250 / 304
「250話」
しおりを挟む「……」
「……」
そういや言ってなかったなあ!?
沈黙がくっそ気まずいんですが。
「な、なに……?」
しばらく無言でいた中村であったが、ふいに立ち上がるとゆらゆらと揺れるように近づいてくる。
まるで幽鬼のようだ。
「まさか、出来たのか、彼女が」
震える声で確かめるように言う中村。
その目をみれば分かるが、あれはどうみてもそうだと確信している。
視線に呪が絡みついているようだ。
俺はその視線から逃れるように、すっと顔をそらす。
「うぉぉぉおいいっ!? いつのまに作ったんだよおい!」
「アメリカいったときに、ちょっと。落ち着けって」
首元をつかんでガックンガックンゆする中村をどうにか落ち着かせようとするが、逆効果だったらしい。
「仕事でいったんじゃねーの!? この裏切り者がァ!」
「いや色々あってね?」
目が血走ってて怖い。
あとそれ言われると俺としてもちょっと何も言えない。
お仕事のはずだったんだけどなあ?
「色々だぁ?? 自慢かこの野郎、地獄に墜ちろ! クロに嫌われちまえっ」
「それは勘弁して」
10分後。
どうにか落ち着いた中村は、部屋のすみっこで膝を抱えて蹲っていた。
「中村が心を閉ざしてしまった」
「うるせぇこの破廉恥野郎」
「えぇ……」
破廉恥とかそんな言葉初めて言われたわ……。
てかこの中村いろいろとダメそう。
「ほら、中村にだって出会いはあるよ……動画みて興味持ってくれる人だっているかもだよ?」
既に相当な人が見ているわけだし、当然女性だっているだろう。
「動画見てとかろくな出会いになる気がしない。てか動画みて寄ってきたってそれ、俺がどこの誰だか調べてきてんじゃね? 怖くて無理だべそんなの」
「意外と冷静」
それもそうだな! とかいって立ち直ってくれりゃーいいのに、妙なところで冷静なんだからよぉ。
……まあ、実際無理よな。
急に知らない人から声かけられたりしたら、怖ってなるよ。
それに向こうはこっちのこと調べて知ってたりするんでしょ? むりむり。
ダンジョンの個室にこもっても、出待ちとかされそうでまじ怖い。
「うーん……隊員さんを紹介してもらう?」
女性隊員は北上さんだけじゃないし。
中村はレベル的にいつものメンバー以外とも組んでるっぽいしね。
コミュ力はあるんだよ。出会いとかそのへんがダメなだけで。
「振られでもしたら気まずいなんてもんじゃねーべさ。これからも一緒に潜るんだし」
……それは確かに。
俺も北上さんがその気がなくて、俺の勝手な思い込みとかだったりしたら……やべえな、日本に居られないレベルかもしれん。
うーん。
しかしそうなるとなあ……難しいなあ。
「あー……あとは生首ぐらいしか……」
見た目だけは美人だし。
鎧か何かに据え付けておけば……まあ冗談だけどさ。
「……」
「……ん?」
「……」
「え、いやそこまで無言になられると怖いんだけど……」
俺の言葉を聞いた中村が急に無言になった。
怒ったわけじゃなさそうだけど……いや、まさかねえ。
てかずっと無言だと怖いわっ。
「んじゃ、今日はここらで帰るわ」
夕飯を適当にとり、少しゆったりと過ごしたところで、明日も早いからと中村は帰り支度を始める。
その顔は妙にすっきり? した感じで……ううーん?
「おう、お疲れー。まあ動画伸びてよかったな」
「ああ、助かったよ。また撮影するときはよろしくなー」
「大丈夫だろうなあいつ?」
ぱっと見はなんともないのだけど、ちょっと不安だ。
生首を押し付けようとしたのはまずかったか?
女性との接点がなさ過ぎて、もう性別が女性ならなんでも良いとかなってるんじゃなかろうか。
友達として、彼の将来を思うとちょっぴり不安です。
「えーっと、前にもらったURLどこいった?」
まあ、なんとかなるべ。
とりあえず掲示板みてみよっと。
「さすがに前のスレは残ってないな……一番勢いあるのはこれか、Part184? もうそんなに進んでるんだ」
前に見たのは……なんだっけ。
たしかトライアル会場に尻尾生やした変態がどうとかそんなスレタイだった気がするけど。
まあ、結構前なのでもう残ってないね。
今あるのはダンジョン攻略のススメってやつだ。
ちらっと覗いてみると、俺たちが投降した動画について話題になっていた。
「あ、やっぱ試験の時の事、覚えてる人いるな」
俺とクロ、それに中村をみて以前、試験会場で話題になった連中だと気づく人はすぐに気づいた。
特にクロの存在は印象に残っているだろうし、余計だね。
「特定班こっわ。これペナがなければ特定されそうだな……改めてアマツに感謝しておこう」
気になったのは俺たちの身元について話題に上がったところか。
もう札幌会場って時点で道民だとはバレている。
そこからさに住んでるところとか、どのダンジョンに潜ってるとか……いや、知ってどうすんだよって思うんだけどさー。
ただまあ犯罪行為するとダンジョン入れなくなっぞ? ってことなので、調べようとする人は現れなかったので助かった。
なんか色々とトラウマになってそうな雰囲気だね。
今度アマツに何か差し入れしてあげようと思います。
ただ、どこのダンジョンか? って話については即ばれたけどな。
なにせ日本にあるとわかっているダンジョンで、一般人が入れないダンジョンは一か所しかないし。
バレバレですわ。
てか、そのあたりの情報から俺がニートでーっす言ったのも嘘だとばれた。
いずれバレるかなーって思っていたけど、思っていたよりはやかったな!
あとね。
「俺の剣鉈も誰が作ったのか特定されてる。備前長船派の……まじ?」
小屋にあった鉈剣、なんかすごいのだった。
いわゆる刀匠が打ったもので、数もそんなに出回ってるものじゃないはず、とのこと。
依頼して打って貰うしかないから、分からんのだそうな。
「ってもう引退してるのか、昭和の中期から後期にかけて造られたと考えられると、よく分かるなあ」
打った人はまだご存命とは言え、結構なご高齢ってことですでに引退していた。
あなたの剣鉈のおかげで助かってますと何か贈り物でもしようかな。
「別の人のだけど売ってるのな……んん? 桁が一つ違うやん、やっば。しかも売切れてるし」
数十年前はともかく、今の時代だとそういった刀剣類もネットから作成依頼だしたり、買えちゃうらしいね。
その人のお弟子さん……と、その他数名でやってるサイトがあったのだけど、品物はすべて売り切れな上に、注文が殺到して次の受注がいつになるか未定になってたよ。
俺たちの動画が原因って訳じゃないよ。
それ以前からその状態だったそうな。
ダンジョンができたことで、需要が膨れあがったんだろうね。
0
お気に入りに追加
932
あなたにおすすめの小説

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う
ちょす氏
ファンタジー
今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。
卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。
金も欲しいし、時間も欲しい。
程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。
しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。
そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。
ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。
「はぁ?」
俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!?
悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。
追放されたら無能スキルで無双する
ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。
見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。
僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。
咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。
僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる