができるんだよね。
お義父さんの手にもばっちりそのタコがあるんで、まあ剣道だろうなーと思ったわけです。
外れてたら恥ずかしいね!

「最近はダンジョンのおかげで門下生が増えてねえ」

「ダンジョンさまさまだね」

そういうお義母さんとお義姉さんは嬉しそうだ。
やっぱダンジョン潜るにあたって、習い事する人増えてるんね。収入安定するのはいいことだ。

……てか、俺より年上だからお義姉さんでいいんだよね? まあ、あとで確認しよう……

「でも、お休みほとんど無くなっちゃったんでしょ?」

「まあ、な。だが暇よりはずっと良い、嬉しい悲鳴というやつだろう」

なるほど。
皆が毎日道場に通う訳じゃないけど、増えすぎて毎日開催しないといけなくなっちゃったのか。
お義父さんもちょっと疲れてそうな気が……しなくもない。

「康平くんもなにかやっているのかな?」

「やってないよねー?」

「はい、お恥ずかしながら誰にも師事はしておらず……」

何もやってないんだよな。
いきなり実戦に放り込まれたしね!


「ふむ、ダンジョンには人型のモンスターも出るんだったかな?」

「だいたい半分が人型ですね」

「なるほどなるほど」

……今のところは戦闘に関して言えば特に問題はないしね。
どこぞの生首みたいなやつが敵として出てきたら必要になるかもだけど。

だから当分の間、俺が道場とかに通うことはないだろう。



……って思っていたのだけど。

「防具は好きなのものをつけてくれ」

「はい!」

なんか話の流れで道場見学することになったよ!
しかも体験もしていけと。

いやね、お義父さんに『せっかくだから見学でもどうかね? ダンジョンの攻略に役立つかも知れないと思うのだが』なんて言われたら断るわけにはいかんとですよ……。

あとね。

「親父のむちゃ振りに付き合わせてすまないね」

「いえいえ! こういった体験あまり出来ないんで、むしろありがたいです」

お義兄さんにも挨拶はしておかないとだしね。
このタイミングを逃すと次は何時になるやら……なので、ちょうど良かったと思う事にした。

あとこのお義兄さん、お義父さんより苦労してそうな気がする。
顔が薄幸そう。
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