家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

文字の大きさ
上 下
267 / 304

「267話」

しおりを挟む
家の外から聞こえた足音は、玄関へと近づいていく。
数は一人分……もし、お義父さんが帰ってくるのであれば、お義兄さんと一緒のはず。
つまりこれは帰ってきたのではなく、ただの客かなにかではないか? なんて淡い期待を抱いていたのだが……。

呼び鈴を鳴らすことなく、玄関の扉が開いた。
はい、この時点でアウトー!

家族でもないのに呼び鈴ならさずに入ってくるなんてありえんからな。
ちくせう。

いや、でもまだあるから!
お義父さんじゃなくてお義兄さんの可能性もあるから!

「戻ったぞ」

「あれ、お父さんだけ?」

「茂、置いてきたのかしらねえ」

可能性は死んだ。
がんばって引き留めてよ義兄さん!
てかお義父さんも息子おいて帰ってこないで!?

くそう……。
みしっと廊下の軋む音がする……けっこう良い体格な予感。
ガチャリとノブがまわり、ドアが開く……はたしてどんな人なのか。

「おかえりなさい、早かったわねえ」

「おかえりー」

「おかー」

「ああ……」

ドアから顔を出したのは初老といって差し支えない人物だった。
ただ年齢の割に体は複の上からでも分かるぐらいがっしりしており、足取りも確かだ。
てか、60前後って……そっか遥さんの年齢を考えて、そのうえで長男もいると考えればおかしい年齢ではないか。俺のじいちゃんばあちゃんとあんま年齢変わらんのな。

……なかなか厳つい顔だなあ。
ちょっと逃げ出したくなったけど、ここは踏ん張りどころだ。がんばらねば。

「父の勲でーす」

「島津です。お邪魔しています」

挨拶するタイミングを計っていると、遥さんがサラッとお義父さんを紹介してくれた。
おかげで少し緊張がとれた。援護ありがてえ。

「もっとまじめに紹介せんか……父の勲だ。よく来てくれた、寛いでいってくれ」

「はい、ありがとうございます!」

そういってお父さんは厳つい顔に笑みを浮かべる。
見かけによらず優しそうな人だ。よかった。

「ん? なにか甘い匂いがするな」

そっこうばれてーら。
俺とお義父さん以外の三人が、サッと顔をそらした。



「全部食ったって……」

まあ、そんなことをすれば何か食っていたのはバレバレなわけで。
結局俺が買ってきたケーキを全部食いつくしたことはお義父さんの知る事となった。

「おいしかった」

「そりゃそうだろうよ……」

妹さんの言葉に少し疲れたように言葉を零すお義父さん。
遥さんもだけど、この妹さんもなんかキャラが独特な気配があるし……苦労してるんだろうか。

ケーキなんぞで良ければまた持ってこよう。

「また持ってきますんで」

「いや、そう何度も持ってきて貰っては悪いだろう」

「いえいえ、喜んで貰えて私も嬉しかったですし」

このままお互い「いえいえ」「いやいや」言い続けるパターンだこれ。

「じゃー、島津くんとダンジョン行った時に一緒に買ってくるよー。ならいいでしょ?」

「む」

って思ったら、遥さんが一緒にいくからと言った瞬間お義父さんが黙った。
……なんだろう、このお義父さんの表情。判断に困るな!

娘と一緒に買いにだとう? ゆるさん! とかそういうのじゃないことを祈る。

「てか、島津くんが私っていうの違和感すごい」

まあ、自分でもそう思います。

「まあ、無理せんで慣れたらでな」

これにはお義父さんも苦笑いだ。
慣れたら俺っていえるんだろうか……しばらく掛かるかもな。
とりあえず曖昧に笑みを浮かべておこうか。

「ところで康平くんもダンジョンに潜っているんだったかな?」

む、これはあれか。
彼氏が来た時によく聞くお仕事への質問だな!

ダンジョンに潜っているって、世間一般的にはどう見られているのだろう。
ニート扱いなのか……それともなんとかチューバーみたいな扱い?
お義父さんはどう思っているのか……。



「通りで良い体をしている」

そっちかい。

「ありがとうございます。そういう遥さんのお義父さんも凄いですね。なにかやっているのですか?」

「ああ」

俺の言葉に満更でもなさそうに頷くお義父さん。
実際すごい体しとんのよな。ポーション飲んで若返ったらどうなってしまうのだろう。

そのままお義父さんが言葉を続けようとしたのだけど……遥さんが先に口を開く。

「道場やってるんだよー」

ちょっとお義父さん、しょんぼりしてるじゃない。

しかし道場か……ふむ。

「おお……剣道ですか?」

「ん? 正解だ。良く分かったな……」

「タコの位置からそうじゃないかなーと」

「なるほど」

剣道やってる人って、手にタコができるんだよね。
お義父さんの手にもばっちりそのタコがあるんで、まあ剣道だろうなーと思ったわけです。
外れてたら恥ずかしいね!

「最近はダンジョンのおかげで門下生が増えてねえ」

「ダンジョンさまさまだね」

そういうお義母さんとお義姉さんは嬉しそうだ。
やっぱダンジョン潜るにあたって、習い事する人増えてるんね。収入安定するのはいいことだ。

……てか、俺より年上だからお義姉さんでいいんだよね? まあ、あとで確認しよう……

「でも、お休みほとんど無くなっちゃったんでしょ?」

「まあ、な。だが暇よりはずっと良い、嬉しい悲鳴というやつだろう」

なるほど。
皆が毎日道場に通う訳じゃないけど、増えすぎて毎日開催しないといけなくなっちゃったのか。
お義父さんもちょっと疲れてそうな気が……しなくもない。

「康平くんもなにかやっているのかな?」

「やってないよねー?」

「はい、お恥ずかしながら誰にも師事はしておらず……」

何もやってないんだよな。
いきなり実戦に放り込まれたしね!


「ふむ、ダンジョンには人型のモンスターも出るんだったかな?」

「だいたい半分が人型ですね」

「なるほどなるほど」

……今のところは戦闘に関して言えば特に問題はないしね。
どこぞの生首みたいなやつが敵として出てきたら必要になるかもだけど。

だから当分の間、俺が道場とかに通うことはないだろう。



……って思っていたのだけど。

「防具は好きなのものをつけてくれ」

「はい!」

なんか話の流れで道場見学することになったよ!
しかも体験もしていけと。

いやね、お義父さんに『せっかくだから見学でもどうかね? ダンジョンの攻略に役立つかも知れないと思うのだが』なんて言われたら断るわけにはいかんとですよ……。

あとね。

「親父のむちゃ振りに付き合わせてすまないね」

「いえいえ! こういった体験あまり出来ないんで、むしろありがたいです」

お義兄さんにも挨拶はしておかないとだしね。
このタイミングを逃すと次は何時になるやら……なので、ちょうど良かったと思う事にした。

あとこのお義兄さん、お義父さんより苦労してそうな気がする。
顔が薄幸そう。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜

あおぞら
ファンタジー
 主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。  勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。  しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。  更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。  自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。 これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路
ファンタジー
 錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。  キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。  ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。  意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。  しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。    キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。  魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。  キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。  クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。  彼女は伝説の聖剣を 「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」  と、へし折った。  自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。  その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

処理中です...