家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

文字の大きさ
上 下
246 / 304

「246話」

しおりを挟む
「島津デース」

カメラを前にして、死んだ目でピースをしている男が一人。俺です。

結局あのあと何度か撮り直して「お前もう名前言うだけでいいよ!」となり、今に至る。
なんの面白みもない動画になってしまうではないか?

そんな疑念からせめてもの抵抗としてダブルピースしておいた。
顔はフェイスガードで見れないのが残念だ。


「よっしよし」

中村はそんな俺をみて満足そうに頷いている。
ダブルピースは見なかったことにしたんだろうか? OKだす基準が相当下がってるな。

「……じゃあ、最後に」

そういうと中村はカメラをさっと横に向ける。
その先にはクロがいるのであるが……。


「……」

「……」

クロはカメラを向けられても、香箱座りしたままピクリとも動かないでいた。

「あの、クロさん??」

声を掛けても反応がない。
耳も尻尾もピクリとも動かない。

これ寝てね?

「ほらぁ、何回も撮りなおすからクロ飽きちゃったじゃん」

「主にお前のせいやろかい」

そうじゃろか。

「クロー? おーい」

起きてくれると嬉しいなーと、背中をつついてみると、クロはうっすらと目をあけて、迷惑そうな顔でこちらを見る。

そしてほんっとうにしゃーねえなあ……って感じで、小さく尻尾を揺らすのであった。

「……ま、まあとりあえずはこれで」

中村はとりあえずこれで良しとしたようだ。
まあ、これはこれで猫好きには需要あるだろうさ。

犬好きにはしらぬ。



とりあえず最初の挨拶はこれでOK。
じゃあ次は戦闘シーンなってことで、ダンジョンの奥へと向かうことになるが。

「抱きかかえてくんかい」

「しゃーないべ」

クロが動く気ないんですよね。
しょうがないので俺が抱えて持っていくことにした。
なるべく揺らさないように慎重に、ゆっくり進まないとだね。

この場面もきっちり撮影していたりするので、あとで動画に組み込むんでないかな。
このままじゃ攻略動画というより、お猫様の動画になってまうぞ。
俺は一向にかまわんが。


撮影は小部屋ですることになった。
廊下にもネズミはいるのだけど、いつエンカウントするか分からないし今回は撮影には使わないでおこうってことにしたよ。

「んで、ネズミからやるんだよな? 本当にいいの?」

あとは実際に小部屋に入って戦闘シーンを撮るのだけど、その前に念押しで確認しておこう。
タダのネズミを退治する動画って需要あるんかいなと。

「おう。適当に相手の動きとか解説しながら倒してくれ、んで倒しかとのコツとか、装備は何がいいとかそのへん話してくれると嬉しい」

「あいよ」

まあ中村がやる気であるのなら俺としても特には反対しない。
しかし適当に解説ねえ……原稿なしとかなかなかアドリブ力を試されますなあ。
うーん。

「何から話すかな……ダンジョンの1階から4階まではでかいダンジョンだろうが小さいダンジョンだろうが、大した強い敵って出ないんだよね」

皆もう知っているだろうけど、最初だからこのへんから話すか。

「とくに小さいダンジョンはそれこそ……1階だとこんな感じのそこらに居る動物と変わらないような敵が出てきたりする」

そういって俺は小部屋の中を指さした。
中村がそれに合わせてカメラを向ける。きっとネズミの姿が写っていることだろう。

「背が低い分、武器を使って倒すよりは蹴ったり踏みつけて倒した方が良いだろうね。こいつら足を狙って攻撃してくるからやりやすいんだ」

武器だと逆に倒しにくいかも知れない。
小さいダンジョンだと武器のリーチ短いし……屈まないと攻撃を出来ない相手には蹴りのほうがずっとやりやすいのだ。

実際に戦うところをみせようと、俺はクロを抱えたまま小部屋へと足を踏み入れる。
するとすぐさま室内にいたネズミが反応し、俺に襲い掛かってくる……それに対して俺はカウンタ気味に蹴りを入れるが……。

「こんな感じで……あっ」

「はい、テイク2~」

爆散したわ。
生放送じゃなくてよかった……こんなん放送事故じゃん。BANされちゃう。



同じ過ちは繰り返さない。

「こんな感じでね」

そう心に決めた俺は、慎重に……本当に慎重にネズミに蹴りをいれた。
幸い爆散することもなく、かと言って威力が足らずに倒せないなんてこともなく、首がへし折れたネズミの死体がいくつも転がった。

「特大ダンジョンだと1階からゴブリンが出てきたりするから、そっちは武器を使って倒すように。何を使うかだけど……槍がいいんじゃないかな? リーチがあるぶん心に余裕も出来るし、突き刺すのは難しいかも知れないけど、叩き付けるだけならそうでもないし、威力も十分だからね」

先端に金属のついた棒で思いっきりぶん殴られたら痛いじゃすまんよね。
浅い階層のゴブリンは防具もつけていないし、それだけでかなりのダメージだろう。
頭に当たれば一撃かも知れない。

「防具は?」

む……防具ねえ?

「んー……小さいダンジョンであれば最低限、丈夫な靴と丈夫な服。でかいダンジョンなら全身を守る防具と、盾かなあ。特にこだわりがなければ、レンタルしちゃえば良いと思うよ。防具なしはちょっとない」

いや、まじでね。
防具の有無で難易度くっそ変わるからね! 体感済みよ。

「島津はなんかこだわりあんの?」

「そうだね……靴は鉄板入りのじゃなくて、登山靴使っていたりするよ。実際に使ってみて動きやすかったし、堅くて丈夫だから蹴ると良い感じにダメージ与えられるし、足も痛まない。ああ、もう慣れた靴があるのならそっちを選んでも良いと思うよ」

動きやすいのは大事だと思うんだ。
防御力はそのうち上がってくるし、最初は動きやすさ重視にしたほうが個人的には良いと思う。

あと何かあったかな。
武器と防具……戦闘のコツ言ってないな。
まあ、コツといってもあまりないのだけど……。

とりあえずこの小部屋のネズミは全て倒してしまったので、次の小部屋へと向かおう。

「それとネズミを倒すときのコツはね、こんな感じで蹴りと踏みつけをうまく使い分けることかな」

そこは10匹のネズミがひしめき合う小部屋だった。
俺は部屋に入ると、少し後ろに下がりながら襲い来るネズミを蹴り上げては踏みつけ……と次々倒していく。

「無理に蹴りだけで倒そうとすると、数が多いと迎撃が間に合わない時があるんだよね。まあ、噛まれてもそこまで酷い事にはならないと思うけど……痛いのは嫌っしょ?」

とは言いつつ、ネズミに噛まれたことないんだけどな。
ウサギの蹴りの威力を考えると、素肌に食らうとがっつり流血するぐらいには痛いんじゃないかな……もし指とか噛まれたら、千切れはしなくても折れはするかもね。

ウサギの蹴りとかまともに食らえば肋骨ぐらいは折れそうな気がするし。ネズミでもそれなりに威力あるはずだ。

あっとはー……ああ、カードの効果。

「ネズミのカード効果は聴覚、嗅覚に補正が入るんだけどー……血の匂いが気になってしまって、俺は使ってない」

正直微妙である。
まあ浅い階層のカードはこんなもんよね。
とはいえカード自体は、今のところ嗅覚に頼らなければいけない場面ってのはないけど、もしかするとそのうち……なんて考えて、手元には残してある。

「他何かある?」

「こんなもんじゃない? なにせ相手はネズミだし……ああ、そうそう一応食えるらしいよ?」

「その情報はあんま要らない……」

ですよね。
興味本位で食ってみたいって人はおるかもだけど、普通の人には要らない情報だろう。

「おっし、とりあえず動画さくっと編集するっぜー」

「おー」

とりあえず今回の撮影はこれで終了らしい。
挨拶に手間取ったけど割とさくっと終わったな?

戦闘シーン撮ったあとに、俺の装備とか撮影したけど……トータルで1時間ぐらいしか経ってない気がするな。


中村は編集用にノートPCを持ってきていたので、そのまま喫茶ルームに向かうことにした。
俺は茶を飲んで時間つぶしつつ、中村の作業を見守るって算段である。

クロ? 俺の膝の上に乗ってるよ。
今日はとことんお休みモードらしい。



適当に軽食を食べて、ケーキと茶を頂いてスマホをいじって時間を潰していると、ふいに中村の手が止まる。

「できた」

「え、もう? 早すぎね」

1時間ぐらいしか経ってないぞ。

「適当に切り貼りして、字幕とか効果音とかBGM付けただけだからなあ。顔を隠さなくていいから特に映像加工とかもいらんし……ところでこれ見てどう思う?」

適当にとは言うが、それでも早すぎな気がしなくもないけど……んで、その動画がどうかしたのだろうか? とりあえず見てみるけどー……。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜

あおぞら
ファンタジー
 主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。  勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。  しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。  更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。  自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。 これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路
ファンタジー
 錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。  キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。  ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。  意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。  しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。    キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。  魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。  キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。  クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。  彼女は伝説の聖剣を 「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」  と、へし折った。  自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。  その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

処理中です...