家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

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「266話」

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北上さんは私服で良いっていったけど、やはりスーツのほうが良かったか?
それともダンジョンに潜る服装で……いや、それはさすがにないよな。いくら感覚麻痺しているからって、猫耳尻尾が一般的ではないことぐらい俺だって分かっている。

分からんな。
恰好は……まあよしとして、ここまで驚くとなると……まさか、まさかだけど。

ないとは思うけど、俺は一抹の不安を胸に北上さんへと小声で話しかける。

「北上さん、俺がくること言ってあるんすよね??」

ほんっとまさかだけどね。
言ってなかったらそら驚くわ。

娘が帰ってきたと思ったら、傍らに見知らぬ男がいるんだもの。
事前に聞いていたのなら心構えが出来ているだろうけど、そうでないのなら……。

「え、一応言ってあるけど……お母さんどうしたのさ?」

あ、ちゃんと言ってたか。
そうなると別の理由かー。

「っと、ごめんなさいね! こんなガチム……若い子だと思わなかったから……そうよね、ダンジョンに潜っているんですものね」


北上さんに言われて……ここはお義母さんと呼んでおこうか。
お義母さんはハッとした表情を浮かべてから申し訳なさそうに頭を下げる。

うん。
なんかガチムチとか言いかけてた気がする。
結局の俺の見た目があれだっただけだったぜ、ハハハッ。

「えっと、島津さんでしたよね? いつも娘がお世話になっております」

「いえ! こちらこそいつも遥さんにはお世話になりっぱなしでして……」

改めて頭を下げるお義母さんに対し、俺も慌ててペコペコと頭を下げる。
いやーほんとお世話になっております。

この服も遥さんに選んでもらってものですし……あ、そうそう。
北上さんの下の名前だけどね、遥って言うんだよ。たぶん初出だね! 下の名前でよぶのなんか恥ずかしいから、いつも名字で呼んでいたけれど……北上さんの家だと誰を呼んでるのか分からんくなるからねえ。

「立ち話もなんですし、どうぞ上がってくださいな」

「はい、お邪魔します!」

あああぁぁ……ついに上がることに。
勢いよく返事したけれど、内心ドッキドキやぞ。

これが単に友人の家にって話なら問題ないのだけど……おっと、置いて行かれる前にいかねば。


靴を脱いで揃えてから家に上がる……こういう細かいとこも大事よな!

扉を潜った先はリビングだ。
大き目のテーブルにたくさんの椅子が並び、大き目のテレビにソファーもたくさん……もしかして結構な大家族なのだろうか?

あまりじろじろ見るのも失礼だろうと、一瞬部屋を見渡してすぐに視線をお義母さんと北上さん……遥さんに向ける。二人はソファーのそばに居たのだが、そこに追加でもう一人……女性がいた。


「こんにちわ~」

「どうも島津です。お邪魔します……妹さんですか?」

「そだよー」

こちらを見て挨拶をしてくれたので、こちらも挨拶で返す。

遥さんより……北上さん呼びで慣れてたもんで、言いにくいなっ。
まあ、そのうち慣れるか……えっと、でその女性なんだけど、ぱっと見で遥さんより年下っぽかったので妹さんかな? と尋ねたが、正解だったようだ。


あ、年下っぽいってのはあれだよ。いまの遥さんの見た目ではなく、初めてあったころと比べてだね。
今はポーション使ったもんで大分若返って……むしろ妹さんより若く見える。妹さんは20前半って感じかな? 外れた時が怖いから口には出さないけどなっ。

「由香里です。こんな姉ですがどうか見捨てないでやってください」

「どういう意味だこら」

姉妹仲は悪くはないようだ。
とりあえず曖昧な笑みで返しておく。

「っと、そうだ。これ、ダンジョンで買ってきたケーキです、よかったら皆さんで召し上がってください」

ケーキで誤魔化しておくか。
大量に買っておいたから大家族でも大丈夫だろう。ナイス判断だ、俺。

「あらあらわざわざありがとうございます……ダンジョンで買ってきたケーキ?」

「ええ、ダンジョンの施設で購入出来るんです」

「ダンジョンってすごいのねえ……」

ダンジョンってなんだろう? ってなるな。
でも実際買えてしまうのんだからしょうがない……ダンジョンに潜らなければ早々食えるもんじゃないし、お土産には良いと思うんだ。

「しげ兄とお父さんは?」

ひい。聞きたくない単語が聞こえた!
てか兄もいるのか。もしかして他にも居るかも知れん

「二人とも帰ってくるのは少し遅くなるって。本当は今日は休みたかったらしいけど……さすはに昨日の今日じゃねえ」

「ふーん、そっかー」

おおっし! そいつは良い情報を聞いた!
……ま、まあいずれ挨拶しなければいけなくなるのだろうけど、とりあえず今日のところは助かったと言って良いだろう。
ほんと、問題を先送りしただけな気がするけど……ところでね。さっきから妹さんがじーっとケーキの箱を眺めてるのですが。
食いたいのか、中を見てみたいのか……ダンジョン産のケーキなんてまず見る事ないだろうし、気になるんだろうな。

「……よかったら開けてみますか?」

「あ、ごめんなさい! ダンジョンのケーキって聞いて気になっちゃって、つい」

そう、謝りながらも手はしっかり箱に伸びている。
そしてぱかっと開くケーキの箱。
開いた途端に部屋中に甘い、良い香りがぶわっと広がった。

「わ、すっごい……おいしそう」

ケーキをみて、目をキラキラと輝かせている妹さん。
実際すごい美味しそうなんだよなこれが。どこの高級店で買ったんだって感じのケーキが洒落た箱に並んでて……うん、美味そう。

「しゃ、写真とってもいいですか??」

「どーぞどーぞ」

妹さんがスマホでパシャパシャと写真を撮っていると、何やら話し込んでいたお義母さんと遥さんもケーキが気になったのか、箱を覗きにきた。

「本当凄いわねえ、このケーキ」

「んー……? ねえ、島津くん。こんなケーキ売ってたっけ?」

おっと、さすがに気付くか。

「施設のグレード上げたんで、それで追加になったやつですね」

「やっぱそうかー! グレード上げたって……」

「施設のグレード??」

遥さんはちょっと呆れた顔をしているが……まあ、ケーキ喜んでもらえてるっぽいし、いいのだ。
とりあえず施設のグレードと聞いて頭に?を浮かべている妹さんに説明しながらケーキでも食いますかね。




「ほあー……おいしかった」

「本当ねえ……」

「美味しくてびっくりした」

予想以上に美味しかった。
まじでこれ日本の中でもトップレベルに美味しいぐらいはあるんじゃないか?
なにせ……。


「……食べちゃったね」

「お父さんとしげ兄の分どうしよう」

「……箱、片付けておくわね」

(匂いでばれるんじゃないかな……)

大量にあったケーキ……10個以上あったケーキは、全てみんなの居の中に納まってしまった。
全て収まったので当然ながらお義父さんと義兄さんの分はない。かなしいね。

お義母さんが証拠隠滅を図っているけど、バレそうな予感がしなくもない。
時間経過で匂いが薄れればまあなんとか?

しかし、あれだな。
彼氏が遊びに来て、手土産がないってのは不味いんじゃなかろうか。

やっぱポーションも持ってきてて正解だった。
まだ渡してなかったけど、これも渡してしまおう。

「遥さん、ちょっといいです?」

「ん? なーにー」

お茶を飲んで一息ついていた遥さんに手招きして、すっとポーションの入った箱を手渡す。

「これ、一応持ってきたんだけど……お父さんたちのお土産これってことにしちゃうとか」

「……ポーションかな、これ」

正解。
遥さんは中身が20階層のポーションだとすぐに気付いたようだ。
眉をひそめたその様子から、受け取るかどうか悩んでいるのが伺える。

「何かあった時の為に、持っておいてほしい」

「ん、分かった。ありがとねっ」

ほんと何かあった時に、このポーションがあれば助かるかも知れないんだしね。
もしを考えたら、家族になる以上は渡さないって選択肢は俺にはない。

とりあえず遥さんも受け取ってくれたので、とりあえずこれで手土産はなんとかなる。
使い方は遥さんが皆に話すだろう。

あとはお義父さんが帰ってくるまえにどう退散するかだけど……?

「……?」

なんか足音が近づいてきてるような……。

と、俺が顔をあげてキョロキョロと辺りを見渡していると、同じく足音を捉えたのだろう。遥さんも顔を上げて……やばって顔をしている。……え?

「あ、やば。帰ってきたかも」

「え゛」

逃げそこなったー!!
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