家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

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「265話」

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「ユウキ、夕食は一緒にテーブルに着きなさい」



「え、お客こうすけ様と一緒に、ですか?」



「あぁ。その方がきっと面白いものが観れるからね。」



「??かしこまりました」



不思議そうな顔で俺の隣を歩くユウキは、ヒナの本気を詰め込んだ『男の娘』のメイド姿だ。



よく歩けるものだと感心する高いピンヒールも上手く履きこなし、ついて・・・いるのか再度確認したくなる程その容姿は女性そのもので、よくよく見れば女性と言い切るには不思議な妖艶さもあり、嗜好によっては劣情をそそるのかもしれない。



「・・・ユウキ」



「はい」



美比呂がいないこのタイミングを見計らい、俺は気になっていたことをユウキに聞いてみることにした。



「美比呂やヒナへの甘え上手さを見て思ったのだが、ユウキは兄姉などはいるのかい?」



「兄姉・・・ですか、いえ、双子の弟がおりましたが、子供の頃に両親が離婚して別々に引き取られた為、今はどうしているのか・・・」



・・・・・・双子の弟?



それは、義姉の美比呂もとても似ていると言った俺の中での『もしかしたら』の可能性が、確実なものになった瞬間だった。



他人の空似がないわけではないが、一度家族になった人間がそれほど似ていると言う人間がそうそういるとも思えず、美比呂の義弟がユウキの弟で兄弟の線が濃厚になる。



だが・・・美比呂にそれを告げる必要もないだろう・・・



ユウキ自身を美比呂は受け入れているし、似ているからと言って、義弟を含め縁を切った家族を改めて考えさせる必要はないのではないか。



「そうか、上に兄姉はいないのか、いや、2人には打ち解けて懐いているからな。女性は苦手だと言っても、慣れ親しんだ兄姉などがいたのかと思っただけだ、気にしないでおくれ。」



追及しても不審に思われる可能性もあり、敢えて『双子の弟』『両親の離婚』などには触れず、この話は一旦ここでクローズする。



「・・・大丈夫です、ずっと昔の事ですから」



今の俺には関係ない人間のことなので、そう言い捨てるユウキの自嘲的な言葉が引っかかりながらも、明日の朝食は部屋で取りたいことや、天気が良ければ夜はライトアップされた湖までのウッドデッキを美比呂と散歩しようかと思うなど、当たり障りのない会話をユウキとしながらディナー会場である、あのホールへとやって来た。



「晃介様、どうぞこちらのお席に。」



ユウキが俺を案内したのは、ステージの正面の席で、他の席では今晩も各々が愉しみながらの淫らな食事風景が繰り広げられている。




「伊坂様」



「あぁマダム。」



「準備は整っておりますので、いつでも・・・」



「ありがとう、世話をかけるね。」



「とんでもないことです、ふふ・・・こちらとしても、こういったショーは大歓迎でございますから。」



マダムの含みのある笑いに俺も自然と口角が上がってしまうが、状況がわからないユウキだけはキョトンとした顔に脳内は『???』が踊っていることだろう。



「マダム、ではユウキも共に食事を取らせるからそのように手配を頼むよ」



「かしこまりました」



マダムが去り、不思議そうな顔をしながらもユウキは俺におしぼりを手渡したり、グラスにシャンパンを注いだりとノラの仕事をこなしていく。



「あの・・・よろしいのですか?僕が一緒にお食事なんて・・・」



「構わないよ、気を張らなくていいから一緒に食べてくれると嬉しいんだが。」



ユウキにグラスを手渡し、ステージのライトを受けてキラキラとした気泡が浮き上がっては消える様を見つめながら俺は笑って見せた。



「あ・・・申し訳ありません、ありがたく頂きます。」



ユウキはユウキで不安と緊張があったようだが、少し肩の力が抜けたのか恥ずかしそうに笑ってグラスに口を付けた。



コース料理が運ばれ始め、和やかに進む食事。



ユウキの頬がほんのり赤く色づいてきた頃、俺はマダムに向かってそっと手で合図を送った。



ステージ以外の客席が暗転し、客席よりも1mほど高いステージへとつながる花道がライトで照らされると興味を誘われた客も、ノラも、一斉にそちらへと視線を向ける。



音を立てずに開いた扉から入って来たのは・・・



「えっ・・・ぁ、あの・・・晃介、様・・・あ、れっあの・・・」



口に運ぼうとしていたステーキを危うく落としそうになったユウキが声を抑えて俺に向かって口をパクパクと動かしている。



「あぁ・・・悪いコには仕置きが必要だろう?」



俺は傍に待機していたノラから、普段ノラたちが使用しているインカムを借り受け装着した。



「晃介様、一体何を・・・」



「なに、面白いものを見せてあげよう。ユウキは気にしないで食事を続けるといい。」



音の入りも問題ないと確認した俺は、首輪と目隠しをされ、雄のノラに鎖で繋がれ、重い足取りでステージ中央へと歩く従順だった有能な秘書、咲藤に声をかけた。



「・・・どうだ、気分は」



「!!こ、晃介様っ」



俺の声はホールに響き、視界を遮られ、ノラの誘導でしか動けない咲藤が俺の声を聴きわかりやすく動揺する。



引き締まった身体をいつも包み隠しているスーツもなく、両手首には手枷を嵌められ、自分を誘導する手に従うしかない咲藤はステージ上に設置してもらった開脚したまま拘束できる椅子に手足を固定された。



「ぁ、あ・・・晃介様・・・っおね、がいですッ、御姿を見せてください・・・!」



「・・・ふふふふ、なんだ咲藤、見えなくとも俺は傍にいるじゃないか。」



俺の言葉に咥えた生ハムを口から落としたのはユウキ。


ぽかーんとしているその様子が可愛らしく噴き出しそうになったが、俺がボロを出したら全てが水の泡になってしまうので気を引き締め直す。



「え、ぁ・・・それでは・・・今私をこんな姿にしているのは・・・」



「あぁ、俺だよ・・お前には期待しているんだ。もう一度従順で忠実な俺の・・・秘書しもべとして戻ってこられるかはお前次第だからな、咲藤。」








ーーーそう、俺はあいつの嗜好に則って、罰を与える。



自分を伴ってここへ来たのはノラだと思っていたあいつの視界を奪い、傍にいて醜態を晒させているのは俺だと声を聴かせて思い込ませ、飼い犬に手を噛まれた俺はあいつが最も悔しがるであろう方法で罰を与えることにしたのだ。













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